Chapter.39[セントラ~ガルバディア]
~第39章 part.3~
「環境部長のクロード・レイスは、ここのコミュニティセンターで講演。その後このレストランで昼食。
午後はこっちのでかい工場の社長と会うことになってる。
それから教育部長のマーク・アクリヴ、こいつは新しくできる学校の下見と、ここの出版社に行くことになってる」
小さなテーブルいっぱいに広げられた街の地図は、テーブルに乗っていた様々な物を覆い隠して尚、クロスのように垂れ下がった。
「…わかった」
短い返事を返すとすぐにサイファーはそこを出ようとする。
「おい、もう行くのか? こっちから連絡すればすぐに同志が集まるぞ。 …それに、あんたがこんな裏の仕事をすることは無い」
掛けられた声に、サイファーは動きを止めてしばし沈黙が流れる。
「…裏も表も無い。俺たちは既に政府に宣戦布告してるんだ。もう戦いは始まっている」
「………」
何も答えない店主の表情を読み取ってから、サイファーは踵を返した。
「もう行く。独りでいい」
「俺も行く!連れてってくれよ、ナイト!」
スティルがサイファーの行く手を阻むように立ちはだかる。
先程、サイファーが見せたペンダントは店主にも見覚えがあった。
“魔女イデアの十字架”がゴーシュの手に渡されたことも…
店主はスティルにサイファーのことを話していたはずだった。…が、スティルの耳にそれが入っていたのかどうかは定かではない。
しかし、このやり取りでスティルはサイファーがイデアの魔女の騎士であったことを信じざるを得なかった。
見せられた魔女の写真に写っていた人物が今目の前にいるのだから。
「…足手まといなんざいらねぇ」
「足手まといかどうか、連れてってくれればわかるさ! この街は俺の庭だぜ。
あんたがいくらこの町のことを知っていたって言っても、裏通りからのすべての路地を知り尽くしてる俺には敵わないね。
案内だったら自信があるぜ」
「スティル!何を言っているんだ! 普段の仕事とは違うんだぞ」
店主が宥めるが、スティルの輝いた瞳はもう止められないことを物語っていた。
「命の保障はなしだ。自分の身はてめぇ自身で守るんだな。俺は他人の荷物は持たない」
「やったぜ!!」
欲しかった玩具を買ってもらったときのように、スティルは大喜びだ。
そんなスティルを無視して、サイファーは独りで地下室の入口へ向かった。
小さな窓から外の様子を確認し、そっと裏口の扉を開けた。
スティルが顔を覗かせた瞬間、建物の影から恰幅のいい中年の女性が声を掛けてきた。
「あらスティル、またお手伝い?精が出るわね~」
「あ、あははは…ど、どうも」
まだ昼にも遠いこの時間帯では、どうしても人の目が掛かる。
ましてやここら辺では皆顔見知りなのだ。
女性がその先の建物の角を曲がって姿が見えなくなると、スティルはサイファーに合図しようとドアの隙間から手招きしてみる。
しかし、何の反応も無い。
疑問に思ったスティルが中を覗いてもそこにいるはずのサイファーの姿は無く、頭を傾げながらドアを閉めた。
その瞬間、頭上から声を掛けられる。
「…おい」
ビクリと反応して振り仰ぐ。
いつの間に上ったのか、屋根の上にサイファーがいた。
なんとなく悔しさを覚えながらも、スティルも屋根の上に飛び乗る。
どうしても歩くと屋根の軋む音が響いてしまうのに、サイファーはまるで猫のように足音も立てない。
建物から建物へ飛び移るときも、スティルは助走をつけなければ飛べない距離でも、ひょいと一跨ぎだ。
飛び降りたときは、思わずバランスを崩してしりもちをついてしまったスティルを、フワリと舞い降りたサイファーがにやりと笑ってみせた。
「…あんた何者なんだ? でかいクセに妙に身軽だし、それに、変わった獲物持ってるしさ…」
サイファーの腰にあるコートからチラリと覗いた黒い剣に視線を移してスティルは聞いた。
「あんた、まさか、 ……SeeD…?」
「俺はSeeDじゃない。…俺のことは詮索するな。お前はただ案内すればいい」
何かの工場らしき古びたパイプが立ち並ぶ建物の壁に身を隠し、スティルが指差した先に黒い車を見つけた。
「あそこだ。クロード・レイスがいる。車が見えるだろ」
「ああ」
「…やっぱり、警備は厳重そうだな」
「切り込むか」
「な、何言ってるんだよっ! どんだけ騒ぎをでかくする気なんだ!他の関係ない奴まで巻き込んじまうだろ! …こっちだ」
建物の裏手に周り、マンホールの蓋を持ち上げた。
スティルの手馴れた様子から、何度かここを訪れているのだろう。
迷うことなく地下の入り組んだ坑道を進んでいく。
「…ナイト、魔女イデアの騎士なんだろ?イデアのところにいなくていいのか? …っていうか、イデアってどこにいるんだ?」
「イデアはもう魔女ではない。今は静かに暮らしている」
「なんで魔女の騎士になろうと思ったんだ?」
「…ガキにゃカンケーねぇ」
「ガキじゃない!もう13だ! それに、スティルって名前がある。ま、魔法だって少しは使えるんだからな!」
「…13、か…。ガキだな」
「ガキじゃないって言ってるだろ!」
「そうやってすぐムキになるところがガキだって言ってるんだよ」
「……くそ~」
やがて1つの梯子の前で足を止めたスティルが頭上を指差しながら言う。
「ついたぜ。中庭の外れに出る。そこなら監視カメラも届かない…」
サイファーのほうを見ることも無く素っ気無く答えるスティルはまだ機嫌が悪いようだ。
「なんだ、まだヘソ曲げてるのか。案内してくれて助かったぜ」
その一言でスティルは笑顔に戻る。
「だろ~!足手まといなんかならねぇよ!」
「ここからは俺1人でいい。ガキはおうちに帰れ」
「あ゛―――っ!またガキって言った!! 奴らにバラしてやる!」
サイファーを押しのけるように梯子を上ったスティルが、蓋を少しだけ持ち上げて周りを確認し、重そうに蓋をずらした。
年中厚い雲に覆われ、日が射す日数が極端に少ないと言われるこのデリングシティの空も、地下から出れば眩しいことに変わりは無い。
庭の外れと言うだけあって、高い樹木と植え込み、そこまで手入れのされていない地面は、自分たちの足音を消し姿を隠すのにお誂え向きだ。
木々の向こう側に洒落た建物が見える。
その建物の方向を、植え込みの間からじっとスティルは見つめていた。
「…なんだ、バラすんじゃなかったのか?」
「う、うるさいな!タイミングを見てるんだよ」
「お前はここで大人しく待ってろ」
「なんだよ!俺も行く!」
「……何と言ったら言うことを聞くんだ、お前は…。だからガキなんだよ。殺されたいのか…?」
「…ちぇ、わかった…」
建物のほうに向かって走っていってしまったサイファーの姿はすぐに見えなくなり、スティルは言われた通りにそこでじっと動向を伺った。
しかし、何の音沙汰も無く時間だけが過ぎていく。
「…ガキ扱いしやがってさ。 …でも、何やってんだろ?大丈夫かな…?」
自分もそこに向かいたい衝動を必死に抑えた。
行ったところで、またサイファーにガキと呼ばれるのが悔しかったのだ。
「ったく、何やってんだよ!」
突然、乾いた銃声が聞こえた気がした。
「!! 始まった!」
建物がよく見える位置に移動し、大きな木の陰に隠れて様子を伺った。
内部からは大勢の人間の叫び声や銃声が聞こえてくる。
時折、ガラスの割れるような音や、何かが破壊される音も混じる。
女性のものと思われる甲高い悲鳴と共に、誰かが慌てて入れた警報音が響いた。
建物の外からも、警備の人間と思われる大勢の人物が手に武器を携えて走っていく。
「…ナイトは…?」
建物の中から、警備員に押し潰されそうになりながら、クロード・レイスが出てきた。
慌てて車に乗り込もうとしている。
その時、建物の上空で強い光が放たれ、風が巻き起こった。
そこにいた人物はスティルも含め、一瞬怯んで思わず目を閉じる。
突然現れた大きな獣に、警備員達は一斉に銃で応戦しようとした。
当然、クロード・レイスから身を離す事になる。
その瞬間、クロード・レイスは白い影を見た。
一瞬のことだった。
獣が上空に飛び上がり、姿を消したのを確認した警備員達が振り返った先には、体を斬り裂かれ地に伏したクロード・レイスが横たわっていた。
→part.4
「環境部長のクロード・レイスは、ここのコミュニティセンターで講演。その後このレストランで昼食。
午後はこっちのでかい工場の社長と会うことになってる。
それから教育部長のマーク・アクリヴ、こいつは新しくできる学校の下見と、ここの出版社に行くことになってる」
小さなテーブルいっぱいに広げられた街の地図は、テーブルに乗っていた様々な物を覆い隠して尚、クロスのように垂れ下がった。
「…わかった」
短い返事を返すとすぐにサイファーはそこを出ようとする。
「おい、もう行くのか? こっちから連絡すればすぐに同志が集まるぞ。 …それに、あんたがこんな裏の仕事をすることは無い」
掛けられた声に、サイファーは動きを止めてしばし沈黙が流れる。
「…裏も表も無い。俺たちは既に政府に宣戦布告してるんだ。もう戦いは始まっている」
「………」
何も答えない店主の表情を読み取ってから、サイファーは踵を返した。
「もう行く。独りでいい」
「俺も行く!連れてってくれよ、ナイト!」
スティルがサイファーの行く手を阻むように立ちはだかる。
先程、サイファーが見せたペンダントは店主にも見覚えがあった。
“魔女イデアの十字架”がゴーシュの手に渡されたことも…
店主はスティルにサイファーのことを話していたはずだった。…が、スティルの耳にそれが入っていたのかどうかは定かではない。
しかし、このやり取りでスティルはサイファーがイデアの魔女の騎士であったことを信じざるを得なかった。
見せられた魔女の写真に写っていた人物が今目の前にいるのだから。
「…足手まといなんざいらねぇ」
「足手まといかどうか、連れてってくれればわかるさ! この街は俺の庭だぜ。
あんたがいくらこの町のことを知っていたって言っても、裏通りからのすべての路地を知り尽くしてる俺には敵わないね。
案内だったら自信があるぜ」
「スティル!何を言っているんだ! 普段の仕事とは違うんだぞ」
店主が宥めるが、スティルの輝いた瞳はもう止められないことを物語っていた。
「命の保障はなしだ。自分の身はてめぇ自身で守るんだな。俺は他人の荷物は持たない」
「やったぜ!!」
欲しかった玩具を買ってもらったときのように、スティルは大喜びだ。
そんなスティルを無視して、サイファーは独りで地下室の入口へ向かった。
小さな窓から外の様子を確認し、そっと裏口の扉を開けた。
スティルが顔を覗かせた瞬間、建物の影から恰幅のいい中年の女性が声を掛けてきた。
「あらスティル、またお手伝い?精が出るわね~」
「あ、あははは…ど、どうも」
まだ昼にも遠いこの時間帯では、どうしても人の目が掛かる。
ましてやここら辺では皆顔見知りなのだ。
女性がその先の建物の角を曲がって姿が見えなくなると、スティルはサイファーに合図しようとドアの隙間から手招きしてみる。
しかし、何の反応も無い。
疑問に思ったスティルが中を覗いてもそこにいるはずのサイファーの姿は無く、頭を傾げながらドアを閉めた。
その瞬間、頭上から声を掛けられる。
「…おい」
ビクリと反応して振り仰ぐ。
いつの間に上ったのか、屋根の上にサイファーがいた。
なんとなく悔しさを覚えながらも、スティルも屋根の上に飛び乗る。
どうしても歩くと屋根の軋む音が響いてしまうのに、サイファーはまるで猫のように足音も立てない。
建物から建物へ飛び移るときも、スティルは助走をつけなければ飛べない距離でも、ひょいと一跨ぎだ。
飛び降りたときは、思わずバランスを崩してしりもちをついてしまったスティルを、フワリと舞い降りたサイファーがにやりと笑ってみせた。
「…あんた何者なんだ? でかいクセに妙に身軽だし、それに、変わった獲物持ってるしさ…」
サイファーの腰にあるコートからチラリと覗いた黒い剣に視線を移してスティルは聞いた。
「あんた、まさか、 ……SeeD…?」
「俺はSeeDじゃない。…俺のことは詮索するな。お前はただ案内すればいい」
何かの工場らしき古びたパイプが立ち並ぶ建物の壁に身を隠し、スティルが指差した先に黒い車を見つけた。
「あそこだ。クロード・レイスがいる。車が見えるだろ」
「ああ」
「…やっぱり、警備は厳重そうだな」
「切り込むか」
「な、何言ってるんだよっ! どんだけ騒ぎをでかくする気なんだ!他の関係ない奴まで巻き込んじまうだろ! …こっちだ」
建物の裏手に周り、マンホールの蓋を持ち上げた。
スティルの手馴れた様子から、何度かここを訪れているのだろう。
迷うことなく地下の入り組んだ坑道を進んでいく。
「…ナイト、魔女イデアの騎士なんだろ?イデアのところにいなくていいのか? …っていうか、イデアってどこにいるんだ?」
「イデアはもう魔女ではない。今は静かに暮らしている」
「なんで魔女の騎士になろうと思ったんだ?」
「…ガキにゃカンケーねぇ」
「ガキじゃない!もう13だ! それに、スティルって名前がある。ま、魔法だって少しは使えるんだからな!」
「…13、か…。ガキだな」
「ガキじゃないって言ってるだろ!」
「そうやってすぐムキになるところがガキだって言ってるんだよ」
「……くそ~」
やがて1つの梯子の前で足を止めたスティルが頭上を指差しながら言う。
「ついたぜ。中庭の外れに出る。そこなら監視カメラも届かない…」
サイファーのほうを見ることも無く素っ気無く答えるスティルはまだ機嫌が悪いようだ。
「なんだ、まだヘソ曲げてるのか。案内してくれて助かったぜ」
その一言でスティルは笑顔に戻る。
「だろ~!足手まといなんかならねぇよ!」
「ここからは俺1人でいい。ガキはおうちに帰れ」
「あ゛―――っ!またガキって言った!! 奴らにバラしてやる!」
サイファーを押しのけるように梯子を上ったスティルが、蓋を少しだけ持ち上げて周りを確認し、重そうに蓋をずらした。
年中厚い雲に覆われ、日が射す日数が極端に少ないと言われるこのデリングシティの空も、地下から出れば眩しいことに変わりは無い。
庭の外れと言うだけあって、高い樹木と植え込み、そこまで手入れのされていない地面は、自分たちの足音を消し姿を隠すのにお誂え向きだ。
木々の向こう側に洒落た建物が見える。
その建物の方向を、植え込みの間からじっとスティルは見つめていた。
「…なんだ、バラすんじゃなかったのか?」
「う、うるさいな!タイミングを見てるんだよ」
「お前はここで大人しく待ってろ」
「なんだよ!俺も行く!」
「……何と言ったら言うことを聞くんだ、お前は…。だからガキなんだよ。殺されたいのか…?」
「…ちぇ、わかった…」
建物のほうに向かって走っていってしまったサイファーの姿はすぐに見えなくなり、スティルは言われた通りにそこでじっと動向を伺った。
しかし、何の音沙汰も無く時間だけが過ぎていく。
「…ガキ扱いしやがってさ。 …でも、何やってんだろ?大丈夫かな…?」
自分もそこに向かいたい衝動を必死に抑えた。
行ったところで、またサイファーにガキと呼ばれるのが悔しかったのだ。
「ったく、何やってんだよ!」
突然、乾いた銃声が聞こえた気がした。
「!! 始まった!」
建物がよく見える位置に移動し、大きな木の陰に隠れて様子を伺った。
内部からは大勢の人間の叫び声や銃声が聞こえてくる。
時折、ガラスの割れるような音や、何かが破壊される音も混じる。
女性のものと思われる甲高い悲鳴と共に、誰かが慌てて入れた警報音が響いた。
建物の外からも、警備の人間と思われる大勢の人物が手に武器を携えて走っていく。
「…ナイトは…?」
建物の中から、警備員に押し潰されそうになりながら、クロード・レイスが出てきた。
慌てて車に乗り込もうとしている。
その時、建物の上空で強い光が放たれ、風が巻き起こった。
そこにいた人物はスティルも含め、一瞬怯んで思わず目を閉じる。
突然現れた大きな獣に、警備員達は一斉に銃で応戦しようとした。
当然、クロード・レイスから身を離す事になる。
その瞬間、クロード・レイスは白い影を見た。
一瞬のことだった。
獣が上空に飛び上がり、姿を消したのを確認した警備員達が振り返った先には、体を斬り裂かれ地に伏したクロード・レイスが横たわっていた。
→part.4