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Chapter.50[バラム]

~第50章 part.4~


大量に落ち続ける瓦礫の間に、白い影が一瞬見えた。
視線は下に向いていた為、目の端に写り込んだものにまで気を向ける余裕はなかった。
だが、次の瞬間にはその白い影が自分のすぐ横に現れたことには驚いた。
「てめえの身ぐらいはてめえで何とかできるな?」
「え、えぇ」
返した返事を聞いたか聞かぬかの瞬間に、白い影、基サイファーは落ちゆく瓦礫の中に飛んだ。
「!! サ…!」
思わず名を呼びそうになって、言葉を飲み込んだ。
あっという間に瓦礫の中に消えた彼に声を投げかけたところで何になるのか。
すぐに大きな別の音が響き渡った。
瓦礫が地下室の壁にぶつかったのだ。
凄まじい衝撃な模様がシュウのいる位置からでも確認することができた。
薄暗い空間に消えていく瓦礫は爆発でも起こしたかのような煙りと衝撃波をシュウのいる位置にまで立ち上らせた。
「!!(目を開けていられない…! ランス!リノア!サイファー!!)」

『ドロー、バリア!』

「!?(サイファーの声が…!)」
物凄い爆風の中で、鉄の棒に掴まって身を支えるのがやっとの中で、それでも必死に目を開く。
瓦礫の落ちたであろう地点から微かにサイファーの声が聞こえたからだ。
そこに、光が見えた。
キラリと何かを反射させたような小さな光。
あれは何だろうかと思考する前に、光は突然大きさを増し、シュウをも照らした。
下から吹き上げていた爆風がそこでびたりと止んで、まるで時が止まってしまったかのように舞い上がった埃も瓦礫の細かな破片も、シュウの柔らかな髪さえも、宙に浮いたままだ。
「…え」
もちろん、時が止まるわけがない。
一瞬の後にそれらは全て方向を転換した。
あの光に吸い込まれていくかのように、落ちていく。
重力に任せて落ちるだけの動きではない。
正に吸い込まれているのだ。
先程の爆風よりも強烈な風に、シュウは掴んでいた棒から手を滑らせてしまった。
「っ!!」
自分の体が風に煽られて浮き上がった瞬間、心臓がビクリと収縮したのがわかった。
吸い込まれていく瓦礫と共に自分まで落ちるわけにはいかない。
咄嗟に近くにあるものを掴もうとする。
瓦礫は駄目だ。体を固定できるものでなければ!
風に体を翻弄されながらも、シュウは地下室の壁の一部に手をかけた。
必死にそこに掴まり、これ以上飛ばされまいと体を固定した。
思ったよりも早く風は収まり、吸い込む力も弱まったところで、シュウは改めて状況を確認する。
自分がいるところのすぐ横には大きな穴が開いており、外が見えていた。
あの大きな瓦礫の衝突によるものだろう。
普段は薄暗い地下に光が差し込んで、中の様子が見える。
あの凄まじい瓦礫の崩落音と衝突音で耳が上手く働かなくなっていたようだが、それでも静けさを取り戻した地下室からは、相変わらず歯車の回転する駆動音が鳴り響いていた。
「(彼らは…!!)」
壁に開いた大きな穴から身を乗り出すように外の様子を伺う。
朝日を浴びてキラキラと光輝く海が見えた。
少し離れたところに立つ白波は、ここから落ちた瓦礫の残骸が海上に残した痕跡だろう。
「サイファー―――っ! ランス―――っ!!!」
シュウは叫んだ。
あれくらいのことで死ぬわけはないと思いながらも、心のどこかで最悪の事態を考えてしまう。
海面には小さな破片が幾つか浮いていたのは見えたが、そこに人影らしきものは全く見えなかった。
ガーデンは浮上したまま尚もゆっくりと旋回を続けているようだ。
海面にガーデンの影が現れ始めた。
「…?」
シュウはそこで不思議なものを見てしまう。
海面に写し出された、ガーデンの巨大な影。
そこに、もう一つの影が見えるのだ。
「…ま、まさか…、…ガーデンが機動した理由って……!!」
ふいに上空に何かの気配を感じた。
再び身を乗り出すようにしてそちらを見上げた。
そこには小型の飛行バックパックを背負ったガルバディアの兵士が何人もそこに浮かんでいるのが見えた。
「マズイわね…」
彼らから身を隠すようにして、地下室の壁に背を預けた。
このままではここが彼らに見つかるのも時間の問題だ。
彼らがここを発見すれば、ここから容易に校内に侵入を許すことになってしまう。
どうすることが最善の方法かと思案を巡らせようとしたところで、何かの警告音がどこからともなく聞こえてきた。
音の出所を確かめようと辺りを見渡してみる。
壁から身を離し、1歩前へ歩み出た。
それを合図にするかのように、壁に接している床から厚い金属の板が競り上がってきた。
同時に上部からも降りてきて、壁の穴を塞いでしまった。
外の風も光も遮られ、地下室は再び静けさを取り戻した。
「…驚いた、こんな装置もあったのね」
ガーデンは浮上するだけでなく、水上を航行することもできる。
水の浸入を防ぐ遮蔽板がついていたとしても不思議ではない。
「あのまま外を見ていたら、…危なかったわ」
視線を中に戻す。
外の光の明るさに慣れてしまった目は、暗闇での視力を取り戻すのに時間がかかる。
更に、あの轟音を聞き続けていた耳は正常に機能しなくなっていたようだ。
しばらくその場に立ち尽くし、体を慣らしていく。
耳に、あの歯車の駆動音がまた入ってきた。
こちらの装置には何も影響はなかったようで安心する。ガーデンの航行に異常をきたしては大変だろう。
「…それよりも…」
サーファーとランスは、恐らくだが大丈夫だ。
なれなかったとはいえ、元は優秀なSeeD候補生と、元SeeD。
こんな状況くらいで死ぬわけはない。
シュウのなかでそう結論付けて、上層へ戻るべく梯子に手を掛けた。
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