Chapter.57[バラム]
~第57章 part.3~
自分達の行動を話すゼルとキスティスの会話を遮るようにして、スコールは座り込んだ若者たちの前に片膝をついた。
「スコール?」
「ゼル、キスティス、ここで話すことじゃないだろう? 早くガーデンに戻らなくては…。…ところで…」
首だけこちらを半分振り返って2人を諫めると、スコールは若者たちのほうを向き直った。
その目は、まさに夜叉のごとしだ。
声も出せなくなってしまっている若者たちに、スコールは静かに話しかけた。
「お前達は、ガルバディアガーデンの生徒だな?」
「………」
言葉では何も紡がれることはなかったが、焦りの浮かんだ顔でスコールは確信した。
「特別だと言っていたが、まさか、お前達は…『特務隊』か?」
「トクムタイ…? なんだそれ?」
「そんなはずないわ。ガルバディアガーデンの特務隊といえば、SeeDをも凌ぐ精鋭のはずよ」
「こいつらが精鋭!? 笑わせるぜ。ウチの候補生にも勝てねえぜ」
「…ガルバディアは人手不足のようだな」
「お前達を動かしているのは誰だ?誰の命令で動いてる?」
「…答えるとでも思ってるのか」
「………」
「…が、学園長だ、です」
「ガルム・ヘンデルか。まあ、そんなところだろう。…この街で何を?」
「い、言えるわけ……」
「大方、反政府組織の殲滅と情報収集だろう」
「うっ……」
「悪いことは言わない。ガーデンには戻るな。家に帰れ」
「そ、そんなことできるわけが!」
「今ここで俺に殺されるのと、ガーデンに戻って処刑されるのと、どちらがいい」
「………」
彼らが持っていた小型の通信機を取り上げて、スコールは若者たちを解放した。
動けない者に肩を貸しながら、そそくさと姿を消してしまった。
すぐに通信機のスイッチを入れ、ガーデンを呼び出そうとしてみるが、まったく繋がらなかった。
「バラムガーデンに通信しようとしてるの?ガーデンに戻った方が早いんじゃないの? 私達もこれからガーデンに帰還しようとしてたところだったのよ」
「それがさ、ガーデン、移動したみたいでさ」
「なんですって!?どういうことなの?」
「さあな、だから通信入れようと思ってたんだ」
「…ダメだな、繋がらない」
少し時間を置いて再度通信を試みることにした。
その間に、キスティスは2人の話を聞こうと思った。
「トラビアで魔女を捕らえたというガルバディア軍の情報を得て、私達はトラビアに向かったの。スコールも、そこにいたんでしょ?」
「…ああ」
「トラビアガーデンの人に聞いたわ。リノアと一緒にガルバディア軍に連れていかれたって。…なのに、どうして一緒じゃないの?リノアはどうしたの!?」
「………」
「あ、キスティス、そっから先は俺が説明するぜ」
トラビアからD地区収容所に入れられたこと、アーヴァインやセルフィと一緒に脱獄したこと、ウィンヒルでエルオーネに会ったことを簡単に話して聞かせた。
ゼルの拙い説明でも、キスティスはきちんと理解したようで、そして呆れたように溜息を零した。
「じゃあ、リノアはバラムガーデンにいるのね。サイファーも一緒に…」
「…そう思っている」
「で、そのガーデンが移動して、どこにいるのかわからない、と」
「そうなんだよ。ウィンヒルから乗ってきたヘリがあることはあるが、どこにいるのかわかんねえ状態で闇雲に飛び回ることもできねえからな」
「なるほどね」
「キスティス、俺も聞きてえことあるんだ。さっきの奴ら、えーと特務隊だっけ? その特務隊って?」
「さっきも言ったでしょ、ガルバディアガーデンの精鋭チームのことよ。私もトラビアで特務隊と会ったけど、あちらは間違いなく精鋭だったわ」
「んじゃ、さっきの奴らは何なんだよ、特務隊ってそんなに力の差があるものなのか?」
「…今のガルバディアの現状を考えれば、あり得ないことはない」
ガルバディアの首都であるデリングシティ、未だ抵抗を続ける無法地帯と化したティンバー、サイファーが暴れたことでまともに機能していない収容所。
今や公安も軍もその力を失いつつある。
人々の暴動は止められず、官僚だけにとどまらず政治家と名の付く者は次々に命を奪われていった。
もはやその大波を止める術はないかのように見えた。
人々を煽っていたのは、あの電波ジャックの映像の力が大きかった。
連日のようにTV放送で流され、街の街頭TVも、店先に置かれた展示品でもいつでも魔女派の呼びかけが流れていた。
国がそのような事態となっていても、大統領は姿を見せない。
声明の1つもない。
当然、民衆の政府に対する気持ちは失われていく。
あの若者たちを動かしていたのは、ガルバディアガーデンの学園長であるガルムだと、彼らは言った。
将来のガルバディア軍の兵士を育てているガーデンは、政府の息がかかっている。
学園長は大統領の息子だ。
当然、表に出て来ようとする。
そして、多くの情報を得るために未熟な生徒をも特務隊として使ったということだろう。
そこまで考えて、スコールははっとした。
先程の若者のような急ごしらえの未熟特務隊は、恐らく各地に派遣されていると思われる。
ガルバディアガーデンの学園長はTVで見たことがある、くらいしか面識がないスコールには、彼がどう動くのか予測はつかなかった。
だが、移動して姿のないバラムガーデン。
通信は繋がらない。
あの時の自分の考えが間違っていないことを確信した。
間違いであってほしかったという思いとは裏腹に…。
「おやあ、ディンさんとこのせがれじゃないかい?」
「…ああ、そうだけど…、あ、町内会長さんか」
声を掛けてきた老人はゼルと顔見知りのようだ。
散歩の途中だったのか、道の脇に設置された小さなベンチにゆっくりと腰を掛けた。
「君はアレだろ、ガーデンの先生になったんだったよなあ。いやあ、あの暴れん坊が先生とはねえ」
「あははは…」
「そのガーデンの先生が、なんでこんなところにいるんだね? ガーデンが大変な時に」
「えっ、なんだそれ? ガーデンのこと、なんか知ってるのか?」
「さっき、港のほうを歩いてた時に、丁度帰ってきた船があってねえ。乗組員が凄いもんを見たって話してたんだよ」
「凄いものって?」
「なにやら、海の上でガーデン同士が喧嘩してたとか」
「なんだって!?」
「いやあ、あの時を思い出すねえ。ガーデンが空を飛んで町の近くまで来たことがあったよねえ」
「そ、それで、そのガーデンの喧嘩って、バラムとガルバディアのガーデンか!?」
「は? そんなことはわからないねえ。直接見たわけではないからねえ」
ゼルはスコールとキスティスのほうを振り返った。
2人もゼルと同じ考えだったのだろう、ゼルが口にする前に頷いて見せた。
「私達もその船のところに行きましょう!」
→part.4
自分達の行動を話すゼルとキスティスの会話を遮るようにして、スコールは座り込んだ若者たちの前に片膝をついた。
「スコール?」
「ゼル、キスティス、ここで話すことじゃないだろう? 早くガーデンに戻らなくては…。…ところで…」
首だけこちらを半分振り返って2人を諫めると、スコールは若者たちのほうを向き直った。
その目は、まさに夜叉のごとしだ。
声も出せなくなってしまっている若者たちに、スコールは静かに話しかけた。
「お前達は、ガルバディアガーデンの生徒だな?」
「………」
言葉では何も紡がれることはなかったが、焦りの浮かんだ顔でスコールは確信した。
「特別だと言っていたが、まさか、お前達は…『特務隊』か?」
「トクムタイ…? なんだそれ?」
「そんなはずないわ。ガルバディアガーデンの特務隊といえば、SeeDをも凌ぐ精鋭のはずよ」
「こいつらが精鋭!? 笑わせるぜ。ウチの候補生にも勝てねえぜ」
「…ガルバディアは人手不足のようだな」
「お前達を動かしているのは誰だ?誰の命令で動いてる?」
「…答えるとでも思ってるのか」
「………」
「…が、学園長だ、です」
「ガルム・ヘンデルか。まあ、そんなところだろう。…この街で何を?」
「い、言えるわけ……」
「大方、反政府組織の殲滅と情報収集だろう」
「うっ……」
「悪いことは言わない。ガーデンには戻るな。家に帰れ」
「そ、そんなことできるわけが!」
「今ここで俺に殺されるのと、ガーデンに戻って処刑されるのと、どちらがいい」
「………」
彼らが持っていた小型の通信機を取り上げて、スコールは若者たちを解放した。
動けない者に肩を貸しながら、そそくさと姿を消してしまった。
すぐに通信機のスイッチを入れ、ガーデンを呼び出そうとしてみるが、まったく繋がらなかった。
「バラムガーデンに通信しようとしてるの?ガーデンに戻った方が早いんじゃないの? 私達もこれからガーデンに帰還しようとしてたところだったのよ」
「それがさ、ガーデン、移動したみたいでさ」
「なんですって!?どういうことなの?」
「さあな、だから通信入れようと思ってたんだ」
「…ダメだな、繋がらない」
少し時間を置いて再度通信を試みることにした。
その間に、キスティスは2人の話を聞こうと思った。
「トラビアで魔女を捕らえたというガルバディア軍の情報を得て、私達はトラビアに向かったの。スコールも、そこにいたんでしょ?」
「…ああ」
「トラビアガーデンの人に聞いたわ。リノアと一緒にガルバディア軍に連れていかれたって。…なのに、どうして一緒じゃないの?リノアはどうしたの!?」
「………」
「あ、キスティス、そっから先は俺が説明するぜ」
トラビアからD地区収容所に入れられたこと、アーヴァインやセルフィと一緒に脱獄したこと、ウィンヒルでエルオーネに会ったことを簡単に話して聞かせた。
ゼルの拙い説明でも、キスティスはきちんと理解したようで、そして呆れたように溜息を零した。
「じゃあ、リノアはバラムガーデンにいるのね。サイファーも一緒に…」
「…そう思っている」
「で、そのガーデンが移動して、どこにいるのかわからない、と」
「そうなんだよ。ウィンヒルから乗ってきたヘリがあることはあるが、どこにいるのかわかんねえ状態で闇雲に飛び回ることもできねえからな」
「なるほどね」
「キスティス、俺も聞きてえことあるんだ。さっきの奴ら、えーと特務隊だっけ? その特務隊って?」
「さっきも言ったでしょ、ガルバディアガーデンの精鋭チームのことよ。私もトラビアで特務隊と会ったけど、あちらは間違いなく精鋭だったわ」
「んじゃ、さっきの奴らは何なんだよ、特務隊ってそんなに力の差があるものなのか?」
「…今のガルバディアの現状を考えれば、あり得ないことはない」
ガルバディアの首都であるデリングシティ、未だ抵抗を続ける無法地帯と化したティンバー、サイファーが暴れたことでまともに機能していない収容所。
今や公安も軍もその力を失いつつある。
人々の暴動は止められず、官僚だけにとどまらず政治家と名の付く者は次々に命を奪われていった。
もはやその大波を止める術はないかのように見えた。
人々を煽っていたのは、あの電波ジャックの映像の力が大きかった。
連日のようにTV放送で流され、街の街頭TVも、店先に置かれた展示品でもいつでも魔女派の呼びかけが流れていた。
国がそのような事態となっていても、大統領は姿を見せない。
声明の1つもない。
当然、民衆の政府に対する気持ちは失われていく。
あの若者たちを動かしていたのは、ガルバディアガーデンの学園長であるガルムだと、彼らは言った。
将来のガルバディア軍の兵士を育てているガーデンは、政府の息がかかっている。
学園長は大統領の息子だ。
当然、表に出て来ようとする。
そして、多くの情報を得るために未熟な生徒をも特務隊として使ったということだろう。
そこまで考えて、スコールははっとした。
先程の若者のような急ごしらえの未熟特務隊は、恐らく各地に派遣されていると思われる。
ガルバディアガーデンの学園長はTVで見たことがある、くらいしか面識がないスコールには、彼がどう動くのか予測はつかなかった。
だが、移動して姿のないバラムガーデン。
通信は繋がらない。
あの時の自分の考えが間違っていないことを確信した。
間違いであってほしかったという思いとは裏腹に…。
「おやあ、ディンさんとこのせがれじゃないかい?」
「…ああ、そうだけど…、あ、町内会長さんか」
声を掛けてきた老人はゼルと顔見知りのようだ。
散歩の途中だったのか、道の脇に設置された小さなベンチにゆっくりと腰を掛けた。
「君はアレだろ、ガーデンの先生になったんだったよなあ。いやあ、あの暴れん坊が先生とはねえ」
「あははは…」
「そのガーデンの先生が、なんでこんなところにいるんだね? ガーデンが大変な時に」
「えっ、なんだそれ? ガーデンのこと、なんか知ってるのか?」
「さっき、港のほうを歩いてた時に、丁度帰ってきた船があってねえ。乗組員が凄いもんを見たって話してたんだよ」
「凄いものって?」
「なにやら、海の上でガーデン同士が喧嘩してたとか」
「なんだって!?」
「いやあ、あの時を思い出すねえ。ガーデンが空を飛んで町の近くまで来たことがあったよねえ」
「そ、それで、そのガーデンの喧嘩って、バラムとガルバディアのガーデンか!?」
「は? そんなことはわからないねえ。直接見たわけではないからねえ」
ゼルはスコールとキスティスのほうを振り返った。
2人もゼルと同じ考えだったのだろう、ゼルが口にする前に頷いて見せた。
「私達もその船のところに行きましょう!」
→part.4