Chapter.03[ティンバー]
第3章
どこからともなく銃声が響いてくる。
人々の悲痛な叫びと罵倒する大声、断末魔の声、たくさんの足音、崩れる建物と焼けた匂い。
ここは間違いなく戦場だった。
かつての平和なティンバーの姿はなく、ガルバディア軍とレジスタンスとの激しい戦いが行われている毎日。
住人達はほとんどが隣の小さな田舎町に移り住み、今となってはそちらの町のほうが大きくなっている。
元のティンバーはもはや、その名を留めるだけの戦場と化してしまっていた。
魔女戦争が終結してから10年。
しかし、ここティンバーは今だガルバディアの支配から逃れられずにいる。何十年もの長きに渡って…
レジスタンスの動きは本格化し、その数も急速に増えていた。
「こりゃ酷いな」
「ええ、思っていたよりもずっと」
「や、やっぱり僕、帰ろうかな…」
3人の若者が町はずれから様子を伺っていた。
バラムガーデンから派遣された新人SeeD達だ。
かつての海洋横断鉄道は閉鎖され、海上バスを利用し何とかこの町へ辿り着いた所だった。
「こんな状況じゃ迎えは期待できないな」
「そうね。なんとか『森のふくろう』のリーダーと接触する方法を考えましょう」
「ど、どうするんだよ…?」
3人が思案していると、1人の男が必死に走っている姿が見えた。追われているようだ。
相手はガルバディア兵士が3人。男はすぐに捕らえられ、銃口を頭に押し付けられた。
「まずいぞ!」
「早く助けるのよ!」
「え―――っ!?」
3人は飛び出し、ガルバディア兵士に飛び掛った。
「た、助かった…。すまない、ありがとう」
逃げていく兵士の後姿を見て男は3人に礼を言った。
「あんたたち、どこのチームの者だ?見たことないな」
「あ、俺たちは……この町の人間じゃないんだ。…その、俺たちもレジスタンスに加わろうと、バラムから」
「バラム!?わざわざ平和な町からこんなとこに来たのか!? …物好きだな」
「森のふくろうの噂はバラムでも有名だからな」
「社会勉強だよ」
「…ふ~ん、まぁいいや。『森のふくろう』ってリーダー的チームんとこに紹介してやるよ。ついてこいよ。 『姫 』様にももしかしたら会えるかもしれないぜ」
「…『姫』!?」
「なんだ、知らないのか?森のふくろうの噂は聞いてるんだろ?だったら姫のことも聞いてないのかよ?」
「………」
「まぁ、いいや。『騎士 』に会えばあんたたちの正体はバレるんだ。こいよ」
「……『騎士??』」
「わ、訳が分からん」
3人はとりあえず入った手掛かりに縋るように男に付いていく事にした。
せまい路地を抜けると、通りの向こうにパブが見えた。
兵士達の目を盗むように通りを渡り、店の裏へ回り込んだ。
仕掛け扉を開き、また細い道を抜けたその先には、たくさんの人々が手に武器を持ちこちらを睨み付けた。
「おい、なんだてめえら!」
1人の大男が近付いてきた。
「…希望者か。フン、そんな細腕で何ができるってんだ?大方この間のスパイの後釜かなんかだろ?」
「無視していいぜ。さ、こっちだ」
1人で喚く様に大きな声を張り上げ続けている男の声を後ろに聞きながら、更に奥へと進んでいく。
「なんか、すごいね」
「ええ、そうね。大変な仕事引き受けちゃったかも…」
「しっ!余計なことは言うな」
先頭を行く男が立ち止まった。
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
「じゃあ、ここから先は自分達だけで行ってくれ」
狭い入口は厚いカーテンが掛けられていた。
3人は生唾を飲み込んでその向こう側の気配を探る。
1人がカーテンの端からそっと頭だけを潜り込ませると、そのまま動けなくなった。
「ちょっと、何やってんのよ。早く入ってよ。」
「ど、どうしたんだ?」
「…いや、それが…・・・」
自分の首に冷たい剣の鋭い刃が当てられている。
息をすることさえままならないこの状況に頭の中はパニックになっていた。
「何者だ?」
頭のすぐ側で声がした。落ち着いた大人の声だ。
「あ、あの、リーダーに会いたくて…」
「リーダーには会えない。帰れ」
「そ、そういうわけには行かない。森のふくろうのリーダーに依頼を受けたんだ」
「どんな?」
「そ、それは言えない。リーダーに直接会いたい。…それとも、あんたがリーダー?」
すっと剣が喉元から離れた。
緊張が一気にほぐれ、その場に崩れ落ちた。
「バラムガーデンのSeeDか。遅かったな。しかもこんな若僧の新人とは…」
男は溜息と共に呟いた。
「!!!どうしてそれを!?」
「もしかして、…ナイト…さん、ですか?」
「あ、さっきの人が言ってたあの?」
「…好きに呼べばいい。俺の名はスコール。傭兵だ」
「スコール…。あ、あの、リーダーは?」
「リーダーには会えない。そう言った筈だ。俺が取り次ぐ。話せ」
「いや、リーダーじゃなきゃ駄目だ。会わせてくれ」
「……ふっ」
小さな溜息と共にスコールは目を閉じた。
「…?」
「依頼されてお前達が派遣されたのではない。依頼を受けたのは、こちらだ」
「????」
「どういう意味?」
「今回のミッションの命令を下したのは、キスティス・トゥリープだろ?」
「…!!そ、そうだが、何で…?」
「疑問詞が多すぎるぞ。お前が今回のリーダーだろう」
「………」
突然3人のうちの1人が何かを思い出したように叫んだ。
「スコール・レオンハート!!思い出した!!」
「俺を知っているのか」
「し、失礼しました!バラムガーデンSeeDメリー・レイです。光栄です!スコール先輩!」
「えっ、まさかスコールってあの!? …失礼しました!同じくSeeDのジョシュ・ティールです。じ、自分は武器は苦手ですが、スペルクラスA級であります。
ほ、本当にお会いできて嬉しいです!」
メリーとジョシュは敬礼しながら笑顔で答えた。
「………」
「どうした?」
「…自分は、まだ信じられません」
「お、おいランス、何言ってるんだよ!ちゃんと挨拶しとけよ」
「そうよ!戦争のヒーローじゃない!あの魔女戦争の!」
「…それはつまり、学園長と戦ったってことだろ!」
「・・・・・・・・・」
部屋の更に奥から女性がフラフラと覚束ない足取りで出てきた。
傍らに子犬を連れている。
「…どうしたの?スコール」
今起きたばかりなのか、目を眠そうにこすっている。
「起きて大丈夫なのか?」
「う…ん、あんまり…」
揺れている肩をそっと抱きながら、スコールは優しくソファーに座らせた。
「この人たちは?」
「ガーデンのSeeDだ。」
「あぁ、キスティスに頼まれたやつ? へぇ~、今年の新人くんたちか。
私が森のふくろうのリーダー、リノアよ。よろしくね。 じゃあ早速命令ね。『彼に従うこと』!以上!
ゴメン、スコール、私やっぱり…」
「大丈夫だ。俺はここにいる。ゆっくり休め」
リノアはスコールに寄りかかったまま眠ってしまったようだ。
「…この人が『姫』!?」
「森のふくろうのリーダー、なのか…」
「命令は聞こえたな。クライアントの命令は絶対だ。わかっているな」
「失礼しました。自分はランス・エリオット。バラムガーデンのSeeD。今回のチームのリーダーです。改めて宜しくお願いしますナイト!」
「あの、キスティス教官からどんな依頼を…?」
スコールはリノアをソファーに寝かせると、3人の前に立った。
「SeeDはなぜと問うなかれ。そう聞かなかったのか?」
「し、失礼しました。」
スコールは3人に現在の状況とこれからの計画を話した。
「今回のお前達の仕事は“ガルバディアの密偵を探し出す”ことだ。
あまり疑いたくはないが、このレジスタンスの中に潜り込んでいるという情報が密かに入った。
我々の計画が意味のないものになってしまうのを防ぎたい。
本来ならば俺が自ら動かなければならないんだろうが、…彼女を1人にすることも他の人間に触れさせることもできない。
この部屋もバリアの魔法はかけてあるが完全ではないし、…もう1つの目的もあったのでな」
「…もう1つ?」
「いや、それは今は忘れてくれ。まずは与えられた任務をこなしてくれ。方法は任せる。できるだけ早いうちにやってくれ」
「生死は…?」
「…方法は任せる、と言ったはずだが…?」
「「「了解!」」」
3人はスコールに敬礼すると、部屋を後にした。
「あなたたちが今回の新入隊希望者ね?こっちに来て」
突然現れた女性に腕を掴まれたランスは慌ててその手を振り払った。
「何だ、あんた?」
「あ、ゴメン。いきなりで驚かせちゃったみたいね。警戒しなくていいわ。新しく入った人の名前を記入してもらうだけよ。それから。首領 に挨拶」
しぶしぶその女性について、3人は別の家に入り込んだ。
「座って待ってて。今首領を呼んでくるわ」
3人は顔を見合わせた。
「ど、どうするんだ?ランス」
「大丈夫なの?」
「今は身分を隠したほうがいい。俺たちがSeeDだとわかるとまずい。」
「な、なんで?」
「バカね。もしガルバディアに正体が分かったらその矛先がガーデンに向いちゃうじゃない!」
「しっ!…来たようだぞ」
階段を降りてきたのは大柄な中年の女性。
「待たせたね。私が森のキツネの首領だよ。面倒だけど、こいつに名前と一応の連絡先を書いとくれ。
メンバーが増えてきたし、あんたらみたいにこの町の人間じゃなくても作戦に参加してくれる人がいるから助かるんだけど、確認取るのが大変でね。
…それに、あんたたち未成年だろ?もしもの時、家族に連絡入れるのは私たちなんだよ」
紙とペンをテーブルに置き、小さな掛け声と共に腰を下ろした首領は溜息と共に呟いた。
「…それにしても、リノアちゃんは本当によくやってくれてるよ。いい人を見つけたもんね。
初めてナイトが来たのはあんたたちと同じ、SeeDになって初めての任務だったのさ」
「…俺たちのことを…!!」
「もちろんだよ。毎年のことだからね。…早いね~。あれから10年も経つんだね~。…で、今回はどんな命令を受けたんだい?」
「・・・・・・・・・」
「アハハハハハ!信じられないって顔してるね。毎年ここにくるSeeD新人くんたちに下りた命令。それに協力してやるのが私の仕事なのさ。
どうしても信じられないってんなら、2階に通信機があるからそれでガーデンに連絡を入れな」
「…そうさせて下さい」
首領の言葉通り、2階の部屋の一角に場違いな装置が置かれていた。
『あら、あなた達。…と言うことは、無事首領に会えたのね。よくできました。
首領は良き理解者よ。協力を惜しまない方ね。スコールからどんな命令が下りたのかは聞かないけど、首領と協力して命令を遂行しなさい』
「教官長、あの…」
『何?』
「今回の依頼主は教官長なんですか?」
『…話を聞いたのね。…いいえ、ティンバーのレジスタンス組織からの依頼よ。それを受けてあなたたちに命令を下しました。
だからクライアントの元へ行かせたのよ。わかるわね?』
「…はい、了解しました」
『じゃ、頑張ってらっしゃい』
「失礼します」
スイッチを切ったランスは2人に向き直った。
そして改めて自分達が受けた命令をこなすことを決めたのだった。
「そういう噂は聞いたことがあるよ。」
首領に全てを話し、協力を仰ぐことにした。
「何年か前のことだったけど、こちらの行動が全て筒抜けになって危うく全滅するところだったなんてことがあったんだよ。
その頃だよ。姫…リノアが表に出ることがほとんど無くなってね。…まぁ、こんな話はいいね。しなくても。
それより、これを渡しておくよ。」
首領は無造作に束ねられた紙をランスに手渡した。
「これは?」
「あんた達が来る前までに参加した人たちの名簿のコピーさ。それから、絶対に信用できるレジスタンスの名簿がこっち」
「すまない」
「これからどうするかは、あんた達次第だ。もし何か困ったことがあったらいつでもおいで」
受け取った名簿を眺めたランスは、まず信用できるというレジスタンスに会ってみることにした。
もしかしたら彼らとも協力できるかもしれないと考えたのだ。
「…2人も、この名簿を頭に叩き込め。これをいつまでも手元に置いておくのは危険だ。早めに処分する。」
「利用されるとまずいものね」
「そ、そうだな」
小さなパブは、名簿に記載された名前が一番多く集まる場所だった。
カウンターで声を掛けてきた男はジョニーと名乗り、最近のレジスタンス達の行動を少しだけ教えてくれた。
突然店の裏口から別の男が慌てて駆け込んできた。男はジョニーに何やら耳打ちすると、それまで温和だったジョニーの顔は見る見る険しくなっていく。
「ど、どうしたんだ?」
「査察が入る。お前達早くここを出ろ。軍のレジスタンス狩りだ!」
「!!」
追い出されるように裏口から外に出され、呆然としていると店の中が急に騒がしくなったのが聞こえてきた。
ガルバディアの兵士達が大勢押し寄せてきたようだ。
何事か揉めているが、自分達にはどうすることもできなかった。店の裏口には鍵が掛けられ、他の扉も窓も硬く閉ざされてしまっている。
「とりあえず、アジトに戻らない?スコー……ナイトに報告しなくちゃ」
「そうだな」
アジトの中は最初に入ったときよりももっと大勢の人間で溢れていた。
皆、何らかの任務についているのだろう。
僅かな食事の配給に並ぶ人数を見て、3人は益々疲労の色を濃くした。
「初任務がこんなにきついとは…」
「そ、そうだよな。ヘタすれば命を落とすかも…」
「何言ってるのよ!ほら、報告にいくよ!」
スコールたちの部屋に入ろうとすると、中から小さな子犬が顔を出して可愛い声で一声鳴いた。
「入れ」
中から声が聞こえた。3人は恐る恐るカーテンを潜ると、テーブルの上に湯気の立つ食事が用意されていた。
誰もいない部屋の真ん中で、ランスが声を掛ける。
「失礼します、ナイト。今日の報告を…」
「後でいい。それよりも食事を取れ」
部屋の更に奥から声が聞こえた。
1日中歩き回って疲れていた3人は、食事を取り終えスコールを待つことにしたが、ソファーに腰掛けたままいつしか眠りに落ちていた。
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どこからともなく銃声が響いてくる。
人々の悲痛な叫びと罵倒する大声、断末魔の声、たくさんの足音、崩れる建物と焼けた匂い。
ここは間違いなく戦場だった。
かつての平和なティンバーの姿はなく、ガルバディア軍とレジスタンスとの激しい戦いが行われている毎日。
住人達はほとんどが隣の小さな田舎町に移り住み、今となってはそちらの町のほうが大きくなっている。
元のティンバーはもはや、その名を留めるだけの戦場と化してしまっていた。
魔女戦争が終結してから10年。
しかし、ここティンバーは今だガルバディアの支配から逃れられずにいる。何十年もの長きに渡って…
レジスタンスの動きは本格化し、その数も急速に増えていた。
「こりゃ酷いな」
「ええ、思っていたよりもずっと」
「や、やっぱり僕、帰ろうかな…」
3人の若者が町はずれから様子を伺っていた。
バラムガーデンから派遣された新人SeeD達だ。
かつての海洋横断鉄道は閉鎖され、海上バスを利用し何とかこの町へ辿り着いた所だった。
「こんな状況じゃ迎えは期待できないな」
「そうね。なんとか『森のふくろう』のリーダーと接触する方法を考えましょう」
「ど、どうするんだよ…?」
3人が思案していると、1人の男が必死に走っている姿が見えた。追われているようだ。
相手はガルバディア兵士が3人。男はすぐに捕らえられ、銃口を頭に押し付けられた。
「まずいぞ!」
「早く助けるのよ!」
「え―――っ!?」
3人は飛び出し、ガルバディア兵士に飛び掛った。
「た、助かった…。すまない、ありがとう」
逃げていく兵士の後姿を見て男は3人に礼を言った。
「あんたたち、どこのチームの者だ?見たことないな」
「あ、俺たちは……この町の人間じゃないんだ。…その、俺たちもレジスタンスに加わろうと、バラムから」
「バラム!?わざわざ平和な町からこんなとこに来たのか!? …物好きだな」
「森のふくろうの噂はバラムでも有名だからな」
「社会勉強だよ」
「…ふ~ん、まぁいいや。『森のふくろう』ってリーダー的チームんとこに紹介してやるよ。ついてこいよ。 『
「…『姫』!?」
「なんだ、知らないのか?森のふくろうの噂は聞いてるんだろ?だったら姫のことも聞いてないのかよ?」
「………」
「まぁ、いいや。『
「……『騎士??』」
「わ、訳が分からん」
3人はとりあえず入った手掛かりに縋るように男に付いていく事にした。
せまい路地を抜けると、通りの向こうにパブが見えた。
兵士達の目を盗むように通りを渡り、店の裏へ回り込んだ。
仕掛け扉を開き、また細い道を抜けたその先には、たくさんの人々が手に武器を持ちこちらを睨み付けた。
「おい、なんだてめえら!」
1人の大男が近付いてきた。
「…希望者か。フン、そんな細腕で何ができるってんだ?大方この間のスパイの後釜かなんかだろ?」
「無視していいぜ。さ、こっちだ」
1人で喚く様に大きな声を張り上げ続けている男の声を後ろに聞きながら、更に奥へと進んでいく。
「なんか、すごいね」
「ええ、そうね。大変な仕事引き受けちゃったかも…」
「しっ!余計なことは言うな」
先頭を行く男が立ち止まった。
「何か言ったか?」
「いや、なんでもない」
「じゃあ、ここから先は自分達だけで行ってくれ」
狭い入口は厚いカーテンが掛けられていた。
3人は生唾を飲み込んでその向こう側の気配を探る。
1人がカーテンの端からそっと頭だけを潜り込ませると、そのまま動けなくなった。
「ちょっと、何やってんのよ。早く入ってよ。」
「ど、どうしたんだ?」
「…いや、それが…・・・」
自分の首に冷たい剣の鋭い刃が当てられている。
息をすることさえままならないこの状況に頭の中はパニックになっていた。
「何者だ?」
頭のすぐ側で声がした。落ち着いた大人の声だ。
「あ、あの、リーダーに会いたくて…」
「リーダーには会えない。帰れ」
「そ、そういうわけには行かない。森のふくろうのリーダーに依頼を受けたんだ」
「どんな?」
「そ、それは言えない。リーダーに直接会いたい。…それとも、あんたがリーダー?」
すっと剣が喉元から離れた。
緊張が一気にほぐれ、その場に崩れ落ちた。
「バラムガーデンのSeeDか。遅かったな。しかもこんな若僧の新人とは…」
男は溜息と共に呟いた。
「!!!どうしてそれを!?」
「もしかして、…ナイト…さん、ですか?」
「あ、さっきの人が言ってたあの?」
「…好きに呼べばいい。俺の名はスコール。傭兵だ」
「スコール…。あ、あの、リーダーは?」
「リーダーには会えない。そう言った筈だ。俺が取り次ぐ。話せ」
「いや、リーダーじゃなきゃ駄目だ。会わせてくれ」
「……ふっ」
小さな溜息と共にスコールは目を閉じた。
「…?」
「依頼されてお前達が派遣されたのではない。依頼を受けたのは、こちらだ」
「????」
「どういう意味?」
「今回のミッションの命令を下したのは、キスティス・トゥリープだろ?」
「…!!そ、そうだが、何で…?」
「疑問詞が多すぎるぞ。お前が今回のリーダーだろう」
「………」
突然3人のうちの1人が何かを思い出したように叫んだ。
「スコール・レオンハート!!思い出した!!」
「俺を知っているのか」
「し、失礼しました!バラムガーデンSeeDメリー・レイです。光栄です!スコール先輩!」
「えっ、まさかスコールってあの!? …失礼しました!同じくSeeDのジョシュ・ティールです。じ、自分は武器は苦手ですが、スペルクラスA級であります。
ほ、本当にお会いできて嬉しいです!」
メリーとジョシュは敬礼しながら笑顔で答えた。
「………」
「どうした?」
「…自分は、まだ信じられません」
「お、おいランス、何言ってるんだよ!ちゃんと挨拶しとけよ」
「そうよ!戦争のヒーローじゃない!あの魔女戦争の!」
「…それはつまり、学園長と戦ったってことだろ!」
「・・・・・・・・・」
部屋の更に奥から女性がフラフラと覚束ない足取りで出てきた。
傍らに子犬を連れている。
「…どうしたの?スコール」
今起きたばかりなのか、目を眠そうにこすっている。
「起きて大丈夫なのか?」
「う…ん、あんまり…」
揺れている肩をそっと抱きながら、スコールは優しくソファーに座らせた。
「この人たちは?」
「ガーデンのSeeDだ。」
「あぁ、キスティスに頼まれたやつ? へぇ~、今年の新人くんたちか。
私が森のふくろうのリーダー、リノアよ。よろしくね。 じゃあ早速命令ね。『彼に従うこと』!以上!
ゴメン、スコール、私やっぱり…」
「大丈夫だ。俺はここにいる。ゆっくり休め」
リノアはスコールに寄りかかったまま眠ってしまったようだ。
「…この人が『姫』!?」
「森のふくろうのリーダー、なのか…」
「命令は聞こえたな。クライアントの命令は絶対だ。わかっているな」
「失礼しました。自分はランス・エリオット。バラムガーデンのSeeD。今回のチームのリーダーです。改めて宜しくお願いしますナイト!」
「あの、キスティス教官からどんな依頼を…?」
スコールはリノアをソファーに寝かせると、3人の前に立った。
「SeeDはなぜと問うなかれ。そう聞かなかったのか?」
「し、失礼しました。」
スコールは3人に現在の状況とこれからの計画を話した。
「今回のお前達の仕事は“ガルバディアの密偵を探し出す”ことだ。
あまり疑いたくはないが、このレジスタンスの中に潜り込んでいるという情報が密かに入った。
我々の計画が意味のないものになってしまうのを防ぎたい。
本来ならば俺が自ら動かなければならないんだろうが、…彼女を1人にすることも他の人間に触れさせることもできない。
この部屋もバリアの魔法はかけてあるが完全ではないし、…もう1つの目的もあったのでな」
「…もう1つ?」
「いや、それは今は忘れてくれ。まずは与えられた任務をこなしてくれ。方法は任せる。できるだけ早いうちにやってくれ」
「生死は…?」
「…方法は任せる、と言ったはずだが…?」
「「「了解!」」」
3人はスコールに敬礼すると、部屋を後にした。
「あなたたちが今回の新入隊希望者ね?こっちに来て」
突然現れた女性に腕を掴まれたランスは慌ててその手を振り払った。
「何だ、あんた?」
「あ、ゴメン。いきなりで驚かせちゃったみたいね。警戒しなくていいわ。新しく入った人の名前を記入してもらうだけよ。それから。
しぶしぶその女性について、3人は別の家に入り込んだ。
「座って待ってて。今首領を呼んでくるわ」
3人は顔を見合わせた。
「ど、どうするんだ?ランス」
「大丈夫なの?」
「今は身分を隠したほうがいい。俺たちがSeeDだとわかるとまずい。」
「な、なんで?」
「バカね。もしガルバディアに正体が分かったらその矛先がガーデンに向いちゃうじゃない!」
「しっ!…来たようだぞ」
階段を降りてきたのは大柄な中年の女性。
「待たせたね。私が森のキツネの首領だよ。面倒だけど、こいつに名前と一応の連絡先を書いとくれ。
メンバーが増えてきたし、あんたらみたいにこの町の人間じゃなくても作戦に参加してくれる人がいるから助かるんだけど、確認取るのが大変でね。
…それに、あんたたち未成年だろ?もしもの時、家族に連絡入れるのは私たちなんだよ」
紙とペンをテーブルに置き、小さな掛け声と共に腰を下ろした首領は溜息と共に呟いた。
「…それにしても、リノアちゃんは本当によくやってくれてるよ。いい人を見つけたもんね。
初めてナイトが来たのはあんたたちと同じ、SeeDになって初めての任務だったのさ」
「…俺たちのことを…!!」
「もちろんだよ。毎年のことだからね。…早いね~。あれから10年も経つんだね~。…で、今回はどんな命令を受けたんだい?」
「・・・・・・・・・」
「アハハハハハ!信じられないって顔してるね。毎年ここにくるSeeD新人くんたちに下りた命令。それに協力してやるのが私の仕事なのさ。
どうしても信じられないってんなら、2階に通信機があるからそれでガーデンに連絡を入れな」
「…そうさせて下さい」
首領の言葉通り、2階の部屋の一角に場違いな装置が置かれていた。
『あら、あなた達。…と言うことは、無事首領に会えたのね。よくできました。
首領は良き理解者よ。協力を惜しまない方ね。スコールからどんな命令が下りたのかは聞かないけど、首領と協力して命令を遂行しなさい』
「教官長、あの…」
『何?』
「今回の依頼主は教官長なんですか?」
『…話を聞いたのね。…いいえ、ティンバーのレジスタンス組織からの依頼よ。それを受けてあなたたちに命令を下しました。
だからクライアントの元へ行かせたのよ。わかるわね?』
「…はい、了解しました」
『じゃ、頑張ってらっしゃい』
「失礼します」
スイッチを切ったランスは2人に向き直った。
そして改めて自分達が受けた命令をこなすことを決めたのだった。
「そういう噂は聞いたことがあるよ。」
首領に全てを話し、協力を仰ぐことにした。
「何年か前のことだったけど、こちらの行動が全て筒抜けになって危うく全滅するところだったなんてことがあったんだよ。
その頃だよ。姫…リノアが表に出ることがほとんど無くなってね。…まぁ、こんな話はいいね。しなくても。
それより、これを渡しておくよ。」
首領は無造作に束ねられた紙をランスに手渡した。
「これは?」
「あんた達が来る前までに参加した人たちの名簿のコピーさ。それから、絶対に信用できるレジスタンスの名簿がこっち」
「すまない」
「これからどうするかは、あんた達次第だ。もし何か困ったことがあったらいつでもおいで」
受け取った名簿を眺めたランスは、まず信用できるというレジスタンスに会ってみることにした。
もしかしたら彼らとも協力できるかもしれないと考えたのだ。
「…2人も、この名簿を頭に叩き込め。これをいつまでも手元に置いておくのは危険だ。早めに処分する。」
「利用されるとまずいものね」
「そ、そうだな」
小さなパブは、名簿に記載された名前が一番多く集まる場所だった。
カウンターで声を掛けてきた男はジョニーと名乗り、最近のレジスタンス達の行動を少しだけ教えてくれた。
突然店の裏口から別の男が慌てて駆け込んできた。男はジョニーに何やら耳打ちすると、それまで温和だったジョニーの顔は見る見る険しくなっていく。
「ど、どうしたんだ?」
「査察が入る。お前達早くここを出ろ。軍のレジスタンス狩りだ!」
「!!」
追い出されるように裏口から外に出され、呆然としていると店の中が急に騒がしくなったのが聞こえてきた。
ガルバディアの兵士達が大勢押し寄せてきたようだ。
何事か揉めているが、自分達にはどうすることもできなかった。店の裏口には鍵が掛けられ、他の扉も窓も硬く閉ざされてしまっている。
「とりあえず、アジトに戻らない?スコー……ナイトに報告しなくちゃ」
「そうだな」
アジトの中は最初に入ったときよりももっと大勢の人間で溢れていた。
皆、何らかの任務についているのだろう。
僅かな食事の配給に並ぶ人数を見て、3人は益々疲労の色を濃くした。
「初任務がこんなにきついとは…」
「そ、そうだよな。ヘタすれば命を落とすかも…」
「何言ってるのよ!ほら、報告にいくよ!」
スコールたちの部屋に入ろうとすると、中から小さな子犬が顔を出して可愛い声で一声鳴いた。
「入れ」
中から声が聞こえた。3人は恐る恐るカーテンを潜ると、テーブルの上に湯気の立つ食事が用意されていた。
誰もいない部屋の真ん中で、ランスが声を掛ける。
「失礼します、ナイト。今日の報告を…」
「後でいい。それよりも食事を取れ」
部屋の更に奥から声が聞こえた。
1日中歩き回って疲れていた3人は、食事を取り終えスコールを待つことにしたが、ソファーに腰掛けたままいつしか眠りに落ちていた。
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