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Chapter.31[大陸横断鉄道~ドール]

 ~第31章 part.2~


けたたましい目覚まし時計の音ではっとする。
開かれているのかどうかも分からない目の間に皴を寄せ、ベッドを這い出る。
動物のような唸り声を上げながらバスルームに入り、垂れ下がった前髪を掻き上げながら歯ブラシを口に銜え、昨日のスコールからの通信を思い出す。
「(…ドールへ行ってカード? …2人のサポート? …訳わかんねぇ。 手に入れたがってるアイテムって何だ? …スコール、トラビアにいるのか…リノアも?
 アーヴァインとセルフィ、列車で行くって言ってたよな…? トラビアに列車なんてねぇじゃん…)」

髪をいつものようにセットし、いつものようにガーデンの教官服に手をかけて動きを止める。
思い出したように別の服を取る。
昨日の内に取っておいた学園長の許可証と、大切にしまってあったカードホルダーを持ち、腕時計を確認しつつ駐車場へ急いだ。
バラムガーデンは、バラムの街のすぐ近くだ。
この教官ゼル・ディンの家はバラムにあり、母親が住んでいる。
ガーデンの生徒、そしてSeeDであった時期は街にある自宅から通っていたが、教官になってからは候補生たちの不測の事態に対応できるように、とガーデンの教官寮で生活している。
まだ早朝ということもあってか、ガーデン内に生徒の姿はなかった。
普段とは違う表情を見せるガーデンはもの寂しさを覚える。
朝日を後ろに背負い、バラムの街を目指す。
一度自宅に顔を出し、母の顔を見てから港を目指した。
ここからガーデン専用の水上高速艇に乗り、ドールを目指すのだ。

朝のバラムの港は活気に溢れている。
先ほど戻ったばかりの漁船が、この近海で獲れるバラムフィッシュを陸揚げしている。
かつては船に積みきれないほど獲れたこの魚も、近年では漁獲量が激減しており、この街の特産ではあるものの、高級魚の仲間入りをしてしまっている。

波止場近くに停泊してある水上艇を管理してくれるのは、港の駐屯管理員だ。
一応、ガーデンの関係者という扱いにはなっているが、漁にも出るし、ガーデンに顔を出すこともない、一漁師である。
ガーデンの教員であることを告げ、水上艇の鍵を受け取る。
今年導入されたばかりの最新型だ。
ゼルは嬉しくて仕方がないとでも言わんばかりに子供のように喜んでいる。
するとそこへ、大声で名前を呼びながら走ってくる人物がいた。

「兄貴―――っ!ゼルの兄貴――っ!」
ツンツンとハリネズミのように立てた髪を揺らしながらゼルのもとに辿りついた青年は、息を切らしながら持ってきた小さな包みをゼルに手渡した。
「チビじゃねーか! …これ、どうしたんだ?」
「あ、兄貴まで酷いっスよ。もういつまでもチビじゃないっス! これ、兄貴のお袋さんから預かったっス。兄貴に渡してくれって」
「お袋から?」
受け取った包みはほのかに温かく、微かに香ばしい匂いが嗅ぎ取れる。
「…弁当か。わざわざ悪いな」
「兄貴、こんな朝早くから仕事っスか?」
「おう、ちょっくらドールまでな。 …お前もガーデンに入ればよかったのにな」
「いえ、自分はお袋を手伝うって決めたっス。SeeDじゃなくてもそれはできるんで。でも兄貴を尊敬する気持ちは今も全然変わらないっスよ!」
「サンキュー。お前もしっかりやれ」
「わかってますって!兄貴の伝説は自分が引き継ぐっスよ!」

船に乗り込み、エンジンをかける。
小型のタービンが回転する音は耳に心地いい。
やはり新しい船はいいとゼルは思った。
今や新人SeeD達の憧れの1つだ。
「(…あいつ、ガーデンに入ってりゃいいSeeDになれただろうにな~。惜しいな…。…俺の伝説って何だっけ…?)」
かつてバラムの街で知らない者はいないと言われた“暴れん坊ゼル”。
『ガソリンスタンドの看板にぶら下がって懸垂を100回やった』
なんていう彼の伝説がこの街のあちらこちらに残っている。

母から受け取った弁当はバラムの漁礁で取れた海産物が豊富に使われていた。
どれもゼルにとっては懐かしいお袋の味。
オートドライブに設定してしまえば、こうしてのんびり窓から外を眺めていることも可能だ。
こうして水上艇でドールへ向かう。
どうしてもSeeD試験を受けたあの時のことを思い出さずにはいられない。
スコールとサイファーと同じ班になったこと。
ガルバディア軍の侵略を受けたドール軍のサポートについたこと。
「(…そういや、サイファーって今何やってんだ…?)」
サイファーに“チキン野郎”と言われたことまで思い出してしまい、腹が立つ。
大きく首を振り、忘れるように自分に言い聞かせる。

船はガルバディア大陸に近付き、ドールのシンボルでもある巨大な電波塔が見えてきた。
操縦盤のアラームが、目的地に近付いたことを知らせている。
ドールはそう大きな国ではない。
前方に海、後方に高い山脈という決して恵まれた土地ではない。
しかし、美しい景観と豊かな自然、穏やかな気候という環境は世界的にも有数の観光地となっており、多くの別荘が建てられている。
土地が狭いという難点があるものの、現在ガルバディアの援助を受けてそのエリアを海上に広げる計画が進められている。
あの時、自分達が上陸した砂浜も今ではお洒落なビーチと化していた。

無線で接岸の許可と誘導を受け、船を降りる。
世界各国から様々な者達が集まるこの国は、いつでもお祭りの如く賑わっているがまだ朝の早いこの時間、準備に追われる従業員やジョギングを楽しむ人の姿がちらほら見受けられるだけだ。
「…さて、と、あいつらはもう到着してんのかな?」
時計に視線を落とす。
ティンバーからの一番列車の到着時刻まではもう少々時間がある。
「車、だろうな…」
スコールに言われたカード好きな奴がいるというパブを探すべきか、それとも既に到着しているであろう2人と会うべきか…
少々考えたが、結局行きつくところは同じなのだ。
「…パブっつってもな~…」
観光地であるこの港町では、それらしい店は数多い。
一口でパブと言っても、見つけるのは骨が折れそうだ。
しかも時間的にどこも閉まっているようで、情報すら入手するのは難しそうだ。
「あ、すまねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、ここらでカード好きな奴がいるパブってどこかな?」
たまたま近くを通りかかった人物に声を掛けてみる。
「カード!? そんなの、どこの店にもいるだろ」
「…そりゃそうだな」

その後、何人かに訊ねてみるが、手掛かりは何も得られないまま町外れまで来てしまった。
ふと目に止まった1軒のレンタカーショップ。
2人が車を利用してこの国に来たかもしれない、そう考えたのは自分自身だ。
「スンマセ~ン!」
誰も見当たらない店先で声を上げる。
奥からのっそりと出て来たのは髭の大男。
少々怯みながらもゼルは伺いを立ててみる。
「あー、ちょっと聞きたいんだけど、ティンバーからついさっき着いたばっかり、なんて車、あるかな?」
「あん、なんでそんなこと聞く?」
「いや、実は人を探してて…」
「探し人? 俺は客の顔なんていちいち覚えねぇ。探し人は見つかんねーぞ」
「あー…。じゃあ、カードゲームできるパブなんて、分かんねぇかな?結構強い奴が集まるような」
「カードなら、“ニックの店”だな。…さっきも同じ店紹介したばっかりだな。ワハハハハ!」
「! さっき…?もしかして、ロン毛の長身の男とこんな風に髪の毛が跳ねっ返ってる女じゃ…?」
「ん?あぁ、そんな感じだったかな。1人はトラビア訛りだった」
「ビンゴ!! なぁ、悪いんだけど、その店どこにあるのか教えてくんねーか!」

思わぬ収穫に、描いてもらった地図の場所までの足取りは軽かった。
海岸へと続く大通りから1本外れた細い裏道。
目印代わりの大きな看板を確認し、更に細い路地へ。
所在無さげに下げられた看板を見て小さな掛け声を自分に掛ける。
ドアノブに手をかけようとした時、中から話し声が聞こえてきた。



→part.3
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