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Chapter.24[エスタ]

第24章part3


「おい、どうした、何が起きた!」
すぐに非常電源が作動した為、モニターは復旧したが、室内灯だけは若干出力が弱いのかどこか薄暗い。
スタッフらしき男が慌ててモニター室に駆け込んできた。そこで目にしたのは施設の制服を着て倒れたスタッフとモニターを見つめる3人の人影。
「!!…おい、お前たちそこでっ…!」
すぐに口をふさいで羽交い絞めにする。
瞬く間も与えない内に、ウィッシュが魔法をかける。
『ブライン!』
「!!…!?!?」
突然目の前が暗闇に包まれてしまった男は、自分自身の身に何が起こったのか理解することさえ出来ないだろう。

「…魔女をどこへ運んだ?」
静かにランスが問いかける。
ランスの拘束から逃れようとする男は、その質問に答える気は無いようだ。
しかし、特殊な訓練を受けたSeeDから普通の人間が自由の身になれる筈もなく、次第に男から力が抜けていく。
「もう一度聞く。魔女はどこだ?どこへ運んだ?…答えなければ…!」
男の背中に指を突き立てる。
見る見る青ざめていく表情が、薄暗い光の中でも分かった。
目が見えない分、男の恐怖はさらに増大していることだろう。
「…う、うう…」
観念したのか、ランスが抑える手の中で何やら言葉を発している。
助けを求めるような仕草をすれば、すぐに対応できるようにしながら、ランスは少しだけ手を離した。
「ち、地下の第3研究室…」
それだけ聞き出せれば十分とばかりに、男の動きを止めていた右手を離して首根を打つ。
崩れるように下に落ちていく男の体の胸元あたりに置かれたランスの左手は同じ場所にあった男のIDカードを掴んでいた。
「これで場所はわかった。こいつもあるしな」
「ちくしょー、あん時電源が落ちなかったらどこに行ったか分かったのに!」
「スコールさん、やってくれますね…」

その時、男が携帯していた小型の無線機から呼び出し音が鳴った。
モニターに目を向ける。
機械室を出たスコールは、どんどん施設の奥に進んでいく。
無線機を持ち上げたランスは何かを考えているようだ。
「どうするんです?」
『おい、どうした?何かあったのか?なぜ電源が落ちた?』
「…大変だ!何者かが機械室に侵入したようだ!」
「…!ランス、何やってんだよ・・・!」
『…?誰だ?うちの兵じゃないな?』
「ここの警備員だ。兵を倒して内部に進入している」
『…お前は今どこにいる?』
「ここはモニター室だ。扉を破壊されて出られない!」
『…よし、そこから侵入者の場所を教えるんだ!』
「了解」
無線機のスイッチを切ったランスは微かな笑みを浮かべた。
「スコールの進む先の兵たちをある程度誘導できるかもしれない」
「おお!」
「…とは思えませんが…」
スコールが、進むごとに1台づつカメラを破壊していた。すでにモニターの何台かは映像が届いていない。
「くそ、なんとかコンタクトを取らないとダメだ」


侵入者の存在は、電源を落とした瞬間から知れ渡っているだろう。
しかし、見つかるわけにはいかない。…まだ。
施設内の至る所に設置されている監視用カメラで、自分の動きは全て筒抜けだろう。
電源を落としたからといって、モニターの電源まで落ちるような不甲斐ない設備ではないはずだ。
自分が今走ってきた方向から足音が近づいてきた。
すぐ横にある扉から素早く中に滑り込む。
扉に身を押し当て、耳を澄ませる。
足音は部屋の前を通り過ぎていったようだ。
おもわず安堵の溜息を吐いてしまう。

突然、館内放送のスピーカーが自分の名を呼んだ。
「(!!! バカな! もうバレたのか!? マズイ、館内放送だとしたら、施設全体に自分のことが知れ渡る!!)」
放送はまだ続いているようだが、様子がおかしい。
『やった、聞こえてるみたいですよ』
「(俺の姿が見えている!? …カメラか!)」
すぐにカメラを破壊しようとしたスコールを引き止める。
『待って下さい!カメラ壊さないで下さい!』
「…誰だ!? 俺のことを知っているのか?」
こちらから声を掛けても、それの答えは返ってこない。
『そちらからの声は届かないんです。でも姿は確認しています。…あ、代わりますね。 
 ……覚えていてくれるかわかりませんが、バラムガーデンSeeDランス・エリオットです、ナイト!』
「…ランス? …いつかの新米SeeDか…」
思わず額に手を当てて頭を垂れる。
スコールのクセのひとつだ。
突然足音が響いた。
もうここにはいられない。
自分の姿を見ているというのなら、この部屋の位置もわかっているハズ。
咄嗟にスコールはカメラに向かって指でサインを作る。
すぐにカメラを破壊し、部屋を飛び出した。

「!」
「!?」
「…今、何をしたんです?」
「合流するという合図だ。あちらは俺たちの場所がわからない。だが俺たちには分かる。彼はあそこの部屋の近くで待っているはずだ。」
「すぐに行きましょう!」
モニターは、玄関ホールで何事かとざわついている人々を映していた。
「…お前達はすぐここから出るんだ!」
「なんでだよっ!」
「僕たちにもできることは手伝いたいんです」
「…ダメだ。これ以上は危険すぎる。ホールの人たちと一緒に外に避難するんだ」
「いやだね!…これから、一番面白いところだってのに、参加できないなんてつまんねーじゃん」
「ランスさん、何か始める気なんですね。教えて下さい!」
「…それを聞いたら、お前達は益々帰る気なんて無くなるだろう。絶対に安全な場所へ避難すると言うのなら、話すが…」
「内容によります」
「いいからさっさと言えよ」

ランスの計画を聞いて、2人の少年は飛び出した。
向かった先はスコールが進入した機械室へのコース。
そして発見する。
スコールに倒された兵たちを。
「おっ、あったぜ!これだ!」
「こっちにもあったよ、ホープ兄さん!」
先に進むと同じ様に倒された兵が横たわっており、同じ様に2人は何かを探している。
いつしかそれは、幼い2人の小さな腕に持ちきれないほどの量になった。
「そろそろいいだろ、行こうぜ!」
2人がやってきたのは、先程入ってきたホールへの通用口。
内部であれだけ騒がしくなっているというのに、ここの騒然さは全く違うものだった。
人々は、先程電源が落ちた原因や運び込まれた魔女に関して、中には大統領の様子まで知りたがるものもいるようだ。
「なるべく、人がいないところを狙ってよ、兄さん!」
「わかってるよ! …んじゃ、まずこっち!」
人気の無い狭い壁の隙間を狙ってホープが投げたのは、小型の爆発物。
小型とはいえ、爆発物には違いは無い。
派手な音と思ったよりも威力が大きかったことに2人は他人事のように驚く。
塞いだはずの耳が、高い電子音のような唸りを上げている。
「もう一発!」
動じていないのか、その近くにまた1つ投げつける。
ざわざわとしていただけのホールは、突然のことにパニックになっている。
悲鳴を上げて我先にとばかりに、入口に殺到する。
そしてウィッシュが叫ぶ。
ありったけの大声で。
「テロリストだ―――っ!!! 魔女派のテロだ――――っ!!!」
タイミングを見計らったように、ランスが館内放送を入れる。
『我々は魔女を崇拝する者。敬愛すべき魔女を拘束した愚か者達よ。ここは我々が破壊する。命惜しき者は今すぐここから去れ!我々は魔女を崇拝する者だ!』


突然、地響きのような衝撃が走った。
「(…爆発…?)」
合図を送ってからそう時間は経っていない。
彼らはすぐに行動を起こしたようだ。
間もなく駆けつけたランスに自分の存在を知らせる。
「お久しぶりです、ナイト。またお会いできて光栄です」
敬礼と共に挨拶する。
言葉も敬礼も無く、スコールはただ手のひらを振って見せた。
「…さっきの放送アレは何だ…?」
「理由は後ほど!急ぎましょう。奴らすぐにモニター室に来ます。そしたら自分達の姿も見つかってしまう。彼女は地下の第3研究室です」
先程男から奪ったIDと共にスコールに伝える。
地下へのエレベータを探しながら、2人は先を急いだ。
「おい、どうしてボルドとラグナは来ていない?」
「…? もしかして、何も知らないんですか?」
「…? 何をだ?」
「…それも纏めて後で説明します。今は急ぎましょう」




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