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Chapter.53[トラビア]

~第53章 part.2~


「…オデッサ…?」
老人を助け起こした女性が再びファイルを手にして、博士と呼ばれた老人の背後に起立した。
キスティスの呟きに、SeeD達も女性に注目してその顔に動揺を浮かべた。
そこにいたSeeD達には、よく知られた名だったからだ。
老人もその様子に気が付いたのか、背後を振り返って女性の顔を見つめた。
「なんじゃ、知り合いか?」
「…ええ、博士。 …久しぶりね、キスティ。…いえ、今はトゥリープ教官長と呼んだ方がいいのかしら」
「……なぜ、あなたがここに?」
「あれから、色々あったのよ」
「…そこが、どんなところかわかってるの!?」
キスティスの差す、“そこ”を知る者はそう多くはないだろう。
彼らを運んできた大型の輸送ヘリの機体、彼らが着用している防護服や白衣にも、その機関を示すエンブレムがついている。
「もちろんよ。 …トゥリープ教官長、あんたには感謝してるわ。あのままガーデンに居たら私は壊れてた」
そう言って、オデッサと呼ばれた女性はキスティスを鋭い眼光で睨みながら、口元に美しい笑みを浮かべた。
「……あなたはもう、壊れてたわ」

「…教官長、…あの、…あの人は…?」
キスティスの後ろから恐る恐る声を掛けてきたのは、SeeDの一人。
それまでも、彼女の後ろで互いに囁き合っていた声は聞こえていた。
「あなた達もよく知っているはずよ。 …でもまさか、MSIにいたなんて…」
「…MSI?」
ここにいるSeeD達の中には、その単語の意味を知る者はいない。
キスティス自身にも、その本質まではわかってはいなかった。
ただ、いい噂は聞いたことはない。
そこがどんな機関なのかはっきりと理解しているわけではなかったが、嫌な予感だけが胸の中をザワめかせる。

博士と呼ばれる老人の一声で、彼の部下なのか、研究員らしき白衣を着た男達がヘリの中から怪し気な機械を次々と運び出し始めた。
一体何を始める気なのか、見ている者には全く理解できない。
「…何を、始める気なの、オデッサ?」
「あなたには関係ないわ。あなた達がどうしてここにいるのか、こちらが聞きたいくらいよ。大方、またおかしな任務でも引き受けたんでしょうけど」
「………」
「あなたに追い出されてから、私はやっと自由になれたの。私は私の夢を叶える為にここにいるの。私たちの邪魔はしないで!」
「…夢?」
「さあ、博士、行きましょう」
「オデッサ!!待って!」
「もうあなたと話す事はないわ、トゥリープ教官長。私たちは忙しいの。あなた達はさっさとガーデンに帰って報告でも何でもすればいいわ」
「…オデッサ……」

思わず彼女のほうへ伸ばした腕は、寂しく下ろされた。
何の装置なのか全く理解できないが、スイッチを入れたりダイヤルを回したりキーボードで何かを打ちこんでいたりと、オデッサは忙しそうに作業をしている。
その横でモニターとにらめっこをしながら、時折オデッサに一言二言何かを言っている老人は、その度に画面に厳しい視線を向けていた。
キスティスは彼らに更に声を掛けようか逡巡していた。
そんな彼女のことはお構いなしに彼らの作業は進んでいく。
無線機で何かを指示した老人は、そこで一休みとでも言うように用意された簡易椅子にどかりと腰を下ろした。
すぐに校内に散らばっていた防護服の者達が戻り、ヘリの中から下ろした幾つもの箱を等間隔でガーデンを取り囲んだ。
何か合図があったのだろう、一斉に箱のふたを開けるとごついレールのようなものが飛び出し並んだ隣の箱同士を結んだ。
辺りには金属音が響き渡り、ガーデンを取り囲んだレールから光の筋が網の目のように出て高い塀を作ってしまった。
ガーデンの中にいた生徒たちも、ただならぬ事情を汲んだようだ。
さながら光の檻に閉じ込められた形となったのだから。

「オデッサ、これはどういうこと…!?」
キスティスは彼女の詰め寄った。
「近付かないで!」
「!!」
掌で拒絶の意を表したオデッサが立ちあがる。
睨みつけるようにオデッサを見つめるキスティスはそこで足を止めた。
「別に危害を加えるつもりはないわ。ただ、ちょっとした検査をするだけよ」
「ちょっとした、ですって? それにしては随分と物々しいわね。」
「当然よ。何せ、あなたたちは感染の疑いがかけられているんだもの」
「…感染…!? 一体どういうことなの?」
オデッサは睨みつけるようにしていた視線を落とし、ふっと小さく嘆息を零した。
「…相変わらず、あなたたちは何も知らないのね」
「……?」
「いいわ、教えてあげる。 私の父が研究者だったことは知ってるわよね」
「ええ、確か、遺伝子の……」
「表向きはね」
オデッサは、ガルバディアで産まれた。研究者の娘として。
彼女の父は様々な地に赴いてはその土地特有の遺伝子の研究をしていたのだ。
やがて娘は成長し、当時住んでいたのがバラムだったということもあり、オデッサはバラムガーデンへ入学することになった。
月日は流れ、やがて父は再びガルバディアに戻ることになった。
オデッサもSeeDとして父の仕事を手伝う日を夢見て必死に訓練に努めた。
だが10年前、あの魔女戦争が起こった。
ガルバディアにいた彼女の父は、戦争で壊された建物の下敷きになって命を落としたのだ。
残された父親の遺品と膨大な研究資料の中から、オデッサは初めて父が何を研究していたのかを知る。
そして魔女を恨んだ。
「父が残した研究で、魔女には非常に強い感染力のある遺伝子が存在することがわかったわ。
 それに感染することで、人間にも魔女が使うものとよく似た疑似魔法を使えるようになることもね」
「…え……」
「過去の歴史を振り返れば簡単に実証できる事よ」
「それとこの学園でのあなた達の行動に何の関わりがあると言うの?」
「…はぁ、…本当に、教官長が聞いて呆れるわ。何も知らないんですもの」
「なんですって!!」

防護服を身に纏った人物が一人、オデッサの元に歩み寄った。
耳打ちするかのように小声で何かを話している。
その内容までは、キスティスの耳には届かなかった。
「…わかったわ。直ちに帰還します。すぐに兵士の死体を運んで!」
「了解しました」
「その間に、あなたたちの検査を終わらせてしまわないとね」
防護服を着た者たちが、あっという間に組み立てた簡素な更衣室の様な小さな小部屋は不気味な光に照らされていた。
まだ日が沈むには早い時間で、それなのに小部屋の中の光が酷く陰妖な色に見えて仕方がなかった。
「さあ、誰から検査を受けるの?」
「オデッサ、さっきの話の続きは……」
「教官長自ら先達てくれるなんて流石ね。…残念だけど、ゆっくり話してる時間はなくなったわ。
 後はガーデンに戻ってから好きなだけ調べて頂戴。…得意でしょ?“優等生のキスティ”?」



→part.3
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