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Chapter.24[エスタ]

第24章part4


いかにも、この扉の向こうには大切なものがある、という雰囲気が丸分かりの兵士の動向は、スコールとランスには有難かった。
進んでいく道が正解であることを示しているからだ。
扉に記された“第3研究所”の文字。…ここだ!
男から奪ったIDはすでにロックされたのか、それともレベルがあるものなのか、すでに役には立たなかった。

今倒した兵士はそんなものは所持していなかった。
彼らは突然ここに配置されただけのようだ。
どんな強固な扉も壁も、この2人の前には意味は無かった。
ドロリと赤く溶けて歪んだ、もう扉とは呼べないただの鉄くずを飛び越え、2人は研究室の中に入る。
扉を溶かしたときに生じた蒸気がゆっくりとその姿を空中に消してゆくと、室内に数名の人間がいることに気付く。
当然のように警護の兵士が飛び掛ってくるが、話にはならない。
一太刀で捻じ伏せるスコールの気迫が、すぐ隣に立っているランスにまで伝わってくるようだ。
目の前に立つ人間に目を向ける。
隣に立つスコールも同じ人物に視線を向けていることだろう。
…あの恐ろしい目をして…
ガルバディア軍の上官の制服を着た人物が向かってきた。軍のお偉いさんだろうに、面子を守ろうとしたのか、ただのヤケクソか…
顔面に小さな火の玉を飛ばす。
『ファイア!』
一瞬怯んだその将校は、自分の面子を保つことも出来ずに敢え無く斬り捨てられた。
「お、お前達が し、し、侵入…!!!」
すっかり腰が引けてしまっている白衣の男は、この施設の所長だったか…?
喉元にピタリと当てられたガンブレードの冷たさに身動きできない。
スコールの、あの恐ろしい目だけが彼の脳裏に焼き付けられる。
「…失せろ」
微かな一言で剣を引く。
白衣の男は腰が抜けたのか、四つん這いになって逃げ出した。

突然、2人の間を引き裂くように大きなモンスターが突進してきた。
横に飛んでかわしたつもりだった。
服の端を掠りとっていったそのモンスターにはでかい角。
「…マジっスか…」
研究用に捕獲されたものなのだろう。
ここエスタ近郊ではよく見かける種類のようだが、こんな狭い室内で出会うとその大きさに息を呑む。
そいつは、見事に狙いをランス1人に絞ったようだ。
「…ったく、こんな奴相手にしてる暇無いんだよ!」

たった1人、身動き1つせずに立つ男がいた。
目を閉じ、ただじっと何かを待っているようにさえ見える。
ガルバディアガーデンの教官でありながら、政府の命とはいえこれほどの軍を動かし、国を背負う公務を任される。
かつての魔女戦争で、軍の指揮を執ったというカーウェイ。
命の危機だというのに、この落ち着きは一体何なのか?
…何か策でもあるというのだろうか?
「…わかってやっているのか?」
「………」
「答えろ!!」
「…本当に…」
「…?」
「君がここにやってきた。」
「なんだと?」
「本当に、君は彼女を大切に想ってくれているのだな。…君がついていてくれるのならば安心だ。この施設が破壊されれば、私もこの娘も喜ぶ。…私の役目も終わる」
「どういう、意味だ?」
「自分の目で確かめるといい」

「カーウェイ教官! カーウェイ教官!!」
「…!?」
「自分は…バラムガーデンの…このっ! …ランスといいます! …くっ…今すぐ…ここを…ったく! …脱出します!」
必死にモンスターの相手をしながらカーウェイに伝える。
「私は、君たちと一緒には行けない」
「!!」
なんとか止めを刺したランスが、息も切れ切れにカーウェイのもとへ走り寄る。
「間もなく、自分達の仲間が仕掛けた爆弾が爆発します。そうすればここも危ない」
「爆発…!ここが…?」
ピクリとも動かないリノアの前で、スコールが復唱する。
「だったら、尚更だ。…さぁ、君たち、早くここを出るんだ!」
「しかし教官!!」
「私にはまだやらなければならないことが残っている。…大丈夫だ。彼女と一緒に死ぬつもりは無い。
 …もしかして、君の今回受けた命令はトゥリープ教官からの指令かな?」
「…おわかりなら、尚のこと。一緒に来てもらいます」
突然、大きな重い地響きのような音がして、足元がグラリと揺れた。
非常灯が点滅を繰り返している。
天井からは細かい埃やひび割れた欠片が降って来る。
「!!!」
「…あいつら、マジで全部吹っ飛ばすつもりかよ…」
振動は尚も続く。
上からの衝撃に耐えられなくなったのか、壁に亀裂が走る。
埃はその量を増して、辺りが霞んで見えるほどだ。
落ちてくる欠片も大きなものになってくる。
遠くから聞こえる爆発音が次第に近づいてきているようだ。

ランスの目の前にいる2人は動かない。
スコールの頭上の天井がグラリと動いた。
カプセルを見つめ続けるスコールは気付いていないのか…
「あぶない!!」
咄嗟にスコールに飛び掛って体当たりする。
それと同時に派手に崩れる天井。
そしてその衝撃でカプセルが破壊される。
「リノア!!」
尚も崩れ続ける天井からは無数の瓦礫が落ちてくる。
ランスはそこへ向かおうとするスコールを必死で抑えた。
「ナイト!あれはニセ物です…」
「…?」
「本物のリノアさんは無事です」
「なんだと…!?」
「ここは危険だ。早く脱出しましょう。…カーウェイ教官も!」
振り向いたランスは青ざめた。
座り込んだカーウェイの片足の上には鉄骨が剥き出しになった大きな瓦礫が彼の足を貫いている。
苦痛の表情に玉のような汗。
痛みを感じないはずもない。
それでも、ランスに気付くと微かな笑みを返した。
「…き、君たちは早く逃げるんだ! …この奥に、地上に通じる非常用のハッチがある。そこを使え…」
「教官!!」
「私はもう動けない。 …言ったはずだ。死ぬつもりはない。 …スコール君、動けるな?早くこの若者を連れて脱出したまえ」
「………」
「詳しい状況を、君は知らなすぎたんだ。彼女を想うあまり、君は周りのことが見えなくなってしまっている。“恋は盲目”とはよく言ったものだ…くっ」
「…あなたも、これがニセ物だと知って…?」
「この計画は、元々カーウェイ教官のアイデアです。自分達はそれに賛同し、彼の依頼で協力しただけです。」
「!!」
「…そういうことだ。さ、早く行くんだ。 …あの子を、頼む」
「………」
スコールは起立し、姿勢を正して敬礼を捧げた。
ランスも一緒に。
2人がそこを出るのを確認すると、カーウェイはおもむろに通信機を取り出した。
「…こちらはカーウェイだ。みな、よく聞いて欲しい。この施設は間もなく爆破される。速やかに退去せよ。中には動けぬものもいると思われる。助けが必要な者には手を貸すように。…間もなくこの建物は破壊される。各自即刻退去せよ」

爆発はもう収まったようだったが、それに伴う建物の崩壊が始まっていた。
天井や壁は崩れ落ち、すでに通れないほどに塞がれてしまったところも多かった。
響き続ける振動音は階上の建物が崩壊していく音なのか…
「くそ、どこだよ!」
「ランス、こっちだ」
通れない道の迂回路に誘導するスコールはなぜか施設内に詳しいような気がする。…なぜだ?
だが今はそんなことを考えている場合ではない。
一刻の猶予も無かった。
折れ曲がった鉄柱の連立する間を抜け、頭上に伸びた梯子に手をかける。
真っ暗な中、すぐ上を進むスコールの梯子を上る硬い音だけが頼りだった。
重い金属が擦れあう音がして、光が漏れた。
丸いマンホールのような蓋を開いて、地上に飛び出す。
凄まじい轟音と突風はラグナロクから発せられているのか…
政府関係者やスタッフが続々と脱出してきていた。
研究所をグルリと取り囲むように立つ塀の陰に身を滑り込ませた。
逃げ惑う人々が歓声や嬌声を上げている。
「…あいつら、無事に出たんだろうな…?」
「あいつら、ってのは、あのガキどもか?」
スコールが指差した木の陰で、建物のほうを見つめている2人の子供の姿があった。
「あいつら!!」
「…まさか、この爆破はあのガキ共の仕業か…!?」
呆れたように、額に手を当てて頭を垂れる。
2人と合流し、すでに原型を留めない研究所を見守る群衆の背後から、すばやく1台の車に乗り込んだ。
街のほうへ向かうと、ガルバディアの公安部、エスタの軍隊、災害車両などの車と何台もすれ違った。




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