Chapter.34[セントラ]
~第34章 part.2~
「あぁ、そうそう、子供がいなくなったと聞きましたが…?」
「…あー、なんか、見つかったみてーだぜ」
マスタールームを後にして、階段を降りる。
すぐ下の階まで来たとき、1人の女性SeeDに声を掛けられた。
ラフテルが保健室で休んでいるとのことだった。
特に怪我も無く疲れただけだろうと。
「なら、あとは任せるぜ。俺が行ったところで何もすることはねぇよ」
さらに階段を降りていく。大勢の人の気配がする。
ざわつくような、楽し気な声だ。
それと同時に小腹を刺激する香りが空気に混じって流れていた。
「(…食堂、か…)」
匂いに誘われたかのように、エレベータホール前には作業の手を止め、早く準備ができるのを待ちきれない生徒達が大勢待っていた。
人込みの隅に、見慣れた大男を見つけて歩み寄る。
「おっ、サイファー会議終わったもんよ? …もう腹が減って我慢できねーもんよ」
「風神はどうした?」
「この奥の娯楽室だもんよ。子供たちと遊んでるもんよ」
「…あいつ、子供が好きだったのか…?」
雷神が指した方に目を向けると、廊下の突き当たりに、なるほど可愛い模様の描かれた明るい部屋の扉が見える。
部屋に近付かなくても、窓からチラチラといくつかの頭が見え、可愛い子供たちの声が聞こえてくる。
自分がそこに行けば、また自分を見つけた子供達が纏わり着いてくるんだろうと思うと、できればあまりそこには近付きたいと思わない。
…そうだ、近付かないほうがいい。
サイファーは踵を返した。
「あれ?サイファーどこ行くもんよ?」
雷神の声を無視して独りになれる場所を探した。
バラムガーデンにいた頃、こんな気分のときは訓練場で滅茶苦茶モンスターを倒しまくってたことを思い出す。
ふと、2階の窓から渡り廊下の屋根が見えた。
校舎から寮舎へと続く廊下だ。
窓を開けて、そこへ降りてみる。
廊下に対して真横が丁度夕日が沈む方角なのだろう。
屋根の傾斜がついているのは両脇だけで、天頂部分は平らになっていたので、腰をかけるのにいいだろう。
外からはこの変な形の装飾だかなにかで隠れるのもお誂え向きだ。
ゴーシュの言葉を思い出す。
そして、彼の異常なまでの魔女への想い。
自分もイデアに、ママ先生に育てられた身。
彼の気持ちも判らないでもない。
ましてや自分は魔女の騎士としてイデアに仕えたのだ。
ここにいる連中は、彼の仲間たちは、彼のその本音を知っているのだろうか?
彼が正しいのだろうか?
自分はSeeDではない。
魔女を殺すSeeDではない。
逆に魔女を守るための騎士だ。
だが、魔女派でもない。
しかし、ここにいる以上、皆は自分を自分達と同類と見るだろう。
…それは構わない。
どう思おうがそいつらの勝手だ。
魔女を守るために動くSeeD。
それがここで育てられる子供たちの将来の進む道。
彼らに教えて欲しいと言う。
魔女の本当の目的、SeeDの意味、ガーデンの役目。
自分が教えられてきたことをそのまま伝えることなんて、自分にはできないだろう。
そういうのはあのカチカチのキスティスの役目だ。
先生なんて、目障りで鬱陶しい存在でしかなかった。
自分は戦いの中に身を置いてこそ、初めて自分自身を実感できる。
…あぁ、そうか。だからゴーシュは自分を必要としたんだったな…
魔女派を名乗り、政府を潰す。魔女を守るために。
俺の仕事は最初から決まっていたんだ。
ただ、あの物事をストレートに言えない船長の遠まわしの言葉を理解できなかっただけなんだ。
戦いに行く。
ガルバディアに敵対する。
政府にとっては敵かもしれない。
しかし、人々にとっては救世主となれる。
…別に英雄になりたいわけじゃない。
自分はあくまでも、魔女の騎士として行動するんだ。
戦いの中に身を置く、血に塗れた自分には、誰も近付かないほうがいい…
自分がここに降り立った時に出てきた窓がまた開かれた音がした。
「ナイト!ここにいらしたんですか!探しましたよ! 風神さんと雷神さんが呼んでますよ~!夕食を一緒に食べましょうって!」
この声は、あの女か…
物陰になっていて、そちらからは見えないと思っていたが、…あの女…
身を反転させてそちらを振り向く。
片手を少し上げて了承の合図を送ると、笑顔を返してきた。
再び校舎の中に戻り、先ほどの食堂のあるフロアへ来ると、エレベータホールに2人の姿を見つけた。
「おっ、サイファーやっと来たもんよ。やっとメシが食えるもんよ!」
「なんだ、お前達まだ食ってねぇのか」
「子供」
「おう、まず小さい子が先だもんよ」
「待機」
「それからサイファー来るの待ってたもんよ。みんなで食ったほうが美味いもんよ」
雷神の腹が凄い音を立てて鳴きだした。
サイファーも思わず噴きだしてしまった。
調理室から、白いコック服を着た男が出てきた。
コック長のシルベストリだ。
「やあ、ナイト、やっと来てくれた。私の自慢のパスタをぜひ食べてくれよ」
「…随分自信があるんだな」
「まあね」
席に着いた3人の前に、すぐに運ばれてくる料理。
そういえば、昼にあの不恰好なサンドウィッチを半分食べただけだったことを思い出す。
やはり自分も腹が減っていたんだろう。
「どうかな?美味いだろ?」
笑顔でシルバーは感想を求める。
「美味いもんよ!おかわり欲しいもんよ!」
「美味!」
2人はよほど気に入ったのか、普段あまり感想を口にすることの無い風神までその味を褒めていた。
「ナイトは、どうだい?」
「……あぁ」
「……それだけ? …他には?」
「…ライスが食いてぇ。納豆に梅干、バラムフィッシュの塩焼き、ミソスープ」
「…はっ?何だそれ…?」
風神と雷神が笑っている。
バラムでは一般的な食い物だが、ガルバディアにはあまり馴染みが無いのだろう。
「ねぇのか?」
「…よ、ようし、今度はちゃんと用意してやる。楽しみにしていたまえ!」
コック魂を燃やしながら厨房に戻っていったシルバーを見送り、自分達も食堂を後にした。
「じゃあ、俺たちは部屋に戻るもんよ。サイファーはどうするもんよ?」
「…もう少し見て回る」
2人が寮舎のほうへ向かったのを見送ってから、何の気なしにブラブラと歩き出した。
正面入口にほど近いホールで、運動用の軽い服装をした若者数人を見かけた。
中には武器を携帯しているものもいる。
何かあるのかと、興味を引かれ後を付いていく。
彼らが向かったのは、校舎のすぐ前に広がる運動場。
ストレッチやジョギングを始めた。
夜間トレーニングか…
このガーデンで、自分達が受けたような厳しい特殊な訓練が行われることなんてあるのだろうか?
ここはモンスターが君臨する無法地帯。
ここまでガーデンや港を建設したからには、それなりに対処してきたことは間違いないが、しかし、今サイファーの前で体を動かし始めた若者達の様子からでは、とても戦闘で使えるとはお世辞にも言えなかった。
「(…お遊戯の練習かよ、これは…)」
彼らは、自主的にこういうことをやっているのだろう。
特に決まったメニューがある訳でもなく、彼らにしてみればそれはトレーニングでもなく、ちょっと気分転換に体を
動かしておこう、程度のものだ。
今はまだ、開校の準備で忙しいのだろう。
こんな時間にしかこうやって動くことができないのも、彼らには不満なのかもしれない。
ちょっと力を入れれば簡単に折れてしまいそうな貧相な剣を持ってきた奴が、徐にそれを振り回し始めた。
その格好も、武器を扱うというよりは、棍棒でも振り回しているかのようだ。
これではバグ1匹倒すことなどできない。
校庭の隅の小さな階段に腰を下ろし、頬杖をついてその様子を見守っていると、こちらに気付いたのか、若者の一人が駆け寄ってきた。
更に残りの者達も後に続く。
近くで見れば本当にまだ子供だ。
「あ、あの…ナイト、さんですよね…」
「…好きに呼んで構わねぇが、俺の名はサイファーだ」
「うわ~~~っ!本物だ!!」
「わー!すげー!!」
「?」
「…あ、あの!ボ、ボクたちに戦い方を教えて、くれませんか…!」
「…はぁ?」
「ボク、ずっと写真で見て憧れてました!」
「オレも!」
「自分もです!」
「(…あの船の中のやつか…)」
「まさか、本物の白いナイトに会えるなんて…!」
「うん、本当に、いたんだ!感激です!」
「? …白い、ナイト…?」
「ボクたち、3年前にここに来ました。ティンバーから」
「父はレジスタンスだったんです」
「自分の両親もそうです。 …でも…」
「…あぁ、3年前の掃討作戦の…」
「ナイト、ハリーを助けに来てくれたんでしょ?」
「一緒に戦ってくれるんですよね!」
「…ハリー…?アバンシアとかいう奴か。…なぜ戦う?」
「…えっ、なぜって…」
「“敵”だからです。ガルバディアは、僕たちの町を、家族を、大切なものを全部壊して奪った!!」
「そうだ!ガルバディアなんかなくなればいい! そうすれば、悪い魔女に捕まった自分たちのいい魔女も帰ってきてくれるんだ!」
「………」
正直言って、サイファーは驚いた。
こんな子供が、こんなことを口にするなんて…
ティンバーのレジスタンスは、その歴史も長い。
当然、この子達のような幼い子供もその戦火に身を投じることになる。
彼らは体験してきたのだ。その中で育ったのだ。
戦いというものを知っている。恨むべき対象がはっきりとしている。
ゴーシュが、子供たちのことを危惧していたのはこういうことなのか…
『子供たちには戦って欲しくない』彼の言葉が鮮明に蘇る。
この子達に正しい道を歩ませる為なのか、それとももっと奮起させ、能力の限りを引き伸ばし、戦わせる為なのか…
子供たちに教えろと言ったのは、どちらなのか、分からなくなる。
「ナイト、戦い方を教えて下さい!」
子供たちは、戦うことを望んでいる。
それを教えることは確かに簡単だろう。
今からなら、立派にSeeDとして使えるまでに成長するだろう。
だが、なぜかサイファーには躊躇われた。
…なぜだ…?
「俺から教えを受けようなんざ、10年早ぇよ。基礎体力も身についてねぇお坊ちゃんには無理だな」
「…ナイト!!」
「…俺、今日見たよ。ナイトがモンスターを倒すところ」
「ええっ!見たのか!」
「いいな~!見たかったな~!」
「………」
「すげーカッコよかった~!! 俺も、あんな風になりたい!どんなモンスターが相手でも戦えるようになりたい」
「…お前らの敵は、モンスターなのか?ガルバディアなのか・・・?」
「えっ…」
「確かにお前達はティンバーで戦いってやつを見てきたんだろう。しかし、お前らの望む魔女は、もうそんなことを終わりにしたいと願ってるんだ」
「…でも、魔女は今…!」
「俺は、“魔女の騎士”だぜ。俺の言うことがわかるな」
「…う~ん…」
「モンスターを相手にする訓練ならいつでも相手になってやる。ただし、もっと体力を付けろ。剣もまともに振れねーくせに、モンスターと戦えるわけがねぇだろうが」
再び先ほどの場所に戻って、運動を始めた若者達を見送り、またそこでじっと彼らを見つめ続けた。
彼らの要求に答えなかった自分に、これでいいと言い聞かせる。
もし彼らがゴーシュに拾われること無く、あのままティンバーで育ったとしたら、彼らは立派な反乱軍として功績を残すかもしれない。
もしかしたら本当にティンバーの独立に辿り着くかもしれない。…すぐにでも命を落とすかもしれない。
ここでこうしてたくさんの仲間たちと共に、ガルバディアのいつ終わるとも知れない戦渦の中を生きるよりはずっとまともな生活を送ることができるのは、幸せなことだ。
ゴーシュが戦いを避ける気持ちがなんとなく分かった気がした。
「あぁ、そうそう、子供がいなくなったと聞きましたが…?」
「…あー、なんか、見つかったみてーだぜ」
マスタールームを後にして、階段を降りる。
すぐ下の階まで来たとき、1人の女性SeeDに声を掛けられた。
ラフテルが保健室で休んでいるとのことだった。
特に怪我も無く疲れただけだろうと。
「なら、あとは任せるぜ。俺が行ったところで何もすることはねぇよ」
さらに階段を降りていく。大勢の人の気配がする。
ざわつくような、楽し気な声だ。
それと同時に小腹を刺激する香りが空気に混じって流れていた。
「(…食堂、か…)」
匂いに誘われたかのように、エレベータホール前には作業の手を止め、早く準備ができるのを待ちきれない生徒達が大勢待っていた。
人込みの隅に、見慣れた大男を見つけて歩み寄る。
「おっ、サイファー会議終わったもんよ? …もう腹が減って我慢できねーもんよ」
「風神はどうした?」
「この奥の娯楽室だもんよ。子供たちと遊んでるもんよ」
「…あいつ、子供が好きだったのか…?」
雷神が指した方に目を向けると、廊下の突き当たりに、なるほど可愛い模様の描かれた明るい部屋の扉が見える。
部屋に近付かなくても、窓からチラチラといくつかの頭が見え、可愛い子供たちの声が聞こえてくる。
自分がそこに行けば、また自分を見つけた子供達が纏わり着いてくるんだろうと思うと、できればあまりそこには近付きたいと思わない。
…そうだ、近付かないほうがいい。
サイファーは踵を返した。
「あれ?サイファーどこ行くもんよ?」
雷神の声を無視して独りになれる場所を探した。
バラムガーデンにいた頃、こんな気分のときは訓練場で滅茶苦茶モンスターを倒しまくってたことを思い出す。
ふと、2階の窓から渡り廊下の屋根が見えた。
校舎から寮舎へと続く廊下だ。
窓を開けて、そこへ降りてみる。
廊下に対して真横が丁度夕日が沈む方角なのだろう。
屋根の傾斜がついているのは両脇だけで、天頂部分は平らになっていたので、腰をかけるのにいいだろう。
外からはこの変な形の装飾だかなにかで隠れるのもお誂え向きだ。
ゴーシュの言葉を思い出す。
そして、彼の異常なまでの魔女への想い。
自分もイデアに、ママ先生に育てられた身。
彼の気持ちも判らないでもない。
ましてや自分は魔女の騎士としてイデアに仕えたのだ。
ここにいる連中は、彼の仲間たちは、彼のその本音を知っているのだろうか?
彼が正しいのだろうか?
自分はSeeDではない。
魔女を殺すSeeDではない。
逆に魔女を守るための騎士だ。
だが、魔女派でもない。
しかし、ここにいる以上、皆は自分を自分達と同類と見るだろう。
…それは構わない。
どう思おうがそいつらの勝手だ。
魔女を守るために動くSeeD。
それがここで育てられる子供たちの将来の進む道。
彼らに教えて欲しいと言う。
魔女の本当の目的、SeeDの意味、ガーデンの役目。
自分が教えられてきたことをそのまま伝えることなんて、自分にはできないだろう。
そういうのはあのカチカチのキスティスの役目だ。
先生なんて、目障りで鬱陶しい存在でしかなかった。
自分は戦いの中に身を置いてこそ、初めて自分自身を実感できる。
…あぁ、そうか。だからゴーシュは自分を必要としたんだったな…
魔女派を名乗り、政府を潰す。魔女を守るために。
俺の仕事は最初から決まっていたんだ。
ただ、あの物事をストレートに言えない船長の遠まわしの言葉を理解できなかっただけなんだ。
戦いに行く。
ガルバディアに敵対する。
政府にとっては敵かもしれない。
しかし、人々にとっては救世主となれる。
…別に英雄になりたいわけじゃない。
自分はあくまでも、魔女の騎士として行動するんだ。
戦いの中に身を置く、血に塗れた自分には、誰も近付かないほうがいい…
自分がここに降り立った時に出てきた窓がまた開かれた音がした。
「ナイト!ここにいらしたんですか!探しましたよ! 風神さんと雷神さんが呼んでますよ~!夕食を一緒に食べましょうって!」
この声は、あの女か…
物陰になっていて、そちらからは見えないと思っていたが、…あの女…
身を反転させてそちらを振り向く。
片手を少し上げて了承の合図を送ると、笑顔を返してきた。
再び校舎の中に戻り、先ほどの食堂のあるフロアへ来ると、エレベータホールに2人の姿を見つけた。
「おっ、サイファーやっと来たもんよ。やっとメシが食えるもんよ!」
「なんだ、お前達まだ食ってねぇのか」
「子供」
「おう、まず小さい子が先だもんよ」
「待機」
「それからサイファー来るの待ってたもんよ。みんなで食ったほうが美味いもんよ」
雷神の腹が凄い音を立てて鳴きだした。
サイファーも思わず噴きだしてしまった。
調理室から、白いコック服を着た男が出てきた。
コック長のシルベストリだ。
「やあ、ナイト、やっと来てくれた。私の自慢のパスタをぜひ食べてくれよ」
「…随分自信があるんだな」
「まあね」
席に着いた3人の前に、すぐに運ばれてくる料理。
そういえば、昼にあの不恰好なサンドウィッチを半分食べただけだったことを思い出す。
やはり自分も腹が減っていたんだろう。
「どうかな?美味いだろ?」
笑顔でシルバーは感想を求める。
「美味いもんよ!おかわり欲しいもんよ!」
「美味!」
2人はよほど気に入ったのか、普段あまり感想を口にすることの無い風神までその味を褒めていた。
「ナイトは、どうだい?」
「……あぁ」
「……それだけ? …他には?」
「…ライスが食いてぇ。納豆に梅干、バラムフィッシュの塩焼き、ミソスープ」
「…はっ?何だそれ…?」
風神と雷神が笑っている。
バラムでは一般的な食い物だが、ガルバディアにはあまり馴染みが無いのだろう。
「ねぇのか?」
「…よ、ようし、今度はちゃんと用意してやる。楽しみにしていたまえ!」
コック魂を燃やしながら厨房に戻っていったシルバーを見送り、自分達も食堂を後にした。
「じゃあ、俺たちは部屋に戻るもんよ。サイファーはどうするもんよ?」
「…もう少し見て回る」
2人が寮舎のほうへ向かったのを見送ってから、何の気なしにブラブラと歩き出した。
正面入口にほど近いホールで、運動用の軽い服装をした若者数人を見かけた。
中には武器を携帯しているものもいる。
何かあるのかと、興味を引かれ後を付いていく。
彼らが向かったのは、校舎のすぐ前に広がる運動場。
ストレッチやジョギングを始めた。
夜間トレーニングか…
このガーデンで、自分達が受けたような厳しい特殊な訓練が行われることなんてあるのだろうか?
ここはモンスターが君臨する無法地帯。
ここまでガーデンや港を建設したからには、それなりに対処してきたことは間違いないが、しかし、今サイファーの前で体を動かし始めた若者達の様子からでは、とても戦闘で使えるとはお世辞にも言えなかった。
「(…お遊戯の練習かよ、これは…)」
彼らは、自主的にこういうことをやっているのだろう。
特に決まったメニューがある訳でもなく、彼らにしてみればそれはトレーニングでもなく、ちょっと気分転換に体を
動かしておこう、程度のものだ。
今はまだ、開校の準備で忙しいのだろう。
こんな時間にしかこうやって動くことができないのも、彼らには不満なのかもしれない。
ちょっと力を入れれば簡単に折れてしまいそうな貧相な剣を持ってきた奴が、徐にそれを振り回し始めた。
その格好も、武器を扱うというよりは、棍棒でも振り回しているかのようだ。
これではバグ1匹倒すことなどできない。
校庭の隅の小さな階段に腰を下ろし、頬杖をついてその様子を見守っていると、こちらに気付いたのか、若者の一人が駆け寄ってきた。
更に残りの者達も後に続く。
近くで見れば本当にまだ子供だ。
「あ、あの…ナイト、さんですよね…」
「…好きに呼んで構わねぇが、俺の名はサイファーだ」
「うわ~~~っ!本物だ!!」
「わー!すげー!!」
「?」
「…あ、あの!ボ、ボクたちに戦い方を教えて、くれませんか…!」
「…はぁ?」
「ボク、ずっと写真で見て憧れてました!」
「オレも!」
「自分もです!」
「(…あの船の中のやつか…)」
「まさか、本物の白いナイトに会えるなんて…!」
「うん、本当に、いたんだ!感激です!」
「? …白い、ナイト…?」
「ボクたち、3年前にここに来ました。ティンバーから」
「父はレジスタンスだったんです」
「自分の両親もそうです。 …でも…」
「…あぁ、3年前の掃討作戦の…」
「ナイト、ハリーを助けに来てくれたんでしょ?」
「一緒に戦ってくれるんですよね!」
「…ハリー…?アバンシアとかいう奴か。…なぜ戦う?」
「…えっ、なぜって…」
「“敵”だからです。ガルバディアは、僕たちの町を、家族を、大切なものを全部壊して奪った!!」
「そうだ!ガルバディアなんかなくなればいい! そうすれば、悪い魔女に捕まった自分たちのいい魔女も帰ってきてくれるんだ!」
「………」
正直言って、サイファーは驚いた。
こんな子供が、こんなことを口にするなんて…
ティンバーのレジスタンスは、その歴史も長い。
当然、この子達のような幼い子供もその戦火に身を投じることになる。
彼らは体験してきたのだ。その中で育ったのだ。
戦いというものを知っている。恨むべき対象がはっきりとしている。
ゴーシュが、子供たちのことを危惧していたのはこういうことなのか…
『子供たちには戦って欲しくない』彼の言葉が鮮明に蘇る。
この子達に正しい道を歩ませる為なのか、それとももっと奮起させ、能力の限りを引き伸ばし、戦わせる為なのか…
子供たちに教えろと言ったのは、どちらなのか、分からなくなる。
「ナイト、戦い方を教えて下さい!」
子供たちは、戦うことを望んでいる。
それを教えることは確かに簡単だろう。
今からなら、立派にSeeDとして使えるまでに成長するだろう。
だが、なぜかサイファーには躊躇われた。
…なぜだ…?
「俺から教えを受けようなんざ、10年早ぇよ。基礎体力も身についてねぇお坊ちゃんには無理だな」
「…ナイト!!」
「…俺、今日見たよ。ナイトがモンスターを倒すところ」
「ええっ!見たのか!」
「いいな~!見たかったな~!」
「………」
「すげーカッコよかった~!! 俺も、あんな風になりたい!どんなモンスターが相手でも戦えるようになりたい」
「…お前らの敵は、モンスターなのか?ガルバディアなのか・・・?」
「えっ…」
「確かにお前達はティンバーで戦いってやつを見てきたんだろう。しかし、お前らの望む魔女は、もうそんなことを終わりにしたいと願ってるんだ」
「…でも、魔女は今…!」
「俺は、“魔女の騎士”だぜ。俺の言うことがわかるな」
「…う~ん…」
「モンスターを相手にする訓練ならいつでも相手になってやる。ただし、もっと体力を付けろ。剣もまともに振れねーくせに、モンスターと戦えるわけがねぇだろうが」
再び先ほどの場所に戻って、運動を始めた若者達を見送り、またそこでじっと彼らを見つめ続けた。
彼らの要求に答えなかった自分に、これでいいと言い聞かせる。
もし彼らがゴーシュに拾われること無く、あのままティンバーで育ったとしたら、彼らは立派な反乱軍として功績を残すかもしれない。
もしかしたら本当にティンバーの独立に辿り着くかもしれない。…すぐにでも命を落とすかもしれない。
ここでこうしてたくさんの仲間たちと共に、ガルバディアのいつ終わるとも知れない戦渦の中を生きるよりはずっとまともな生活を送ることができるのは、幸せなことだ。
ゴーシュが戦いを避ける気持ちがなんとなく分かった気がした。