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Chapter.57[バラム]

 ~第57章 part.4~


「ああ、見たよ。確かにバラムガーデンと、昔ここにもきたことあるだろ?あん時の赤いガーデンだ」
「…やっぱり、ガルバディアガーデンだ」
「それで?どうなったんだ?バラムガーデンは大丈夫なのか!?」
「落ち着けよ、ゼル。…悪いけど、詳しいことはわからないよ。大分遠くだったし、こっちは巻き込まれたらたまんねえからとっとと逃げてきたんだ」
「…そ、そっか。じゃあ、バラムガーデンがその後どうなったのかは、わからねえのか」
「なんかあったのか?それよりゼル、お前あそこの教官なんだろ?こんなとこにいていいのかよ?」
「…うっ、い、いや、なんでもねえんだ」
「なんでもなくねえだろ?こっちは今んとこそうでもないが、ガルバディアのほうは酷いことになってるみたいじゃないか。
 そんで、その原因がまた魔女なんだろ?またあの時みたいに支配されちまったりするのか?冗談じゃねえぞ」
「そんなことにはならない!」
「!! そ、そうか、わかったよ」
「あ、悪ぃ、…教えてくれて助かったよ、サンキューな」

10年前の魔女戦争で、ここバラムもガルバディアによって一時的とはいえ封鎖されたことがあった。
それは大きな被害にはならなかったのだが、街の住人にとっては未だ記憶に新しい忌まわしい出来事だった。
当時この街に住んでいたゼルと彼の家族も巻き込まれている。
当然、ゼル自身にとってもそれは忘れられないことなのだ。

スコールは再度通信を試みることにした。
すると…
『バラムガーデンです』
「!! 繋がった! スコール・レオンハートです。…マスターですか?」
『スコール?スコールですか!?いやあ、久しぶりですねえ。声が聞けて…』
「ご無沙汰してます。あの、学園長は?」
通信に出てくれたシドの言葉を遮って、イデアの声が聞こえてきた。
こうしてイデアと直接話をするのも随分と久しぶりだった。
ガーデンに通信を入れる時は、普段はオペレーターがいるし、要件をキスティスと話すだけで長話をする必要もなかったからだ。
挨拶もそこそこに、すぐにバラムガーデンの様子を確認する。
シドもイデアも無事だった。通信が繋がったということはガーデンも無事だと思える。
だが、やはり予想していた通り、ガルバディアガーデンが強襲してきたらしい。
今はまだ海上を進んでいるが、これからF.H.に向かうところなのだそうだ。

そして、スコールが一番聞きたかったこと。
「…リノアは、無事なんですか?そこにいますよね?」
『…ごめんなさいスコール。彼女は、ここにはいません』
「いない…? でも、サイファーとシュウ先輩とそれから、新人と一緒にいるところを見たんです。ガーデンの地下の施設に。そこにいるんですよね?」
『…いいえ、ここに戻ってきたシュウから聞きました。彼らはそこから脱出したようだ、と』
「脱出…? ガルバディアガーデンが襲ってきたときですか?」
『ええ、サイファーが兵士を倒している場面を見せられました。あの後姿が見えなくなりました。どこに行ったのかは、ごめんなさい、私にもわからないのです』
「…リノア…」
『スコール、今、誰かと一緒に行動してますか?実はキスティスも任務に出ていて…』
「学園長、キスティスです。私達、今バラムにいます。ここでスコールとゼルと合流しました。私達もガーデンに帰還して報告したいんですが」
『ああキスティ、よかった。みんなでガーデンに戻れますか?スコールともゆっくり話をしたいのです』
「わかりました、ではF.H.に向かいます」
通信機をスコールに返して、キスティスは一緒に来たSeeDたちに事情を説明に向かった。
「スコール…」
やっとリノアの手掛かりを見つけて、ここまでやってきて、なんとかガーデンと連絡が取れた。なのに、そこにリノアはいなかった。
ゼルは、スコールに何と声をかけていいのかわからなかった。
キスティスのやり取りから、どうやら次の目的地はF.H.になりそうだ。
「………」
「スコール、大丈夫だ、またすぐに見つかるさ! あ、あれだ、またエルオーネの力を借りてさ…」
「…いや、ウィンヒルには行かない。俺もF.H.に、バラムガーデンに行く」
「へっ…?」
この言葉にはゼルは少々驚いた。
相変わらずリノア一直線かと思っていたスコールからそんな言葉が出るとは思ってもいなかった。
エルオーネの能力で見たあのヴィジョンは、サイファーの目線だった。
彼がなぜバラムガーデンに姿を現したのか、何か情報を得られるかもしれないと考えたのだ。

「私達はこのままバラムから列車に乗るわ。あなたたちはどうするの?」
「俺達はヘリがある。それでF.H.に行くつもりだ」
「わかったわ、それじゃあ、向うで会いましょ」
「ああ」
「おう」
「さ、みんな、行くわよ」
SeeD達を連れたキスティスを見送って、スコールとゼルもそこから踵を返した。
「ゼル、家に寄らなくていいのか?」
「ん、そうだな、寄りてえ気持ちはやまやまだけど、ついこの前顔出したばっかりだしな。それより、早くガーデンに戻ろうぜ」
「そうか」
こうしてこのバラムの街をスコールと共に歩くのは、実に10年振りだった。
思い出すなといわれても、それは無理な話だ。
あの頃、何も知らずに使っていたG.F.の影響で、幼い頃を含め、様々な記憶を失っていた。
あのまま使い続けていたら、10年前の魔女戦争も、スコールのことも、忘れてしまっていたかもしれない。
だがもう、大切な記憶を失うことはない。もう二度と、あんな思いをしたくはなかった。

間もなくバラムの街を出る、という辺りまで差し掛かった時、ふいに街のほうから人々の声が上がったのが聞こえた。
何かあったのかと、2人は後ろを振り返ってみたが、特に何か起こっているという感じは見受けられなかった。
「なんだ?」
「なんか、あったのかな? 行ってみるか?スコール」
「…いや、今はガーデンに急ごう」
「そだな」
本当なら、街を出てすぐに、そこから東の丘の上にガーデンの姿が見える。
だが今は、何もない。
あの時も自分で体験しているはずなのに、忘れてるわけはないのに、それでもいつもの景色が少しでも違って見えることに違和感を覚える。
スコールも同じ気持ちなのだろうか?
聞いてみたところで、碌な返答が返るわけはないと、ゼルはあえて口を開くことを止めた。

「ゼル」
「ん?なんだ?」
「…あ、いや、静かだなと思って」
「な、なんだよそれ。俺がいつも煩いみたいに」
「やかましいだろ、いつも」
「あんだと~~~!!」
「……ふっ、そうでないと、お前らしくないと思ってな」
「…スコール」
「お前に、ちゃんと礼を言ってなかったなゼル。…助けてくれてありがとう」
「へあっ!? ど、ど、どうしたんだ? まさか傷口が開いたのか? 熱が上がったのか!?」
「そんなわけないだろう、素直に礼も受け取れないのか」
「いや、だってよ、お前からそんな言葉が聞けるなんて思ってもいなかったからよ」
「…悪かったな」
「あ、それ! 懐かしいな! お前、よくそう言ってたもんな!」
「俺も、懐かしいと思ったよ」
「へへへ」
2人を乗せたヘリはすぐに海へ向かって飛び立った。
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