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Chapter.56[バラムガーデン]

 ~第56章 part.1~


そこに現れた人物の意外さに驚いて、しばし言葉が出なかった。
あれほど、連絡を取ろうとしても一切取りあってはくれなかったというのに、こんな形で対面が叶うとは思ってもみなかった。
「お久しぶりです、マスターシド。そして、初めまして、と言えますかな、イデア学園長」
「…久しぶりですね」
「………」
言葉だけを聞くなら、それは穏やかなただの挨拶に聞こえるかもしれない。
だが、実際は銃を手にした兵士に囲まれた中での物々しい対面である。
場所はガーデン操舵室前のエレベータホール。


ガルバディアガーデン接近の情報をいち早く掴んで、すかさず操舵室へ駆け込み、起動の準備を始めたニーダだったが、
この巨大なガーデンがそう簡単に動かせるわけもなく、速度性能で勝るガルバディアガーデンはあっという間に距離を縮めてきた。
どうにか起動を始めたが逃げ切ることもできないまま、ガーデン同士の衝突が起こってしまった。
最初からガルバディアはガーデンを体当たりさせるつもりだったのだろう。
大きな衝撃がガーデン内に走った。
中に居る生徒たちは大丈夫だろうかと、シドもイデアも不安を隠せない。
操舵室だけは死守しなければならない。
ここを抑えられたらガーデンはその動きを止めてしまう。
逃げ切ることはできなくなる。
ガーデン内で起こっているパニックを収めるのは教官の役目だが、そのトップであるキスティスも補佐のシュウもいない今、生徒たちはどうしているだろうか。
そればかりを考えながら、操舵室へ通じる扉に鍵を掛け、エレベータホールに2人は留まった。
激しい衝撃だったが、エレベータは止まることもなく稼働しているようだ。
誰かがエレベータを使って上昇してくる。
シドとイデアに緊張が走った。
チンとベルの音がして扉が開く。
そこから現れたのは、制服に身を包んだSeeD達。
「あなた達!」
「ここは我らがお守りします。それぞれの階に、残ったSeeDを配置しました。今回、ガルバディアのガーデンを動かしているのは軍ではないようです」
「…どういうこと? 指揮を執っているは誰?」
「こちらの指揮を執っているのはジョシュとレイです。ガルバディアのほうは不明ですが、向こうから乗りこんでこようとしているのは、我々と同じガーデンの生徒の様です」
「…あの子たちが…」
「では、軍が動いているわけではないのですね。…一体誰が」
「相手がどの程度の戦力なのかも不明なのですが、レイが学園内での重火器の使用の許可を求めています。宜しいですか?」
「…子供たちの安全の確保はどうなっていますか?」
「そちらも、ミゲルとアンジー…アンジェリカが先頭に立って引率を。すでに内部に敵が侵入してきているため、館内放送は避けました」
「…わかりました。許可しましょう」
「!! あなた!」
「…ただし、こちらから手を出してはいけません。あくまでも正当防衛を目的としての使用のみ許可します」
「ありがとうございます。…おい、すぐに通達してくれ! …それから、以降のエレベータの使用はできなくしますが宜しいですか?」
「…ええ、いいわ」
「自分はアランと言います。SeeDクラスA、バラムから漸く任務を終えて帰還した途端にこれで、報告もできずに申し訳ありません」
「いいえ、お願いしますね、アラン」
操舵室の扉に鍵がかけられていたのを確認したアランは、一緒に来たSeeD達に指示を出す。
「…こんなんでは駄目だ。もっとバリケードを作るんだ! 学園長、学園長室のテーブルと椅子、お借りします!」
操舵室の隣のスペースに新しく作られた学園長室から、次々にテーブルや椅子、キャビネットまで運び出して操舵室への扉の前に積み上げていく。
そうしているうちに、階下から人の悲鳴や銃声が聞こえてきた。
「来たぞ!全員配置に付け!」


「…あ、ああ…」
「もう、やめて下さい!」
イデアを庇うように両肩を抱き寄せ、シドは懇願する。
そう広くはないエレベータホールは、血の海に染まっていた。
積み上げられたバリケードは破られ、ガーデンの航行は停止していた。
この僅かな時間で、正SeeDを全員倒し、ここまでやってきたガルバディアの生徒達。
その手には軍さながらに重火器が握られ、帯剣している者もいる。
「お久しぶりです、マスターシド。そして、初めまして、と言えますかな、イデア学園長」
「…久しぶりですね」
「………」
生徒たちの間を抜けるようにして、ガーデンの色とは対照的な濃紺のスーツを着た若者が前に出てきた。
ここで働く教官たちとそう歳はかわらないだろう。
シドは彼と面識がある。彼こそ、歴代最年少で学園長となったガルム・ヘンデル。
あのガルバディア国大統領の息子である。
「…ヘンデル学園長、なぜこんなことを…」
「これは、おかしなことを。 身に覚えがないとは言わせませんよ」
「ガルバディアガーデンまで起動させて、学園長自ら乗り込んで来られるような非礼を働いた覚えはありませんが」
「よく言いますね! これでもまだ白を切るおつもりですか」
ガルムが取りだしたのは携帯用のモニタ付き端末。
そこに映し出されていたのは、空を舞う白い鳥の様な獣と、その背に乗った人物。
ガルバディアの兵士との激しい交戦が繰り広げられていた。
「我々がガーデンで雇った兵士なのですが、手に負えません。こちらで調べさせて貰いました。彼の名はサイファー・アルマシー。かつてはこのガーデンに在籍していた」
「………」
「彼は魔女派の一員であるという容疑もかけられている。…あの似顔絵はもうご覧になったはずです。彼が何をしたか、ご存じなのでしょう?」
「……う、く、くそ…」
「アラン!」
流れた血で片方の目が見えないのか、片手で顔を覆いながらもふらふらと立ち上がるアランは、それでも武器を拾おうとしている。
「…ほう、我らが特務隊の攻撃を受けてまだ立ちますか。優秀なSeeDだ」
「…特務、隊…?」
「我がガーデンが誇る精鋭ですよ。こちらのSeeDなど足元にも及ばぬ厳しい訓練を受けてきた者たちです。彼らが軍に入隊する頃には、あのエスタ軍にも引けを取らない強固な軍になるでしょう」
ガルバディアの制服を着た者が、表情一つ変えずにアランを叩き伏せる。
悲鳴を上げることもできずに、アランは壁に叩きつけられて気を失った。
「子供たちに手を出さないで!」
「…子供たち? これはおかしなことを言う魔女だ。 …失礼、今はもう魔女ではありませんでしたね」
「!!」
「ヘンデル学園長、何がお望みなのです」
「…バラムガーデンには、消えて頂きましょう」


→part.2
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