Chapter.38[トラビア]
~第38章 part.2~
明かりひとつ無い真っ暗な空間。
持参したはずのライトはいつの間にか消えていた。
吐く息が白く曇り、己の顔を包み込む。
何かが動く気配。
それは共にこの部屋に足を踏み入れた仲間のものか、それとも別の何かか…
コトリと何かの物音が微かに聞こえるたびに心臓が高鳴る。
音のした方向に銃を構えた体ごと振り返る。
今度は別の方向から。そしてまた別の方向から。
その度にビクビクとしながらも銃口を向ける。
寒さのせいで、予想以上に手足の指の動きは鈍い。
それなのに、額からは汗が流れ落ちてくる。
心臓の鼓動が自分自身にも聞こえる。
この部屋中に響いているのではないかとさえ思えてくる。
「…お、おい、どこだ…?」
仲間たちの声は全く聞こえない。
この部屋がどれだけの広さがあるのかわからない。
どんな構造になっているのかも分からない。
足元を踏みしめるように、怯えながらも少しずつ歩を進める。
突然足元の障害物に躓く。
少しだけ暗闇に慣れた目に飛び込んできたのは見覚えのある服。
「お、おい!!」
仲間がそこに倒れていた。
一体何をされたのか、完全に気を失っている。
確認は取れないが、全く足音も聞こえないところをみると、他の仲間ももうやられてしまったのだろう。
…一体誰に? 何に?
恐怖が湧き上がる。
見えない敵。己に降りかかる危険。危うい命。
指令も任務も消え去っていた。
力の入らない足を無理矢理奮い立たせて、微かに光が見えるところへ向かって走った。
光が差し込む部分に手を当てる。
…ただの壁だ。
おかしい、入ってきた入口じゃない。
この漏れている光は壁に走った亀裂からの僅かな隙間からのものだ。
壁のあちこちに手を触れる。
確認するように、探すように。
そして拳で力一杯に壁を叩く。
「お、おーい!誰か助けてくれ!!ここから出してくれ!」
不意に自分のすぐ真後ろに感じる気配。
ゾクリと冷たいものが背中に走る。
叩く手を止め、ゆっくりと後ろを振り返る。
自分を見下ろす、夜叉のように鋭く光る目。
兵士の記憶はそこで途絶えた。
自分自身の体が万全ではないことは、自分自身が一番よく分かっている。
だが、だからと言って人に頼ることなんてできない。
彼女を守るのは、自分の役目なのだから。
連絡の取れなくなった兵士の下に他の兵士が集まるのは当然のことで、教室の外には大勢の兵が押し寄せてきた。
張られたバリケードなどもう意味は無い。
その勢いのまま教室の中に雪崩れ込む。
僅かな隙を突いて上手く教室の外に出ることはできたが、そこにも待ち構えていた大勢の兵士達。
スコール1人だけなら何とかなったかもしれない。
しかし、守らなくてはならない対象と共に行動している。
そう望んだのは自分だ。
離れることなんて、できない。
リノアを背後に庇い、壁を背にして兵士に対峙する。
僅かずつでも教室から離れようと移動する。
スコールが横なぎに剣を払えば、兵士達は一瞬で吹き飛ばされる。
それでもこの数だ。
兵士達の手薄な部分を狙うように道を切り開き、リノアの手を引く。
力を抑制するアイテムのせいで、リノアの動きは鈍い。少々強引に引くスコールの力に、バランスを崩してしまう。
リノアの動きに気をとられ、一瞬の判断が遅れた。
廊下の中ほどで3方からの兵士達に囲まれてしまった。
「…くっ…」
思わず目を向けた窓の下に続く渡り廊下の屋根。
…渡り廊下、ここに侵入してきたルートを思い出す。
「(…そうだ、ヘリに…)」
ガラスを打ち割り、屈んだままのリノアを抱き上げる。
兵士達の手が届く寸前、スコールはそこから宙へ身を投げた。
「え! ス、スコール!?」
「しっかり捕まってろ」
こんな状況なのに、スコールは本当ならこんなに戦える体じゃないはずなのに、それでも、嬉しいと感じてしまう。
自分は守られているという安心感に包まれる。
『確認しました』
たった一言通信が届く。
指揮官がニヤリと口元を歪ませた。
まだ校内に侵入せずに待機していた部隊に命令が下される。
“魔女を捕らえろ”
そして兵士は散ってゆく。蜘蛛の子を散らすように…
渡り廊下の上に着地しようとしていた2人に向かって砲弾が撃ちこまれる。
標的をそれた砲弾は、渡り廊下や校舎の一部を容赦なく破壊する。
2人を追っていた兵士達もそこにいるというのに…
着地するはずだった足場を壊され、バランスを失う。
それでもなんとか降り立ったスコールは校庭から走ってくる兵士を振り切るように校舎にそって走る。
校舎の中にも兵士はいるのだ。
スコールの足が止まる。
小さく震えているのが、リノアにも伝わった。
通常なら考えられないほど上がった息と大粒の汗。
リノアの服に染み込まれていく黒い液体。
「スコール、下ろして。私も戦うから!」
「…ダメだ」
そうしている間にも、押し寄せる兵の数は増すばかりだ。
すでに退路も断たれ逃げ場すらない。
「魔女を捕らえろ!男は殺せ!」
ついに、2人は引き剥がされてしまう。
2人の兵士に両腕を掴まれて引き摺られるようにスコールの元からリノアが離されていく。
自分の前に立ちはだかる邪魔な兵士を薙ぎ払いながらスコールは追いかける。
次から次へと現れる兵士の数にきりは無いのか。
リノアの、自分を呼ぶ悲痛な声が聞こえる。
早く、早く、彼女の元に辿り着かなくては!
焦る気持ちは油断を生む。
不意をつかれ、背後からの攻撃を交しきれなかった。
首根に強い衝撃を受け、脳が揺れる。
安定を失い崩れた体勢を、兵士達は見逃さなかった。
これまでの仕返しとばかりに、兵士はスコールを執拗に攻撃する。
四方からの攻撃に、避けることもできずにその身に受ける。
その度に飛び散る赤い飛沫が、黒い足跡のついた白い地面に鮮明に色を残す。
自分が倒れていたことに気が付いたのは、視界に飛び込んできた真っ白な雪の冷たさを感じたときだった。
連れ去れて遠くなっていくリノアが霞んで見える。
もう兵士達の罵倒は聞こえない。
ただ、悔しかった…
→part.3
明かりひとつ無い真っ暗な空間。
持参したはずのライトはいつの間にか消えていた。
吐く息が白く曇り、己の顔を包み込む。
何かが動く気配。
それは共にこの部屋に足を踏み入れた仲間のものか、それとも別の何かか…
コトリと何かの物音が微かに聞こえるたびに心臓が高鳴る。
音のした方向に銃を構えた体ごと振り返る。
今度は別の方向から。そしてまた別の方向から。
その度にビクビクとしながらも銃口を向ける。
寒さのせいで、予想以上に手足の指の動きは鈍い。
それなのに、額からは汗が流れ落ちてくる。
心臓の鼓動が自分自身にも聞こえる。
この部屋中に響いているのではないかとさえ思えてくる。
「…お、おい、どこだ…?」
仲間たちの声は全く聞こえない。
この部屋がどれだけの広さがあるのかわからない。
どんな構造になっているのかも分からない。
足元を踏みしめるように、怯えながらも少しずつ歩を進める。
突然足元の障害物に躓く。
少しだけ暗闇に慣れた目に飛び込んできたのは見覚えのある服。
「お、おい!!」
仲間がそこに倒れていた。
一体何をされたのか、完全に気を失っている。
確認は取れないが、全く足音も聞こえないところをみると、他の仲間ももうやられてしまったのだろう。
…一体誰に? 何に?
恐怖が湧き上がる。
見えない敵。己に降りかかる危険。危うい命。
指令も任務も消え去っていた。
力の入らない足を無理矢理奮い立たせて、微かに光が見えるところへ向かって走った。
光が差し込む部分に手を当てる。
…ただの壁だ。
おかしい、入ってきた入口じゃない。
この漏れている光は壁に走った亀裂からの僅かな隙間からのものだ。
壁のあちこちに手を触れる。
確認するように、探すように。
そして拳で力一杯に壁を叩く。
「お、おーい!誰か助けてくれ!!ここから出してくれ!」
不意に自分のすぐ真後ろに感じる気配。
ゾクリと冷たいものが背中に走る。
叩く手を止め、ゆっくりと後ろを振り返る。
自分を見下ろす、夜叉のように鋭く光る目。
兵士の記憶はそこで途絶えた。
自分自身の体が万全ではないことは、自分自身が一番よく分かっている。
だが、だからと言って人に頼ることなんてできない。
彼女を守るのは、自分の役目なのだから。
連絡の取れなくなった兵士の下に他の兵士が集まるのは当然のことで、教室の外には大勢の兵が押し寄せてきた。
張られたバリケードなどもう意味は無い。
その勢いのまま教室の中に雪崩れ込む。
僅かな隙を突いて上手く教室の外に出ることはできたが、そこにも待ち構えていた大勢の兵士達。
スコール1人だけなら何とかなったかもしれない。
しかし、守らなくてはならない対象と共に行動している。
そう望んだのは自分だ。
離れることなんて、できない。
リノアを背後に庇い、壁を背にして兵士に対峙する。
僅かずつでも教室から離れようと移動する。
スコールが横なぎに剣を払えば、兵士達は一瞬で吹き飛ばされる。
それでもこの数だ。
兵士達の手薄な部分を狙うように道を切り開き、リノアの手を引く。
力を抑制するアイテムのせいで、リノアの動きは鈍い。少々強引に引くスコールの力に、バランスを崩してしまう。
リノアの動きに気をとられ、一瞬の判断が遅れた。
廊下の中ほどで3方からの兵士達に囲まれてしまった。
「…くっ…」
思わず目を向けた窓の下に続く渡り廊下の屋根。
…渡り廊下、ここに侵入してきたルートを思い出す。
「(…そうだ、ヘリに…)」
ガラスを打ち割り、屈んだままのリノアを抱き上げる。
兵士達の手が届く寸前、スコールはそこから宙へ身を投げた。
「え! ス、スコール!?」
「しっかり捕まってろ」
こんな状況なのに、スコールは本当ならこんなに戦える体じゃないはずなのに、それでも、嬉しいと感じてしまう。
自分は守られているという安心感に包まれる。
『確認しました』
たった一言通信が届く。
指揮官がニヤリと口元を歪ませた。
まだ校内に侵入せずに待機していた部隊に命令が下される。
“魔女を捕らえろ”
そして兵士は散ってゆく。蜘蛛の子を散らすように…
渡り廊下の上に着地しようとしていた2人に向かって砲弾が撃ちこまれる。
標的をそれた砲弾は、渡り廊下や校舎の一部を容赦なく破壊する。
2人を追っていた兵士達もそこにいるというのに…
着地するはずだった足場を壊され、バランスを失う。
それでもなんとか降り立ったスコールは校庭から走ってくる兵士を振り切るように校舎にそって走る。
校舎の中にも兵士はいるのだ。
スコールの足が止まる。
小さく震えているのが、リノアにも伝わった。
通常なら考えられないほど上がった息と大粒の汗。
リノアの服に染み込まれていく黒い液体。
「スコール、下ろして。私も戦うから!」
「…ダメだ」
そうしている間にも、押し寄せる兵の数は増すばかりだ。
すでに退路も断たれ逃げ場すらない。
「魔女を捕らえろ!男は殺せ!」
ついに、2人は引き剥がされてしまう。
2人の兵士に両腕を掴まれて引き摺られるようにスコールの元からリノアが離されていく。
自分の前に立ちはだかる邪魔な兵士を薙ぎ払いながらスコールは追いかける。
次から次へと現れる兵士の数にきりは無いのか。
リノアの、自分を呼ぶ悲痛な声が聞こえる。
早く、早く、彼女の元に辿り着かなくては!
焦る気持ちは油断を生む。
不意をつかれ、背後からの攻撃を交しきれなかった。
首根に強い衝撃を受け、脳が揺れる。
安定を失い崩れた体勢を、兵士達は見逃さなかった。
これまでの仕返しとばかりに、兵士はスコールを執拗に攻撃する。
四方からの攻撃に、避けることもできずにその身に受ける。
その度に飛び散る赤い飛沫が、黒い足跡のついた白い地面に鮮明に色を残す。
自分が倒れていたことに気が付いたのは、視界に飛び込んできた真っ白な雪の冷たさを感じたときだった。
連れ去れて遠くなっていくリノアが霞んで見える。
もう兵士達の罵倒は聞こえない。
ただ、悔しかった…
→part.3