Chapter.39[セントラ~ガルバディア]
~第39章 part.4~
ゆっくりと自分の掌を見つめる。
体中に走る弱い電気のような感覚。
ゾクゾクと背中や腕に感じる寒気のような微かな震え。
今だ収まらない自らの大きな鼓動。
口元には自分でも気付いていないのであろう、嬉しそうな笑みが零れていた。
懐かしい感覚だ。嬉しい感覚だ。
そして実感する。自分は生きているのだ、と。
相手がモンスターではこういう感覚は生まれない。
人間相手になったときの空気は、モンスターでは味わえない。
やっぱり自分は闘いの中にいるべきなのだと思う。
…だが、物足りなさも同時に感じていた。
一番この感覚を強く感じていたのは、アイツが自分の目の前にたったとき。
そんなことはもう有り得ない、自分に言い聞かせるように小さく鼻で笑って拳を握り締めた。
奥のほうから微かな声が聞こえた。
あのガキが目覚めたのかと、立ち上がり、そこへ歩み寄っていく。
目が覚めた。
…目が覚めた…?いつの間に眠っていたのだろう?
それに、ここはどこだ?
ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。
壁一面の窓は破れ、外の空気をそのまま室内に運んでいる。
物が乱雑に散乱しているが、広い室内だ。
もう長いこと誰も踏み込むことはなかったであろうここは、室内にも植物が繁殖してきている。
「(…ここって…)」
デリングシティからそう離れていない。
小さな森の中に建てられ、その後捨てられたホテルの廃墟だ。
スティルはここを知っていた。
しかしこうして中にまで入ったのは初めてだった。
突然振り向いた先にでかい獣がいた。
見たことも無いモンスターだ。
じっとこちらを見つめている。
思わず悲鳴を上げ、尻込みしてしまう。
「…お、俺をどうする 気だ…? ナ、ナイトは…!?」
獣はゆっくりと近付いてくる。
恐ろしさのあまり目を逸らすことすらできない。
「気がついたのか」
後ろからの声にはっとする。
ゆっくり振り向いた先には見覚えのある白いコート。
人をバカにしたような笑みも、今は頼れる存在だと安心してしまう。
慌ててサイファーの脚にしがみつくように後ろに回り、再び獣のほうに目を向けた。
「ナ、ナイト!あれ!あれ!」
溜息と共に呆れたような言葉が零された。
「…やっぱりガキだな」
「ガ、ガキじゃねぇって……ひっ!!」
いつの間にかその獣はすぐ目の前まで迫ってきていた。
「ナ、ナイト!危ない!そいつ、見たこともねぇモンスターだ!!」
しかし、獣は襲い掛かってくるどころか、サイアファーに懐くように嘴を摺り寄せてくる。
スティルは何が何だか分からない。
状況が飲み込めない。頭はパニック寸前だった。
クロード・レイスを撃ち取った直後、サイファーとこの召喚獣はすぐ逃げに入った。
途中、木の陰に隠れていたスティルを掴み上げたグリフが、そのままここまで運んできたのだった。
スティルは気を失ってしまったらしい。
「ガーディアン、フォース…?」
「知らなかったのか…。やっぱりガキだな」
「う、うるさいな!ガキって呼ぶなって言ってるだろ!」
サイファーはちょっとした違和感を覚えた。
魔法を使えるくせに、G.F.を知らない…?
そんなことが有り得るのだろうか?
グリフの姿に少々怯えたままのスティルに、サイファーは一言付け加える。
「気をつけな。礼儀を知らん奴はこいつの餌になる」
スティルは慌てて被っていた帽子を取って頭を垂れた。
普段は厚い雲に覆われた空が、珍しく青い部分が切れ間から覗ける。
しかしそれも一瞬のことで、すぐにまた空は白っぽく変わっていく。
一瞬の隙間を縫うように、日の光が窓から差し込んだ。
光はスティルを照らすスポットライトのようにそこだけを明るくし、そして再び雲に隠れてしまった。
その一瞬、スティルの髪の色がはっきり見えた。
「もう行くんだろ? …え~と次のターゲットは…」
「…その髪、染めてんのか?」
「…髪? いや、生まれたときからこうだったと思うけど、なんでさ? それより…」
突然サイファーはスティルの顔を掴んでじっと見つめた。
「! な、何しやがんだ!離せ!」
「…お前、セントラの生き残りか」
「? はぁ? 何言ってんだ!?」
目深に被った帽子のせいでよく見えなかった銀糸のような髪と燃えるような瞳。間違いない。
サイファーは確信した。
手を離し、踵を返すとサイファーは出口に向かって歩き出した。
「あ、ちょっと待てよ!ナイト! …俺、ますますあんたのこと知りたくなった。
本当は何者?なんでG.F.持ってるわけ?平気で人を殺したかと思えば妙に優しいとこあるしさ」
振り向きざまに手にしたガンブレードの刃先をスティルの鼻先に向けると、冷たい目で見下ろしながら言った。
「ひっ!」
「…俺のことは詮索するなと言ったはずだ」
「…わ、悪かったよ。…でも、1つだけ教えてくれよ。…さっき、俺のこと、何て言ったんだ…?」
じっと睨みつけていたサイファーは、溜息と共にガンブレードを下ろし、振り返って歩き出した。
スティルは小走りについていく。
「昔聞いた話だ。高い文明を持っていたセントラ人は、世界のあちこちでその文明を伝える為に多くの移民が世界に散った。
セントラが月の涙で滅ぼされた後、世界に散ったセントラ人は再びセントラの地に集結し、国を再建しようとした。
だが大陸ごと国は消滅し、モンスターが溢れ、変わってしまった環境の変化についていけなかったセントラの生き残りはそのほとんどが死に絶え、他国に逃げた。
銀の髪、赤い瞳を持つセントラ人は悪魔の使いと迫害を受けそのほとんどが惨殺されることになった。
…そしてセントラは、この地上から失われたんだ」
「………それが、俺…?」
「あぁ」
「…だって、でも、俺、この街で生まれ育ったんだぜ。そんな、生き残りとか言われてもピンとこねぇよ」
「街を歩くときは気をつけるんだな。セントラの生き残りとなれば、研究者や科学者の絶好のターゲットだ」
→part.5
ゆっくりと自分の掌を見つめる。
体中に走る弱い電気のような感覚。
ゾクゾクと背中や腕に感じる寒気のような微かな震え。
今だ収まらない自らの大きな鼓動。
口元には自分でも気付いていないのであろう、嬉しそうな笑みが零れていた。
懐かしい感覚だ。嬉しい感覚だ。
そして実感する。自分は生きているのだ、と。
相手がモンスターではこういう感覚は生まれない。
人間相手になったときの空気は、モンスターでは味わえない。
やっぱり自分は闘いの中にいるべきなのだと思う。
…だが、物足りなさも同時に感じていた。
一番この感覚を強く感じていたのは、アイツが自分の目の前にたったとき。
そんなことはもう有り得ない、自分に言い聞かせるように小さく鼻で笑って拳を握り締めた。
奥のほうから微かな声が聞こえた。
あのガキが目覚めたのかと、立ち上がり、そこへ歩み寄っていく。
目が覚めた。
…目が覚めた…?いつの間に眠っていたのだろう?
それに、ここはどこだ?
ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。
壁一面の窓は破れ、外の空気をそのまま室内に運んでいる。
物が乱雑に散乱しているが、広い室内だ。
もう長いこと誰も踏み込むことはなかったであろうここは、室内にも植物が繁殖してきている。
「(…ここって…)」
デリングシティからそう離れていない。
小さな森の中に建てられ、その後捨てられたホテルの廃墟だ。
スティルはここを知っていた。
しかしこうして中にまで入ったのは初めてだった。
突然振り向いた先にでかい獣がいた。
見たことも無いモンスターだ。
じっとこちらを見つめている。
思わず悲鳴を上げ、尻込みしてしまう。
「…お、俺をどうする 気だ…? ナ、ナイトは…!?」
獣はゆっくりと近付いてくる。
恐ろしさのあまり目を逸らすことすらできない。
「気がついたのか」
後ろからの声にはっとする。
ゆっくり振り向いた先には見覚えのある白いコート。
人をバカにしたような笑みも、今は頼れる存在だと安心してしまう。
慌ててサイファーの脚にしがみつくように後ろに回り、再び獣のほうに目を向けた。
「ナ、ナイト!あれ!あれ!」
溜息と共に呆れたような言葉が零された。
「…やっぱりガキだな」
「ガ、ガキじゃねぇって……ひっ!!」
いつの間にかその獣はすぐ目の前まで迫ってきていた。
「ナ、ナイト!危ない!そいつ、見たこともねぇモンスターだ!!」
しかし、獣は襲い掛かってくるどころか、サイアファーに懐くように嘴を摺り寄せてくる。
スティルは何が何だか分からない。
状況が飲み込めない。頭はパニック寸前だった。
クロード・レイスを撃ち取った直後、サイファーとこの召喚獣はすぐ逃げに入った。
途中、木の陰に隠れていたスティルを掴み上げたグリフが、そのままここまで運んできたのだった。
スティルは気を失ってしまったらしい。
「ガーディアン、フォース…?」
「知らなかったのか…。やっぱりガキだな」
「う、うるさいな!ガキって呼ぶなって言ってるだろ!」
サイファーはちょっとした違和感を覚えた。
魔法を使えるくせに、G.F.を知らない…?
そんなことが有り得るのだろうか?
グリフの姿に少々怯えたままのスティルに、サイファーは一言付け加える。
「気をつけな。礼儀を知らん奴はこいつの餌になる」
スティルは慌てて被っていた帽子を取って頭を垂れた。
普段は厚い雲に覆われた空が、珍しく青い部分が切れ間から覗ける。
しかしそれも一瞬のことで、すぐにまた空は白っぽく変わっていく。
一瞬の隙間を縫うように、日の光が窓から差し込んだ。
光はスティルを照らすスポットライトのようにそこだけを明るくし、そして再び雲に隠れてしまった。
その一瞬、スティルの髪の色がはっきり見えた。
「もう行くんだろ? …え~と次のターゲットは…」
「…その髪、染めてんのか?」
「…髪? いや、生まれたときからこうだったと思うけど、なんでさ? それより…」
突然サイファーはスティルの顔を掴んでじっと見つめた。
「! な、何しやがんだ!離せ!」
「…お前、セントラの生き残りか」
「? はぁ? 何言ってんだ!?」
目深に被った帽子のせいでよく見えなかった銀糸のような髪と燃えるような瞳。間違いない。
サイファーは確信した。
手を離し、踵を返すとサイファーは出口に向かって歩き出した。
「あ、ちょっと待てよ!ナイト! …俺、ますますあんたのこと知りたくなった。
本当は何者?なんでG.F.持ってるわけ?平気で人を殺したかと思えば妙に優しいとこあるしさ」
振り向きざまに手にしたガンブレードの刃先をスティルの鼻先に向けると、冷たい目で見下ろしながら言った。
「ひっ!」
「…俺のことは詮索するなと言ったはずだ」
「…わ、悪かったよ。…でも、1つだけ教えてくれよ。…さっき、俺のこと、何て言ったんだ…?」
じっと睨みつけていたサイファーは、溜息と共にガンブレードを下ろし、振り返って歩き出した。
スティルは小走りについていく。
「昔聞いた話だ。高い文明を持っていたセントラ人は、世界のあちこちでその文明を伝える為に多くの移民が世界に散った。
セントラが月の涙で滅ぼされた後、世界に散ったセントラ人は再びセントラの地に集結し、国を再建しようとした。
だが大陸ごと国は消滅し、モンスターが溢れ、変わってしまった環境の変化についていけなかったセントラの生き残りはそのほとんどが死に絶え、他国に逃げた。
銀の髪、赤い瞳を持つセントラ人は悪魔の使いと迫害を受けそのほとんどが惨殺されることになった。
…そしてセントラは、この地上から失われたんだ」
「………それが、俺…?」
「あぁ」
「…だって、でも、俺、この街で生まれ育ったんだぜ。そんな、生き残りとか言われてもピンとこねぇよ」
「街を歩くときは気をつけるんだな。セントラの生き残りとなれば、研究者や科学者の絶好のターゲットだ」
→part.5