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Chapter.54[バラムガーデン]

~第54章 part.1~


低い唸り声のような音を立ててでかい歯車が回転を始めた。
巨大なモーターが回っている。
これだけの大きさとエネルギーで何を動かすつもりなのかと、サイファーは考えていた。
ここに自分達を連れてきたシュウの行動から、彼女だけはこれから起こることを予測できているのだろうと思える。
そしてそれは始まった。
突然床が傾き、不安定に動き始める。
ガーデンが起動したのだ。
「(…この感覚、以前もどこかで…)」
だがサイファーにはそれをゆっくり考えている余裕はなかった。
傾いたまま動き続ける床の上で、なんとかバランスを取って様子を伺った。
そこに強い衝撃が走る。
まるで何かにぶつかったときのような衝撃。
ただでさえ不安定だったところに加えられたこの力に耐えられる筈もなく、その勢いのままに体は弾き飛ばされた。
この地下の空間でこの構造に何の意味があるのかは不明だが、そこに連立していた棒によってそれ以上の落下は防がれた。
そして更に追い討ちをかけるようにして崩れてきた瓦礫が彼らを襲う。
シュウはこのガーデンの教官だ。
自分の身は守れるだろうと判断したサイファーはそこから崩れゆく瓦礫の中に身を投じた。
シュウが伸ばした手を掠めて、リノアが瓦礫と共に落下していくのが見えたからだ。
「サ……」
シュウの、自分の名を呼んだであろう声が聞こえたような気がしたが、すでに瓦礫の中に入り込んだサイファーには届かなかった。

『ヘイスト!』
己の胸に手を当て、自らに魔法をかける。
こうでもしなければ瓦礫の落下速度に追い付けないからだ。
自分以外の回りの全ての時の流れが遅くなる。
実際はサイファーの時の流れが早くなっているのだが、この魔法の影響下にある者にとっての感覚は前者である。
瓦礫の間を瓦礫そのものを足場にして先へ飛ぶ。
目的の人物を見止め、素早く抱え込んで瓦礫の到達点に視線を向けた。
間抜けな顔と姿勢のまま目の前まで迫ってきた瓦礫の塊に対して何の対処もせずに命を落とすつもりなのかと、サイファーは呆れてしまう。
半ば諦めていたのだろう、身を伏せることもしようとしないランスのそばに降り立って、まずはこの瓦礫から守る術を考えねばならなかった。
そうだ!と、サイファーは抱えたままのリノアに手を翳した。
『ドロー、バリア!』
上手い具合にリノアが防御魔法を持っていてくれた。
だがサイファーにはこの魔法を持つことができない。
すぐに放ってしまわねば魔力は霧散してしまう。
なるべくリノアとランスを近付けて、今取り出したばかりの魔法を2人目掛けて放った。
淡い光が2人を包み込む。
なんとか間に合った。
それを待っていたかのように、巨大な瓦礫は塊となって3人を飲み込んだ。
そのまま地下室の壁を破壊し、瓦礫は宙へ放り出された。
壁にぶつかった瞬間、中のオイルが気化したものに多少なりとも引火したのかもしれない。
でなければあんなに激しい爆風を生む筈がない。
穴が開いた瞬間に地下室内の膨張した空気が全て外に吸い出された為に、地下室内のオイルにまでは引火しなかったのだろう。
瓦礫の中から空へ飛び上がったサイファーは両手に2人の人間を抱えていた。
飛び上がった先にいたのは、見覚えのあるガルバディア軍の制服を着た兵士。
背に背負った何かの機械のようなもので自由に空を移動できる。
「ちぃっ!」
隠す必要もない盛大な舌打ちをして、片腕に抱えた人物に声をかける。
「おら、いつまで寝てやがる!それでも元SeeDかよ。ったく、俺は荷物は背負わねぇ主義なんだよ!てめえの身くらいはてめえで守りやがれ!俺についてくる気があるなら尚更な!」
「…サイファー、さん、 …お、俺…」
「…こいつを頼む」
「え、…ま、魔女…!」
「リノア、だ! しっかり抱えてろ。離したら、てめえを殺す!」
「!!」
サイファーの迸る殺気を感じて、ランスは言葉もなく頷くしかできなかった。
サイファーの脚力がどれほどのものかなど知る由もないが、上昇していた体は最高到達点に達し、そしてゆっくりと下降を始める。
途中で気を失ってしまっていたランスには、今の状況を理解できないでいた。
だが、今自分を抱えている力強い腕の持ち主がここにいるというだけで、安心感を覚えてしまう。
言われたままにリノアを受け取り、両腕でしっかりと抱き締めた。
「『レビテガ!』落ちることには変わりはないが、時間は稼げる。…ちょっと待ってろ」
「あ、あの! サイ……!!」
「グリフ、来い!」
サイファーが今から何をするつもりかと聞こうと思って、ランスは言葉を飲み込んだ。
明らかに落下速度に差が開いている。
もうサイファーは自分達よりも随分下になっていた。
見下ろしたところで初めてランスはガーデンの全貌を目にし、そして状況を知った。
海の上を飛ぶガーデンと、その真横にピタリと張り付いている、もう一つのガーデン。
あの赤い外壁は、ガルバディアのものか。
その様子を目の当たりにして、ランスの頭に蘇る、あの日の記憶。
幼い頃の、恐怖。
あの時は、教官が傍にいてくれた。
優しい女性の教官。
そして自分を助けてくれた騎士の存在。
今もまたガルバディアが襲撃してきて、自分の傍には年上の女性。
美しいG.F.を自在に操る騎士がいる。
なんて酷似しているのか!
1つだけ違うのは、あの時は敵だった魔女が、今は守るべき存在であるということ。



→part.2
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