Chapter.53[トラビア]
~第53章 part.1~
愛用の武器である鞭を一振りしてから、それを腰に納めたキスティスはゆっくりと立ち上がって皆のほうを振り向いた。
すでに捕らえられ、拘束された数人の兵士たちが短い悲鳴を漏らす。
特殊な訓練を受けた者達であるにも関わらず、キスティスの放つ殺気に萎縮してしまっている。
「教官長、こいつらどうします?」
「絶対、バラムガーデンを犯人扱いするに決まってるんだ。いっそのことここで…」
「ひっ…!」
「お止めなさい」
「しかし教官長!」
「私達ガーデンの立場は、もう今更取り繕ったところで同じです。…後はトラビアに任せましょう。ガーデンか政府か、決定を下すのは彼らの権利よ」
「…はい」
キスティスとSeeD達が講堂を出たところで、トルマとサリーが待っていた。
「学園長、お騒がせして申し訳ありません」
「いえ、私は何も見ていませんし、聞いていませんから」
「感謝します」
それにしても…、とキスティスは思考を巡らせた。
なぜ、こんなにも早くリノアがトラビアにいることがバレたのだろうか。
あんなにエスタへの移送を大々的に報道したというのに。
考えたくはないが、ここトラビアにガルバディアのスパイでもいたのだろうか?
可能性は、限りなく低いとしても無いわけでは無い。
だが、今回の襲撃はあの研究所爆破事件の後だ。
その件の容疑者の確保の為に、フリーマンはバラムガーデンへやってきた。
…ならばトラビアへはなぜ?
「学園長!」
トルマを呼ぶ声に顔を上げた。
廊下の向こうからこちらに手を振っている生徒が見えた。
探していたのか、すぐにこちらに向かって走ってきた。
「こちらにおいででしたか、学園長」
息一つ乱さず、トルマの前できれいな敬礼を捧げる。
「どないした?」
「通信が回復しました。騒ぎを聞き付けたらしい、町の公安が学園長に事情を聞きたいと言ってきていますが…」
「わかった、ほんなら行こか。 トゥリープ教官長はどうされます?」
「私も通信機をお借りしてもいいかしら? ガーデンに連絡しておきたいの」
「そらもちろんや!」
通信機のある教官室まではそう長い距離ではない。
きびきびと復興作業に当たる生徒達や教官達の動きは見ていて気分がいい。
教官室に入ると、トルマはすぐに学園長室に籠った。
トラビア政府の管理下に位置付けされているトラビアのガーデンのことはバラムには口出しすることはできないし、する必要もない。
後は彼らの話し合い次第になるのだろう。
キスティスはすぐにバラムガーデンへ通信を入れた。
応えたのは、バラムガーデンの学園長、イデアだ。
己自身で見聞きした全てを、キスティスは報告した。
ガーデンのほうは今のところは落ち着いているようで、キスティスは自分の心配が杞憂に終わったことに安堵した。
礼を言って教官室を後にし、廊下で待機していたSeeD達にここの復旧作業の手伝いを言おうとした時だった。
教官室前の廊下からも見渡すことができる校庭から生徒達の声が上がった。
何事かと窓を開けて顔を出す。
生徒達の驚きの声の原因はすぐに判明した。
上空から響く、飛行機械特有のプロペラ音といくつかの影。
「あれは…!?」
「ガルバディアのヘリだ!」
ちゃっかり用意していた双眼鏡を覗いた者が、機体に描かれたガルバディアの国旗を見止めて叫んだ。
「また攻撃してくる気か!?」
「…いいえ、あれは輸送機ね」
「なんだ、じゃあ負傷者を運ぶつもりなのか」
安堵の声はバラムガーデンのSeeD達よりもトラビアガーデンの生徒達のほうが大きいだろう。
それにしても、随分早い到着だと、キスティスは感じた。
軍用の高速ヘリにやっと追い付いたという感じで、連絡を受けてから出発したわけではないだろう。
やがて校舎の中でもプロペラの音が煩いほどになってきた。
慌てたようにトルマはじめ教官連中が校庭に集まる。
キスティスも後に続いた。
校庭に降り立った数台のヘリはいずれも大型の輸送用のもので、全てがそこに降りることができなかったのだろう、まだ上空を旋回するものもあった。
まだ回転を続けるプロペラが生み出す強風の中、舞い上がる長い髪を押さえながらキスティスはヘリに近付いた。
ヘリの橋脚が地につくと同時に、一斉にドアが開いて中から人が飛び出した。
「!?」
それは兵士ではなく、防護服に身を包み、手に怪しげな機械を持った姿。
ガーデンのあちこちに走り去って行った。
トルマにも状況を理解することができないのだろう、驚きを隠すこともなくうろたえてしまっている。
キスティス達には目もくれず、何かを調べて回っている彼らが不気味に思えた。
そこにいた者達には理解できなかっただろうが、キスティスだけはあるものをしっかりと見つけていた。
最後に漸く、といった感じにヘリからもう一人男が降りてきた。
高齢なのだろう、真っ白な頭髪をヘリからの風で揺らしている。
ゆっくりと足元を確かめるように一歩一歩降りてきた。
じっとキスティスを睨み付けながら。
高齢者特有の深い皺が刻まれた眉間、垂れた眉、だがその眼光は睨んだ獲物を逃さぬように鋭い。
キスティスは思わず息を飲んだ。
次の瞬間!
…ガッ、ゴン、ガラッ、…ベチャッ!
「!」
老人が足を踏み外し、盛大で奇妙な効果音を上げながら地面に顔面から落下してしまった。
「………」
「………」
キスティスもSeeD達もどう反応していいものかわからないまま、沈黙が流れた。
「もう!だから中で大人しく待ってて下さいって言ったじゃありませんか!」
老人を叱責するような強い口調と共にヘリの中からもう一人姿を現した。
髪を後頭部で綺麗に纏め、眼鏡をかけた勝ち気そうな若い女性だ。
手に持っていた、書類が収められているであろう何冊かのファイルを足元に無造作に投げ出して慌てて老人の側へ駆け寄った。
その身のこなしは颯爽としており、女性が高い身体能力を持っていることを窺わせる。
そこにいた者達の目を一番引いたのは、2人の服装だ。
どこぞの医師かと思える真っ白な白衣。
「年寄り扱い「するな」……」
「でしょ、だけど、博士は間違いなく年寄りですから」
文句とも取れるような勝ち気な言葉だが、優しく老人を助け起こした。
→part.2
愛用の武器である鞭を一振りしてから、それを腰に納めたキスティスはゆっくりと立ち上がって皆のほうを振り向いた。
すでに捕らえられ、拘束された数人の兵士たちが短い悲鳴を漏らす。
特殊な訓練を受けた者達であるにも関わらず、キスティスの放つ殺気に萎縮してしまっている。
「教官長、こいつらどうします?」
「絶対、バラムガーデンを犯人扱いするに決まってるんだ。いっそのことここで…」
「ひっ…!」
「お止めなさい」
「しかし教官長!」
「私達ガーデンの立場は、もう今更取り繕ったところで同じです。…後はトラビアに任せましょう。ガーデンか政府か、決定を下すのは彼らの権利よ」
「…はい」
キスティスとSeeD達が講堂を出たところで、トルマとサリーが待っていた。
「学園長、お騒がせして申し訳ありません」
「いえ、私は何も見ていませんし、聞いていませんから」
「感謝します」
それにしても…、とキスティスは思考を巡らせた。
なぜ、こんなにも早くリノアがトラビアにいることがバレたのだろうか。
あんなにエスタへの移送を大々的に報道したというのに。
考えたくはないが、ここトラビアにガルバディアのスパイでもいたのだろうか?
可能性は、限りなく低いとしても無いわけでは無い。
だが、今回の襲撃はあの研究所爆破事件の後だ。
その件の容疑者の確保の為に、フリーマンはバラムガーデンへやってきた。
…ならばトラビアへはなぜ?
「学園長!」
トルマを呼ぶ声に顔を上げた。
廊下の向こうからこちらに手を振っている生徒が見えた。
探していたのか、すぐにこちらに向かって走ってきた。
「こちらにおいででしたか、学園長」
息一つ乱さず、トルマの前できれいな敬礼を捧げる。
「どないした?」
「通信が回復しました。騒ぎを聞き付けたらしい、町の公安が学園長に事情を聞きたいと言ってきていますが…」
「わかった、ほんなら行こか。 トゥリープ教官長はどうされます?」
「私も通信機をお借りしてもいいかしら? ガーデンに連絡しておきたいの」
「そらもちろんや!」
通信機のある教官室まではそう長い距離ではない。
きびきびと復興作業に当たる生徒達や教官達の動きは見ていて気分がいい。
教官室に入ると、トルマはすぐに学園長室に籠った。
トラビア政府の管理下に位置付けされているトラビアのガーデンのことはバラムには口出しすることはできないし、する必要もない。
後は彼らの話し合い次第になるのだろう。
キスティスはすぐにバラムガーデンへ通信を入れた。
応えたのは、バラムガーデンの学園長、イデアだ。
己自身で見聞きした全てを、キスティスは報告した。
ガーデンのほうは今のところは落ち着いているようで、キスティスは自分の心配が杞憂に終わったことに安堵した。
礼を言って教官室を後にし、廊下で待機していたSeeD達にここの復旧作業の手伝いを言おうとした時だった。
教官室前の廊下からも見渡すことができる校庭から生徒達の声が上がった。
何事かと窓を開けて顔を出す。
生徒達の驚きの声の原因はすぐに判明した。
上空から響く、飛行機械特有のプロペラ音といくつかの影。
「あれは…!?」
「ガルバディアのヘリだ!」
ちゃっかり用意していた双眼鏡を覗いた者が、機体に描かれたガルバディアの国旗を見止めて叫んだ。
「また攻撃してくる気か!?」
「…いいえ、あれは輸送機ね」
「なんだ、じゃあ負傷者を運ぶつもりなのか」
安堵の声はバラムガーデンのSeeD達よりもトラビアガーデンの生徒達のほうが大きいだろう。
それにしても、随分早い到着だと、キスティスは感じた。
軍用の高速ヘリにやっと追い付いたという感じで、連絡を受けてから出発したわけではないだろう。
やがて校舎の中でもプロペラの音が煩いほどになってきた。
慌てたようにトルマはじめ教官連中が校庭に集まる。
キスティスも後に続いた。
校庭に降り立った数台のヘリはいずれも大型の輸送用のもので、全てがそこに降りることができなかったのだろう、まだ上空を旋回するものもあった。
まだ回転を続けるプロペラが生み出す強風の中、舞い上がる長い髪を押さえながらキスティスはヘリに近付いた。
ヘリの橋脚が地につくと同時に、一斉にドアが開いて中から人が飛び出した。
「!?」
それは兵士ではなく、防護服に身を包み、手に怪しげな機械を持った姿。
ガーデンのあちこちに走り去って行った。
トルマにも状況を理解することができないのだろう、驚きを隠すこともなくうろたえてしまっている。
キスティス達には目もくれず、何かを調べて回っている彼らが不気味に思えた。
そこにいた者達には理解できなかっただろうが、キスティスだけはあるものをしっかりと見つけていた。
最後に漸く、といった感じにヘリからもう一人男が降りてきた。
高齢なのだろう、真っ白な頭髪をヘリからの風で揺らしている。
ゆっくりと足元を確かめるように一歩一歩降りてきた。
じっとキスティスを睨み付けながら。
高齢者特有の深い皺が刻まれた眉間、垂れた眉、だがその眼光は睨んだ獲物を逃さぬように鋭い。
キスティスは思わず息を飲んだ。
次の瞬間!
…ガッ、ゴン、ガラッ、…ベチャッ!
「!」
老人が足を踏み外し、盛大で奇妙な効果音を上げながら地面に顔面から落下してしまった。
「………」
「………」
キスティスもSeeD達もどう反応していいものかわからないまま、沈黙が流れた。
「もう!だから中で大人しく待ってて下さいって言ったじゃありませんか!」
老人を叱責するような強い口調と共にヘリの中からもう一人姿を現した。
髪を後頭部で綺麗に纏め、眼鏡をかけた勝ち気そうな若い女性だ。
手に持っていた、書類が収められているであろう何冊かのファイルを足元に無造作に投げ出して慌てて老人の側へ駆け寄った。
その身のこなしは颯爽としており、女性が高い身体能力を持っていることを窺わせる。
そこにいた者達の目を一番引いたのは、2人の服装だ。
どこぞの医師かと思える真っ白な白衣。
「年寄り扱い「するな」……」
「でしょ、だけど、博士は間違いなく年寄りですから」
文句とも取れるような勝ち気な言葉だが、優しく老人を助け起こした。
→part.2