Chapter.56[バラムガーデン]
~第56章 part.3~
ふいにガルムが懐から小さな箱の様なものを取りだした。
何かのスイッチなのか小さなボタンがついている。
「おい、お前」
ガルムが生徒たちの中から一人指差すと、ビクリと一瞬肩を震わせてからそれでも若者が前へ出た。
どこか青ざめた表情の若者は、ガルムの傍に立って敬礼をした。
「君にはこれを渡しておこう」
「……は、はい」
その行動が何を意味しているのか、シドにもイデアにも理解することはできなかったが、呼ばれたその若者が怯えているのは目に見えてわかった。
若者も、受け取ったそれが何であるのか知っているのだろう。
酷く興奮していた様子のガルムだったが、少し落ち着きを取り戻したのだろう。
「さて、マスターシド、一つ取引をしましょう」
「…取引、ですか?」
「ここを攻撃する目的だけで、わざわざ私が顔を出すこともない。…マスターシド、あなたにどうしてもお伺いしたいことがあるんですよ」
「それに答えれば、ガーデンへの攻撃を止めていただけるのですか?」
「返答次第です」
にわかにホールの奥、階段がある辺りが騒がしくなった。
何事かと全員そちらに目を奪われる。
女性の声とそれを諌める生徒の声がシドたちがいるホールにまで届いた。
「何事だ」
やがて姿を現した一人の生徒が、そこのリーダーらしき人物に耳打ちしている。
リーダーである生徒が今度はガルムの傍に駆け寄り、耳元で何事か報告しているようだ。
「…連れてこい」
「はい」
状況がわからないシドとイデアは事の成り行きを見守ることしかできずにいた。
女性の声が一段と大きくなる。
「離してよ!」
シドとイデアには声の主に心当たりがあった。
果たして2人の前に連行されてきた女性は思い描いた通りの人物だった。
「マスター、学園長、ご無事だったんですね!」
「シュウ!あなたも!」
「離してって言ってるでしょ!」
「…解放してやれ」
「宜しいのですか!? ここに来るまでにウチの生徒達が何人も…」
「ここでは大丈夫だ」
「…は、はい」
後ろ手に縛られたロープを解かれ、手首を摩りながらガルムを睨みつけた。
「あなたが今回の襲撃の首謀者? 今すぐウチの生徒達を解放するよう言って!まだ小さい子もいるのよ!」
「威勢がいいですね。教官長補佐シュウ・クリステン」
「私を知ってるの…?」
「残念ですがご要望にはお答えできかねます」
「なっ…!」
「丁度いい、あなたにも同席して頂きましょう」
「…何を、させるつもり?」
地下室から梯子を使って地下1階フロアまで戻ったとき、シュウは学園内の異変に気付いた。
ガルバディアの兵士を確認していたことから、また軍による襲撃だと思い込んでいたが、そこにいたのは兵士ではなく制服を着た生徒たちだった。
ガルバディアガーデンの制服だ。
それが一体どういうことなのか意味もわからないまま、急いで学園長室へ向かおうとしたのだが、途中何人もの生徒達が行く手を遮り、
バラムガーデンの生徒たちの安否を確認することもできないままに、漸くここへ辿り着き結果的には捕えられてしまったのだ。
地下室でのことをシドとイデアに報告すべき所なのだろうが、こんな状態ではへたな言動はできない。
ここにいるガルバディアの生徒達は階下のフロアを占拠している生徒達とは格が違うことも一目でわかった。
この人数を一人で相手にするのはかなり無茶だ。
それに、ここを守ろうとしてくれたのだろう、意識のないままその辺に放置されている生徒はSeeDだ。
シュウもよく知っている彼らがこんな姿で倒れているということは、それだけ彼らの戦闘能力が高いことを物語っていた。
シュウの質問に答えることもなく、ガルムはニヤリと口元を持ち上げて見せた。
ガルムから目を離すことなく、シュウは後退りするようにしてゆっくりとシドのいるほうへ足を進めた。
「シュウ!」
「学園長!」
ソファーから立ちあがってシュウを迎えたイデアは酷く辛そうな顔をしていた。
そのフロアには元々ないソファーやテーブルや椅子が散らばっているのを見て、操舵室への扉を防ぐバリケードに使用したのだとすぐに理解した。
だがすでにバリケードはその意味を成していない。
動きを止めてしまったガーデンからして一目瞭然ではあるが、上の操舵室ではニーダが抑えられているのだろう。
「そういえば、キスティス・トゥリープ教官長の姿が見えませんが?」
「…彼女は、任務で出てるわ」
「ほう、教官長自ら任務とは…。余程重大な任務なんでしょうね」
厭味のように薄い笑顔のままで答えるガルムにシュウは苛立った。
「だが僥倖です。取引がしやすくなった」
「…取引? 何の?」
「シュウ、彼らの目的はこのガーデンを潰すことです。そして、恐らくティンバーも…」
「なんですって!」
シュウは考えた。
取引と言うならば、それと同等かそれ以上に彼らにとって価値のあるものとの交換。
ガーデンや町一つを潰すと言う彼らの目的をキャンセルさせることができるほど価値のあるものなんて、この学園にあるとは思えない。
階下にいるガルバディアの生徒達は、手に重火器を持って襲撃はしてきたが、バラムガーデンの生徒達を傷つけるようなことはしていなかった。
本当に潰すつもりなら、容赦なく生徒の命を奪っているだろうし、このガーデンそのものを破壊する筈だ。
…彼らの目的は本当にガーデンを潰すことなのだろうか?
それとも他に目的があるのだろうか?
「取引の交換条件は何ですか?」
「マスター!」
「あなた!」
「それは、取引に応じると捉えますが?」
「構いません」
「ダメです、マスター!」
「…このままガーデンが潰されて生徒達がガルバディアに行くということは、バラムの人々にとって人質に取られると同じ事。
そんなことになればバラムの町もガルバディアに支配されることになってしまう。私にはそんなことはさせられません」
生徒が、ガルバディアに…?
これで画点がいった。だから誰も殺さないように、傷つけないように捕縛したのだろう。
そんなことはシュウにも許せるはずがなかった。
「いいでしょう。我々が望む2つのことに答えてくれればいいのです」
→part.4
ふいにガルムが懐から小さな箱の様なものを取りだした。
何かのスイッチなのか小さなボタンがついている。
「おい、お前」
ガルムが生徒たちの中から一人指差すと、ビクリと一瞬肩を震わせてからそれでも若者が前へ出た。
どこか青ざめた表情の若者は、ガルムの傍に立って敬礼をした。
「君にはこれを渡しておこう」
「……は、はい」
その行動が何を意味しているのか、シドにもイデアにも理解することはできなかったが、呼ばれたその若者が怯えているのは目に見えてわかった。
若者も、受け取ったそれが何であるのか知っているのだろう。
酷く興奮していた様子のガルムだったが、少し落ち着きを取り戻したのだろう。
「さて、マスターシド、一つ取引をしましょう」
「…取引、ですか?」
「ここを攻撃する目的だけで、わざわざ私が顔を出すこともない。…マスターシド、あなたにどうしてもお伺いしたいことがあるんですよ」
「それに答えれば、ガーデンへの攻撃を止めていただけるのですか?」
「返答次第です」
にわかにホールの奥、階段がある辺りが騒がしくなった。
何事かと全員そちらに目を奪われる。
女性の声とそれを諌める生徒の声がシドたちがいるホールにまで届いた。
「何事だ」
やがて姿を現した一人の生徒が、そこのリーダーらしき人物に耳打ちしている。
リーダーである生徒が今度はガルムの傍に駆け寄り、耳元で何事か報告しているようだ。
「…連れてこい」
「はい」
状況がわからないシドとイデアは事の成り行きを見守ることしかできずにいた。
女性の声が一段と大きくなる。
「離してよ!」
シドとイデアには声の主に心当たりがあった。
果たして2人の前に連行されてきた女性は思い描いた通りの人物だった。
「マスター、学園長、ご無事だったんですね!」
「シュウ!あなたも!」
「離してって言ってるでしょ!」
「…解放してやれ」
「宜しいのですか!? ここに来るまでにウチの生徒達が何人も…」
「ここでは大丈夫だ」
「…は、はい」
後ろ手に縛られたロープを解かれ、手首を摩りながらガルムを睨みつけた。
「あなたが今回の襲撃の首謀者? 今すぐウチの生徒達を解放するよう言って!まだ小さい子もいるのよ!」
「威勢がいいですね。教官長補佐シュウ・クリステン」
「私を知ってるの…?」
「残念ですがご要望にはお答えできかねます」
「なっ…!」
「丁度いい、あなたにも同席して頂きましょう」
「…何を、させるつもり?」
地下室から梯子を使って地下1階フロアまで戻ったとき、シュウは学園内の異変に気付いた。
ガルバディアの兵士を確認していたことから、また軍による襲撃だと思い込んでいたが、そこにいたのは兵士ではなく制服を着た生徒たちだった。
ガルバディアガーデンの制服だ。
それが一体どういうことなのか意味もわからないまま、急いで学園長室へ向かおうとしたのだが、途中何人もの生徒達が行く手を遮り、
バラムガーデンの生徒たちの安否を確認することもできないままに、漸くここへ辿り着き結果的には捕えられてしまったのだ。
地下室でのことをシドとイデアに報告すべき所なのだろうが、こんな状態ではへたな言動はできない。
ここにいるガルバディアの生徒達は階下のフロアを占拠している生徒達とは格が違うことも一目でわかった。
この人数を一人で相手にするのはかなり無茶だ。
それに、ここを守ろうとしてくれたのだろう、意識のないままその辺に放置されている生徒はSeeDだ。
シュウもよく知っている彼らがこんな姿で倒れているということは、それだけ彼らの戦闘能力が高いことを物語っていた。
シュウの質問に答えることもなく、ガルムはニヤリと口元を持ち上げて見せた。
ガルムから目を離すことなく、シュウは後退りするようにしてゆっくりとシドのいるほうへ足を進めた。
「シュウ!」
「学園長!」
ソファーから立ちあがってシュウを迎えたイデアは酷く辛そうな顔をしていた。
そのフロアには元々ないソファーやテーブルや椅子が散らばっているのを見て、操舵室への扉を防ぐバリケードに使用したのだとすぐに理解した。
だがすでにバリケードはその意味を成していない。
動きを止めてしまったガーデンからして一目瞭然ではあるが、上の操舵室ではニーダが抑えられているのだろう。
「そういえば、キスティス・トゥリープ教官長の姿が見えませんが?」
「…彼女は、任務で出てるわ」
「ほう、教官長自ら任務とは…。余程重大な任務なんでしょうね」
厭味のように薄い笑顔のままで答えるガルムにシュウは苛立った。
「だが僥倖です。取引がしやすくなった」
「…取引? 何の?」
「シュウ、彼らの目的はこのガーデンを潰すことです。そして、恐らくティンバーも…」
「なんですって!」
シュウは考えた。
取引と言うならば、それと同等かそれ以上に彼らにとって価値のあるものとの交換。
ガーデンや町一つを潰すと言う彼らの目的をキャンセルさせることができるほど価値のあるものなんて、この学園にあるとは思えない。
階下にいるガルバディアの生徒達は、手に重火器を持って襲撃はしてきたが、バラムガーデンの生徒達を傷つけるようなことはしていなかった。
本当に潰すつもりなら、容赦なく生徒の命を奪っているだろうし、このガーデンそのものを破壊する筈だ。
…彼らの目的は本当にガーデンを潰すことなのだろうか?
それとも他に目的があるのだろうか?
「取引の交換条件は何ですか?」
「マスター!」
「あなた!」
「それは、取引に応じると捉えますが?」
「構いません」
「ダメです、マスター!」
「…このままガーデンが潰されて生徒達がガルバディアに行くということは、バラムの人々にとって人質に取られると同じ事。
そんなことになればバラムの町もガルバディアに支配されることになってしまう。私にはそんなことはさせられません」
生徒が、ガルバディアに…?
これで画点がいった。だから誰も殺さないように、傷つけないように捕縛したのだろう。
そんなことはシュウにも許せるはずがなかった。
「いいでしょう。我々が望む2つのことに答えてくれればいいのです」
→part.4