Chapter.24[エスタ]
第24章part2
「随分混んでるな」
思わず零れる一言。
初めてここを訪れた身で、普段がどういう状態なのかを知らなくても、ズラリと並ぶ車の列を見れば誰でもそう思うことだろう。
普段は閑散とした荒野の中の1本道。
見学を希望する車やバス、関係者の毎日の通勤にしか使われない、魔女研究所へと続く道だ。
公共のバスだけは優先されるので、多少窮屈だが時間通りに出発した路線バスを利用して正解だとランスは思った。
レンタカーを借りようと思ったのだが、今朝のニュースで今日の午後にこの魔女研究所に移送されてくることが知らされた。
すでにそこに押し寄せる報道陣や見学希望の人々が殺到し始めていたのだ。
渋滞した車列を横目で見送りながら、優先されるバスだけがそのたくさんの車を追い抜いていく。
その中のひとつに、ランスは渦中の人物を見た気がした。
窓辺のシートに腰掛ける人を押しのけて、窓に顔を押し付けてみるが、フロントガラスに反射した朝日のせいでハッキリと確認できなかった。
迷惑そうなその乗客に一言謝罪し、体勢を戻す。
「…ランスさん、どうしたんですか?」
「…スコールを、見た気がした」
「!?」
「本当に!?」
「一瞬だけだから確かかどうかはわからない。こちら側からだと眩しくて見えなかった。」
「やっぱりそこに向かってるんですね」
「多分、というか間違いなく向かうだろう」
到着したバスを降りた3人を待っていたのは、施設に入るための検問だ。
しかもエスタの兵ではない。ガルバディア軍だ。
魔女研究所、これまで長き世代にわたり何人もの魔女が歴史に名を残してきた。
中にはその力に溺れ、君臨しようとしたもの、魔女であることをひた隠しにひっそりと暮らしてきた者もいただろう。
どんな形にせよ、確実にその力は受け継がれ、現在に至っている。
それはこの世界が創造されたその日から始まっていると伝えられる。
27年前のエスタ大戦。
当時その強大な力を誇っていた魔女アデルによって、エスタは壊滅的な被害をこうむった。
たった1人の男の奇抜な作戦により、封印することに成功したアデルは遥かな地に封印され、その後魔女の力について研究する機関が設立されることになる。
そこは、これまで語り継がれてきた魔女に関する膨大な資料も共に管理・保管されており、その一部は資料館として一般にも公開されている。
魔女の使用する魔法についても同様に研究されている為、地下には更に広大な施設が眠っているのだという。
今日だけは、その一般の見学者たちは入れない。
「なんだ、貴様たちは?」
当然のように足止めされる。
「見学希望です」
「見学!? 貴様、今日ここでなにがあるのか知らんのか!?」
「勿論知ってます。だから来たんです」
「何だと…!?」
ランスはガーデンからの書類を手渡して見せた。
学園長とキスティスのサインが入っている。
「何々……エスタ市街およびその周辺の公共施設の視察研修の為!? …こんな理由で入れるとでも思っているのか?」
「自分は、バラムガーデンSeeD、ランス・エリオットです。自分は任務でここに来ています。
いかなる理由でもSeeDは優先権を所持しております。公共施設への立ち入りも含めて…」
「…SeeD… …… …… !!うっ…お前達にはこれまでさんざん嫌な思い出が……」
「??」
「……ううっ… よ、よし、いいだろう。通れ。…できればもう2度と会いたくはなかったのに…」
過去に何があったのかはランス達にはわからなかったが、思ったよりもすんなり通されたことにほっとした。
「エスタの兵も何人かいるみたいですけど…」
「ガルバディアのやつらばっかだな」
「…そのようだな」
施設の中には、兵士は勿論、入館を許可された報道陣や関係者、警備の者達だろうか、制服やスーツ姿の者達も見掛けられた。
自分達を見て、不思議に思う人間もいただろうがそれどころではない様子だ。
察するに、魔女が到着する時間が近いのだろう。
これだけ大勢の人間がいる中で、人目を盗むのは容易いのか難しいのか…。
こっそりと職員通用口から施設の内部に侵入する。
ここで発見されても道を見失ったという言い訳で十分通るだろう。
こちらには子供が2人いるのだ。
それでも何事も無く、先へ進んでいく。
突然廊下に面した扉の1つが開き、中から職員らしき男が出てきた。
3人の存在に気付き、声を上げそうになる。
すばやく反応したランスがすぐに男の口を押さえて羽交い絞めにした。
首根を打ってそっと床に下ろす。
辺りを警戒しながら2人に声を出さないように合図し、今男が出てきた扉の中に引きずり込んだ。
中にはもう1人待機していた人物がおり、突然の訪問者に声を掛ける。
「おい、そこでなっ……!!」
今度はホープが動いた。
小さい体を生かして男の鳩尾に1発食らわせたのだ。
口から液体を垂らしながらそこで動かなくなってしまった男を払い落とすように出てきたホープに、ランスは親指を立てて見せた。
「やるじゃないか」
「へへん、ディン先生直伝だからな」
そこはモニタールームのようで、部屋の壁一面にずらりと小さなモニターが並べられている。
どれがどこに設置されているのかすぐ判るようにプレートがついており、手元のパネルでそれぞれのモニターを遠隔操作できるようになっていた。
何台かのモニターに映された入口ホールの人々が大移動を始めたことに気付く。
「きっと到着したんですよ! ………あ、ほら!」
ウィッシュが指差したモニターは施設の屋外駐車場だ。
最初からここに着陸する予定だったのだろう、そこだけは規制線が貼られ、誘導するスタッフだけが待機している。
かなり広く取られたそのスペースの端に集まってくる人々。
カメラのフラッシュが小さな瞬きを繰り返している。
「ヘリにしてはやけに広いな…」
やがて、室内にもどこか遠くから唸っているような、重く響くエンジン音が微かに聞こえてきた。
僅かに建物が揺れているような気さえする。
実際、若干の揺れはあったようだが…
モニターには、その全長を写しきれないほどの大きな機体が降下してきたのが映っている。
燃えるような真っ赤な機体と、キラリと光を反射する荷電粒子ビーム砲と多銃身レーザー砲。
大気圏への突入も可能な大型のタービン式噴射装置。
そして古代都市の伝承から引用したという伝説の獣を模したコクピット。
エスタのシンボルマークがつけられた、世界最高水準の飛空挺ラグナロクである。
開いたタラップから降りてきたのは、カーウェイを先頭にした兵士数名と、白衣の男、このラグナロクの操縦士達、そして、白い布が掛けられたストレッチャー。
多くのガルバディア・エスタ両兵の立ち並ぶ道をゆっくりと進んでゆく。
屋外だというのに、カメラのフラッシュで影ができるヒマもないほどだ。
ラグナロクから研究所入口までの僅かな距離の移動のはずが、とんでもなく遠い道のりのように感じる。
入口で出迎えたのは、この施設の所長や研究員、スタッフなどが総勢10数名。
その中央に他の誰よりも大きな腹を抱えたエスタの国民服を纏った小男。
彼の前まで到達したカーウェイは敬礼を捧げる。
「自分は、ガルバディアガーデン軍事部門教官フューリー・カーウェイです。ガルバディア政府を代表し、本日移送の担当指揮の委託を受け、只今到着いたしました」
「ご苦労様です」
「こちらからの突然のお申し出にも関わらず、快諾下さった事に感謝申し上げます。」
「いえいえ、大変でしたな。 …さ、どうぞ中へ」
すでに打ち合わせ済みだったようで、中に入ると同時に兵士や研究員達がてきぱきと動き、素早くストレッチャーを押して施設の内部へと消えた。
「どこに運ぶつもりだ…?」
ストレッチャーが移動していくのをモニターで追いかける様に見つめる。
「ランスさん、これ見て下さい!」
モニターの1つを指差してウィッシュが叫んだ。
そこには、物陰に隠れるようにしているが、確かに誰かいる。
「拡大できないかな?」
「やってみます。 …えーと、Cブロックの…」
カメラが少しずつ寄っていく。
その人物は突然そこを飛び出して、1つのドアの前に立つ。
…探していた人物が、そこにいた。
「スコール!!」
「何やっているんですかね?」
「さあ? あの中に入ろうとしてるのか? …あそこはどこだ?」
「ちょっと待って下さい。このカメラで映してる位置は……え~と。たぶん、この機械室だと思います。」
カメラの中のスコールは、辺りを気にしながらも迅速に自分の武器で扉の鍵を破壊し、中に侵入していく。
「機械室…? ま、まさか…」
突然部屋の明かりは勿論、モニタ全ての電源が落ちた。
辺りは暗闇に包まれ、起動を終えた機械たちが余韻の唸り声を静かに上げている。
→part3
「随分混んでるな」
思わず零れる一言。
初めてここを訪れた身で、普段がどういう状態なのかを知らなくても、ズラリと並ぶ車の列を見れば誰でもそう思うことだろう。
普段は閑散とした荒野の中の1本道。
見学を希望する車やバス、関係者の毎日の通勤にしか使われない、魔女研究所へと続く道だ。
公共のバスだけは優先されるので、多少窮屈だが時間通りに出発した路線バスを利用して正解だとランスは思った。
レンタカーを借りようと思ったのだが、今朝のニュースで今日の午後にこの魔女研究所に移送されてくることが知らされた。
すでにそこに押し寄せる報道陣や見学希望の人々が殺到し始めていたのだ。
渋滞した車列を横目で見送りながら、優先されるバスだけがそのたくさんの車を追い抜いていく。
その中のひとつに、ランスは渦中の人物を見た気がした。
窓辺のシートに腰掛ける人を押しのけて、窓に顔を押し付けてみるが、フロントガラスに反射した朝日のせいでハッキリと確認できなかった。
迷惑そうなその乗客に一言謝罪し、体勢を戻す。
「…ランスさん、どうしたんですか?」
「…スコールを、見た気がした」
「!?」
「本当に!?」
「一瞬だけだから確かかどうかはわからない。こちら側からだと眩しくて見えなかった。」
「やっぱりそこに向かってるんですね」
「多分、というか間違いなく向かうだろう」
到着したバスを降りた3人を待っていたのは、施設に入るための検問だ。
しかもエスタの兵ではない。ガルバディア軍だ。
魔女研究所、これまで長き世代にわたり何人もの魔女が歴史に名を残してきた。
中にはその力に溺れ、君臨しようとしたもの、魔女であることをひた隠しにひっそりと暮らしてきた者もいただろう。
どんな形にせよ、確実にその力は受け継がれ、現在に至っている。
それはこの世界が創造されたその日から始まっていると伝えられる。
27年前のエスタ大戦。
当時その強大な力を誇っていた魔女アデルによって、エスタは壊滅的な被害をこうむった。
たった1人の男の奇抜な作戦により、封印することに成功したアデルは遥かな地に封印され、その後魔女の力について研究する機関が設立されることになる。
そこは、これまで語り継がれてきた魔女に関する膨大な資料も共に管理・保管されており、その一部は資料館として一般にも公開されている。
魔女の使用する魔法についても同様に研究されている為、地下には更に広大な施設が眠っているのだという。
今日だけは、その一般の見学者たちは入れない。
「なんだ、貴様たちは?」
当然のように足止めされる。
「見学希望です」
「見学!? 貴様、今日ここでなにがあるのか知らんのか!?」
「勿論知ってます。だから来たんです」
「何だと…!?」
ランスはガーデンからの書類を手渡して見せた。
学園長とキスティスのサインが入っている。
「何々……エスタ市街およびその周辺の公共施設の視察研修の為!? …こんな理由で入れるとでも思っているのか?」
「自分は、バラムガーデンSeeD、ランス・エリオットです。自分は任務でここに来ています。
いかなる理由でもSeeDは優先権を所持しております。公共施設への立ち入りも含めて…」
「…SeeD… …… …… !!うっ…お前達にはこれまでさんざん嫌な思い出が……」
「??」
「……ううっ… よ、よし、いいだろう。通れ。…できればもう2度と会いたくはなかったのに…」
過去に何があったのかはランス達にはわからなかったが、思ったよりもすんなり通されたことにほっとした。
「エスタの兵も何人かいるみたいですけど…」
「ガルバディアのやつらばっかだな」
「…そのようだな」
施設の中には、兵士は勿論、入館を許可された報道陣や関係者、警備の者達だろうか、制服やスーツ姿の者達も見掛けられた。
自分達を見て、不思議に思う人間もいただろうがそれどころではない様子だ。
察するに、魔女が到着する時間が近いのだろう。
これだけ大勢の人間がいる中で、人目を盗むのは容易いのか難しいのか…。
こっそりと職員通用口から施設の内部に侵入する。
ここで発見されても道を見失ったという言い訳で十分通るだろう。
こちらには子供が2人いるのだ。
それでも何事も無く、先へ進んでいく。
突然廊下に面した扉の1つが開き、中から職員らしき男が出てきた。
3人の存在に気付き、声を上げそうになる。
すばやく反応したランスがすぐに男の口を押さえて羽交い絞めにした。
首根を打ってそっと床に下ろす。
辺りを警戒しながら2人に声を出さないように合図し、今男が出てきた扉の中に引きずり込んだ。
中にはもう1人待機していた人物がおり、突然の訪問者に声を掛ける。
「おい、そこでなっ……!!」
今度はホープが動いた。
小さい体を生かして男の鳩尾に1発食らわせたのだ。
口から液体を垂らしながらそこで動かなくなってしまった男を払い落とすように出てきたホープに、ランスは親指を立てて見せた。
「やるじゃないか」
「へへん、ディン先生直伝だからな」
そこはモニタールームのようで、部屋の壁一面にずらりと小さなモニターが並べられている。
どれがどこに設置されているのかすぐ判るようにプレートがついており、手元のパネルでそれぞれのモニターを遠隔操作できるようになっていた。
何台かのモニターに映された入口ホールの人々が大移動を始めたことに気付く。
「きっと到着したんですよ! ………あ、ほら!」
ウィッシュが指差したモニターは施設の屋外駐車場だ。
最初からここに着陸する予定だったのだろう、そこだけは規制線が貼られ、誘導するスタッフだけが待機している。
かなり広く取られたそのスペースの端に集まってくる人々。
カメラのフラッシュが小さな瞬きを繰り返している。
「ヘリにしてはやけに広いな…」
やがて、室内にもどこか遠くから唸っているような、重く響くエンジン音が微かに聞こえてきた。
僅かに建物が揺れているような気さえする。
実際、若干の揺れはあったようだが…
モニターには、その全長を写しきれないほどの大きな機体が降下してきたのが映っている。
燃えるような真っ赤な機体と、キラリと光を反射する荷電粒子ビーム砲と多銃身レーザー砲。
大気圏への突入も可能な大型のタービン式噴射装置。
そして古代都市の伝承から引用したという伝説の獣を模したコクピット。
エスタのシンボルマークがつけられた、世界最高水準の飛空挺ラグナロクである。
開いたタラップから降りてきたのは、カーウェイを先頭にした兵士数名と、白衣の男、このラグナロクの操縦士達、そして、白い布が掛けられたストレッチャー。
多くのガルバディア・エスタ両兵の立ち並ぶ道をゆっくりと進んでゆく。
屋外だというのに、カメラのフラッシュで影ができるヒマもないほどだ。
ラグナロクから研究所入口までの僅かな距離の移動のはずが、とんでもなく遠い道のりのように感じる。
入口で出迎えたのは、この施設の所長や研究員、スタッフなどが総勢10数名。
その中央に他の誰よりも大きな腹を抱えたエスタの国民服を纏った小男。
彼の前まで到達したカーウェイは敬礼を捧げる。
「自分は、ガルバディアガーデン軍事部門教官フューリー・カーウェイです。ガルバディア政府を代表し、本日移送の担当指揮の委託を受け、只今到着いたしました」
「ご苦労様です」
「こちらからの突然のお申し出にも関わらず、快諾下さった事に感謝申し上げます。」
「いえいえ、大変でしたな。 …さ、どうぞ中へ」
すでに打ち合わせ済みだったようで、中に入ると同時に兵士や研究員達がてきぱきと動き、素早くストレッチャーを押して施設の内部へと消えた。
「どこに運ぶつもりだ…?」
ストレッチャーが移動していくのをモニターで追いかける様に見つめる。
「ランスさん、これ見て下さい!」
モニターの1つを指差してウィッシュが叫んだ。
そこには、物陰に隠れるようにしているが、確かに誰かいる。
「拡大できないかな?」
「やってみます。 …えーと、Cブロックの…」
カメラが少しずつ寄っていく。
その人物は突然そこを飛び出して、1つのドアの前に立つ。
…探していた人物が、そこにいた。
「スコール!!」
「何やっているんですかね?」
「さあ? あの中に入ろうとしてるのか? …あそこはどこだ?」
「ちょっと待って下さい。このカメラで映してる位置は……え~と。たぶん、この機械室だと思います。」
カメラの中のスコールは、辺りを気にしながらも迅速に自分の武器で扉の鍵を破壊し、中に侵入していく。
「機械室…? ま、まさか…」
突然部屋の明かりは勿論、モニタ全ての電源が落ちた。
辺りは暗闇に包まれ、起動を終えた機械たちが余韻の唸り声を静かに上げている。
→part3