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Chapter.42[D地区収容所]後編

 ~第42章 part.5~


セルフィは焦っていた。
自分たち以外の侵入者が現れたお陰で、施設内での隠密行動はできなくなり、周りは兵士に囲まれてしまっている。
倒しても倒しても、次々に現れる兵士は一体何人いるのだろうか?
侵入者に警戒して、研究室にいるリノアはどうなってしまうのだろうか?
酷い怪我をして運び込まれたスコールは無事だろうか?
そして何より、自分たちと行動を共にしていた新人SeeDが、敵の攻撃を受け吹き抜けから落下してしまった。
酷い拷問を受けたであろうボロボロの彼は無事だろうか?
際限なく向かってくる敵の数に、苛立つ。
前に進むこともできずに、助けに行くこともできない自分の力のなさが歯痒い。

突然、セルフィは強い力に体を引かれバランスを失ってしまった。
短い悲鳴をなんとかこらえ、その状況を把握しようとする。
腰に手を回されたまま、凄い勢いで兵士達の間をすり抜けていく。
自分を抱えたまま走っている隣の人物は勿論アーヴァインだ。
「!? ちょっ、何す…」
「ちょっと我慢してね~」
「?? !!!」
セルフィを抱きかかえたまま、アーヴァインは身を投げた。
先程ランスが落ちた同じ吹き抜けの空間に。
声を上げるどころか、息をすることもできないまま、セルフィは硬直していた。
己自身で、己の意思で飛んだのならこんな気分は味わうことはないだろう。
しかし、抱えられてバランスを取ることもできないまま、誰かの力に引かれて後ろ向きに落ちていくというのは気持ちのいいものではない。
兵士が口々に静止の言葉を投げかけてくるのを目で捉えながらも、自分ではどうすることもできないままただ、アーヴァインに体を預けていた。
すぐに、どこかに着地したのか大きな音と衝撃が走る。
惰性で下方に体が振られることに驚く暇もなく、すぐにまた別の方向に体を揺さぶられる。
その感覚は長く続くことはなく、平らな床に足をついたアーヴァインはセルフィを解放した。
ようやく体の安定を保つことができ、セルフィは安堵の溜息を一つついた。
息を整えてから、文句の一つでもぶつけてやろうかと思っていたセルフィは、再び腕をとられ、強い力で強引に引かれて走り出す。
壁の扉の先がどこに繋がっているのかなんて、わからない。
しかしそんなことを考える余裕もないまま、開いた扉の奥に押し込まれた。
そこでアーヴァインはようやく手を離してセルフィの顔を見つめた。
「…ごめんね~、セフィ、怪我しなかった~?」
「…もう!! いきなり何するのよ、アーヴィン!」
「うん、キリがないからさ、また変装作戦で行こうかな~と」
そう言ったアーヴァインの手には、ガルバディア軍のマスクが2つ握られていた。
「…せめて一言言ってよ…」
呆れたような溜息を零しながら、セルフィは密かにアーヴァインに感謝した。

「とりあえず、さっきの部屋に戻ろう。ゼルもきっとそこで待ってると思うから」
「そうだね~。この騒ぎで、どうしたらいいかきっと迷ってると思うよ~」
ゼルのそんな姿が容易に想像できて、セルフィは思わずクスリと笑みを零した。
慌てて飛び込んだ扉の奥は、監房に繋がっているのか、収容されていると思われる者たちの呻き声が聞こえてきていた。
再び扉をそっと開き、外の様子を確認する。
上階にいた兵士の追っ手はまだここまで到達していないのか、それとも別方向に向かったのか、そこは静かなままのようだ。
2人はマスクを被り、そこを飛び出した。
…もしあの時、アーヴァインがああしてくれなかったら…
切羽詰った気持ちのまま、その苛立ちのまま、セルフィは何をしてしまうところだったのか。
助けられたのは、兵士なのか、セルフィなのか…

「ランス、どうしたかな~? ね、セフィ?」
「・・・・・」
「…? セフィ?」
「・・・・・」
「…セ~フィ~~?」
「!! わっ!びっくりした! …何?アーヴィン」
「どうしたの~? ボ~~としちゃって」
「あぁ、うん、ゴメン。ちょっと、考え事。…で、何?」
「ランスはどうしたかな~?って聞いたの」
例の部屋を目指して歩いていく最中、セルフィはずっと先程のことばかり考えていた。
昔から後先考えずに突っ走ってしまう自分の性格は良く分かっているつもりだった。
先に走る自分の後をアーヴァインがついてきて、結局2人で一緒に盛り上がっている、そんなタイプだった。
子供達もその性格を受け継いでいるのだが、セルフィにはそれが我慢できない。
自分は何も考えずに行動してしまうくせに、子供たちには言うことを聞いて貰いたいと願っている。
アーヴァインは、子供たちのやることに一々口を出すことはしない。
自由にやりたいことをやらせようとする。
でも反面、いつも自分の後を追いかけて一緒に行動していたはずの彼が、いつの間にか自分を諌める立場にいる。
なんだか、いつまでも自分だけ子供のようで、自分を置いてアーヴァインが一人だけ大人になってしまったような気持ちになる。
なんとなく、悔しかった。
そんなことを考えていると、不意に目の前にそのアーヴァインが顔を突き出してきたので、少々驚いてしまった。
ずっと話しかけてきていたのだろうか?
アーヴァインの声さえも耳に入らないほどに自分は呆けていたのだろうか…
「そうだね、どこ行っちゃったのかな?無事だといいけど…」

目的の部屋はすぐに見つかり、周りを気にしながらも2人は素早くその部屋に潜り込んだ。
部屋の中には呆然と立ち尽くす兵士が1人。
「ゼル、お待たせ! …どうしたの?」
「おぉ、その声はセルフィか」
2人もマスクを取り、ゼルの元へ歩み寄る。
ゼルは何も言わないまま、くいとブラインドの下りたままの窓を指差した。
「「??」」
そこから、研究室の内部とリノアの姿が見える、はずだった。
2人がブラインドに指を掛けて覗いた部屋には、誰もいなかった。
「あれ~?リノアいないよ~!」
「俺が来たときにはもう誰もいなかったんだ。…すまねぇ、2人とも。俺が目を離した隙に…」
「来たときって…、ゼル、どっか行ってたの?」
「あぁ、スコールの様子を見てきたんだ」
「あ、やっぱりね~。ところで、ゼル、僕たち意外な人に会ったんだよ~」
「スコール、大丈夫だったの!?」
「それよりお前ら、子供は見つかったのかよ? …意外な奴…?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
互いに会話が咬み合わない。
誰かの言葉に誰かの言葉が重なってまともに会話が成立しない状態で、3人はお互いの顔を見つめあったまま黙り込んでしまった。
「ちょっと整理しよう」
まず、リノア。彼女はなぜここにいないのか。
この度の侵入者騒動で、ここではない別のどこかに運ばれたという可能性。そしてその侵入者によって連れ去られたという可能性。
次にスコール。怪我の具合は実はかなり酷い。未だ麻酔も切れていなくて歩くことさえままならない状況である。
ゼルが少し話をしたが、まともに口を利くことさえできないという。
次にアーヴァインとセルフィの子供たち。探しに行った2人は、子供たちを見つけることはできなかった。
だが、代わりに子供たちの護衛についていたSeeDと出会った。名前はランス・エリオット。
しかし、その彼もここに来る途中にはぐれてしまった。彼も酷い怪我を負っているはず。
そして、侵入者。空から見たこともない獣の背に乗って現われた侵入者は、実は皆が良く知るサイファーだった。
彼もリノアを探しているようだった。
この騒動で、兵士たちの動きがにわかに激しくなった為、ゼルはとりあえず2人に会うためにここで待機していたそうだ。

施設内の警報は止むことはなかった。
どこに行っても赤い光が点滅し、目がチカチカしてくるほどだ。
各部隊への行動命令や、起こった出来事など細かく館内放送で流れてくる為、所内は未だ混乱しているのが丸分かりだった。
「どう動く…?」
「そうだね~…リノアがどこに行ったのかがまず一番の問題かな? ランスは一応SeeDだし、ちょっと無責任だけど自分でなんとかしてもらうしかないかな~?」
「スコールも助け出したいよね」
「でも、動かせる状態じゃねぇぜ」
「だけど、逃げるなら、今だよ~。この混乱を利用しない手はない」
突然、酷いノイズの走る音が聞こえてきた。
『本部より各隊へ、本部より各隊へ。侵入者が魔女と囚人1名を連れて逃走した模様。至急ブリッジへ。侵入者、魔女と囚人1名を連れて逃走した。ブリッジへ急げ!』
「!?」
「あぁ、ここに来る途中に出会った奴から無線機奪ってきたんだ。状況が把握できるかと思ってな」
ゼルが背後から小さな箱型の無線機を取り出した。
「…今のって…」
「つまり、サイファーのことだろ?…リノアが連れてかれたみたいだな」
「囚人1名って、ランスのことかな?」
「聞いてみよう。『…あー、あー、侵入者に連れ去られた囚人1名の詳細求む』」
通信機のスイッチを入れて、ゼルが問いかける。すぐに返答が返ってきた。
『詳細は不明。だが、ガーデンの制服を着用していたという目撃情報あり』
「!!」
「やっぱり!ランスだわ!」
「…なんでサイファーはランスまで連れていったんだ…?」



→part.6
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