Chapter.55[ウィンヒル]
~第55章 part.2~
食堂に姿を現したエルオーネはどこか疲労の色を浮かばせていた。
結果を知りたい3人は急かすようにエルオーネに問いかける。
「ちょっと待って、一息つかせて」
テーブルの上にあったグラスを両手で持ち上げて、中の水をゆっくりと1口飲んだ。
「今、マーチン先生がもう一度スコールの診察に行ってくれているわ。それが終わったら、みんなでお話しましょうか」
すぐに戻るからと、皆をスコールのいる部屋へ行かせてエルオーネは食堂を後にした。
セルフィ達が部屋の扉をゆっくりと開くと、丁度診察が終わったのかマーチンが聴診器を鞄にしまうところだった。
「まだ完全とは言えないが、恐るべき回復力だ。もうほとんど傷は治っていると言ってもいい。…ただ、やはり体力の低下が気になるな。
きちんと食事を摂って力をつけなくては、傷だけ治っても歩くこともできなくなるぞ」
「ス……、レオンってば相変わらず小食なの?」
「何言ってんだいセフィ、彼は実は大食いなんだよ~、ね、ゼル」
「おお、たま~に食うのを忘れるだけだ」
「……お前ら…」
溜息と共に、額に手を当てて呆れたポーズを取る。
「お、それ、久しぶりに見たな」
マーチンは小さく微笑みを浮かべながら、屋敷の使用人に軽い食事を持ってこさせるように伝えた。
すぐに先程の使用人の女性が小さなトレーに乗せられた食事をスコールのいる寝台の横において退室した。
「んで、どうなんだ?リノアの居場所わかったのか?」
「あぁ」
「……行くんだろ? 俺も行くからな!」
スコールに否定されると思っていたゼルは有無を言わせないように決定稿を出した。
そんなゼルの考えとは逆に、なんとスコールは肯定の言葉をゼルに出したのだ。
これには少々ゼルも呆気にとられた。まさかこんなにもすんなりと同意されるとは思っていなかったのだ。
「僕たちはパス。子供たちのことが心配でさ」
「私も。アーヴィンと一緒。…ちょっとトラビアのことも心配だし」
「…ところでラグナ、ラグナロクは持ってきてないのか」
唐突にそんなことを聞いてくるスコールに、ラグナだけではなくそこにいた全員が驚きの顔になる。
「んな目立つもん乗ってくるわけねーだろ、…一応、お忍びなんだからな」
「…役に立たないな」
「うっわ、それが大統領に向かって言う言葉か!? 傷ついたぞ!」
「大統領だったら早く国に帰って国民の不満でも聞いてろ」
「なんだと! 俺だって遊んでるわけじゃ…」
「ラグナ君は遊んでるだろう…」
「…一つ、忠告してやる。 他国との国交をする際は気を付けることだな。特にガルバディアはな」
「どういう意味だ」
「あんた、今ガルバディアの大統領と話し合いをしてるらしいが?」
「おう」
「俺に言わせればそんなことは無駄だ」
「何だと!?」
「…はっきり言って、今の大統領はただのお飾りだ。ガルバディアも、そしてあんたもな」
「なっ!!」
「あんたやヘンデルが今の地位に居続けることができているのはどうしてだと思う?」
「………」
「国民の支持があるから?官僚からの推挙があったから? …確かにその通りだろう。だがそれは、その人物があんた達だからだ」
「…お、おい」
「実際、国民にとっては誰がトップに立とうが関係ない。政治の世界で本当に国を動かしているのはあんたじゃなく裏方の人間だ。
あんたたちはただ、出された意見や新しい法案にハンコを押すだけの人間なんだ」
「そんなことはない!」
「あるさ。…先日の魔女研究所への移送の件、あんたたちがいなくても事は進んだ」
「う、そ、それは…」
「あんたたちがここで世間から身を隠してまで話し合ってても、国は動いていく。だからさっさと国へ帰れと言うんだ。
うかうかしていると、あんたもヘンデルの二の舞になるぞ」
「…ちょ、それどういう意味だよ」
「…ガルバディアは、もう政府の力はない。それよりも、軍とガーデンには気を付けることだ。 …ゼル、行くぞ」
「お、おう」
寝台からすっと何事もなかったように立ち上がったスコールは、己の姿を見て愕然とすることになる。
「…誰か、服を持ってきてくれ…」
使用人が持ってきた黒い服に身を包むと、ソファーの背もたれにかけてあった自分が着ていた黒いジャケットを持ち上げた。
血に塗れ、肩から腕にかけてボロボロに引き裂かれている。
「(…気に入ってたんだがな…)」
服としての機能を果たすことはもうできそうになかったそれを見て、小さく溜息を零した。
「これを…」
「エルオーネ…」
「主人のだけど、サイズは合うはずだから」
「……すまない」
エルオーネから受け取ったのは、かつて若かりし頃に愛用していたものとそっくりな、ファーのついた黒いジャケット。
嫌でもあの頃の記憶が蘇ってくる。
バサリとそれを羽織ると、部屋を出た。
「おい、ちょっと待てよ、どういう意味だそりゃ! おいっ!!スコール!」
「ラグナ君、落ち着きたまえ」
後ろから、怒鳴るようなラグナの声が届くが、スコールは無視したまま足を進める。
扉がパタンと音を立てて閉まったところで、スコールは足をとめた。
「…あんたにも言えることだ。あんたの気持と行動次第で国はどちらにも転がることになる」
「……気付いていたのか」
「? あっ!」
そこに人がいるなど、ゼルには全く予想外のことだった。
片腕を包帯で吊った痛々しい姿ではあったが、その立ち姿はどこか慄然としていて、そして威厳を感じさせた。
エルオーネに呼ばれて、ここに来たのだろう。ガルバディア大統領、ボルド・ヘンデルがそこにいた。
「ただのお飾りの造花なら誰にでも務まる。あんたのような腰抜けでも、………魔女でもだ」
「…君は、…どこかで会った、か?」
「俺は魔女派じゃない。だが、ハリーの意思は受け継いでいる。…もしこれ以上リノアに何かあったら、 ………俺はあんたを殺す!!」
「っ!!」
大きな窓のある部屋の中とは違い、この先は窓もない廊下の突き当たり。
そこは屋敷の中でも比較的光の届きにくい薄暗い場所だ。
ボルドを睨みつけたスコールの目が、鈍い眼光を放ってさえ見えたのは、ボルドのきのせいだっただろうか。
自分よりも長身の男に睨みつけられて、ボルドはすっかり委縮してしまった。
言葉も出せる状態ではなく、ただただ汗が頬を伝った。
「待てスコール!ちゃんと説明していけ!」
「ラグナ君! 君たちも手伝ってくれ」
「ラグナ様、落ち着いて!」
ふいと目を逸らして歩き始めた若者の背中を見た瞬間、大きな音と共に扉が開かれた。
必死に先を行く若者を引き留めようとしているのか、ラグナはいつになく真剣な顔で怒鳴っている。
そんな彼を押し留めようとしているエスタの大統領補佐官、名をキロスと言ったか。
彼と、同じようにラグナに食らいついている若者たちは一体誰だ?
「…レウァール大統領」
「!! あ、ボルド、悪ぃな、呼び出して。ちょっと待っててくれ、あいつを連れ戻してくるから!」
「お、おい、ラグナ君!」
「一体、どういうことなんだ…」
若者はもうとっくに屋敷の外に出て行ってしまった。
それなのに、まだラグナはスコールを引き留めようと怒鳴り続けている。
ずっとその声は聞こえていた筈にも関わらず、スコールはコールマンのヘリを借りてさっさと搭乗してしまった。
ボルドもエルオーネと共に屋敷の外へ姿を現した。
ヘリの風圧で飛ばされそうになりながらも、尚もラグナは諦める素振りを見せない。
必死に止めようとするキロスもアーヴァインも疲れが限界のようだった。
玄関先で手を振るエルオーネに、ヘリの中から片手を上げて答えた後、スコールとゼルは大空へと飛び立った。
「…スコール、行っちゃったね~」
食堂に姿を現したエルオーネはどこか疲労の色を浮かばせていた。
結果を知りたい3人は急かすようにエルオーネに問いかける。
「ちょっと待って、一息つかせて」
テーブルの上にあったグラスを両手で持ち上げて、中の水をゆっくりと1口飲んだ。
「今、マーチン先生がもう一度スコールの診察に行ってくれているわ。それが終わったら、みんなでお話しましょうか」
すぐに戻るからと、皆をスコールのいる部屋へ行かせてエルオーネは食堂を後にした。
セルフィ達が部屋の扉をゆっくりと開くと、丁度診察が終わったのかマーチンが聴診器を鞄にしまうところだった。
「まだ完全とは言えないが、恐るべき回復力だ。もうほとんど傷は治っていると言ってもいい。…ただ、やはり体力の低下が気になるな。
きちんと食事を摂って力をつけなくては、傷だけ治っても歩くこともできなくなるぞ」
「ス……、レオンってば相変わらず小食なの?」
「何言ってんだいセフィ、彼は実は大食いなんだよ~、ね、ゼル」
「おお、たま~に食うのを忘れるだけだ」
「……お前ら…」
溜息と共に、額に手を当てて呆れたポーズを取る。
「お、それ、久しぶりに見たな」
マーチンは小さく微笑みを浮かべながら、屋敷の使用人に軽い食事を持ってこさせるように伝えた。
すぐに先程の使用人の女性が小さなトレーに乗せられた食事をスコールのいる寝台の横において退室した。
「んで、どうなんだ?リノアの居場所わかったのか?」
「あぁ」
「……行くんだろ? 俺も行くからな!」
スコールに否定されると思っていたゼルは有無を言わせないように決定稿を出した。
そんなゼルの考えとは逆に、なんとスコールは肯定の言葉をゼルに出したのだ。
これには少々ゼルも呆気にとられた。まさかこんなにもすんなりと同意されるとは思っていなかったのだ。
「僕たちはパス。子供たちのことが心配でさ」
「私も。アーヴィンと一緒。…ちょっとトラビアのことも心配だし」
「…ところでラグナ、ラグナロクは持ってきてないのか」
唐突にそんなことを聞いてくるスコールに、ラグナだけではなくそこにいた全員が驚きの顔になる。
「んな目立つもん乗ってくるわけねーだろ、…一応、お忍びなんだからな」
「…役に立たないな」
「うっわ、それが大統領に向かって言う言葉か!? 傷ついたぞ!」
「大統領だったら早く国に帰って国民の不満でも聞いてろ」
「なんだと! 俺だって遊んでるわけじゃ…」
「ラグナ君は遊んでるだろう…」
「…一つ、忠告してやる。 他国との国交をする際は気を付けることだな。特にガルバディアはな」
「どういう意味だ」
「あんた、今ガルバディアの大統領と話し合いをしてるらしいが?」
「おう」
「俺に言わせればそんなことは無駄だ」
「何だと!?」
「…はっきり言って、今の大統領はただのお飾りだ。ガルバディアも、そしてあんたもな」
「なっ!!」
「あんたやヘンデルが今の地位に居続けることができているのはどうしてだと思う?」
「………」
「国民の支持があるから?官僚からの推挙があったから? …確かにその通りだろう。だがそれは、その人物があんた達だからだ」
「…お、おい」
「実際、国民にとっては誰がトップに立とうが関係ない。政治の世界で本当に国を動かしているのはあんたじゃなく裏方の人間だ。
あんたたちはただ、出された意見や新しい法案にハンコを押すだけの人間なんだ」
「そんなことはない!」
「あるさ。…先日の魔女研究所への移送の件、あんたたちがいなくても事は進んだ」
「う、そ、それは…」
「あんたたちがここで世間から身を隠してまで話し合ってても、国は動いていく。だからさっさと国へ帰れと言うんだ。
うかうかしていると、あんたもヘンデルの二の舞になるぞ」
「…ちょ、それどういう意味だよ」
「…ガルバディアは、もう政府の力はない。それよりも、軍とガーデンには気を付けることだ。 …ゼル、行くぞ」
「お、おう」
寝台からすっと何事もなかったように立ち上がったスコールは、己の姿を見て愕然とすることになる。
「…誰か、服を持ってきてくれ…」
使用人が持ってきた黒い服に身を包むと、ソファーの背もたれにかけてあった自分が着ていた黒いジャケットを持ち上げた。
血に塗れ、肩から腕にかけてボロボロに引き裂かれている。
「(…気に入ってたんだがな…)」
服としての機能を果たすことはもうできそうになかったそれを見て、小さく溜息を零した。
「これを…」
「エルオーネ…」
「主人のだけど、サイズは合うはずだから」
「……すまない」
エルオーネから受け取ったのは、かつて若かりし頃に愛用していたものとそっくりな、ファーのついた黒いジャケット。
嫌でもあの頃の記憶が蘇ってくる。
バサリとそれを羽織ると、部屋を出た。
「おい、ちょっと待てよ、どういう意味だそりゃ! おいっ!!スコール!」
「ラグナ君、落ち着きたまえ」
後ろから、怒鳴るようなラグナの声が届くが、スコールは無視したまま足を進める。
扉がパタンと音を立てて閉まったところで、スコールは足をとめた。
「…あんたにも言えることだ。あんたの気持と行動次第で国はどちらにも転がることになる」
「……気付いていたのか」
「? あっ!」
そこに人がいるなど、ゼルには全く予想外のことだった。
片腕を包帯で吊った痛々しい姿ではあったが、その立ち姿はどこか慄然としていて、そして威厳を感じさせた。
エルオーネに呼ばれて、ここに来たのだろう。ガルバディア大統領、ボルド・ヘンデルがそこにいた。
「ただのお飾りの造花なら誰にでも務まる。あんたのような腰抜けでも、………魔女でもだ」
「…君は、…どこかで会った、か?」
「俺は魔女派じゃない。だが、ハリーの意思は受け継いでいる。…もしこれ以上リノアに何かあったら、 ………俺はあんたを殺す!!」
「っ!!」
大きな窓のある部屋の中とは違い、この先は窓もない廊下の突き当たり。
そこは屋敷の中でも比較的光の届きにくい薄暗い場所だ。
ボルドを睨みつけたスコールの目が、鈍い眼光を放ってさえ見えたのは、ボルドのきのせいだっただろうか。
自分よりも長身の男に睨みつけられて、ボルドはすっかり委縮してしまった。
言葉も出せる状態ではなく、ただただ汗が頬を伝った。
「待てスコール!ちゃんと説明していけ!」
「ラグナ君! 君たちも手伝ってくれ」
「ラグナ様、落ち着いて!」
ふいと目を逸らして歩き始めた若者の背中を見た瞬間、大きな音と共に扉が開かれた。
必死に先を行く若者を引き留めようとしているのか、ラグナはいつになく真剣な顔で怒鳴っている。
そんな彼を押し留めようとしているエスタの大統領補佐官、名をキロスと言ったか。
彼と、同じようにラグナに食らいついている若者たちは一体誰だ?
「…レウァール大統領」
「!! あ、ボルド、悪ぃな、呼び出して。ちょっと待っててくれ、あいつを連れ戻してくるから!」
「お、おい、ラグナ君!」
「一体、どういうことなんだ…」
若者はもうとっくに屋敷の外に出て行ってしまった。
それなのに、まだラグナはスコールを引き留めようと怒鳴り続けている。
ずっとその声は聞こえていた筈にも関わらず、スコールはコールマンのヘリを借りてさっさと搭乗してしまった。
ボルドもエルオーネと共に屋敷の外へ姿を現した。
ヘリの風圧で飛ばされそうになりながらも、尚もラグナは諦める素振りを見せない。
必死に止めようとするキロスもアーヴァインも疲れが限界のようだった。
玄関先で手を振るエルオーネに、ヘリの中から片手を上げて答えた後、スコールとゼルは大空へと飛び立った。
「…スコール、行っちゃったね~」