Chapter.30[セントラ]
~第30章 part.2~
受け取ったサンドウィッチを口にすることもなく、サイファーはゴーシュに尋ねた。
「あんたらの、本当の目的が分からねぇ。 何をするつもりなんだ? 何がしたいんだ? どうなって欲しいんだ…?」
「…我々にも、計画があります。今はまだお話することはできません。 …ただ…」
「…?」
「これだけは言っておきましょう。我々の最終目的は… “ガルバディア政府の崩壊”です」
しばらく沈黙が流れ、そしてサイファーがバカにしたように言う。
「…はっ、随分ご立派な目標じゃねーか。…んなこと無理だと分かって言ってんのか? …それに」
急に顔付きが変わる。
顎を引き、口元を締め、細めた目は鋭い眼光を放つ。
「…あんたの言う“防衛力”ではなく、本物の“武力”が必要になるぞ…。…俺には、あんたらのその矛盾が理解できねぇ。」
「………」
「このガーデン然り。全部じゃねーが、少し中を見て回った。前に言ったよな、あんたに。“幼稚園”だ、と。せいぜいそこらの孤児院や並みの学校となんら変わらねぇ。
これじゃ、あのど田舎のトラビアの方がまだマシなガーデンだ。
あの放送も然り。既に死んだ奴の名を語って、自分達の下へ集まれ、だぁ? 確かに民衆は阿呆揃いだ。そんな宣伝をすれば世界中で暴動が起きる。そしてそれは全てあのアバンシアとかいう奴の名だけが先走った結果だ。魔女派と名乗ればそいつらが起こした行動は全て肯定されると信じきってな」
「…それで、いいんですよ…」
「なんだと!?」
「世界中での暴動、勝手に名乗り増えていく魔女派、大いに結構です。…それでガルバディア政府が崩壊するならば、もう我々は手を下さずに済みます」
「!!……てめぇ…」
「先日拘束した魔女を、政府は今日、エスタに移送するそうです。…もう出発したでしょう。現地には、先に潜伏した我々の同士がいます。お誂え向きなことに、両国の
大統領はいない。警備の手薄な今、魔女を拉致する好機だと思ってます」
「魔女を、拉致…?」
「これは失礼。言葉が不適切でした。彼女を“救助”するんです」
「……やめておけ」
「…はい?」
「やめとけってんだ」
「なぜです?」
「仮にも、政府に対して宣戦布告したのは知ってる。だが、魔女を解放させると、やつら自身に魔女を手放させなけりゃ意味ねーんじゃねぇのか?その為にクーデター紛い
のことをやろうってんだ。こっちで無理矢理奪っちまったら、何の為の宣言だったんだ、ありゃ…」
「!!…すいません、仰る通りですね。仲間にもすぐに連絡を入れます。様子を見るように、と」
『ピンポンパンポ~ン♪ ゴーシュ船長、ゴーシュ船長、至急マスタールムにお越し下さい。ゴーシュ船長、マスタールームにお越し下さい』
突然館内放送がゴーシュを呼び出す。はっとして腕時計を見つめる。
「もうこんな時間でしたか。すいません、私は行かなければ…。失礼しますナイト。また後ほどお話しましょう」
ゴーシュが立ち去り、辺りに急に静けさが戻った。
口にすることを忘れてしまっていた半分のサンドウィッチは、興奮してつい手に力が入った為か、もっと不恰好になってしまっていた。
どうしようかとしばらく考えてから、徐に口に放り込んだ。
下のほうから子供たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
集められた子供たち。
今は何も考えずに遊んでいられるが、これから彼らにどんな試練が待ち受けているのだろうか。
ただこうして楽しい時間を過ごせる今が一番幸せなんじゃないだろうか?
将来、この子供たちもSeeDと名乗り、厳しい訓練を受け、辛い任務に就くことになるのだろうか?
一見すれば、明るい笑顔で楽しく遊ぶ子供達が大勢暮らす真新しい学校。
その裏で進行する恐ろしい計画。
一体ここはどうなっているのか、どちらが本当の奴の顔なのか、理解できなかった。
10年という月日は、自分の歩んできた道と思想を既に古いものへと変えてしまっただけなのだろうか…?
ドタバタとでかい足音が近付いてくるのが耳に入った。
「(…こいつは、雷神、か?)」
扉を開く音がして、でかい声が聞こえる。当たりだ。
「あっ!サイファー本当にいたもんよ!」
「うるせぇな、何だ?」
2人は心なしか慌てているように見える。
…そういえば、図書室だかどっかに置き去りにしてきちまったっけか?
大方あの船長にでもここのことを聞いたんだろう。
「大変だもんよ。子供がいなくなっちまったもんよ!」
「…探せばいいだろうが」
「みんな忙しいもんよ。上の連中は難しい会議がまだ終わらないもんよ。手の空いてるSeeDはみんな探しに出かけたもんよ!」
「じゃあ、俺は必要ねぇだろ…」
「冷徹」
「サイファー冷たいもんよ」
「危険!」
「ガーデンの外はモンスターがいっぱいだもんよ。危ないもんよ」
「捜索!」
「おおよ、俺たちも探しに行くもんよ。可愛いラフテルとププルンが俺を待ってるもんよ!」
「…ラフテルがいねぇのか!?」
「そうだもんよ。集合時間になっても来ないもんよ。みんなで中を探したけど見つからないもんよ。きっと外に出たもんよ」
「手助」
「サイファーにも手を貸して欲しいもんよ…」
「……ったく、わかった…行ってやる」
ガーデンの裏手には、体育館と思しき大きな建物と、窓が1つも見当たらない建物が並んでいた。
こちらは何の建物なのか判らない。
その間を校舎から続く渡り廊下が繋がっている。
その先は寮舎か。
生徒達も教官達も、皆ここで生活を共にすることになる。
まだ完全ではないであろうが、それでも敷地を取り囲むバリアシステムの外はモンスターが生息する荒地。
月の涙が発生し、住む人間がいなくなったことで、この大陸は荒廃してしまったのだ。
手の空いている者が…、確かそう聞いたと思ったが、校舎の外で捜索に参加していると見られるSeeDの制服を着た者や候補生の姿は思ったより多い。
本当に外に出てしまったのだろうか…?
「…ちっ、どこ行きやが……!!!(違う!!)」
またきた。あの感覚だ。
ザワザワと頭の奥底のほうで何か騒いでるような、何か言っている様な…
サイファーが足を進めるとその感覚が強まる。
反対方向に足を向けると静かになる。
また反対を向くと強まる。
「…? なんなんだよ、こっちに行かせたくねーみてぇに…(その通りだ)」
頭のザワつく感覚が鬱陶しいと感じるサイファーの足は、次第に海岸に近付く。
ごつごつと隆起した、海岸には似つかわしくない石が乱雑に散らばる岩場を登る。
その向こうには遠くまで続く真っ白な砂浜。
綺麗な弧を描き、海と陸との境界を形作っている。
そこに残された1本の足跡。
「(…ここか)(ん?)」
岩の隙間に、水色の塊を見つける。ラフテルがいつも手にしているぬいぐみだ。
それを拾い上げ、足跡の先の小さな影に向かって走った。
「ププルン!」
追ってきた人物に気付いたラフテルが、その手にあったぬいぐるみに抱きついた。
それを持った人物の腕ごと。
大きく溜息を吐き、なるべく抑えた口調で話しかける。
「…何やってんだ、こんなとこで(…こいつ)」
「…かくれんぼ」
「はぁ!? こんなとこまで逃げて隠れなくても、ガーデンで…」
「わたしが、おになの」
「?」
「さいしょにかくれたのは、パパ。パパをさがしてたママも、いっしょにかくれちゃったの」
「………」
「ママは、おふねにのったの。だからここからさがすの。わたしがおにだから…」
「なんだよ、[#ruby=孤児=みなしご#]じゃなくて捨て…」
思わずサイファーは言葉に詰まった。
なぜか、その言葉をこの小さな少女に掛けるのは躊躇われた。
「?」
「あー、えーと、な、今かくれんぼしてるのは、お前なんだ。ガーデンのみんなが鬼になってお前を探してる(…何を)」
「え、ホント?」
「あぁ、だから、そろそろ帰らねぇか?」
「うん!」
零れてしまいそうな満面の笑みで返事を返すラフテルを見て、思わず肩の荷が降りたような気持ちになって溜息を1つ。
「(…やれやれ)(こいつ、安心してやがる…)」
砂浜についた2本の足跡を辿っていく道すがら、貝を見つけただの虫がいただの、あちこちに気が移るのは幼い子供特有の行動で、しかしそれはサイファーにとっては煩わしい無駄な動きにしか見えない。
何かを発見する度に、サイファーに同意を求めるからだ。
岩場まで来たとき、流石に疲れてしまったのかラフテルの動きが鈍る。
登るように促しても、動物のように唸るだけで動かない。
探しに来ておいて、捨て置くわけにもいかず、サイファーはラフテルに背を向けて屈みこんだ。
途端にラフテルの顔には笑顔が戻り、勢いよくその広い背中に飛びついた。
「掴まってろよ。落ちても助けねぇぞ」
「うん!」
岩場を超え、平地に出てもラフテルは手を離さなかった。
「おい、もういいだろ。自分で歩け」
「………」
何も言わずに首を振る。
しかし、手はしっかりとサイファーのコートを握り締めていた。
「…ちっ」
仕方なく、そのまま歩き出したが歩みの遅い歩調に合わせるよりは早いだろうと、自分に言い聞かせる。
「ナイトのせなかおっきーねー」
「…俺の背中は本来、魔女を守るためのもんだ。特別だからな。ありがたく思え!」
「ありがたくおもう!」
次第に眠りに落ちていくラフテルの手は、コートを掴む力がなくなり、背中を滑るように下がっていく。
舌打ちしながらも、それを下から支え、そのままの格好でガーデンまでたどり着いた。
その姿を見つけた生徒達や探していた者達が駆け寄ってくる。
眠ってしまったラフテルを起こさないようにそっと下ろしてやり、いつまでも礼を言い続ける女性SeeDに背を向けた。
やれやれと思いながらも、急に軽くなった背中に冷たさを感じた。
「ナイト!」
急に呼び止められ、振り返る。
走ってきたのか、息を切らした候補生の1人が側までやってきて息を整えている。
「せ、船長がお呼びです。すぐにマスタールームまで来て下さい。…きょ、今日、移送された品物の件だそうです…」
「…品物…? …移送…!! わかった」
受け取ったサンドウィッチを口にすることもなく、サイファーはゴーシュに尋ねた。
「あんたらの、本当の目的が分からねぇ。 何をするつもりなんだ? 何がしたいんだ? どうなって欲しいんだ…?」
「…我々にも、計画があります。今はまだお話することはできません。 …ただ…」
「…?」
「これだけは言っておきましょう。我々の最終目的は… “ガルバディア政府の崩壊”です」
しばらく沈黙が流れ、そしてサイファーがバカにしたように言う。
「…はっ、随分ご立派な目標じゃねーか。…んなこと無理だと分かって言ってんのか? …それに」
急に顔付きが変わる。
顎を引き、口元を締め、細めた目は鋭い眼光を放つ。
「…あんたの言う“防衛力”ではなく、本物の“武力”が必要になるぞ…。…俺には、あんたらのその矛盾が理解できねぇ。」
「………」
「このガーデン然り。全部じゃねーが、少し中を見て回った。前に言ったよな、あんたに。“幼稚園”だ、と。せいぜいそこらの孤児院や並みの学校となんら変わらねぇ。
これじゃ、あのど田舎のトラビアの方がまだマシなガーデンだ。
あの放送も然り。既に死んだ奴の名を語って、自分達の下へ集まれ、だぁ? 確かに民衆は阿呆揃いだ。そんな宣伝をすれば世界中で暴動が起きる。そしてそれは全てあのアバンシアとかいう奴の名だけが先走った結果だ。魔女派と名乗ればそいつらが起こした行動は全て肯定されると信じきってな」
「…それで、いいんですよ…」
「なんだと!?」
「世界中での暴動、勝手に名乗り増えていく魔女派、大いに結構です。…それでガルバディア政府が崩壊するならば、もう我々は手を下さずに済みます」
「!!……てめぇ…」
「先日拘束した魔女を、政府は今日、エスタに移送するそうです。…もう出発したでしょう。現地には、先に潜伏した我々の同士がいます。お誂え向きなことに、両国の
大統領はいない。警備の手薄な今、魔女を拉致する好機だと思ってます」
「魔女を、拉致…?」
「これは失礼。言葉が不適切でした。彼女を“救助”するんです」
「……やめておけ」
「…はい?」
「やめとけってんだ」
「なぜです?」
「仮にも、政府に対して宣戦布告したのは知ってる。だが、魔女を解放させると、やつら自身に魔女を手放させなけりゃ意味ねーんじゃねぇのか?その為にクーデター紛い
のことをやろうってんだ。こっちで無理矢理奪っちまったら、何の為の宣言だったんだ、ありゃ…」
「!!…すいません、仰る通りですね。仲間にもすぐに連絡を入れます。様子を見るように、と」
『ピンポンパンポ~ン♪ ゴーシュ船長、ゴーシュ船長、至急マスタールムにお越し下さい。ゴーシュ船長、マスタールームにお越し下さい』
突然館内放送がゴーシュを呼び出す。はっとして腕時計を見つめる。
「もうこんな時間でしたか。すいません、私は行かなければ…。失礼しますナイト。また後ほどお話しましょう」
ゴーシュが立ち去り、辺りに急に静けさが戻った。
口にすることを忘れてしまっていた半分のサンドウィッチは、興奮してつい手に力が入った為か、もっと不恰好になってしまっていた。
どうしようかとしばらく考えてから、徐に口に放り込んだ。
下のほうから子供たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
集められた子供たち。
今は何も考えずに遊んでいられるが、これから彼らにどんな試練が待ち受けているのだろうか。
ただこうして楽しい時間を過ごせる今が一番幸せなんじゃないだろうか?
将来、この子供たちもSeeDと名乗り、厳しい訓練を受け、辛い任務に就くことになるのだろうか?
一見すれば、明るい笑顔で楽しく遊ぶ子供達が大勢暮らす真新しい学校。
その裏で進行する恐ろしい計画。
一体ここはどうなっているのか、どちらが本当の奴の顔なのか、理解できなかった。
10年という月日は、自分の歩んできた道と思想を既に古いものへと変えてしまっただけなのだろうか…?
ドタバタとでかい足音が近付いてくるのが耳に入った。
「(…こいつは、雷神、か?)」
扉を開く音がして、でかい声が聞こえる。当たりだ。
「あっ!サイファー本当にいたもんよ!」
「うるせぇな、何だ?」
2人は心なしか慌てているように見える。
…そういえば、図書室だかどっかに置き去りにしてきちまったっけか?
大方あの船長にでもここのことを聞いたんだろう。
「大変だもんよ。子供がいなくなっちまったもんよ!」
「…探せばいいだろうが」
「みんな忙しいもんよ。上の連中は難しい会議がまだ終わらないもんよ。手の空いてるSeeDはみんな探しに出かけたもんよ!」
「じゃあ、俺は必要ねぇだろ…」
「冷徹」
「サイファー冷たいもんよ」
「危険!」
「ガーデンの外はモンスターがいっぱいだもんよ。危ないもんよ」
「捜索!」
「おおよ、俺たちも探しに行くもんよ。可愛いラフテルとププルンが俺を待ってるもんよ!」
「…ラフテルがいねぇのか!?」
「そうだもんよ。集合時間になっても来ないもんよ。みんなで中を探したけど見つからないもんよ。きっと外に出たもんよ」
「手助」
「サイファーにも手を貸して欲しいもんよ…」
「……ったく、わかった…行ってやる」
ガーデンの裏手には、体育館と思しき大きな建物と、窓が1つも見当たらない建物が並んでいた。
こちらは何の建物なのか判らない。
その間を校舎から続く渡り廊下が繋がっている。
その先は寮舎か。
生徒達も教官達も、皆ここで生活を共にすることになる。
まだ完全ではないであろうが、それでも敷地を取り囲むバリアシステムの外はモンスターが生息する荒地。
月の涙が発生し、住む人間がいなくなったことで、この大陸は荒廃してしまったのだ。
手の空いている者が…、確かそう聞いたと思ったが、校舎の外で捜索に参加していると見られるSeeDの制服を着た者や候補生の姿は思ったより多い。
本当に外に出てしまったのだろうか…?
「…ちっ、どこ行きやが……!!!(違う!!)」
またきた。あの感覚だ。
ザワザワと頭の奥底のほうで何か騒いでるような、何か言っている様な…
サイファーが足を進めるとその感覚が強まる。
反対方向に足を向けると静かになる。
また反対を向くと強まる。
「…? なんなんだよ、こっちに行かせたくねーみてぇに…(その通りだ)」
頭のザワつく感覚が鬱陶しいと感じるサイファーの足は、次第に海岸に近付く。
ごつごつと隆起した、海岸には似つかわしくない石が乱雑に散らばる岩場を登る。
その向こうには遠くまで続く真っ白な砂浜。
綺麗な弧を描き、海と陸との境界を形作っている。
そこに残された1本の足跡。
「(…ここか)(ん?)」
岩の隙間に、水色の塊を見つける。ラフテルがいつも手にしているぬいぐみだ。
それを拾い上げ、足跡の先の小さな影に向かって走った。
「ププルン!」
追ってきた人物に気付いたラフテルが、その手にあったぬいぐるみに抱きついた。
それを持った人物の腕ごと。
大きく溜息を吐き、なるべく抑えた口調で話しかける。
「…何やってんだ、こんなとこで(…こいつ)」
「…かくれんぼ」
「はぁ!? こんなとこまで逃げて隠れなくても、ガーデンで…」
「わたしが、おになの」
「?」
「さいしょにかくれたのは、パパ。パパをさがしてたママも、いっしょにかくれちゃったの」
「………」
「ママは、おふねにのったの。だからここからさがすの。わたしがおにだから…」
「なんだよ、[#ruby=孤児=みなしご#]じゃなくて捨て…」
思わずサイファーは言葉に詰まった。
なぜか、その言葉をこの小さな少女に掛けるのは躊躇われた。
「?」
「あー、えーと、な、今かくれんぼしてるのは、お前なんだ。ガーデンのみんなが鬼になってお前を探してる(…何を)」
「え、ホント?」
「あぁ、だから、そろそろ帰らねぇか?」
「うん!」
零れてしまいそうな満面の笑みで返事を返すラフテルを見て、思わず肩の荷が降りたような気持ちになって溜息を1つ。
「(…やれやれ)(こいつ、安心してやがる…)」
砂浜についた2本の足跡を辿っていく道すがら、貝を見つけただの虫がいただの、あちこちに気が移るのは幼い子供特有の行動で、しかしそれはサイファーにとっては煩わしい無駄な動きにしか見えない。
何かを発見する度に、サイファーに同意を求めるからだ。
岩場まで来たとき、流石に疲れてしまったのかラフテルの動きが鈍る。
登るように促しても、動物のように唸るだけで動かない。
探しに来ておいて、捨て置くわけにもいかず、サイファーはラフテルに背を向けて屈みこんだ。
途端にラフテルの顔には笑顔が戻り、勢いよくその広い背中に飛びついた。
「掴まってろよ。落ちても助けねぇぞ」
「うん!」
岩場を超え、平地に出てもラフテルは手を離さなかった。
「おい、もういいだろ。自分で歩け」
「………」
何も言わずに首を振る。
しかし、手はしっかりとサイファーのコートを握り締めていた。
「…ちっ」
仕方なく、そのまま歩き出したが歩みの遅い歩調に合わせるよりは早いだろうと、自分に言い聞かせる。
「ナイトのせなかおっきーねー」
「…俺の背中は本来、魔女を守るためのもんだ。特別だからな。ありがたく思え!」
「ありがたくおもう!」
次第に眠りに落ちていくラフテルの手は、コートを掴む力がなくなり、背中を滑るように下がっていく。
舌打ちしながらも、それを下から支え、そのままの格好でガーデンまでたどり着いた。
その姿を見つけた生徒達や探していた者達が駆け寄ってくる。
眠ってしまったラフテルを起こさないようにそっと下ろしてやり、いつまでも礼を言い続ける女性SeeDに背を向けた。
やれやれと思いながらも、急に軽くなった背中に冷たさを感じた。
「ナイト!」
急に呼び止められ、振り返る。
走ってきたのか、息を切らした候補生の1人が側までやってきて息を整えている。
「せ、船長がお呼びです。すぐにマスタールームまで来て下さい。…きょ、今日、移送された品物の件だそうです…」
「…品物…? …移送…!! わかった」