Chapter.37[バラム]
~第37章 part.1~
上空を旋回するヘリに向かっていくつかの信号弾がすぐ近くで破裂する。
問答無用で降りて来いという合図だ。
軍曹が指示を仰ぐようにランスのほうを振り返る。
頷き1つで返したランスは後ろを振り返って不安気な表情を見せている子供たちに、大丈夫だと言ってやる。
やがてゆっくりと降下を始めたヘリから、多くの兵士達の中にヘリを誘導する人物を見止める。
軍曹がその高い技術でほとんど揺れも無くそこにヘリを下ろしていく。
あと少しで地面に降り立つというその時、周りの兵士達が何人か走り寄ってきた。
外からドアをこじ開けられ、無理矢理引き摺り下ろされた。
「いてーな!何すんだよ!」
「抵抗するな。言うことを聞くんだ」
ランスの言葉に、ホープはしぶしぶ静かになる。
4人はすぐに手錠をかけられ、指揮官らしき男の前に跪かされた。
4人の背後にはそれぞれ1人の兵士が立ち並び、頭に銃を突きつけている。
ホープとウィッシュにも同じ様に銃を突きつけている。
年齢や慈悲という意識はないのだろうか?
「大佐殿に報告してくる。見張っていろ」
他のガルバディア兵とは異なる色の制服を着ている。
この男がこの部隊の指揮官なのだろう。
さらに上官がいるということは、ここにいる兵士よりももっと実際に動いている人員がいるということだ。
もしかしたらすでにガーデン内にも侵入されているかもしれない。
ランスは焦りを感じた。
トゥリープ教官長や学園長は無事だろうか…?
自分のすぐ隣で怯えたように小さく震えているウィッシュに声を掛けた。
「(…ウィッシュ、よく聞くんだ)」
声に気付いたのか、僅かに顔を上げる。
「(俺はわざと捕まる。その隙にお前達は逃げるんだ)」
「(ランスさん!それは…)」
「(いいから聞け。ガーデンに逃げ込めばガーデンにも奴らの手が回る。危険が及ぶ。お前ならこの意味がわかるな?)」
「(…はい)」
「(お前達はセントラに行け)」
「(セントラ…? あの滅んだ都市の遺跡があるといわれるあのセントラですか?)」
「(そうだ。そこで白いSeeDの船を捜すんだ)」
小さなささやき声が兵士の耳にも届く。
「おいっ!むだ口を叩くな!」
兵士がランスを小突く。
「(…そこであの名前を出せばきっと力になってくれる。できるだけ急げ。いいな)」
「おい、何を喋っている!黙れ!」
さらに兵士がランスを小突き、手錠で手を後ろに拘束されているランスはバランスを失って地に頭を叩きつけた。
先程の指揮官と、もっと上官の制服を着込んだ体格のいい男が近付いてきた。
兵士は慌てて敬礼し、1歩下がった。
目の前に立ったことがランスにも分かった。
地につけた顔を僅かにずらすと、異様に光る硬い軍用靴が視界に入る。
突然頭に痛みが走った。髪を掴まれて顔を持ち上げられたのだ。
そのまま相手の顔を睨みつける。
将校用の帽子を目深に被った鍔の下から、ゾクリとするような冷たい目が自分を見下ろしていた。
「バラムガーデンSeeD、ランス・エリオット。一緒に来てもらおう」
ランスの髪から手を離し、横に並ぶホープとウィッシュの前にも立ちはだかり、品定めでもするかのように見下ろす。
「ホープ・キニアス、ウィッシュ・キニアス。お前達もだ」
更に隣の軍曹の前にも同じ様に立つ。
「…お前は誰だ…?写真と違うな」
「大佐、これを」
すかさず指揮官が1枚のカードを手渡す。
「おい、そいつは関係ない。俺たちがここに戻る為にエスタで雇ったただの運転手だ」
「勝手に口を利くな!」
再びランスは兵士に小突かれる。
「…運転手、ねぇ…。 …政府防衛部大統領私設課第一航空部隊… ずいぶんとエリートな運転手だ。マック・ダニエル軍曹」
「へぇ、お前そんなに偉い奴だったのか、知らなかったよ。一番間抜けそうだったからお前ごとヘリを乗っ取ったのに、すげぇエリートじゃん」
「おい、いい加減にしろ!」
ランスの言葉に兵士は銃を突きつける。
怯えるように俯いていた軍曹が顔を上げた。
「…あなたほどではありませんよ、フリーマン大佐」
「私を知っているのか」
「…あなたは3年前の英雄だ。私が所属する隊でも憧れている人員は多い。…あなたのような人がなぜこんな小さな事件の指揮を執っているのです…」
「…フン、まあいい。おい、離してやれ」
大佐が下がり、兵の1人が軍曹の手錠を外しにかかる。
「(今だ、ウィッシュ、俺の鍵を壊してくれ!)」
「(はい!)」
互いに背を合わせ、ウィッシュはランスを手錠の位置を確認すると同時に魔法を放つ。
『サンダー!』
ランスは手首に走る凄まじい衝撃に思わず目を硬く閉じた。
「う゛っ!!」
突然放出された電撃に、兵士達は一瞬怯み、すかさずランスは軍曹の手錠を外した兵士に飛び掛った。
鍵を奪い取ると、それをホープに放り投げた。
「逃げろっ!」
ウィッシュはホープに合図を送る。
2人は怯んだ兵士達の足の間を潜り抜けるように走り去った。
2人がその場を離れるのを確認し、ランスは目の前で押さえつけている兵士を殴りつけた。
しかし、この人数が相手では武器も無い今の状態のランスはどうしようもない。
すぐに取り押さえられ、ウィッシュの魔法で痛む手首に更に手錠が掛けられた。
「おとなしくしろ!この!」
手錠を掛けられたとはいえ、ランスも立派なSeeDには違いない。
最後まで抵抗を続け、兵士達にボロボロに打ちのめされた。
「…だ、だから、ガルバディア軍なんて、た、たいしたこと、ねーんだ…。」
「こいつ!まだ…!」
「こ、子供ひとり捕まえられねーんだから、な…」
指揮官がランスの鳩尾に強烈な拳を打ち込む。
遠くなる意識の中で、ランスの目に入ったのはガーデンとその前に立つガルバディア軍の大部隊だった。
「(…ガーデン…俺…やべぇ…)」
「おい、さっさと運べ」
気を失ってしまったランスは担ぎ上げられ、そのまま輸送用のヘリに乗せられた。
フリーマンはすぐに召集を掛け、指揮官が大声を張り上げる。
軍用車両から顔を出して大声で呼ぶ兵士があった。
「通信が入りました!」
『緊急報告! トラビアガーデン内にて魔女発見!只今交戦中!至急増援願います!』
トラビアに向かった第3・4部隊からの通信だ。
その言葉だけを残し、通信は切れた。
すぐさまフリーマンにも知らされ、こちらから何度も呼びかけてみるが、反応はなかった。
召集に応じ、2人の少年を追っていた兵たちも森から何人か戻ってきた。
「…これだけか?まだ集合しとらんやつがいるな」
指揮官が並ぶ兵士を見て言う。
1人の兵が1歩前に歩み出て報告する。
「森の中はモンスターの巣です。しかもあのアルケオダイノスが生息しております。…仲間が犠牲になりました」
この兵士も、泣く泣く仲間の犠牲を切り捨てたのだろう。声がくぐもっていた。
「…アルケオ…。あのトカゲのバケモンか…。…仕方ない。あんな子供ではどうせ奴らも生きてはいられまい…。まだ生存者は、いるのか?」
「自分も逃走することに必死で確認は取っておりませんが、おそらくまだ森の中に…」
「よし、お前、何人か連れて負傷者の救出にあたれ。逃げたガキ共の捜索も引き続き、な。…だが無理はしなくていい。自分の命も危ういと感じたときは引き上げるように」
「はっ!」
兵士の列から離れ、数歩指揮官が退くと、フリーマンが前に出た。
「たった今、魔女を発見したと言う通信が入った」
フリーマンの言葉に、兵たちには動揺の色が浮かぶ。
「だが、その後全く連絡が取れない状況になっている。そこで、これよりこの部隊を3つに分散し、それぞれ任務に就いてもらう。1つはD地区収容所への輸送隊。
1つはトラビアへの増援部隊。こちらは大尉、君が指揮が執れ。そしてもう1つは、これは必要最小限でいい。
ここに残り、引き続きガーデンを監視。収容所へは…、君に行って貰おう」
指揮官のほうを振り返り、フリーマンが命じる。
敬礼を返しながら、指揮官は了承の合図を送った。
「すぐに行動開始だ。行け!」
兵たちはすぐにバラバラと思い思いの方向へ走り出し、やがてほとんどの輸送ヘリが二方向へ飛び去った。
フリーマンは見張りとして残っていた数人の兵士を連れ、ガーデン内部に足を進めた。
いつのも明るい元気な声も姿も無く、至るところに武器を携帯したガルバディア兵の姿。
抵抗したくとも、学園長室からの映像が各部屋のモニターに映し出されている今、こちらが手を出すことはできなかった。
そこには、質に取られたキスティスが映し出されていたから…
→part.2
上空を旋回するヘリに向かっていくつかの信号弾がすぐ近くで破裂する。
問答無用で降りて来いという合図だ。
軍曹が指示を仰ぐようにランスのほうを振り返る。
頷き1つで返したランスは後ろを振り返って不安気な表情を見せている子供たちに、大丈夫だと言ってやる。
やがてゆっくりと降下を始めたヘリから、多くの兵士達の中にヘリを誘導する人物を見止める。
軍曹がその高い技術でほとんど揺れも無くそこにヘリを下ろしていく。
あと少しで地面に降り立つというその時、周りの兵士達が何人か走り寄ってきた。
外からドアをこじ開けられ、無理矢理引き摺り下ろされた。
「いてーな!何すんだよ!」
「抵抗するな。言うことを聞くんだ」
ランスの言葉に、ホープはしぶしぶ静かになる。
4人はすぐに手錠をかけられ、指揮官らしき男の前に跪かされた。
4人の背後にはそれぞれ1人の兵士が立ち並び、頭に銃を突きつけている。
ホープとウィッシュにも同じ様に銃を突きつけている。
年齢や慈悲という意識はないのだろうか?
「大佐殿に報告してくる。見張っていろ」
他のガルバディア兵とは異なる色の制服を着ている。
この男がこの部隊の指揮官なのだろう。
さらに上官がいるということは、ここにいる兵士よりももっと実際に動いている人員がいるということだ。
もしかしたらすでにガーデン内にも侵入されているかもしれない。
ランスは焦りを感じた。
トゥリープ教官長や学園長は無事だろうか…?
自分のすぐ隣で怯えたように小さく震えているウィッシュに声を掛けた。
「(…ウィッシュ、よく聞くんだ)」
声に気付いたのか、僅かに顔を上げる。
「(俺はわざと捕まる。その隙にお前達は逃げるんだ)」
「(ランスさん!それは…)」
「(いいから聞け。ガーデンに逃げ込めばガーデンにも奴らの手が回る。危険が及ぶ。お前ならこの意味がわかるな?)」
「(…はい)」
「(お前達はセントラに行け)」
「(セントラ…? あの滅んだ都市の遺跡があるといわれるあのセントラですか?)」
「(そうだ。そこで白いSeeDの船を捜すんだ)」
小さなささやき声が兵士の耳にも届く。
「おいっ!むだ口を叩くな!」
兵士がランスを小突く。
「(…そこであの名前を出せばきっと力になってくれる。できるだけ急げ。いいな)」
「おい、何を喋っている!黙れ!」
さらに兵士がランスを小突き、手錠で手を後ろに拘束されているランスはバランスを失って地に頭を叩きつけた。
先程の指揮官と、もっと上官の制服を着込んだ体格のいい男が近付いてきた。
兵士は慌てて敬礼し、1歩下がった。
目の前に立ったことがランスにも分かった。
地につけた顔を僅かにずらすと、異様に光る硬い軍用靴が視界に入る。
突然頭に痛みが走った。髪を掴まれて顔を持ち上げられたのだ。
そのまま相手の顔を睨みつける。
将校用の帽子を目深に被った鍔の下から、ゾクリとするような冷たい目が自分を見下ろしていた。
「バラムガーデンSeeD、ランス・エリオット。一緒に来てもらおう」
ランスの髪から手を離し、横に並ぶホープとウィッシュの前にも立ちはだかり、品定めでもするかのように見下ろす。
「ホープ・キニアス、ウィッシュ・キニアス。お前達もだ」
更に隣の軍曹の前にも同じ様に立つ。
「…お前は誰だ…?写真と違うな」
「大佐、これを」
すかさず指揮官が1枚のカードを手渡す。
「おい、そいつは関係ない。俺たちがここに戻る為にエスタで雇ったただの運転手だ」
「勝手に口を利くな!」
再びランスは兵士に小突かれる。
「…運転手、ねぇ…。 …政府防衛部大統領私設課第一航空部隊… ずいぶんとエリートな運転手だ。マック・ダニエル軍曹」
「へぇ、お前そんなに偉い奴だったのか、知らなかったよ。一番間抜けそうだったからお前ごとヘリを乗っ取ったのに、すげぇエリートじゃん」
「おい、いい加減にしろ!」
ランスの言葉に兵士は銃を突きつける。
怯えるように俯いていた軍曹が顔を上げた。
「…あなたほどではありませんよ、フリーマン大佐」
「私を知っているのか」
「…あなたは3年前の英雄だ。私が所属する隊でも憧れている人員は多い。…あなたのような人がなぜこんな小さな事件の指揮を執っているのです…」
「…フン、まあいい。おい、離してやれ」
大佐が下がり、兵の1人が軍曹の手錠を外しにかかる。
「(今だ、ウィッシュ、俺の鍵を壊してくれ!)」
「(はい!)」
互いに背を合わせ、ウィッシュはランスを手錠の位置を確認すると同時に魔法を放つ。
『サンダー!』
ランスは手首に走る凄まじい衝撃に思わず目を硬く閉じた。
「う゛っ!!」
突然放出された電撃に、兵士達は一瞬怯み、すかさずランスは軍曹の手錠を外した兵士に飛び掛った。
鍵を奪い取ると、それをホープに放り投げた。
「逃げろっ!」
ウィッシュはホープに合図を送る。
2人は怯んだ兵士達の足の間を潜り抜けるように走り去った。
2人がその場を離れるのを確認し、ランスは目の前で押さえつけている兵士を殴りつけた。
しかし、この人数が相手では武器も無い今の状態のランスはどうしようもない。
すぐに取り押さえられ、ウィッシュの魔法で痛む手首に更に手錠が掛けられた。
「おとなしくしろ!この!」
手錠を掛けられたとはいえ、ランスも立派なSeeDには違いない。
最後まで抵抗を続け、兵士達にボロボロに打ちのめされた。
「…だ、だから、ガルバディア軍なんて、た、たいしたこと、ねーんだ…。」
「こいつ!まだ…!」
「こ、子供ひとり捕まえられねーんだから、な…」
指揮官がランスの鳩尾に強烈な拳を打ち込む。
遠くなる意識の中で、ランスの目に入ったのはガーデンとその前に立つガルバディア軍の大部隊だった。
「(…ガーデン…俺…やべぇ…)」
「おい、さっさと運べ」
気を失ってしまったランスは担ぎ上げられ、そのまま輸送用のヘリに乗せられた。
フリーマンはすぐに召集を掛け、指揮官が大声を張り上げる。
軍用車両から顔を出して大声で呼ぶ兵士があった。
「通信が入りました!」
『緊急報告! トラビアガーデン内にて魔女発見!只今交戦中!至急増援願います!』
トラビアに向かった第3・4部隊からの通信だ。
その言葉だけを残し、通信は切れた。
すぐさまフリーマンにも知らされ、こちらから何度も呼びかけてみるが、反応はなかった。
召集に応じ、2人の少年を追っていた兵たちも森から何人か戻ってきた。
「…これだけか?まだ集合しとらんやつがいるな」
指揮官が並ぶ兵士を見て言う。
1人の兵が1歩前に歩み出て報告する。
「森の中はモンスターの巣です。しかもあのアルケオダイノスが生息しております。…仲間が犠牲になりました」
この兵士も、泣く泣く仲間の犠牲を切り捨てたのだろう。声がくぐもっていた。
「…アルケオ…。あのトカゲのバケモンか…。…仕方ない。あんな子供ではどうせ奴らも生きてはいられまい…。まだ生存者は、いるのか?」
「自分も逃走することに必死で確認は取っておりませんが、おそらくまだ森の中に…」
「よし、お前、何人か連れて負傷者の救出にあたれ。逃げたガキ共の捜索も引き続き、な。…だが無理はしなくていい。自分の命も危ういと感じたときは引き上げるように」
「はっ!」
兵士の列から離れ、数歩指揮官が退くと、フリーマンが前に出た。
「たった今、魔女を発見したと言う通信が入った」
フリーマンの言葉に、兵たちには動揺の色が浮かぶ。
「だが、その後全く連絡が取れない状況になっている。そこで、これよりこの部隊を3つに分散し、それぞれ任務に就いてもらう。1つはD地区収容所への輸送隊。
1つはトラビアへの増援部隊。こちらは大尉、君が指揮が執れ。そしてもう1つは、これは必要最小限でいい。
ここに残り、引き続きガーデンを監視。収容所へは…、君に行って貰おう」
指揮官のほうを振り返り、フリーマンが命じる。
敬礼を返しながら、指揮官は了承の合図を送った。
「すぐに行動開始だ。行け!」
兵たちはすぐにバラバラと思い思いの方向へ走り出し、やがてほとんどの輸送ヘリが二方向へ飛び去った。
フリーマンは見張りとして残っていた数人の兵士を連れ、ガーデン内部に足を進めた。
いつのも明るい元気な声も姿も無く、至るところに武器を携帯したガルバディア兵の姿。
抵抗したくとも、学園長室からの映像が各部屋のモニターに映し出されている今、こちらが手を出すことはできなかった。
そこには、質に取られたキスティスが映し出されていたから…
→part.2