Chapter.25[トラビア]
第25章part2
「ご、ごめん、セーブしたつもりだったんだけど…」
駆け寄ってきたサリーに思わず謝ってしまう。
「何言うとんのよ!めっちゃかっこ良かったで!」
子供たちは初めて触れる本物の魔法に、心から驚いた様子だ。
リノアを見る目が急に変わってしまった。
「さあ、みんな集まって!今日はここまでや。今日は、凄くいいお手本を見せてくれたリノア先生にちゃんとお礼の挨拶をして終わりましょう」
「「「ありがとうございました!!」」」
実践室を出て再び扉を閉める。
生徒達は各々の教科書や筆記用具を持って教室を出て行き、サリーも教卓の上を片付け始めた。
「リノア、今日はホンマにありがとな! 子供らもいい刺激になったと思う」
「サリー、あのね、私やっぱり……」
「やっぱり、何? 人前に出たくない? 魔法を使うんが怖い?」
「………」
「あかんあかん!あかん!! そんな弱々ちゃんでどないするんや。彼氏が迎えに来るんやろ?それまでじっと待っとるだけ? そんで一生守られたままで暗く過ごすの? セルフィ達見て羨ましいとか思わんの?」
「そ、それは…」
「あんな、このガーデン、ミサイルで滅茶苦茶にされたやろ?でもな、こうしてみんな頑張ってる。新しい街もできとる。ここの人らはみんな、逞しいんや。
体だけやなく、心がな!」
「たくましい…心」
「うんそうや。せやから、みんな前向きや。悪いこと考えるとホンマに悪くなってしまう。せやろ? …今日みたいな授業は、嫌やったら仕方ないけど、せめて子供らと少し話だけでもするようにしたらええと思うよ。」
「そ、だね。ありがと。なんかさ、前にも同じこと誰かに言われたことある気がする」
「あれ、そうやった?ゴメンな」
「ううん、いいの。きっと、私ってそんな風に見えるからみんな同じこと言ってくれるんだよね。うん、もっと前向きに、だね」
「そうそう、その調子やで!」
「…でも、ゴメンね。私ちょっと疲れちゃったみたい。部屋で休むね」
「一緒に行こか?」
「ううん、大丈夫」
「そっか、授業出てくれてホンマにありがとな!」
寮へと続く渡り廊下の途中で、犬の鳴き声を聞いたような気がした。
辺りをキョロキョロと見回し、窓の外にその姿を確認した。
「サム!ニール!一緒に来てくれてたの!」
廊下の端に設置された非常口を開けて、2匹の犬の名を呼ぶ。
あるかないか分からない小さな尻尾をブンブンと振り回して、2匹はリノアに飛びついた。
昨年無くなったアンジェロの忘れ形見である。
「部屋に入れても大丈夫かな? 2人とも、ソファーや椅子に上がっちゃダメよ。それから、勝手に色んなもの触っちゃダメだからね。いい子にしてて」
雪で濡れた足を拭き取りながら、リノアは2匹に言って聞かせる。
アンジェロもそうだったが、この子たちもとても頭がいい。
そう言っておけば大丈夫だろうと考えた。
「あのね、サム、ニール、私、今日とても気分がいいの。子供たちとも話して、魔法も使ったのよ。それから、もっと前向きにって言われちゃった。」
2匹の犬たちはじっとリノアの話を聞いていた。
「あの時、スコール達と一緒に戦うって、私決めたのに、いつの間にかそれが怖くなっちゃった。スコールが私を守ってくれるから、私、甘えてた。
それが当たり前になっちゃってた。スコールが私を迎えに来てくれたとき、びっくりするぐらい強くなりたいな。 …よーし、頑張っちゃおうかな。応援してくれる?」
2匹は返事のように一声鳴いてから、リノアの顔をペロっと舐めた。
いくら気分がいいと言っても、体力までが回復している訳ではなく、久しぶりに動いたリノアはやはり疲れていたようだった。
体を落としたソファーの上で、いつのまにかそのまま眠ってしまっていたようで、夕方サリーが声を掛けてくれるまで彼女が部屋の中に入ってきたことすら気付かなかった。
「一緒に夕食食べよう、思うてな」
そう言って、既に運んできてくれたらしい2人分の食事がテーブルの上に置かれていた。
本来ならば、こうして部屋で食事を取るなんてことはできないのだが、ここの食堂の担当者が気をつかってくれたらしい。
サリーは先程の生徒達からまたリノアに授業に出て欲しいと言われたことを伝えた。
リノアは嬉しかった。
どんな形だとしても、また自分に会いたいと言ってくれる人がいるということに。
まるで、昔からの友人のように2人の会話は弾み、リノアは本当に楽しいと思っていた。
いつも側にいてくれたのは、スコールだけ。
彼の存在が感じられない時間など、寂しさに負けてしまうのではないかと思っていたリノアには、友人との時間は新鮮だった。
一時だけだとしても、その寂しさを忘れることができている自分に驚いてしまう。
「なぁ、リノアの彼って、どんな人なん?」
心の中を見透かされたような質問に、リノアは焦ってしまう。
「え、えーと…」
照れながらも、リノアはポツリポツリと口に出していく。
「でもね、会ったばかりの頃は酷かったのよ。自分の殻に閉じこもるって言うか、他人に干渉されるのが嫌いで、気持ちを言葉に出すこともしなくて、何を考えているのかわからなくて…」
「アハハハ、リノアとおんなじやん!」
「…私、殻に閉じこもってる…?」
「…前はね。でも今はちゃうよ。ちゃんとこうして話できるもの。 …愛してるんやな~。なんかこう、あったかオーラみたいのが出てるみたいや」
「!!…あ、愛……!?」
リノアは手にナイフとフォークを握り締めたまま顔を真っ赤にして固まってしまった。
湯気でも立ち上りそうな顔を、笑顔で見つめていたサリーは次の瞬間、信じられないものを見てしまった。
リノアが握っているナイフとフォークがぐにゃりと折れ曲がってしまったのだ。
リノアは思わずそれを手放した。
拾い上げようと、屈んで触れたそれは手を近づけただけで熱を感じるほどの熱さになっている。
「あ、あれ…? テ、TVでも見ようか?」
誤魔化すように側にあったTVのコントローラーを持ち上げ、TVに向かってボタンを押した。
途端に、雷にでも打たれたかのように、TVが火花を散らして破裂してしまった。
「!!」
「キャッ!!」
思わず頭を押さえて身を屈める。
「リノア? 何やったん!?」
「…あ、え、私…私が、やったのかな…?」
嫌な予感がする。
鼓動がどんどん早く力強くなってくる。
テーブルに置かれた水の入ったグラスを手に取り、その水を飲もうとした。
しかし、そのグラスもリノアが触れた途端、パキパキと微かな音を立てて凍りついた。
手の力を抜くと、グラスはゴトリと音を立てて床を転がった。
「…私……」
短い呼吸を繰り返し、大きな目をさらに大きく見開いて、わなわなと震える自分の手のひらをゆっくりと自分自身のほうへ翳す。
「リノア、落ち着くんや!大丈夫や!興奮したらアカン!!」
「サリー、どうしよう、私から、離れて…! 魔女の、魔女の力が漏れてる…! このままじゃ、私、私自身を抑えられない…」
「リノア、落ち着いて待っとって!なんとかバラムガーデンに連絡するから! 興奮したらアカンで!!」
慌ててサリーは部屋を飛び出した。
「(…スコール!!)」
→
「ご、ごめん、セーブしたつもりだったんだけど…」
駆け寄ってきたサリーに思わず謝ってしまう。
「何言うとんのよ!めっちゃかっこ良かったで!」
子供たちは初めて触れる本物の魔法に、心から驚いた様子だ。
リノアを見る目が急に変わってしまった。
「さあ、みんな集まって!今日はここまでや。今日は、凄くいいお手本を見せてくれたリノア先生にちゃんとお礼の挨拶をして終わりましょう」
「「「ありがとうございました!!」」」
実践室を出て再び扉を閉める。
生徒達は各々の教科書や筆記用具を持って教室を出て行き、サリーも教卓の上を片付け始めた。
「リノア、今日はホンマにありがとな! 子供らもいい刺激になったと思う」
「サリー、あのね、私やっぱり……」
「やっぱり、何? 人前に出たくない? 魔法を使うんが怖い?」
「………」
「あかんあかん!あかん!! そんな弱々ちゃんでどないするんや。彼氏が迎えに来るんやろ?それまでじっと待っとるだけ? そんで一生守られたままで暗く過ごすの? セルフィ達見て羨ましいとか思わんの?」
「そ、それは…」
「あんな、このガーデン、ミサイルで滅茶苦茶にされたやろ?でもな、こうしてみんな頑張ってる。新しい街もできとる。ここの人らはみんな、逞しいんや。
体だけやなく、心がな!」
「たくましい…心」
「うんそうや。せやから、みんな前向きや。悪いこと考えるとホンマに悪くなってしまう。せやろ? …今日みたいな授業は、嫌やったら仕方ないけど、せめて子供らと少し話だけでもするようにしたらええと思うよ。」
「そ、だね。ありがと。なんかさ、前にも同じこと誰かに言われたことある気がする」
「あれ、そうやった?ゴメンな」
「ううん、いいの。きっと、私ってそんな風に見えるからみんな同じこと言ってくれるんだよね。うん、もっと前向きに、だね」
「そうそう、その調子やで!」
「…でも、ゴメンね。私ちょっと疲れちゃったみたい。部屋で休むね」
「一緒に行こか?」
「ううん、大丈夫」
「そっか、授業出てくれてホンマにありがとな!」
寮へと続く渡り廊下の途中で、犬の鳴き声を聞いたような気がした。
辺りをキョロキョロと見回し、窓の外にその姿を確認した。
「サム!ニール!一緒に来てくれてたの!」
廊下の端に設置された非常口を開けて、2匹の犬の名を呼ぶ。
あるかないか分からない小さな尻尾をブンブンと振り回して、2匹はリノアに飛びついた。
昨年無くなったアンジェロの忘れ形見である。
「部屋に入れても大丈夫かな? 2人とも、ソファーや椅子に上がっちゃダメよ。それから、勝手に色んなもの触っちゃダメだからね。いい子にしてて」
雪で濡れた足を拭き取りながら、リノアは2匹に言って聞かせる。
アンジェロもそうだったが、この子たちもとても頭がいい。
そう言っておけば大丈夫だろうと考えた。
「あのね、サム、ニール、私、今日とても気分がいいの。子供たちとも話して、魔法も使ったのよ。それから、もっと前向きにって言われちゃった。」
2匹の犬たちはじっとリノアの話を聞いていた。
「あの時、スコール達と一緒に戦うって、私決めたのに、いつの間にかそれが怖くなっちゃった。スコールが私を守ってくれるから、私、甘えてた。
それが当たり前になっちゃってた。スコールが私を迎えに来てくれたとき、びっくりするぐらい強くなりたいな。 …よーし、頑張っちゃおうかな。応援してくれる?」
2匹は返事のように一声鳴いてから、リノアの顔をペロっと舐めた。
いくら気分がいいと言っても、体力までが回復している訳ではなく、久しぶりに動いたリノアはやはり疲れていたようだった。
体を落としたソファーの上で、いつのまにかそのまま眠ってしまっていたようで、夕方サリーが声を掛けてくれるまで彼女が部屋の中に入ってきたことすら気付かなかった。
「一緒に夕食食べよう、思うてな」
そう言って、既に運んできてくれたらしい2人分の食事がテーブルの上に置かれていた。
本来ならば、こうして部屋で食事を取るなんてことはできないのだが、ここの食堂の担当者が気をつかってくれたらしい。
サリーは先程の生徒達からまたリノアに授業に出て欲しいと言われたことを伝えた。
リノアは嬉しかった。
どんな形だとしても、また自分に会いたいと言ってくれる人がいるということに。
まるで、昔からの友人のように2人の会話は弾み、リノアは本当に楽しいと思っていた。
いつも側にいてくれたのは、スコールだけ。
彼の存在が感じられない時間など、寂しさに負けてしまうのではないかと思っていたリノアには、友人との時間は新鮮だった。
一時だけだとしても、その寂しさを忘れることができている自分に驚いてしまう。
「なぁ、リノアの彼って、どんな人なん?」
心の中を見透かされたような質問に、リノアは焦ってしまう。
「え、えーと…」
照れながらも、リノアはポツリポツリと口に出していく。
「でもね、会ったばかりの頃は酷かったのよ。自分の殻に閉じこもるって言うか、他人に干渉されるのが嫌いで、気持ちを言葉に出すこともしなくて、何を考えているのかわからなくて…」
「アハハハ、リノアとおんなじやん!」
「…私、殻に閉じこもってる…?」
「…前はね。でも今はちゃうよ。ちゃんとこうして話できるもの。 …愛してるんやな~。なんかこう、あったかオーラみたいのが出てるみたいや」
「!!…あ、愛……!?」
リノアは手にナイフとフォークを握り締めたまま顔を真っ赤にして固まってしまった。
湯気でも立ち上りそうな顔を、笑顔で見つめていたサリーは次の瞬間、信じられないものを見てしまった。
リノアが握っているナイフとフォークがぐにゃりと折れ曲がってしまったのだ。
リノアは思わずそれを手放した。
拾い上げようと、屈んで触れたそれは手を近づけただけで熱を感じるほどの熱さになっている。
「あ、あれ…? テ、TVでも見ようか?」
誤魔化すように側にあったTVのコントローラーを持ち上げ、TVに向かってボタンを押した。
途端に、雷にでも打たれたかのように、TVが火花を散らして破裂してしまった。
「!!」
「キャッ!!」
思わず頭を押さえて身を屈める。
「リノア? 何やったん!?」
「…あ、え、私…私が、やったのかな…?」
嫌な予感がする。
鼓動がどんどん早く力強くなってくる。
テーブルに置かれた水の入ったグラスを手に取り、その水を飲もうとした。
しかし、そのグラスもリノアが触れた途端、パキパキと微かな音を立てて凍りついた。
手の力を抜くと、グラスはゴトリと音を立てて床を転がった。
「…私……」
短い呼吸を繰り返し、大きな目をさらに大きく見開いて、わなわなと震える自分の手のひらをゆっくりと自分自身のほうへ翳す。
「リノア、落ち着くんや!大丈夫や!興奮したらアカン!!」
「サリー、どうしよう、私から、離れて…! 魔女の、魔女の力が漏れてる…! このままじゃ、私、私自身を抑えられない…」
「リノア、落ち着いて待っとって!なんとかバラムガーデンに連絡するから! 興奮したらアカンで!!」
慌ててサリーは部屋を飛び出した。
「(…スコール!!)」
→