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Chapter.27[エスタ]

第27章part2


10年前、初めてこの地にやってきた。
初めてこの人物にも出会った。
おかしな人だと思った。
奇抜な服装、おかしな口癖、子供のような我侭な性格。
それでいて、世界的にも知られた魔女研究の第一人者。
とある魔女の協力を得て、魔女だけが持つ魔法についての研究で、人間にも魔法によく似た擬似魔法と呼ばれる技術をマニュアル化することに成功している。
G.F.を発見した人物でもあり、魔法の力を抑えるアイテムの開発にも成功している。
見た目では、とてもそんな凄い人物だとは到底思えない。
初めて出会った10年前、あの時は動かないリノアをスコールが背負ってひたすら歩いてここまでたどり着いた。そんなリノアに興味津々だったこの博士。
「(…もしあの時、リノアに意識があったら、リノアすんごい嫌そうな顔してたんだろうな~)」
思わず零れてしまう小さな笑い。
あの時から多少老けたようだが、それでも相変わらず奇抜な服装の、小柄な男がおじゃおじゃ言いながら登場した。
ようやくここに到着し、面会を求めた2人にこの館長は当然会おうとはしてくれず、面会は難しいと思われた。
しかし、リノアの名を出した途端、突然許されたのだった。

「お久しぶりです、館長」
「誰でおじゃる? 知らないでおじゃる。本当に魔女リノアの知り合いでおじゃるか?」
「忘れちゃったの~? 10年前、リノアをここに連れて来たじゃない。あの時に会ったでしょ?」
「知らないものは知らないでおじゃる! それに、魔女リノアは今頃研究所に送られてるはずでおじゃる」
アーヴァインとセルフィは、館長と3人だけで話したいと申し出た。
フロントのロビーにいた3人は、館長室に案内された。
案内してきた女性に、電話も訪問者も全て断るように念を押した館長は、自室に鍵をかけて振り向くと同時に2人に話しかけた。
「さあ、早く話すでおじゃる」
「オダインはか…、館長、あのね……」
トラビアでのリノアの様子を、自分達が聞いた限りのことを伝える。
しばらくじっと話を聞いていたオダインが突然慌てたように忙しく動き出した。
「(…ぜんまい仕掛けの玩具みたい…)」
「そんなはずは無いでおじゃる! まだ3年しか経っていないでおじゃる。それに魔女リノアは研究所にいるはずでおじゃる。お前達は信じられないでおじゃる!」
「あのね、博士…じゃなくて、館長、研究所に運ばれたのは本物のリノアじゃないの」
「…本物じゃない…? 報告書を読んだでおじゃる。写真も見たでおじゃる。ティンバーの軍支部からの映像も見たでおじゃる。あの状態で魔法を撥ねかえせるのは魔女だけでおじゃる」
「…オダイン館長、スイマセン。あれ、オートリフレクのアイテムをつけたただの人形なんです。ちょっと訳ありで、捕まったのは確かに本物だけど研究所に送られたのはニセ者なの。」
「本当はさ~、スコールと相談したかったんだけど、彼、他人の話聞かないからね~」
「お、スコール知ってるでおじゃる。何度か会ったでおじゃる。」
「!!」
「!!会ってるの!?」
「あいつは嫌いでおじゃる。すぐ怒る気の荒い奴でおじゃる。 …そうか、お前達スコール知ってるでおじゃるか」
「(…あれ?立場逆転してない…?)」
「本当は封印してしまうのが一番安全でおじゃるが、また装置を破壊されるのはこりごりでおじゃる…。なので仕方なくオダインブランドを持たせているでおじゃるが、こんなに早くその効果が無くなるとは考えられないでおじゃる。…それを実際に見てみないことには何とも言えないでおじゃるが…」
「リノアの体、また元に戻るかな?今までみたいに普通に生活できるのかな?」
「そんなのは簡単でおじゃる。別のオダインブランドを使えばいいでおじゃる」
「!!」
「本当!? …で、それって貰える?」

「……ないでおじゃる」

「………はっ?」
「………えっ!?」
しばらくの沈黙の後、もう一度同じ会話が繰り返された。
「無いものは無いのでおじゃる!!」
「なんで~!?」
「魔女マニアが全部買っていってしまったでおじゃる」
「どうして全部売っちゃったのさ~!」
「仕方ないのでおじゃる!これも立派な軍資金でおじゃる!オダインが開発したものをオダインが売ってもバチは当たらないでおじゃる!…それに、魔女リノアに渡したバングルはまだ2~3年持つはずだったでおじゃる。こんなに早く効果が無くなるなんて思っていなかったでおじゃる。オダインのせいでは無いでおじゃる!」
「それ、作ることはできないの?」
「作れることは作れるでおじゃるが、時間も金もかかるでおじゃる。お前達、金持ってるでおじゃるか?」
「う゛っ…」
「お前達、“月の石”を知っているでおじゃるか?」
「月の涙で、モンスターが降ってきた時に一緒に飛んでくる月の破片のこと?」
「それでおじゃる!それを特別な方法で加工するのでおじゃる。」
「作れるんなら、すぐ作ってよ!」
「どれくらいで完成するんです?」
「大きさにもよるでおじゃるよ。リノアに渡したバングルくらいにするなら、1ヶ月くらいでできるでおじゃる」
「1ヶ月~~~!?」
「そんなに待てないよ!今すぐ必要なんだ!」
「月の石を加工するのはとんでもなく繊細な作業なのでおじゃる!この天才のオダインの技術があればこそなのでおじゃる!
それでも待てないと言うのだったら、ここの封印装置に入れればいいでおじゃる」
「…あー、確かにそれが一番かもしれない、けど…」
「…けど、ね~。またスコールに壊されるのがオチだと思うよ…」
「それは困るでおじゃる!また壊されたらとんでもない修理費用がかかるでおじゃる!」

記念館の前で2人の帰りを待っていた運転手の元に、血相を変えた2人が走って戻ってきたのはそれからすぐだった。
「い、急いで駅へ!!」
「今何時!?ティンバー行きの列車に乗りたいんだよ~!」
慌てて車を発進させた運転手が、自分の腕時計と睨みあっている。
エスタのホテルを出発した時間とここに到着した時間から、ここから駅までの時間を換算する。
ティンバーから朝一番で到着した列車は、そのままエスタで折り返す。
エスタを出発するのは日が沈んでから。
ホテルを出発した時点で既に昼を回っているこの状況では、その列車に間に合うように駅に到着するのは難しい。
しかし、この2人に逆らうと自分は一体どうなってしまうのかという不安も湧き上がる。
「目一杯飛ばして!」
切羽詰った表情で睨む彼女と、半ば諦めかけている風に見える男と、そして焦る運転手。
今来た道を逆走して市街に向かってはいるが、例の研究所の事件に休日の混雑。
とても間に合うとは思えなかった。
突然、車を止めるようにセルフィは叫んだ。
「…ど、どうしたのさ、セフィ~?」
おもむろに車を降りて、運転席のドアを開けたセルフィが叫ぶ。
「代わって!」
断るどころか、返事をする間もなく、助手席に追いやられた運転手は震えて縮まってしまっている。
そして襟口を掴まれ、強引に後部座席に引き摺り下ろされ、何事かと動揺している隙に助手席に移動したアーヴァイン。
「レッツゴ~~!!」
なぜか妙に楽しそうに見えたのは、運転手の気のせいだろうか。
その後、地獄のドライヴを味わった運転手は、この仕事を辞める決意をすることになる。




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