Chapter.29[エスタ~トラビア]
~第29章 part.3~
スコールはベッドに腰を落とした。
僅かな時間眠りについたが、それだけで足りるはずがある訳も無く、膝に両肘を立てて自らの頭を抱え込む。
眠りにつく度に見るあの嫌な夢。
10年前、SeeDの本当の意味を知った。
ガーデンはSeeDを育て、SeeDは魔女を倒す。
ガーデンを作ったのも、自分達SeeDを育てたのも、ママ先生。魔女であるママ先生だ。
魔女を倒す為のSeeDを魔女が育てる…!?
なぜ?
何の為に?
SeeDのリーダーとなったスコールは、揺れていた。
自分の立場が微妙であやふやで矛盾していて…
そして魔女になったリノアが言う。
“スコールが私を殺しに来る。その剣で私の胸を貫く…”
10年前のあの時から、心に決めたことはたった1つだったはずなのに、リノアを、魔女となった彼女を騎士として守ることを誓ったのに。
なぜ今更昔の自分が出てくるのだ?
リノアを守ろうとする自分と、魔女を殺そうとする自分。
葛藤している自分が歯痒くて、無性にイラついた。
ドアをノックする音で我に返る。
「スコール様」
「ウェンディ、どうした?」
「申し訳ありません。お話、聞いてしまいました…」
「………」
「これを…」
小さな箱をスコールに差し出すと、柔らかい笑みと共に話した。
「その昔、父がオダイン博士から買ったものだそうです。私には必要の無いものですし、古いものですからお役に立てるかどうかわかりませんが、どうかお持ち下さい」
そっと箱を開く。
すっかりくすんでしまった名も分からない宝石と共に月の石がはめ込まれたアクセサリーだ。
「“オダインブランド”か!」
「父が、いつか何かの役に立つ、と大切にしまっていたものです。きっとこの時の為だったのでしょう」
「…リノアに、渡しても…?」
「勿論でございます! …!!」
息子から母への感謝を表すように、スコールはウェンディを抱きしめた。
「ありがとう…」
「ス、スコール様!!」
「出掛ける」
「はい、お気をつけて…」
クローゼットから黒いジャケットを取り出し、翻すように羽織ると、武器の収められた立派なケースを抱えて部屋を出たスコールは、ランスたちの休んでいる部屋へ向かった。
寝室のベッドで眠っているのは子供たち2人だけ。
ランスは客間のソファーで片足を抱くようにして俯いて眠っている。
その姿に、かつての自分の姿を重ねてしまう。
足音を立てずにそっと近付き、囁くように声をかける。
警戒しているとはいえ、まだまだ新米SeeD。
それに、今日のミッションの疲労がそうそう取れるはずもなく、スコールが声をかけるまで起きることは無かった。
突然かけられた声に驚いて目を覚まし、思わず大きな声を上げてしまいそうになった己の口を自身で塞ぐ。
「…ナイト」
「俺はこれからトラビアに向かう。お前はガキ共をちゃんと送り届けろ」
「(トラビア…)わ、わかりました」
「なるべく、人目を避ける行動をするんだ。俺も含め、お前達3人もすでに調査が始まっているはず。
…ガーデンにもな。もし追い詰められたら、白いSeeDの船を捜せ。おそらくセントラ付近にいるだろう」
「…セントラ!?」
「船長に、ハリー・アバンシアの名を出すんだ。必ず力になってくれる。わかったな」
「…はい、リノアさんに、会うんですね」
「そうだ。お前達も気をつけろ」
「わかってます」
また音も無く部屋を出たスコールは、その足で屋敷の裏手にあるヘリポートへ向かった。
すでに発進態勢は整っているようだった。
「燃料は?」
「小型ですから、5時間持てばいいほうかと。風向きにもよりますよ。後部座席に予備として1時間分積んであります」
「十分だ。ポートの明かりを消せ!大統領が戻ったと勘違いされるぞ」
作業員の男が無線で叫び、スコールがヘリに乗り込むと同時に辺りは暗闇に包まれた。
プロペラの風を切る音が響き、やがて辺りに強い風が巻き起こる。
レバーを握り、計器類のチェックをしつつスイッチを入れていく。
ゆっくりとペダルを踏み込み、機体を持ち上げていく。
小さなペンライトでOKの合図を出す作業員を確認し、その場を離れた。
高度を増していくにつれ、眼下には素晴らしい夜景が広がる。
エスタの町並みは、他の国と違い建造物の材質は透明度の高いものが使用される。
夜、室内の明かりが点灯されると、窓から漏れるのではない、建物全体が淡く光っているような、建物そものが照明のように見えるのだ。
リノアは、この夜景が好きだった。
生まれ育ったデリングシティでも、長い時間を過ごしたティンバーでも見ることのできない幻想的な夜景。
そこから、彼女がいる北を目指す。
市街を離れ、やがて眼下には深い森が広がる。
明かり1つ無い夜の飛行では月の光だけが頼りだった。
何も見えない、誰もいない、明かりさえも無い真っ暗な空。
ただプロペラとエンジンの轟音だけが耳に入ってくる。
いつかも、こんな風に真っ暗な空間で魔女を目指したことがあった。
聞こえてくるのは時計の音と微かなパレードの騒音。
だがあの時は1人じゃなかった。でも今は…
飛び続けてから4時間程経過した頃だろうか、急に出力がガクンと落ちた。
「!?」
平地を見つけ、ゆっくりと機体を下ろす。
「(燃料がなくなったのか…)」
ヘリポートを出発するとき、5時間持てばいいと言われたのを思い出した。
この向かい風の中では距離を稼ぐのは難しい。
しかし、立ち止まっていても仕方が無い。
スコールは予備の燃料を入れ、再び出発した。
「(トラビアまで持ってくれ)」
急に辺りが明るくなった。
雪原に出たのだ。
風向きが変わったのか、先程よりも速度が上がる。
白い雪のお陰で夜でも月明かりを反射する地形がよく見える。
少し緊張感がほぐれたのがわかった。
そして、山の麓の海岸に明かりが見えた。
トラビアに到着したのだ。
しかしこの時点で燃料の残量を示すランプが点灯し始める。
「…くそ、もう少し…」
小さな町の上を旋回し、町の奥に見えるガーデンへと向かう。
プロペラの回転が速度を落とし、機体の高度を保っていられない。
なんとか校庭の真ん中に無理やり降下し、ヘリから飛び降りた。
何事かと、ガーデンの中から大勢出てくる。
真夜中の突然の闖入者を喜ぶ者はいない。
皆警戒し、中には武器を構えている者も見える。
校舎のほうへ駆け寄るが、当然足止めされてしまう。
「止まれ!何者だ!」
「俺の名はスコール・レオンハート。リノアに会いにきた。…俺のことはバラムガーデンにでも聞いてくれ」
「リノア!? …バラムガーデン、だと?」
「そこをどいてくれ、お前達と争っているヒマはない」
「そうはいかない。バラムガーデンと連絡を取る。確認が取れるまではそこでじっとしていてもらおう。」
「くっ……」
数歩後退したスコールは、校庭の横に伸びる渡り廊下の上の階の窓が1つ空いていることに気が付いた。
そこから走り出し、渡り廊下の屋根目掛けて飛び上がる。
「おい、待て!」
「追え―っ!」
ガーデンの生徒達が一気に追いかけてくる。
屋根の上に飛び乗ったスコールには、誰も追いつくことはできない。
何人かは校舎の中から追いかけようとしている者もいるようで、そこを上ろうとしている者と、中に入ろうとする者たちとの別れていく。
そんな様子を見ることも無く、スコールは屋根を伝って空いた窓に身を投じた。
耳を劈くような悲鳴が上がる。
女性教官の寮の1室か…
廊下に出て、どちらに行こうかと逡巡している間に、廊下の向こうからこちらに走ってくる追っ手の音が聞こえてきた。
突然、部屋の1つから女性が顔を出した。
「スコールさん、こっち!」
言われるままにその部屋に飛び込む。
入口脇の壁を背にして、追っ手が去るのをじっと待った。
まだ騒いでいる声が聞こえるが、どうやら一難は去ったようだ。
「スコールさん、ホンマに…?」
「…助かった。あんたは?」
「サリーや。リノアに、会いに来たんやろ?」
→part.4
スコールはベッドに腰を落とした。
僅かな時間眠りについたが、それだけで足りるはずがある訳も無く、膝に両肘を立てて自らの頭を抱え込む。
眠りにつく度に見るあの嫌な夢。
10年前、SeeDの本当の意味を知った。
ガーデンはSeeDを育て、SeeDは魔女を倒す。
ガーデンを作ったのも、自分達SeeDを育てたのも、ママ先生。魔女であるママ先生だ。
魔女を倒す為のSeeDを魔女が育てる…!?
なぜ?
何の為に?
SeeDのリーダーとなったスコールは、揺れていた。
自分の立場が微妙であやふやで矛盾していて…
そして魔女になったリノアが言う。
“スコールが私を殺しに来る。その剣で私の胸を貫く…”
10年前のあの時から、心に決めたことはたった1つだったはずなのに、リノアを、魔女となった彼女を騎士として守ることを誓ったのに。
なぜ今更昔の自分が出てくるのだ?
リノアを守ろうとする自分と、魔女を殺そうとする自分。
葛藤している自分が歯痒くて、無性にイラついた。
ドアをノックする音で我に返る。
「スコール様」
「ウェンディ、どうした?」
「申し訳ありません。お話、聞いてしまいました…」
「………」
「これを…」
小さな箱をスコールに差し出すと、柔らかい笑みと共に話した。
「その昔、父がオダイン博士から買ったものだそうです。私には必要の無いものですし、古いものですからお役に立てるかどうかわかりませんが、どうかお持ち下さい」
そっと箱を開く。
すっかりくすんでしまった名も分からない宝石と共に月の石がはめ込まれたアクセサリーだ。
「“オダインブランド”か!」
「父が、いつか何かの役に立つ、と大切にしまっていたものです。きっとこの時の為だったのでしょう」
「…リノアに、渡しても…?」
「勿論でございます! …!!」
息子から母への感謝を表すように、スコールはウェンディを抱きしめた。
「ありがとう…」
「ス、スコール様!!」
「出掛ける」
「はい、お気をつけて…」
クローゼットから黒いジャケットを取り出し、翻すように羽織ると、武器の収められた立派なケースを抱えて部屋を出たスコールは、ランスたちの休んでいる部屋へ向かった。
寝室のベッドで眠っているのは子供たち2人だけ。
ランスは客間のソファーで片足を抱くようにして俯いて眠っている。
その姿に、かつての自分の姿を重ねてしまう。
足音を立てずにそっと近付き、囁くように声をかける。
警戒しているとはいえ、まだまだ新米SeeD。
それに、今日のミッションの疲労がそうそう取れるはずもなく、スコールが声をかけるまで起きることは無かった。
突然かけられた声に驚いて目を覚まし、思わず大きな声を上げてしまいそうになった己の口を自身で塞ぐ。
「…ナイト」
「俺はこれからトラビアに向かう。お前はガキ共をちゃんと送り届けろ」
「(トラビア…)わ、わかりました」
「なるべく、人目を避ける行動をするんだ。俺も含め、お前達3人もすでに調査が始まっているはず。
…ガーデンにもな。もし追い詰められたら、白いSeeDの船を捜せ。おそらくセントラ付近にいるだろう」
「…セントラ!?」
「船長に、ハリー・アバンシアの名を出すんだ。必ず力になってくれる。わかったな」
「…はい、リノアさんに、会うんですね」
「そうだ。お前達も気をつけろ」
「わかってます」
また音も無く部屋を出たスコールは、その足で屋敷の裏手にあるヘリポートへ向かった。
すでに発進態勢は整っているようだった。
「燃料は?」
「小型ですから、5時間持てばいいほうかと。風向きにもよりますよ。後部座席に予備として1時間分積んであります」
「十分だ。ポートの明かりを消せ!大統領が戻ったと勘違いされるぞ」
作業員の男が無線で叫び、スコールがヘリに乗り込むと同時に辺りは暗闇に包まれた。
プロペラの風を切る音が響き、やがて辺りに強い風が巻き起こる。
レバーを握り、計器類のチェックをしつつスイッチを入れていく。
ゆっくりとペダルを踏み込み、機体を持ち上げていく。
小さなペンライトでOKの合図を出す作業員を確認し、その場を離れた。
高度を増していくにつれ、眼下には素晴らしい夜景が広がる。
エスタの町並みは、他の国と違い建造物の材質は透明度の高いものが使用される。
夜、室内の明かりが点灯されると、窓から漏れるのではない、建物全体が淡く光っているような、建物そものが照明のように見えるのだ。
リノアは、この夜景が好きだった。
生まれ育ったデリングシティでも、長い時間を過ごしたティンバーでも見ることのできない幻想的な夜景。
そこから、彼女がいる北を目指す。
市街を離れ、やがて眼下には深い森が広がる。
明かり1つ無い夜の飛行では月の光だけが頼りだった。
何も見えない、誰もいない、明かりさえも無い真っ暗な空。
ただプロペラとエンジンの轟音だけが耳に入ってくる。
いつかも、こんな風に真っ暗な空間で魔女を目指したことがあった。
聞こえてくるのは時計の音と微かなパレードの騒音。
だがあの時は1人じゃなかった。でも今は…
飛び続けてから4時間程経過した頃だろうか、急に出力がガクンと落ちた。
「!?」
平地を見つけ、ゆっくりと機体を下ろす。
「(燃料がなくなったのか…)」
ヘリポートを出発するとき、5時間持てばいいと言われたのを思い出した。
この向かい風の中では距離を稼ぐのは難しい。
しかし、立ち止まっていても仕方が無い。
スコールは予備の燃料を入れ、再び出発した。
「(トラビアまで持ってくれ)」
急に辺りが明るくなった。
雪原に出たのだ。
風向きが変わったのか、先程よりも速度が上がる。
白い雪のお陰で夜でも月明かりを反射する地形がよく見える。
少し緊張感がほぐれたのがわかった。
そして、山の麓の海岸に明かりが見えた。
トラビアに到着したのだ。
しかしこの時点で燃料の残量を示すランプが点灯し始める。
「…くそ、もう少し…」
小さな町の上を旋回し、町の奥に見えるガーデンへと向かう。
プロペラの回転が速度を落とし、機体の高度を保っていられない。
なんとか校庭の真ん中に無理やり降下し、ヘリから飛び降りた。
何事かと、ガーデンの中から大勢出てくる。
真夜中の突然の闖入者を喜ぶ者はいない。
皆警戒し、中には武器を構えている者も見える。
校舎のほうへ駆け寄るが、当然足止めされてしまう。
「止まれ!何者だ!」
「俺の名はスコール・レオンハート。リノアに会いにきた。…俺のことはバラムガーデンにでも聞いてくれ」
「リノア!? …バラムガーデン、だと?」
「そこをどいてくれ、お前達と争っているヒマはない」
「そうはいかない。バラムガーデンと連絡を取る。確認が取れるまではそこでじっとしていてもらおう。」
「くっ……」
数歩後退したスコールは、校庭の横に伸びる渡り廊下の上の階の窓が1つ空いていることに気が付いた。
そこから走り出し、渡り廊下の屋根目掛けて飛び上がる。
「おい、待て!」
「追え―っ!」
ガーデンの生徒達が一気に追いかけてくる。
屋根の上に飛び乗ったスコールには、誰も追いつくことはできない。
何人かは校舎の中から追いかけようとしている者もいるようで、そこを上ろうとしている者と、中に入ろうとする者たちとの別れていく。
そんな様子を見ることも無く、スコールは屋根を伝って空いた窓に身を投じた。
耳を劈くような悲鳴が上がる。
女性教官の寮の1室か…
廊下に出て、どちらに行こうかと逡巡している間に、廊下の向こうからこちらに走ってくる追っ手の音が聞こえてきた。
突然、部屋の1つから女性が顔を出した。
「スコールさん、こっち!」
言われるままにその部屋に飛び込む。
入口脇の壁を背にして、追っ手が去るのをじっと待った。
まだ騒いでいる声が聞こえるが、どうやら一難は去ったようだ。
「スコールさん、ホンマに…?」
「…助かった。あんたは?」
「サリーや。リノアに、会いに来たんやろ?」
→part.4