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Chapter.57[バラム]

 ~第57章 part.1~


強い風が吹き付けて、緑の若い葉が飛び散り、舞い上がった。
風を起こした鉄の塊は大きな機械音をたてながら緑の大地にフワリと着地した。
「…ここ、バラム、だよな…」
すでにわかりきったことを疑問詞形で問いかける意味がわからないとばかりに、スコールは小さく嘆息した。
だが、ここまでヘリの操縦をしてきたゼルの気持ちもわからないわけではない。
2人が目的地としていた建物そのものが消えていたのだから。
「…ガーデンが、ねえ…、いや、移動したのか。…何があったんだ?」
そんなことは俺が聞きたい。
そう言おうとしてスコールは言葉を飲み込んだ。
何が起こったのか知りたいと思う気持ちは同じなのだ。

あの時、エルオーネの力で接続された人物は、サイファーだった。
目の前に、ピクリとも動かないリノアがいた。そして更にもう2人。
女のほうはよく見知った人物、シュウだった。
もう1人はどこかで…、そうだ、あの時の新米SeeD、ランス、といったか。
彼らはあそこで何をしていた?
あいつらがガーデンを起動させたのか?
酷い臭いの充満する蒸し暑い空間、ガーデンを起動する為の心臓部とも言えるあのMD層で何をしていた…?
10年前に改装を施してからは、メンテナンスの職人くらいしか入ることはなかった。
起動も、新しく作られた操舵室でできるはずだ。
わざわざ地下に降りる必要はない。

…わざわざ…?
人目を避けた?  …避難、か?
リノアの追っ手がここまで!?
そうだ、トラビアにいたリノアにもすぐに追っ手がかかった。
エスタであれだけのことをしでかした人物の正体はすぐにでもバレるだろう。
バラムガーデンのSeeDであると。
ならば当然、ガーデンにも網を張っていたはず。

「スコール、 …なあ、おい、何か思うとこがあるんなら教えてくれ。 昔っからそうだよな、一人で考え込んで一人で悩んで一人で決めちまう。
 お前から見れば、そりゃ俺らは頼りねえかもしんねーが…「…俺は頼りにしてるが?」……あ、えっ?」
腕を組んで眉間に皺を寄せ、しばらく黙りこんだスコールに文句の一つでも言ってやろうかと思っていたゼルは呆気に取られた。
スコールとは幼い頃からの長い付き合いであるゼルには、彼の性格はよくわかっているつもりだった。
だがゼルの言葉を遮ったスコールの言葉は意外だった。
「少し頭の中を整理していただけだ。 …恐らくだが、ガルバディアが侵攻して来たんだろう」
「ガルバディア!? …軍か?」
「…いや、…ガーデン、かもしれない」
「なんだって!?」
ここまでの空の移動中、ヘリの中でスコールが捕えられた後のことを少しゼルに説明を受けた。
だが、事のあらましはヘリの中にたまたま残されていた前日の新聞のおかげであるということは口には出さなかった。
ガルバディア国内に広がる政治不安や情勢の悪化で、政府の役人の管轄である公安も軍も手がいっぱいだ。
こちらのガーデンをも起動せざるを得ないほどの敵襲を考えると、そんな力を持っているのは今やガルバディアガーデンしか考えられない。
「やべえじゃねえか! …ん? あれ?」
「…どうした?」
「んん~、あ~、なんか、こんな話どっかで聞いたような……」

ゼルはゆっくりと記憶を遡らせた。
ウィンヒル、砂漠を渡ったこと、収容所での出来事、トラビアで見たもの、そしてドールの町まで記憶を巡らせたときだ。
「…そうだ、あの時、ガーデンに連絡しようとしたけど通信が繋がらなかった。んで、ガルバディアの兵がSeeD1人と子供を捕まえたって話してるのを聞いたんだ」
「それはいつのことだ?」
「あー、ほとんど同じタイミングでアーヴァインの奴が『トラビアで魔女を捕まえた』って通信を聞いてるから、たぶん、スコールもそこにいたんだろ」
「…あの時か」
「そん時はガルバディアの軍はばりっばりに動いてたし、ガルバディアのガーデンはまだ動いてなかったんじゃねーか?」
「…なぜそう思う」
「収容所でさ、俺はお前んとこにいたから知らなかったんだけど、セルフィとアーヴァインの奴がランスに会ってる。あそこでも結構派手にドンパチやっちまったしな。
 だけどそこでもっと意外な奴が現れてさ」
「……サイファー」

これで合点がいった。
収容所での囚人逃走事件と新聞に報じられていたあの記事。
つまりそれがランスの事であり、スコールと共に収監されたはずのリノアをも連れだしたのだろう。
そして、ガルバディアの追っ手から逃れるために古巣でもあるバラムガーデンに逃げ込んだ。
あの時のあの映像(ビジョン)はその時のものか…
あのサイファーの事だ。収容所でも容赦なく暴れ回ったのだろう。
連絡不通に陥ってしまうほどに。
そこからガルバディアのガーデンまでどう繋がるのかまでは未だに不明だったが、そこまでの行程がわかっただけでも前進だ。
リノアの元へ辿りつくまではまだ時間がかかるかもしれない。
苛つく気持ちをなんとか抑え込んで、これからしなければならないことを考えなくてはならない。
「…どうにかしてガーデンと連絡を取りたい」
「そうだな、今どこにいるのかもわかんねーもんな。 …ヘリの通信機じゃ、無理か」
「そんな狭範囲しか伝わらないものでは役に立たない。所詮は個人所有のヘリだからな。軍用だったらあるいは……、……そうか」
「ん? なんか思いついたのか?」
「バラムの町に行けば公安がある。そこにも通信設備がある」
「おお、なるほど! ……って、簡単に貸してくれるわけねーだろっ!」


→part.2
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