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Chapter.57[バラム]

 ~第57章 part.2~


バラムの街は漁業で栄える小さな港町である。
景観を重視する為、建物の高さは制限されているが、その中でも一際目立つ塔が建てられていた。
あのドールのシンボルである電波塔には及ばないが、高さの制限のあるこの街はこの高さで十分ということなのだろう。
これこそが、ガルバディアの力の象徴ともいえる。
各地の街に設けられた公安と同時に、どの街でも電波通信が利用可能なようにと10年前の魔女戦争後に設置されたものである。

すでに日は高い位置にあるこの時間、漁を終えた船は港で明日の出番を待っている。
普段は静かな街が、少々賑わいを見せていた。
「…随分、人が多いように感じるが」
「言われてみれば、そうかも。なんかあったかな?」
「(ゼルにもわからないのか、…まあ、そうだろうな)」
「んで、どうするんだ?公安のところに行っても、すんなり貸してくれるわけねえと思うけど」
「別に公安でなければならないというわけじゃないだろう。店や公共の施設だったらあるだろ?」
「あ、そうか」
「設備があるところ、どこか知ってるか?」
「んん~…、どこにあったかな~?」
「(…聞いた俺がバカだった)…とりあえず、駅にでも行ってみるか」

2人が駅のほうへ足を進めていた時、ふいに1人の男が声を掛けてきた。
「ナイト!無事だったんですね!」
「…あんたは、『森のフクロウ』のメンバーか」
「ああ。あの時の掃討作戦でかなりの同志がやられちまって、でも、ナイトが無事だってことは姫も無事なんですね?」
「………」
「…ナイト? ま、まさか、姫の身になにかあったんじゃ…」
「何もない、心配するな」
「そうっスか。ナイトがそういうなら、なんも心配しないです。この騒動が収まったら、また活動を再開させます。その時はナイトも来てくれますよね?」
「…あぁ」
「ここに避難してきたレジスタンスも多いんですよ。仲間にも知らせておきます。では!」
ティンバーでのレジスタンス掃討作戦からまだそう時間はたっていない。
だが、レジスタンスという身分を隠しているためなのか、バラムの住民たちとのもめ事などは何も起こっていないように見えた。
…いや、混乱はこれから起こるのかもしれない。今はまだ住民たちはどう接していいのか模索している、そんな状態だろうか。

「そうか、ティンバーから逃げてきたレジスタンスの連中が多いのか。納得だぜ」
「そうだな」
「それにしても、なんでリノアのこと何も言わなかったんだ? 姫ってリノアのことだろ?」
「…わかるだろ?」
「あー、まあ、心配させたくなかったってことだよな」
「…はぁ」
少々俯いた額に手を当ててしまうのは、昔からの癖だ。
やはりこいつと行動を共にすると疲れる、そう思いながらも、スコールは言葉を飲み込んだ。

「おいそこの男、ちょっと待て!」
間もなく駅に到着すると言うあたりで、再び声が掛けられた。
だが先程とは様子が違っていた。
振り向いた2人の後ろに立っていたのは、ガーデンのSeeD候補生を思わせる若者たちだった。
「なんだあ?」
「ティンバーのレジスタンスだな! レジスタンスはすべて排除する!覚悟しろ!」
「おいおいおい…」
「…やれやれ、…ゼル、任せる」
「へ!? 俺1人でやるのか」
「十分だろう。…手加減してやれよ」
「わーったよ」
結果は言うまでもないことだが、魔女戦争の英雄と訓練の未熟な若造とでは力の差はありすぎる。
あっという間に若者たちは地に倒れ伏した。
「…お前達、もしかしてガーデンの生徒か? ガルバディア、だろ」
「…そ、そんなこと言えるわけ…」
「俺はゼル・ディン。バラムガーデンの教官だ」
「!!」
「えっ…」
「ほ、他の奴らと一緒にするなよな、俺達は、特別なんだからな!」
「特別? 何が?」
「え、あ、いや…」
「おい、マズイぞ」
「くそ、増援を呼ぼうぜ」

「何ごちゃごちゃ言ってんだよ!」
身構えるゼルの前で、ふらふらと立ち上がった若者たちが手にしていたのは、小型の通信機のようだ。
こちらの様子を伺いながら誰かと話しているようだ。
「おい、お前らは何だってんだよっ!?」
若者たちの真意を汲み取ることができなくて、ゼルは苛ついていた。
そして、一歩下がった場所からその様子を見つめていたスコールは一つの考えを浮かばせていた。
「(…まさかな。こんな奴らが…、あり得ないな)」

通りの向こうから数人の人影が出てきたのが見えた。
目の前にいる若者たちと同じくらいの年頃のようだ。
こいつらが呼んだ増援かとも思ったが、駆け付けたというよりは逃げてきた、という雰囲気だ。
「ん?なんだ?」
今若者たちが飛び出してきた曲がり角から、更に別の人間が近づいてくる。
どうやらそいつらから逃げてきたようだ。

「待ちなさい!」
「ひ、ひえ~~~~」
「勘弁してくれ~~~」
今逃げてきた若者たちよりも、ゼルにやられた者たちのほうが酷そうだ。もう動けなくなっている。
スコールとゼルが振り向くと、こちらに向かって走ってきたのは、なんとキスティスだ。
その後ろに制服を着たSeeDも何人か見える。
「キスティス!」
「え、スコール?ゼル? どうしてここに」
「こっちのセリフだぜ!」

「スコール、大丈夫なの!? 私達、今トラビアから来たところよ。あの状況で、どうして無事でいられるの!? …また、無理してるんでしょ」
バラムガーデンにガルバディア軍が侵攻してきたときに、トラビアで魔女が捕らえられたという情報を得て、すぐにキスティスはトラビアに向かったのだ。
「ゼル、あなたがいてスコールを止められなかったの?」
「んなこと言ったって、リノアのことに夢中になってるこいつを止めるなんて、無理だぜ!」
「居場所がわかったの!?」
キスティスの言葉を隠すような奇妙な悲鳴が上がった。
自分達を倒したこの教官でも止められないというこの男は、どれだけの強さだというのだろうか。
仲間と合流して反撃を企てようとしていた若者たちは、そこで絶望にくれてしまった。


→part.3
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