Chapter.40[バラム~F.H.]
~第40章 part.2~
あんなに綺麗に晴れ渡っていた青空は、いつの間にか暗い雲に覆われてしまっていた。
辺りは薄暗く、空気も湿ってどんよりとしていた。
このままではやがて雨になるだろう。
酷くなれば海は荒れるかもしれない。
そんな中、こんな小さな手漕ぎボートのようなもので海に出るのは死にに行くようなものかもしれない。
それでも、行かなければならない。ここにはいられない。
一応のモーターエンジンはついているものの、これで外海へ出ることなどとても無謀だ。
まさかこれで目的地まで辿り着けるとは、2人も思ってはいなかった。
この海を南下したところにある海に浮かぶ駅に辿り着ければそれでいいと考えていた。
…はたしてそこまで燃料が持つのか?
海は荒れることなく穏やかなままでいてくれるのか?
幼い2人にはそこまで考える余裕はなかった。
ただ、すぐにでもこの島を脱出しなければ!とそれだけだった。
「…一雨きそうだ。急ごうぜ」
「兄さん、本当にこれでいくの?…釣りにそこまで~とは訳が違うんだよ」
「いいから早く乗れよ!何もねぇよりマシだろ」
雪の多いトラビアで生まれ育った2人には、こんな暗い空模様は珍しいことではない。
しかし、ここバラムでこんな空になると気分が重くなる。ましてや海の上。言い知れぬ不安感が襲い掛かってくるようだ。
「…パパやママに会いたいな。何してるのかな…?」
「さあな。任務なんだろ、2人とも」
「どんな任務なんだろう?」
「さあな。…あー、バラムフィッシュバーガー食いてえな~」
「兄さん!ちゃんと舵とってよ!もう少し南だよ」
「わかってるって!」
風も無く、気味が悪いほど波は穏やかで空気が生暖かかった。
2人が乗っているボートのエンジンの音だけが耳に届き、振り返った先に見えていたバラムの島も今はただ黒い線のようにしか見えなくなっていた。
自分たちが進んでいるすぐ目の前に、突然海中から何かが浮き上がった。
それは2人の乗っているボートの何倍もある大きな海中生物。
1頭だけではなく、群れのようだ。
あちらこちらから同じ様に浮かび上がり、背中の排気孔から大きな音と共に水飛沫を吹き上げた。
「うわあ!」
きっと、その姿に驚き喜ぶのは子供だけではないだろう。
それらは大きく空気を吸い込むと、また静かに海中に沈んでいった。
「…ねえ兄さん、なんであんなにたっぷり空気を吸い込んだんだろ?」
「…そりゃぁ、長く海中にいる為、じゃねぇ?」
「海中に長くいる理由… !!」
「!! ま、まさか…」
ボートが走っていることで生まれる風とは違う、別の空気の流れを感じる。
「…来た…!」
色の違う空気の塊が2人目掛けて押し寄せたのを、2人ははっきりと見た。
悲鳴を上げる間もなく、風に体を倒される。
通り抜けた風の後を追うように、いきなり高波がボートを揺らし始めた。
「兄さん!!」
「ウィッシュ!掴まれ!」
舵を切ろうにも、子供の力ではどうすることもできない。
ただ波に任せて揺られるボートにしがみつくのが精一杯だった。
このままでは舟が転覆してしまう!
なんとかして体勢を立て直そうとは思うのだが、舵に手を伸ばすこともできない。
吹き付ける風も押し寄せる波も、その威力を増していくばかりだ。
ついに、空から風と共に冷たい雫まで落ちてき始めた。
気温は急激に下がり、冷たい風と雨と波とで濡れる体からは容赦なく体温が奪われる。
しがみ付くだけで精一杯の幼い手の力はあっという間に無くなり、思わず離れた手に心臓が握りつぶされるような感覚がした。
水に浮かんでるはずなのに、高波に持ち上げられたボートが支えを失って海面に飛び跳ねた時の衝撃は、さながら硬い地面に落ちたときのようだ。
悲鳴を上げたくても、頭から浴びせられる大量の海水によってかき消されてしまう。
2人は死を覚悟した。
「ウィッシュ!おいウィッシュ!しっかりしろ!」
「…に、にいさ…。ボク、もう…」
力が抜け、捕まっていることができなくなったのか、ウィッシュの体が波に弄ばれる。
「くっそー!」
一際大きな横波が、小さなボートをいとも簡単に反転させる。
海中に投げ出されたホープはそれでもウィッシュの手を離さなかった。
すでに意識を失っているウィッシュは、ピクリとも動かない。
このままでは2人とも溺れてしまうだろう。
ひっくり返されたボートが、腹を上にしたまま浮かんでいた。
ホープはなんとかそこまで辿り着き、ウィッシュをボートの腹の上に乗せると自分も意識が遠くなっていくのを感じた。
目を閉じる寸前、何か光るものを見た気がした。
見覚えのある廊下。見覚えのある制服を着た人たち。
見覚えのある窓からの景色。
「(…バラムガーデン…?)」
廊下を必死に走っている。
「(なんで僕、走ってるんだろ?)」
曲がり角までやってきた瞬間、壁の向こうから突然現れた人物とぶつかってしまう。
「(!!危ない!)」
『大丈夫か? すまない、余所見をしていた』
ぶつかった相手がこちらに手を差し伸べてくれている。
高さから言って、こちらは尻もちをついてしまったようだ。
「(!!! ス、スコールさん! 若いスコールさんだ! …あれ、候補生の制服着てる)」
『…いいだろう』
「(何か喋ってるんだ。でも何言ってるのかわからない…)」
高い身長の後ろを歩くとその背中しか見えない。
スコールがエレベータに乗り、自分もその後に続く。
2人は何かを話しているようだったが、スコールの返事は聞こえるのにこちらは何を語りかけているのかわからない。
エレベータを降り、1階の案内板の前までやってきた。
『ここは図書室だ…』
自分に向かって、バラムガーデンの内部の説明してくれている。すごく変な感じだ。
「(…僕、誰になってるんだろ?スコールさん、誰と話してるんだろ? …目線からいっても、スコールさんより小さい人、だよね)」
スコールの姿が急に見えなくなってしまった。声は聞こえ続けている。
しかしそれも明瞭ではなく、ボソボソと誰かがそこにいるということだけがわかる程度の小さい声だ。
そっと瞼を持ち上げる。
眩しい光が飛び込んできて、思わず再び瞼を閉じる。
「(…夢…?)」
ゆっくりと体を起こし、少しずつ光に慣らしながら目を開ける。
白い部屋はどこかの病室のようだ。
「…?どうしてたんだっけ…?」
体が異様にダルい。
体を起こしていることさえ疲労を感じてしまう。
手足が重く、動かすのが億劫だ。
手錠をかけられ、擦り切れていたはずの手首にも真新しい包帯が巻かれていた。
「兄さん…?」
話し声はするものの、部屋の中には自分以外には誰もいないのか、しんとしていた。
不意に部屋の扉が開かれ、誰かが入ってきた。
「目が覚めたか」
「兄さん! …僕たち、どうなったの?」
「やっぱ、覚えてねーか。舟がひっくり返って、しばらく漂流してた。運良くそこを通りかかった舟に助けられたんだ。
いや~マジで死ぬかと思ったよ!」
「兄さんが言うと、平気そうに聞こえるよ」
「そうか? あはははは…」
「はははは…」
ホープのすぐ後に入ってきた白衣の人物は医師のようで、笑いあっている2人の顔を見て安心したように声を掛けた。
「それだけ元気なら大丈夫だろう。…大きな怪我もないようだし、水もそんなに飲んでないようだから精密検査の必要も無いだろう」
「あ、あの、先生、ですか? あ、ありがとうございました」
「だが、なんて命知らずな子供たちだ。親の顔が見たいものだ。名前も名乗らないし…」
「あ、僕は…」
言いかけたウィッシュの口をホープが慌てて塞いだ。
「なんだね?」
「い、いや、こいつ、もう少し眠りてーんだってさ」
「…まぁ、よかろう。安静にしてなさい」
「はい!」
医師が部屋を出て行くのを確認してから、ホープはウィッシュから手を離した。
「バカ!簡単にいつもいつも身分を明かすなよ!すぐ奴らに捕まるぞ!」
「…?どういうこと?」
「ここ、F.H.なんだ。ここにも公安がいるんだぞ。すぐにまた捕まっちまう。いいか、バレねぇうちにとっととここを抜け出すんだ!」
「…ここ、F.H.なの…!?」
病室の窓から外に目を向ける。
今だ雨は降り続き、ずっと薄暗かった空は真っ暗だ。
すでに日は落ちたようだった。
それでもライトアップされた巨大なシンボルとも言えるアンテナが見えた。
「ここの漁師が、漁の帰りに俺たちを見つけて助けてくれたんだ」
「………」
「それから、俺たちは孤児で、噂に聞いたセントラの孤児院へ行くつもりだったってことにしといた。お前も話、合わせといてくれよ」
「…孤児院?」
「船で、漁師達がそんな話をしてるのをちらっと聞いたんだ。でかい孤児院があるらしいって」
「でも、噂なんでしょ?」
「だからいいんだよ。俺たちをただのガキだと思ってるからな」
「本当にまだ子供じゃないか、僕たち…。それに孤児なんて通用しないんじゃない?」
「なんでだよ」
「僕ら、ガーデンの制服……」
ウィッシュは自分の身に着けている服を見て気が付いた。
「あれっ?」
「クリーニングして貰ってる。これは病院で借りた服。海に落ちたとき、身分証明書も荷物も全部流されちまったからな。
あの服は盗んだってことにしといた」
に!っと口一杯に笑顔を含んで見せたホープに、ウィッシュも苦笑いを返すしかできなかった。
「…ちょっと複雑かも…」
「まぁ、助かったんだから、いいんじゃねーか!」
→part.3
あんなに綺麗に晴れ渡っていた青空は、いつの間にか暗い雲に覆われてしまっていた。
辺りは薄暗く、空気も湿ってどんよりとしていた。
このままではやがて雨になるだろう。
酷くなれば海は荒れるかもしれない。
そんな中、こんな小さな手漕ぎボートのようなもので海に出るのは死にに行くようなものかもしれない。
それでも、行かなければならない。ここにはいられない。
一応のモーターエンジンはついているものの、これで外海へ出ることなどとても無謀だ。
まさかこれで目的地まで辿り着けるとは、2人も思ってはいなかった。
この海を南下したところにある海に浮かぶ駅に辿り着ければそれでいいと考えていた。
…はたしてそこまで燃料が持つのか?
海は荒れることなく穏やかなままでいてくれるのか?
幼い2人にはそこまで考える余裕はなかった。
ただ、すぐにでもこの島を脱出しなければ!とそれだけだった。
「…一雨きそうだ。急ごうぜ」
「兄さん、本当にこれでいくの?…釣りにそこまで~とは訳が違うんだよ」
「いいから早く乗れよ!何もねぇよりマシだろ」
雪の多いトラビアで生まれ育った2人には、こんな暗い空模様は珍しいことではない。
しかし、ここバラムでこんな空になると気分が重くなる。ましてや海の上。言い知れぬ不安感が襲い掛かってくるようだ。
「…パパやママに会いたいな。何してるのかな…?」
「さあな。任務なんだろ、2人とも」
「どんな任務なんだろう?」
「さあな。…あー、バラムフィッシュバーガー食いてえな~」
「兄さん!ちゃんと舵とってよ!もう少し南だよ」
「わかってるって!」
風も無く、気味が悪いほど波は穏やかで空気が生暖かかった。
2人が乗っているボートのエンジンの音だけが耳に届き、振り返った先に見えていたバラムの島も今はただ黒い線のようにしか見えなくなっていた。
自分たちが進んでいるすぐ目の前に、突然海中から何かが浮き上がった。
それは2人の乗っているボートの何倍もある大きな海中生物。
1頭だけではなく、群れのようだ。
あちらこちらから同じ様に浮かび上がり、背中の排気孔から大きな音と共に水飛沫を吹き上げた。
「うわあ!」
きっと、その姿に驚き喜ぶのは子供だけではないだろう。
それらは大きく空気を吸い込むと、また静かに海中に沈んでいった。
「…ねえ兄さん、なんであんなにたっぷり空気を吸い込んだんだろ?」
「…そりゃぁ、長く海中にいる為、じゃねぇ?」
「海中に長くいる理由… !!」
「!! ま、まさか…」
ボートが走っていることで生まれる風とは違う、別の空気の流れを感じる。
「…来た…!」
色の違う空気の塊が2人目掛けて押し寄せたのを、2人ははっきりと見た。
悲鳴を上げる間もなく、風に体を倒される。
通り抜けた風の後を追うように、いきなり高波がボートを揺らし始めた。
「兄さん!!」
「ウィッシュ!掴まれ!」
舵を切ろうにも、子供の力ではどうすることもできない。
ただ波に任せて揺られるボートにしがみつくのが精一杯だった。
このままでは舟が転覆してしまう!
なんとかして体勢を立て直そうとは思うのだが、舵に手を伸ばすこともできない。
吹き付ける風も押し寄せる波も、その威力を増していくばかりだ。
ついに、空から風と共に冷たい雫まで落ちてき始めた。
気温は急激に下がり、冷たい風と雨と波とで濡れる体からは容赦なく体温が奪われる。
しがみ付くだけで精一杯の幼い手の力はあっという間に無くなり、思わず離れた手に心臓が握りつぶされるような感覚がした。
水に浮かんでるはずなのに、高波に持ち上げられたボートが支えを失って海面に飛び跳ねた時の衝撃は、さながら硬い地面に落ちたときのようだ。
悲鳴を上げたくても、頭から浴びせられる大量の海水によってかき消されてしまう。
2人は死を覚悟した。
「ウィッシュ!おいウィッシュ!しっかりしろ!」
「…に、にいさ…。ボク、もう…」
力が抜け、捕まっていることができなくなったのか、ウィッシュの体が波に弄ばれる。
「くっそー!」
一際大きな横波が、小さなボートをいとも簡単に反転させる。
海中に投げ出されたホープはそれでもウィッシュの手を離さなかった。
すでに意識を失っているウィッシュは、ピクリとも動かない。
このままでは2人とも溺れてしまうだろう。
ひっくり返されたボートが、腹を上にしたまま浮かんでいた。
ホープはなんとかそこまで辿り着き、ウィッシュをボートの腹の上に乗せると自分も意識が遠くなっていくのを感じた。
目を閉じる寸前、何か光るものを見た気がした。
見覚えのある廊下。見覚えのある制服を着た人たち。
見覚えのある窓からの景色。
「(…バラムガーデン…?)」
廊下を必死に走っている。
「(なんで僕、走ってるんだろ?)」
曲がり角までやってきた瞬間、壁の向こうから突然現れた人物とぶつかってしまう。
「(!!危ない!)」
『大丈夫か? すまない、余所見をしていた』
ぶつかった相手がこちらに手を差し伸べてくれている。
高さから言って、こちらは尻もちをついてしまったようだ。
「(!!! ス、スコールさん! 若いスコールさんだ! …あれ、候補生の制服着てる)」
『…いいだろう』
「(何か喋ってるんだ。でも何言ってるのかわからない…)」
高い身長の後ろを歩くとその背中しか見えない。
スコールがエレベータに乗り、自分もその後に続く。
2人は何かを話しているようだったが、スコールの返事は聞こえるのにこちらは何を語りかけているのかわからない。
エレベータを降り、1階の案内板の前までやってきた。
『ここは図書室だ…』
自分に向かって、バラムガーデンの内部の説明してくれている。すごく変な感じだ。
「(…僕、誰になってるんだろ?スコールさん、誰と話してるんだろ? …目線からいっても、スコールさんより小さい人、だよね)」
スコールの姿が急に見えなくなってしまった。声は聞こえ続けている。
しかしそれも明瞭ではなく、ボソボソと誰かがそこにいるということだけがわかる程度の小さい声だ。
そっと瞼を持ち上げる。
眩しい光が飛び込んできて、思わず再び瞼を閉じる。
「(…夢…?)」
ゆっくりと体を起こし、少しずつ光に慣らしながら目を開ける。
白い部屋はどこかの病室のようだ。
「…?どうしてたんだっけ…?」
体が異様にダルい。
体を起こしていることさえ疲労を感じてしまう。
手足が重く、動かすのが億劫だ。
手錠をかけられ、擦り切れていたはずの手首にも真新しい包帯が巻かれていた。
「兄さん…?」
話し声はするものの、部屋の中には自分以外には誰もいないのか、しんとしていた。
不意に部屋の扉が開かれ、誰かが入ってきた。
「目が覚めたか」
「兄さん! …僕たち、どうなったの?」
「やっぱ、覚えてねーか。舟がひっくり返って、しばらく漂流してた。運良くそこを通りかかった舟に助けられたんだ。
いや~マジで死ぬかと思ったよ!」
「兄さんが言うと、平気そうに聞こえるよ」
「そうか? あはははは…」
「はははは…」
ホープのすぐ後に入ってきた白衣の人物は医師のようで、笑いあっている2人の顔を見て安心したように声を掛けた。
「それだけ元気なら大丈夫だろう。…大きな怪我もないようだし、水もそんなに飲んでないようだから精密検査の必要も無いだろう」
「あ、あの、先生、ですか? あ、ありがとうございました」
「だが、なんて命知らずな子供たちだ。親の顔が見たいものだ。名前も名乗らないし…」
「あ、僕は…」
言いかけたウィッシュの口をホープが慌てて塞いだ。
「なんだね?」
「い、いや、こいつ、もう少し眠りてーんだってさ」
「…まぁ、よかろう。安静にしてなさい」
「はい!」
医師が部屋を出て行くのを確認してから、ホープはウィッシュから手を離した。
「バカ!簡単にいつもいつも身分を明かすなよ!すぐ奴らに捕まるぞ!」
「…?どういうこと?」
「ここ、F.H.なんだ。ここにも公安がいるんだぞ。すぐにまた捕まっちまう。いいか、バレねぇうちにとっととここを抜け出すんだ!」
「…ここ、F.H.なの…!?」
病室の窓から外に目を向ける。
今だ雨は降り続き、ずっと薄暗かった空は真っ暗だ。
すでに日は落ちたようだった。
それでもライトアップされた巨大なシンボルとも言えるアンテナが見えた。
「ここの漁師が、漁の帰りに俺たちを見つけて助けてくれたんだ」
「………」
「それから、俺たちは孤児で、噂に聞いたセントラの孤児院へ行くつもりだったってことにしといた。お前も話、合わせといてくれよ」
「…孤児院?」
「船で、漁師達がそんな話をしてるのをちらっと聞いたんだ。でかい孤児院があるらしいって」
「でも、噂なんでしょ?」
「だからいいんだよ。俺たちをただのガキだと思ってるからな」
「本当にまだ子供じゃないか、僕たち…。それに孤児なんて通用しないんじゃない?」
「なんでだよ」
「僕ら、ガーデンの制服……」
ウィッシュは自分の身に着けている服を見て気が付いた。
「あれっ?」
「クリーニングして貰ってる。これは病院で借りた服。海に落ちたとき、身分証明書も荷物も全部流されちまったからな。
あの服は盗んだってことにしといた」
に!っと口一杯に笑顔を含んで見せたホープに、ウィッシュも苦笑いを返すしかできなかった。
「…ちょっと複雑かも…」
「まぁ、助かったんだから、いいんじゃねーか!」
→part.3