このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

Chapter.56[バラムガーデン]

 ~第56章 part.2~


「あぁ、生徒達の行く末なら心配いりませんよ。我がガーデンで全員引き取ります。きちんと卒業まで面倒見ますからご安心を。
 SeeDではなく、特務隊として再教育しますがね」
「なんですって!」
「そ、そんなこと許せるはずはありません!」
「許すもなにも、生徒達のこれからの身の振り方を提案して差し上げているだけですよ」
「ガーデンには、如何なる機関の介入もできません。ガーデン同士であっても…」
「もちろん、よおく知ってますとも。だが、我々が強攻したのは、先のフリーマン大佐がお邪魔したのと一緒でして」

そう言って、ガルムは再び端末をシドに見せた。
「フリーマン大佐は騙せても、私の目は誤魔化せない。このガーデンが魔女と繋がっていることは明白。今更どんな言い訳をしても無駄なんですよ!」
シドは言葉を失った。
見せられた映像はつい先程のものだ。
直接会ったわけではないが、彼がここにいるという話は聞いていた。
そしてガルバディアで起こった暗殺事件とその容疑者のことも。
イデアが酷く胸を痛めているのも側にいて嫌というほどわかっていた。
いつかはこんな日が来るかもしれないと思いつつ、先日のフリーマンの来訪から少し気を緩めてしまっていたところがあったのかもしれない。
次にガーデンに何らかの報復があるとしても、マスターである自分か学園長であるイデアを引き合いに出す。
その程度にしか考えていなかった。
まさかガーデン側が動くとは思ってもいなかった。
しかも直接乗り込んでくるなんて!

「学園長、通信です」
「…あぁ、僕だ。それで? ……そうか、追わなくていい。状況は? ……そうか、ご苦労。 ……」
通信機で誰かと会話を続けながら、ガルムがチラリとシドのほうへ視線を向けた。
不安そうにこちらをじっと見つめるシドと目が合うと、ガルムはニヤリと口元を上げて見せた。
「!!」
「…わかった。こちらからの指示を待て」
通信機を戻して、ガルムが再びシドの前に歩み出る。
「マスターシド、今日我々がここに直接お邪魔したのは、どうしてだとお思いですか?」
「?」
「我々も、怖いんですよ」
「………」
「本当なら、軍や国の機関で綿密な調査を行い、その上で相手側に通達して捜査を開始するところなのですが、なんせ相手は如何なる介入も不可能なガーデン。
 しかも本国ではとんでもない事件が立て続けに起こり、公安も軍も駆り出されてその対応に追われている。
 そんな我々を嘲笑うかの如く、魔女派の勢力は増す一方だ。そしてその魔女派と最も関連が深いという疑惑があるのが、このバラムガーデンなのです」
「そんな!我々は魔女派とは関係ない!」
「いつまでそんな白をきるおつもりです。もう証拠は十分に揃っている。軍も公安機関も動けない今、ひとつひとつ詳しく調べている余裕などないんですよ」
「…で、ではここへ来た理由というのは…」
「ええ、もういっそのこと、全部綺麗にしてしまったほうが早いと思いまして」
「!!!」
「そ、それはどういう意味です?」
「我が学園の中にも、表には出しませんが魔女派を密かに信仰している者がおりまして、それがただの宗教的象徴なら全く問題は有りません。
 その人物の宗教を咎めるような法律もありませんし、自由だと思っています。ただ……、時期が悪かった。
 その多くはティンバー出身のようでして、そこでのレジスタンス活動、そしてデリングシティにおける暴動などの影響を受け、学園内でも生徒達に被害が及ぶ可能性があります。
 そんな危険分子を孕んだままの今の我が学園の状態が、恐ろしくてたまらないのです」
「そんなことは可能性にすぎないではないですか」
「…ええ、でしょうね。ですが、可能性では済まされないことがもう起こったのですよ」
「?」
「“ハリー・アバンシア”という名前にお心当たりは?」
「……魔女派の、リーダー、ですか?」
「他には?」
「…他に、何をお聞きになりたいのです?」
「今、ガルバディア本国の調査チームが血眼になってその正体を探っていますが、未だに特定できずにいます。 …ですが、我々の特務隊は実に優秀だ」
「…ま、まさか」
「ハリー・アバンシア、3年前、ティンバーのレジスタンス掃討作戦の折、死亡したとされるレジスタンスの戦士です」
「!!! し、死亡、した…?」
「学園長は、ご存じのはずです」
「ほ、本当ですか、イデア…」
「………」
無言のまま頷いたイデアは、縋るようにシドの手を握りしめた。

「…どうされるおつもりなのです」
「なので、その原因となるものを排除することにしました。我が学園の生徒達に及ぼす悪影響の根源を断ってしまえば、生徒達に被害が出ることもない。
 静かで穏やかな学園生活が送れるのです。 そして排除するべき対象こそが、このバラムガーデン、それからティンバー…」
「な! ティンバーはガルバディア領ではありませんか!」
「今日までの長い年月、あの町だけはガルバディアにとって憂いの問題点。我々ガルバディア国を支えてきた重要な資源を抱え込むことで政府や軍は強硬に介入することができない。
 それをいいことに独立しようなどと、最初からできるわけがないことにいつになったら気付くのか、愚かな町です。
 大国の中の小さな一つの町でしかないティンバーが、今日までこれだけ抵抗を続けてきたのは、続けることができたのは、他ならない魔女の力があったから!」
「…ティンバーを、潰すおつもりですか。そんなことをすれば、多くの犠牲と損害が出ることになる。ガルバディアだって、国の重要な資源の確保が難しくなるではありませんか!」
「ティンバーには、これまでにも何度も交渉を求めてきた。だが口先だけの交渉が上手くいった事例など皆無。
 それはティンバーがその度に武力介入し、政府の要人であったり軍上層部の人間と対立し、血を流して決裂すると言う歴史を繰り返してきた結果だ。
 あの資源はティンバーの人間だけのものではない。今や、全世界で必要不可欠となりつつあるものなのだと、彼らには理解する懐さえないのだ!
 目先の欲に目がくらんで世界を見ようともしない小さき人間たち、魔女の力に毒され洗脳され煽られているだけの弱き人間たち、そんな町は世界にとっても害以外の何者でもない!」

狂気に血走った目をかっと見開いて、身を乗り出すようにシドの顔を見つめるガルムに、シドもイデアも言葉を飲んだ。
何と答えればいいのかわからなくなった。
この若さで、これまで一体どれだけの苦労と苦悩を重ね続けてきたのであろうか。
彼の言い分は、確かに正論なのだろう。
だが、逆にティンバーの側に立てばティンバーの主張も正論と成り得るのだろう。
この国の内部事情は国外の人間から見れば小さないざこさ程度にしか見えない。
だが、実際その国で政を司る立ち場となった者には、決して目を背けてはいけない重要課題なのだ。
そんな国の仕事をなぜガルムが口出ししているのだろうか。
彼は政治家でもなければ軍の人間でもない。ガーデンの学園長という、言わば公務に就くだけの人間の筈だ。
ガルムが政治家の息子だから?
大統領がトップに立って国が支援している学園を収める者だから?
今はそこに着目すべきではないが、彼と同じように学園を統べる立場にあるシドには、ガルムの思想を理解することはできなかった。
「…あなたにとって、ティンバーや我がバラムガーデンは何です?」
気が触れたような言動のガルムを目にして、逆にシドには冷静さが戻っていた。
学園長室から運び、扉の前に組んだバリケードとして使用したのであろう、そこにあったソファーにイデアを誘導して優しく座らせた。
「あなた…」
「大丈夫ですよ、イデア。この学園は無くなりません。無くさせません」

「今あなた方の目の前に居る我々と、同じですよ」
「…そうですか」
シドの目の前に立つ闖入者。
ガーデンに攻め込んできた者たち。
それは、“敵”。
つまり、ガルムにとってみればこのガーデン、そしてティンバーは倒すべき敵。
そう認識されてしまっては、もう話し合いだけで判りあうことは難しいだろう。
「何か方法はありませんか? もう少し時間を頂けませんか? 互いに得る物が何もない潰し合いなど、空しいだけでしょう」
「いいえ、得る物は有ります。 魔女などというあまねく世界に恐怖を齎す存在のない、真の平和な世界! それこそが全人類が切望する未来!
 あなた方はその為の尊い犠牲となるのです」


→part.3
2/4ページ