Chapter.19[海洋横断鉄道]
第19章
目覚まし時計の音が派手に鳴り響いている。
目をこすりながら洗面台の前に立つ少年はまだ眠そうだ。
テキパキと身支度を整え、候補生用の制服を身に纏う。
隣のベッドでは丸い小山が今だ規則正しく上下に膨縮を繰り返し、その主がまだ夢の中であることを主張していた。
「兄さん、起きて!時間だよ」
そんな一言で起きてくれるなら、ウィッシュは毎朝苦労しないと思った。
「兄さん!」
小山を揺さぶりながら大きな声で起こしに掛かる。
「列車に乗り遅れちゃうよ。今日はエスタに行く日だろ」
その一言で、丸い殻を破るかのような勢いでもう1人少年が飛び起きた。
「そうだった!…やっべ、もうこんな時間じゃねーか!」
「起こしても起きないんだもの」
落ち着いて今日の持ち物を確認するウィッシュとは対照的に、口に歯ブラシを銜えたまま慌しく服を着替えカバンを取り出すホープ。
「えーと、魔法の教科書にレポート用紙と筆記用具、あとは…」
「えーと、まずディン先生から貰った(奪った)竜の皮の手袋に~、タオルにおやつにマンガ本!」
「兄さん、研修なんだよ。遊びに行くんじゃないんだからね」
「わかってるよ!楽しみだな~」
部屋の扉を軽くノックする音が響いた。
「準備できた?出発しましょう」
キスティスが迎えに来たのだ。
部屋を出て挨拶すると、キスティスの他にもう1人、正SeeDの制服に身を包んだ青年が立っていた。
挨拶だけ交わし、駐車場からバラムへ向かう為に車に飛び乗った。
バラムの港から高速水上艇を使ってドールへ。
更にそこから列車でティンバーへ向かい、乗換えをしてやっとエスタ行きの列車に乗ることができるのだ。
水上艇に乗るのは初めてだった2人の少年は大はしゃぎだ。
自動操縦に切り替えた後、キスティスはやっと2人にSeeDを紹介してくれた。
「今回、学園長から君たちの護衛として同行する任務を受けたランス・エリオットだ。よろしく」
「…護衛…?そんなの必要ないよ」
「兄さん!…すいません、宜しくお願いします。ウィッシュ・キニアスです。こっちは兄のホープ」
「よろしく、ホープ」
「はーい」
発車ギリギリでなんとか間に合った列車には、SeeD専用ルームがついている。中も豪華だ。
昨夜の補習が途中で中断されてしまった為、その穴埋めとして自分とメリーにこの任務が与えられた。
警護という名の監視役だ。
しかし、今朝になってから突然機械に多少詳しいメリーは機械部門のニーダ先生に呼び出しを受けてしまい、結局自分だけとなってしまった。
ジョシュは魔法の扱いに長けており、補習でもいい成績であった為に免除されたのだ。
SeeDの専用客室でやっと一休みできる時間が取れ、ソファーに背を押し付けた。
「あの、ランスさん、僕たちなんかと一緒で良かったんですか」
「良いも悪いも選ぶことなんてできないよ。与えられた仕事だ。…それに、俺もエスタには行ってみたかったんだ」
「僕たちが我がまま言ったから…」
「そんなことはないよ…。…それよりも、どうして2人だけでエスタに行こうと思ったんだ?しかも急な申し出だったそうじゃないか」
「…え、っと、それは~…」
「…? ま、言いたくないなら別に聞かないよ。 …それより…」
この列車に乗る前に、付き添いとしてティンバーまで一緒に来てくれたキスティスから預かった荷物を紐解く。
「腹、減ってるだろ」
起床してすぐに出発したせいで、3人はまだ朝食をとっていないのだ。広げた荷物の中身は豪華な弁当だ。
「おお~っ!」
「おっ、旨そう。よし、食おうぜ」
「もしかしてトゥリープ先生の手作りですか?」
「俺も同じ質問したぜ。残念ながら違ったけどな。食堂のおばちゃんの特製だそうだ。」
「俺、そこのパン食うの初めてだ!いっつも売り切れちまって、なかなか買えないんだ!……うわ~、や~わ~ら~け~!!」
さながら冬眠の準備をする小動物のように口の中一杯にパンを頬張りながら、一時任務を忘れ、楽しい食事の時間を味わった。
この年齢の子供たちに、流石に今朝のような早い時間の起床は無理があったのだろう。
朝食用と昼食用と2つあった弁当をペロリと平らげ、幼い2人は設えてあるベッドで寝息を立て始めた。
この子達と近い年齢の頃だろうか、10年前のあの日、初めて出会った“英雄”
今でも記憶に新しい魔女戦争。
忘れることなんて、できはしないだろう。
動き出したガーデンに喜んで校庭を友人達と走り回ったことも、ガルバディアガーデンと接触してガーデンが壊れてしまうのではないかと心配したこと。
そして、ガルバディアの兵達が攻め込んできたときの恐怖。
外から突然窓を突き破って教室内に侵入してきたガルバディア兵に、恐怖で動けない友人達を守ろうと思わず握った箒の武器を見てニヤリと歪めたあの口元。
記憶の中にいつまでも住み着く、嫌な思い出だった。
手にした刃物を振り上げて、笑みを浮かべたままゆっくりと近づいてくる兵には、幼い命を奪うことなど躊躇う素振りすら見せることなく容易くやってのけるような心しかなかったのだろう。
教室の中も外も、激しい戦闘の激音が響いていたはずなのに、ゆっくりと近づく兵士の足音が聞こえるような気がして、動けなかった。
自分自身の鼓動が聞こえるような気すらしていた。
その兵士がとんでもなくでかく見えて、命の危機を幼いながら実感した。
目の前に立つ兵士はヘルメットをしていたはずなのに、自分を見下ろす冷たい笑みを浮かべた目が光って見えたような感覚に陥る。
武器を掲げた腕を振りかぶった瞬間、思わず硬く目を閉じた。
硬い金属音がして、遅れてやってきた風が吹き付けた。
聞こえた音に反応して顔を上げる。
目の前には冷たい鈍色に光る刃物。
根元に掘り込まれた強そうな生物。
リボルバーシリンダのすぐ下に見えるトリガーには黒い手袋をはめた大きな手。
止まった本体の動きの惰性で揺れるシルバーのアクセサリーは掘り込まれた生物と同じチャームがつけられていた。
なぜかスローモーションのように目に焼きついた美しい武器を振り、動けなくなってしまっている自分に声を掛ける。
目の前にいる兵が一斉に飛び掛ってくるのに気付いた。
自分を守ろうと目の前に立ちはだかり、襲い掛かってくる兵たちを次々となぎ倒してゆく。
強襲者が動けなくなると、体を半分だけこちらに向け、そして手を差し出した。
「大丈夫か…?」
あの目、恐ろしい恐怖の体験をした幼い自分には、凄く安心できるものに見えて、気が抜けた。
次々と侵入してくる青い兵隊達は限がないのか。
奴らに向けられる同じはずの目は、夜叉のようにさえ見えた。
自分はこれから、その人物を探す。
その人物に会う。
その時、自分に向けられる目はどっちなんだろう…?
考えれば考えるほど不安が苛んでゆく。
昨夜、この2人がガーデンに戻ってきたことを知らされたのは、やっと解放された補習から戻って部屋で寛いでいた時だった。
再び呼び出されたのは自分とメリー・レイ。
先程の補習の続きかと、少々うんざりした気持ちで2人でドアをノックした。
言い渡された命令は驚きだった。
“2人の少年の監視”
しかも、本人達には“護衛”という名目で知らされているとか…
クライアントは学園長と教官長の2人。
絶対に断ることなんて、できなかった。
共に補習を受けたジョシュは成績優秀とのことでお役御免なんて、これも補習の一環なのか。
翌朝、つまり今日の朝一番の列車に乗ることがすでに決まっていた為、はっきり言って何の準備もできていない。
そして一番厄介なのが…
「今、どの辺ですか?」
目覚めたばかりの顔で、目をこすりながら体を起こしたウィッシュが聞いてきた。
「F.H.を1時間ほど前に出発したところだ。…海の真ん中だよ」
「…見たかったな~。フィッシャーマンズ・ホライズン…」
「いつでも見に来れるようになる」
「そうですよね。…ところで、ホープ兄さんは…?」
「車両に展望室があると教えたら探検に行くって、さっき出てったぞ」
『展望室? 探検!?』そんな嬉しそうに単語を復唱して、そわそわと落ち着かない。
お前も行きたかったら行って来いと告げると、子供らしい笑顔で礼を言って飛び出した。
大人ぶって礼儀正して言葉使いまで無理してても、やはりまだ年少クラスの子供。
この楽しい時間をもっと楽しみたいと思うのは当然だろう。
子供達だけで出かけるのも(自分がいるが…)、こうして列車に乗るのも初めてなのだ。
心が躍る気持ちは自分にも理解できる。
頬杖を付いて、流れてゆく窓の外に目を向ける。
列車は動いているのに、広大な海は動かない。
ずっと同じ場所で波をゆらしている。
…ナイト、いやスコール、あなたは今どこで何をしているんだ?
あなたもこの列車に乗ったのか?
たった1人でどうしようとしてるんだ?
元SeeDなら、せめてガーデンに相談してくれればいいだろうに…
やがて戻ってきた2人は、探検に行った感想を楽しそうに話してくれた。
それはいいとして、聞いておかなければならないことがあった。
「視察ってことになってるが、どこに視察に行くんだ?ちゃんとアポイント取ってあるのか?」
返ってきた答えは曖昧なもの。
今回自分に下った命令のように、こいつらの視察ってのも突然決まったことなのか…?
「…はっきり言え。エスタに行く本当の目的を。…言うつもりがないのなら、ガーデンに連絡して学園長に聞く。
俺のは学園長からの命令だし、俺には決定権がないから辞めるわけにもいかない。護衛というからには、どこに赴くつもりなのかはっきりさせたい」
2人は顔を見合わせて困惑しているようだった。
やがて腹を括ったのか、彼らが見聞きして彼ら自身が感じて考えた結果がこれだったのだと聞かされる。
確かにその内容は自分にとっても驚きだったしショックだった。
確かにそうなる結末が来てもおかしくはない。
だからといって、いきなり何の計画もなしに飛び出すなんて…。
しかも誰にも本当のことを打ち明けもしないで自分たちだけで行動を起こそうとするとは…
親の顔を見て見たいという諺はこういうときに使う物なのだと理解した。
そして、2人にある計画を話した。
→
目覚まし時計の音が派手に鳴り響いている。
目をこすりながら洗面台の前に立つ少年はまだ眠そうだ。
テキパキと身支度を整え、候補生用の制服を身に纏う。
隣のベッドでは丸い小山が今だ規則正しく上下に膨縮を繰り返し、その主がまだ夢の中であることを主張していた。
「兄さん、起きて!時間だよ」
そんな一言で起きてくれるなら、ウィッシュは毎朝苦労しないと思った。
「兄さん!」
小山を揺さぶりながら大きな声で起こしに掛かる。
「列車に乗り遅れちゃうよ。今日はエスタに行く日だろ」
その一言で、丸い殻を破るかのような勢いでもう1人少年が飛び起きた。
「そうだった!…やっべ、もうこんな時間じゃねーか!」
「起こしても起きないんだもの」
落ち着いて今日の持ち物を確認するウィッシュとは対照的に、口に歯ブラシを銜えたまま慌しく服を着替えカバンを取り出すホープ。
「えーと、魔法の教科書にレポート用紙と筆記用具、あとは…」
「えーと、まずディン先生から貰った(奪った)竜の皮の手袋に~、タオルにおやつにマンガ本!」
「兄さん、研修なんだよ。遊びに行くんじゃないんだからね」
「わかってるよ!楽しみだな~」
部屋の扉を軽くノックする音が響いた。
「準備できた?出発しましょう」
キスティスが迎えに来たのだ。
部屋を出て挨拶すると、キスティスの他にもう1人、正SeeDの制服に身を包んだ青年が立っていた。
挨拶だけ交わし、駐車場からバラムへ向かう為に車に飛び乗った。
バラムの港から高速水上艇を使ってドールへ。
更にそこから列車でティンバーへ向かい、乗換えをしてやっとエスタ行きの列車に乗ることができるのだ。
水上艇に乗るのは初めてだった2人の少年は大はしゃぎだ。
自動操縦に切り替えた後、キスティスはやっと2人にSeeDを紹介してくれた。
「今回、学園長から君たちの護衛として同行する任務を受けたランス・エリオットだ。よろしく」
「…護衛…?そんなの必要ないよ」
「兄さん!…すいません、宜しくお願いします。ウィッシュ・キニアスです。こっちは兄のホープ」
「よろしく、ホープ」
「はーい」
発車ギリギリでなんとか間に合った列車には、SeeD専用ルームがついている。中も豪華だ。
昨夜の補習が途中で中断されてしまった為、その穴埋めとして自分とメリーにこの任務が与えられた。
警護という名の監視役だ。
しかし、今朝になってから突然機械に多少詳しいメリーは機械部門のニーダ先生に呼び出しを受けてしまい、結局自分だけとなってしまった。
ジョシュは魔法の扱いに長けており、補習でもいい成績であった為に免除されたのだ。
SeeDの専用客室でやっと一休みできる時間が取れ、ソファーに背を押し付けた。
「あの、ランスさん、僕たちなんかと一緒で良かったんですか」
「良いも悪いも選ぶことなんてできないよ。与えられた仕事だ。…それに、俺もエスタには行ってみたかったんだ」
「僕たちが我がまま言ったから…」
「そんなことはないよ…。…それよりも、どうして2人だけでエスタに行こうと思ったんだ?しかも急な申し出だったそうじゃないか」
「…え、っと、それは~…」
「…? ま、言いたくないなら別に聞かないよ。 …それより…」
この列車に乗る前に、付き添いとしてティンバーまで一緒に来てくれたキスティスから預かった荷物を紐解く。
「腹、減ってるだろ」
起床してすぐに出発したせいで、3人はまだ朝食をとっていないのだ。広げた荷物の中身は豪華な弁当だ。
「おお~っ!」
「おっ、旨そう。よし、食おうぜ」
「もしかしてトゥリープ先生の手作りですか?」
「俺も同じ質問したぜ。残念ながら違ったけどな。食堂のおばちゃんの特製だそうだ。」
「俺、そこのパン食うの初めてだ!いっつも売り切れちまって、なかなか買えないんだ!……うわ~、や~わ~ら~け~!!」
さながら冬眠の準備をする小動物のように口の中一杯にパンを頬張りながら、一時任務を忘れ、楽しい食事の時間を味わった。
この年齢の子供たちに、流石に今朝のような早い時間の起床は無理があったのだろう。
朝食用と昼食用と2つあった弁当をペロリと平らげ、幼い2人は設えてあるベッドで寝息を立て始めた。
この子達と近い年齢の頃だろうか、10年前のあの日、初めて出会った“英雄”
今でも記憶に新しい魔女戦争。
忘れることなんて、できはしないだろう。
動き出したガーデンに喜んで校庭を友人達と走り回ったことも、ガルバディアガーデンと接触してガーデンが壊れてしまうのではないかと心配したこと。
そして、ガルバディアの兵達が攻め込んできたときの恐怖。
外から突然窓を突き破って教室内に侵入してきたガルバディア兵に、恐怖で動けない友人達を守ろうと思わず握った箒の武器を見てニヤリと歪めたあの口元。
記憶の中にいつまでも住み着く、嫌な思い出だった。
手にした刃物を振り上げて、笑みを浮かべたままゆっくりと近づいてくる兵には、幼い命を奪うことなど躊躇う素振りすら見せることなく容易くやってのけるような心しかなかったのだろう。
教室の中も外も、激しい戦闘の激音が響いていたはずなのに、ゆっくりと近づく兵士の足音が聞こえるような気がして、動けなかった。
自分自身の鼓動が聞こえるような気すらしていた。
その兵士がとんでもなくでかく見えて、命の危機を幼いながら実感した。
目の前に立つ兵士はヘルメットをしていたはずなのに、自分を見下ろす冷たい笑みを浮かべた目が光って見えたような感覚に陥る。
武器を掲げた腕を振りかぶった瞬間、思わず硬く目を閉じた。
硬い金属音がして、遅れてやってきた風が吹き付けた。
聞こえた音に反応して顔を上げる。
目の前には冷たい鈍色に光る刃物。
根元に掘り込まれた強そうな生物。
リボルバーシリンダのすぐ下に見えるトリガーには黒い手袋をはめた大きな手。
止まった本体の動きの惰性で揺れるシルバーのアクセサリーは掘り込まれた生物と同じチャームがつけられていた。
なぜかスローモーションのように目に焼きついた美しい武器を振り、動けなくなってしまっている自分に声を掛ける。
目の前にいる兵が一斉に飛び掛ってくるのに気付いた。
自分を守ろうと目の前に立ちはだかり、襲い掛かってくる兵たちを次々となぎ倒してゆく。
強襲者が動けなくなると、体を半分だけこちらに向け、そして手を差し出した。
「大丈夫か…?」
あの目、恐ろしい恐怖の体験をした幼い自分には、凄く安心できるものに見えて、気が抜けた。
次々と侵入してくる青い兵隊達は限がないのか。
奴らに向けられる同じはずの目は、夜叉のようにさえ見えた。
自分はこれから、その人物を探す。
その人物に会う。
その時、自分に向けられる目はどっちなんだろう…?
考えれば考えるほど不安が苛んでゆく。
昨夜、この2人がガーデンに戻ってきたことを知らされたのは、やっと解放された補習から戻って部屋で寛いでいた時だった。
再び呼び出されたのは自分とメリー・レイ。
先程の補習の続きかと、少々うんざりした気持ちで2人でドアをノックした。
言い渡された命令は驚きだった。
“2人の少年の監視”
しかも、本人達には“護衛”という名目で知らされているとか…
クライアントは学園長と教官長の2人。
絶対に断ることなんて、できなかった。
共に補習を受けたジョシュは成績優秀とのことでお役御免なんて、これも補習の一環なのか。
翌朝、つまり今日の朝一番の列車に乗ることがすでに決まっていた為、はっきり言って何の準備もできていない。
そして一番厄介なのが…
「今、どの辺ですか?」
目覚めたばかりの顔で、目をこすりながら体を起こしたウィッシュが聞いてきた。
「F.H.を1時間ほど前に出発したところだ。…海の真ん中だよ」
「…見たかったな~。フィッシャーマンズ・ホライズン…」
「いつでも見に来れるようになる」
「そうですよね。…ところで、ホープ兄さんは…?」
「車両に展望室があると教えたら探検に行くって、さっき出てったぞ」
『展望室? 探検!?』そんな嬉しそうに単語を復唱して、そわそわと落ち着かない。
お前も行きたかったら行って来いと告げると、子供らしい笑顔で礼を言って飛び出した。
大人ぶって礼儀正して言葉使いまで無理してても、やはりまだ年少クラスの子供。
この楽しい時間をもっと楽しみたいと思うのは当然だろう。
子供達だけで出かけるのも(自分がいるが…)、こうして列車に乗るのも初めてなのだ。
心が躍る気持ちは自分にも理解できる。
頬杖を付いて、流れてゆく窓の外に目を向ける。
列車は動いているのに、広大な海は動かない。
ずっと同じ場所で波をゆらしている。
…ナイト、いやスコール、あなたは今どこで何をしているんだ?
あなたもこの列車に乗ったのか?
たった1人でどうしようとしてるんだ?
元SeeDなら、せめてガーデンに相談してくれればいいだろうに…
やがて戻ってきた2人は、探検に行った感想を楽しそうに話してくれた。
それはいいとして、聞いておかなければならないことがあった。
「視察ってことになってるが、どこに視察に行くんだ?ちゃんとアポイント取ってあるのか?」
返ってきた答えは曖昧なもの。
今回自分に下った命令のように、こいつらの視察ってのも突然決まったことなのか…?
「…はっきり言え。エスタに行く本当の目的を。…言うつもりがないのなら、ガーデンに連絡して学園長に聞く。
俺のは学園長からの命令だし、俺には決定権がないから辞めるわけにもいかない。護衛というからには、どこに赴くつもりなのかはっきりさせたい」
2人は顔を見合わせて困惑しているようだった。
やがて腹を括ったのか、彼らが見聞きして彼ら自身が感じて考えた結果がこれだったのだと聞かされる。
確かにその内容は自分にとっても驚きだったしショックだった。
確かにそうなる結末が来てもおかしくはない。
だからといって、いきなり何の計画もなしに飛び出すなんて…。
しかも誰にも本当のことを打ち明けもしないで自分たちだけで行動を起こそうとするとは…
親の顔を見て見たいという諺はこういうときに使う物なのだと理解した。
そして、2人にある計画を話した。
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