Chapter.53[トラビア]
~第53章 part.3~
幾人かの生徒が、例の小部屋のような装置の前に列を作った。
「私は検査を受けるわ。何か変なものに感染してたら嫌だもの」
「検査って言っても、すぐに終わるみたいだし、一応受けといたほうがいいと思うんだ」
だがそういう生徒はほんの一握りでしかなかった。
他の生徒たちは校舎の中から様子を伺っているだけのようだ。
それ以上に、兵士の手当てやら物資の運搬やらで忙しく走り回っており、それどころではなさそうだ。
輸送ヘリに次々と運び出される白い簡易な箱。
このガーデンで大急ぎで用意した兵士たちの亡骸を入れた棺である。
まるで荷物でも積むかのように積み重ねられ、ヘリに乗せられる。
その中に納められたものが何であるか、わかっているのだろうか…。
1つの荷台がいっぱいになると、上空に待機していた次の輸送ヘリが入れ替わりで着陸する。
すでに棺は全部運びだしたのか、軍がよく使う黒い死体袋がいくつも運ばれてきた。
どれだけの数の兵士の命が奪われたのか、嫌でも実感する。
ガーデンの生徒たちの肩を借りながら校舎を出てくる兵士も幾人か見える。
担架で運ばれる兵士は意識があるのさえわからない。
オデッサの元に防護服を着た人物が近づいてくる。
「収容、完了しました」
「わかりました。引き揚げましょう」
「はっ」
ガルバディア式の敬礼をして、その人物は輸送ヘリのほうへ駆けて行った。
「検査を受ける人はもういないの?」
一声大きな声でそう呼びかけて、ぐるりと辺りを見渡す。
鼻をフンと鳴らすように嘆息を零して、キスティスのほうを振り向いた。
「会えて良かったわ、キスティ。でもこれで、本当にさよならね」
「オデッサ、まっ……」
「さ、撤収よ!すぐに片付けて! 博士、帰りましょ」
「うむ」
引き留めようと手を伸ばしたキスティスを無視して、オデッサはヘリに向かって歩き出した。
「ああ、そうそう、1つ言い忘れてたわ!」
博士と呼ばれる人物をヘリに乗せてから、オデッサはこちらを振り返った。
「あんなことになったけど、私、ガーデンには感謝してるの。だって、おかげで私が世界を救えるんですもの!すごいでしょ?キスティ、…フフフ」
「何を、言ってるの…?」
強い風を巻き上げて、轟音と共にヘリは浮かび上がった。
小さな窓からこちらに手を振るオデッサの姿が見えたが、キスティスはただ黙ってそれを見つめていた。
ガルバディア軍の輸送ヘリと、機関のマークのついたヘリが飛び去り、辺りには再び静けさが訪れた。
「あの、キスティス教官長…」
「さあ、私達も撤収よ。ガーデンに帰還します」
「あ、あの……」
一緒にいたSeeD達はキスティスに聞きたいことがたくさんある。
それはキスティス自身にもよくわかっていた。
だがそれ以上に、彼女も知りたいと思っていたのだ。
かつての友であった人物の言動について。
「教官長、あの、お願いがあるのですが…」
突然SeeDの一人が申し出た。
「何かしら?」
「私、ここに残りたいんです。ここでみんなのことを手伝いたい。…私もSeeDだから、きちんと報告に行かなきゃってことはよくわかります。
でも、みんなの力になりたいんです」
「あなたは、…そうね、あなたはトラビア出身だったわね。…いいでしょう、特別に許可します。こんな状況ですもの。少しでも人手は多いほうがいいわ」
「じゃあ、俺も手伝います。いいですか、教官長?」
「ええ、ただし、一段落したらすぐに戻って報告すること、いいわね」
「はい、ありがとうございます!」
「それじゃあ、私達はこれで引き揚げるわよ。後はお願いね」
ガーデンの敷地の外までやってきてから、キスティスはふいに後ろを振り返った。
「………」
「…教官長? どうかしたんですか?」
「え、あ、なんでもないわ、行きましょ」
「(やっと、あそこまで復興したばかりだったのに…、セルフィがまた悲しむわね…。私達にできることがあればいいんだけど)」
裏口からそっと出てきたことが正解であった。
ガーデンの正面や周囲には多くの人が集まってきていた。
この国の治安部隊や政府の人間も混じっているのか、場違いな黒い高級車が見えた。
他にも報道関係者であることが一目でわかる者たちや、更に規制線が張られた外側には野次馬が山と集まっていた。
これだけのことがあったのだ。
人々の興味を惹かないはずがない。
連日報道されているデリングシティやティンバーのようにならないことだけが望まれる。
10年前のあの時、あの時ここをミサイルで攻撃した魔女は、敵だった。
だから素直に魔女を嫌悪したし、被害を受けたこのガーデンの凄惨さを悲観できた。
だが、今は…
再度魔女に関連したことで被害を被ったガーデン。
あの時敵であった魔女は、今は、自分のよく知る人物なのだ。
確かに直接の加害者はガルバディアかもしれない。
だがその原因は、…やはり魔女なのだ。
10年前のように素直にガルバディアを憎むべきなのか、ガーデンの受けた被害の大きさに心を痛めるべきなのか、それともSeeDを指導する立場として感情移入すべきではないのか、キスティスは揺れていた。
立場上、SeeD達の前で気持ちを表に出すことはできない。
更にあの機関の来訪と旧友との再会。
本当に、どうしたらいいのかと頭と気持ちの整理が追いつかないでいた。
トラビアの港へ到着して、ここに来るために乗り込んできた高速水上艇まできて、自分達を連れてきてくれた運転手がいないことに気が付いた。
そこにSeeD達を残して、キスティスは運転手を探しに行くことにした。
そんなことは自分達がやるとSeeD達は言ってくれたが、何か理由を付けて体を動かしたいと思ったのだ。
近くにはいるだろうと、港近くの店に入る。
こじんまりとしたカフェのようだったが、客はいなかった。
「ここじゃないわね」
通りの端にあったドアの上に、壊れかけた小さな看板がぶら下がっているのを見て、ドアを開けた。
そう広くはないパブのようだ。
テーブルには数人の客と、カウンターに見覚えのある背中があった。
例の運転手だ。
運転手がこんなところで一杯やってるなど前代未聞だったが、足早に背後に近付いたキスティスは何を思ったのか、そこにあったグラスの中身を一気に飲み干した。
「!!」
「…ふう」
「驚いた、…先生か。…どうかしたんスか…?」
「どうもこうもないわよ! ほら、行くわよ」
「…う、うっス」
幾人かの生徒が、例の小部屋のような装置の前に列を作った。
「私は検査を受けるわ。何か変なものに感染してたら嫌だもの」
「検査って言っても、すぐに終わるみたいだし、一応受けといたほうがいいと思うんだ」
だがそういう生徒はほんの一握りでしかなかった。
他の生徒たちは校舎の中から様子を伺っているだけのようだ。
それ以上に、兵士の手当てやら物資の運搬やらで忙しく走り回っており、それどころではなさそうだ。
輸送ヘリに次々と運び出される白い簡易な箱。
このガーデンで大急ぎで用意した兵士たちの亡骸を入れた棺である。
まるで荷物でも積むかのように積み重ねられ、ヘリに乗せられる。
その中に納められたものが何であるか、わかっているのだろうか…。
1つの荷台がいっぱいになると、上空に待機していた次の輸送ヘリが入れ替わりで着陸する。
すでに棺は全部運びだしたのか、軍がよく使う黒い死体袋がいくつも運ばれてきた。
どれだけの数の兵士の命が奪われたのか、嫌でも実感する。
ガーデンの生徒たちの肩を借りながら校舎を出てくる兵士も幾人か見える。
担架で運ばれる兵士は意識があるのさえわからない。
オデッサの元に防護服を着た人物が近づいてくる。
「収容、完了しました」
「わかりました。引き揚げましょう」
「はっ」
ガルバディア式の敬礼をして、その人物は輸送ヘリのほうへ駆けて行った。
「検査を受ける人はもういないの?」
一声大きな声でそう呼びかけて、ぐるりと辺りを見渡す。
鼻をフンと鳴らすように嘆息を零して、キスティスのほうを振り向いた。
「会えて良かったわ、キスティ。でもこれで、本当にさよならね」
「オデッサ、まっ……」
「さ、撤収よ!すぐに片付けて! 博士、帰りましょ」
「うむ」
引き留めようと手を伸ばしたキスティスを無視して、オデッサはヘリに向かって歩き出した。
「ああ、そうそう、1つ言い忘れてたわ!」
博士と呼ばれる人物をヘリに乗せてから、オデッサはこちらを振り返った。
「あんなことになったけど、私、ガーデンには感謝してるの。だって、おかげで私が世界を救えるんですもの!すごいでしょ?キスティ、…フフフ」
「何を、言ってるの…?」
強い風を巻き上げて、轟音と共にヘリは浮かび上がった。
小さな窓からこちらに手を振るオデッサの姿が見えたが、キスティスはただ黙ってそれを見つめていた。
ガルバディア軍の輸送ヘリと、機関のマークのついたヘリが飛び去り、辺りには再び静けさが訪れた。
「あの、キスティス教官長…」
「さあ、私達も撤収よ。ガーデンに帰還します」
「あ、あの……」
一緒にいたSeeD達はキスティスに聞きたいことがたくさんある。
それはキスティス自身にもよくわかっていた。
だがそれ以上に、彼女も知りたいと思っていたのだ。
かつての友であった人物の言動について。
「教官長、あの、お願いがあるのですが…」
突然SeeDの一人が申し出た。
「何かしら?」
「私、ここに残りたいんです。ここでみんなのことを手伝いたい。…私もSeeDだから、きちんと報告に行かなきゃってことはよくわかります。
でも、みんなの力になりたいんです」
「あなたは、…そうね、あなたはトラビア出身だったわね。…いいでしょう、特別に許可します。こんな状況ですもの。少しでも人手は多いほうがいいわ」
「じゃあ、俺も手伝います。いいですか、教官長?」
「ええ、ただし、一段落したらすぐに戻って報告すること、いいわね」
「はい、ありがとうございます!」
「それじゃあ、私達はこれで引き揚げるわよ。後はお願いね」
ガーデンの敷地の外までやってきてから、キスティスはふいに後ろを振り返った。
「………」
「…教官長? どうかしたんですか?」
「え、あ、なんでもないわ、行きましょ」
「(やっと、あそこまで復興したばかりだったのに…、セルフィがまた悲しむわね…。私達にできることがあればいいんだけど)」
裏口からそっと出てきたことが正解であった。
ガーデンの正面や周囲には多くの人が集まってきていた。
この国の治安部隊や政府の人間も混じっているのか、場違いな黒い高級車が見えた。
他にも報道関係者であることが一目でわかる者たちや、更に規制線が張られた外側には野次馬が山と集まっていた。
これだけのことがあったのだ。
人々の興味を惹かないはずがない。
連日報道されているデリングシティやティンバーのようにならないことだけが望まれる。
10年前のあの時、あの時ここをミサイルで攻撃した魔女は、敵だった。
だから素直に魔女を嫌悪したし、被害を受けたこのガーデンの凄惨さを悲観できた。
だが、今は…
再度魔女に関連したことで被害を被ったガーデン。
あの時敵であった魔女は、今は、自分のよく知る人物なのだ。
確かに直接の加害者はガルバディアかもしれない。
だがその原因は、…やはり魔女なのだ。
10年前のように素直にガルバディアを憎むべきなのか、ガーデンの受けた被害の大きさに心を痛めるべきなのか、それともSeeDを指導する立場として感情移入すべきではないのか、キスティスは揺れていた。
立場上、SeeD達の前で気持ちを表に出すことはできない。
更にあの機関の来訪と旧友との再会。
本当に、どうしたらいいのかと頭と気持ちの整理が追いつかないでいた。
トラビアの港へ到着して、ここに来るために乗り込んできた高速水上艇まできて、自分達を連れてきてくれた運転手がいないことに気が付いた。
そこにSeeD達を残して、キスティスは運転手を探しに行くことにした。
そんなことは自分達がやるとSeeD達は言ってくれたが、何か理由を付けて体を動かしたいと思ったのだ。
近くにはいるだろうと、港近くの店に入る。
こじんまりとしたカフェのようだったが、客はいなかった。
「ここじゃないわね」
通りの端にあったドアの上に、壊れかけた小さな看板がぶら下がっているのを見て、ドアを開けた。
そう広くはないパブのようだ。
テーブルには数人の客と、カウンターに見覚えのある背中があった。
例の運転手だ。
運転手がこんなところで一杯やってるなど前代未聞だったが、足早に背後に近付いたキスティスは何を思ったのか、そこにあったグラスの中身を一気に飲み干した。
「!!」
「…ふう」
「驚いた、…先生か。…どうかしたんスか…?」
「どうもこうもないわよ! ほら、行くわよ」
「…う、うっス」