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Chapter.50[バラム]

~第50章 part.3~


ビーッビーッビーッビーッビーッ・・・・

「!!」
「!!」
突然鳴り響いた警報でビクリとして目を覚ました。
こんな状況だと言うのに、自分は呑気に眠ってしまっていたのか、いやそれよりも…!
自分が腰を下ろしていた場所には、先程と変わらぬリノアの姿と、多少離れてはいたが見える位置にサイファーとランスの姿も確認した。
そして辺りを見回す。
そこにあったことさえ気付かなかった赤色灯が赤い光を放ちながら回転している。
警報は鳴りやまない。
一体何があったというのだろうか。
ふと時計に目をやって時間を確認する。
バラムではまだ夜明け前の時間帯だ。
だが間もなく空が白んでくる頃のはず。
そんな時間に突然響き渡ったイレギュラーな警戒音に緊張が走る。
「…騒々しいな」
「何があったんですか?」
「こっちが聞きたいわ」
この音は恐らくここだけではなくガーデン内全てに響いているのだろう。
だとしたら、上の階層は今頃大騒ぎだろう。
教官たちは誰に指示されているだろうか、子供たちは怖がっていないだろうか、上級クラスの生徒たちは下級クラスの子たちの面倒を見てくれているだろうか。
普段ならシュウが率先してやるべきことが次々と浮かんでくる。
「ガキどもが心配なら戻れよ」
「冗談言わないで! みんなは大丈夫よ」

周囲を金属で覆われている地下のこの空間では、音は異様に鳴り響く。
ずっと聞いていると耳がおかしくなりそうだ。
そんな中で、耳を劈く警報のものとは違う音をシュウは感じ取った。
どこか遠くから何かが近付いてくるときの機械音のようにも感じる。
サイファーもそれに気付いたのか、僅かに視線を上に向けて何かを確認しようとしているようにも見える。
思わずシュウもつられてそちらに目を向けた。
先程までは足元を照らすものしかなかった明かりが、自分達がいるところから真っ直ぐ上に繋がって見えた。
さながらエレベーターシャフトの底に降り立ったときの感覚に似ていた。
機械音はますます大きくなってきたようで、ずっと気付かなかったらしいランスもやっと耳に入ったようだ。
「何だこの音!?なんかの、駆動音…!?」
その言葉にシュウははっとする。
まさか…!
辺りを見回し、そこにあった何かの機械やパネルを探り始めた。
彼女のその行動の意味がわからず、ランスはただ見つめることしかできなかった。
「…シュウ先輩?」
「……っ、……えーと…、……あーわからない!……ニーダか、…レイだったらわかるのかしら?」
「…レイ…?シュウ先輩、何してるんです?」
「…上と、操舵室と連絡を取りたいのよ。機械に強いニーダとかならわかるんでしょうけど、私にはわからないわ」
「……通信なんてできませんよ」
「えっ!?」
ここに来たばかりのとき、ランスも今のシュウと同じようにあちこちパネルをいじってみていた。
明かりはついているので電源がきていないということは考えられない。
機械そのものの故障かどうかは不明だが、通信装置は動かなかった。
「…そう」
残念そうに肩を落としたシュウは、その場で俯いたままパネルに手をついた。
「何か、あったんですか?」
「…それを上に聞きたいのよ。…もしかしたら…」
管理室の窓の奥にあった何かの機械、それが何であるかシュウにはわからなかったが、うねるような音を立ててそれが稼働を始めた!
不思議な形をした、これは、歯車なのだろうか?
そこだけではない。
どこか見えない位置にも別の機械があるのだろう。
どこからともなくモーターの駆動音が聞こえる。
自分達が立っている床にも振動が伝わってきて、小刻みに波打つように揺れているのがわかった。
不安定な床のうえではじっと立っていることすら難しい。
辺りに一際大きな音が鳴り響いたと思った次の瞬間! グラリと床が傾いた!
「!!」
「キャッ!」
「うわっ!」
近くの壁やパネルに手をつくことで辛うじてバランスを取ることはできた。
「な、なんだ、動いた!?」
「…やっぱり、ガーデンが、機動してる…!!」
ガーデンに一体何があったのだろうか。
こうしてガーデンそのものを動かさねばならないほどのことが起きたとしか考えられない。
それは一体何?
今ガーデンが陥っているであろう状況をシュウは知りたかった。
それはランスもサイファーも同じだった。
ガーデンが動き出したという事態に驚いて戸惑って、足元を掬われたが、まだ立っている。
斜めに傾いたままゆっくりと動いている。
旋回しているのだろうか。
その動きと傾きにはすぐに慣れ、3人は互いに歩み寄る。
こんな会話もまともにできないほどの騒音と振動の中でも、リノアは目を覚ますことはなかった。

眠り続ける彼女の側に近付こうとした時だ。
いきなりの衝撃が走った。
それと同時に耳障りなでかい衝撃音が地下いっぱいに響き渡る。
金属を無理にねじ曲げ、擦り合わせるような、嫌な音。
「っっ!!」
その衝撃はシュウたちの体を簡単に弾き飛ばしてしまうようなもので、悲鳴を上げることさえできずにただその勢いに飲まれた。
傾きは先程よりも大きくなり、飛ばされたところに都合よくあった何本かの鉄の棒に捕まっていなければ立つこともままならない。
やっと己の身を確保して短く安堵の息を吐き出したところで、シュウは辺りを見渡す。
どうやらそう遠くないところに他の2人も同じように棒でバランスを取っていたようだ。
少し上のほうで、リノアも棒に引っ掛かっていたのが見えた。
大きな怪我もしていないようで安心してしまう。
「ランス、大丈夫?」
「…まあ、なんとか」
一番下のほうにいたランスに声をかけ、次に自分とほぼ同じ高さの位置にいたサイファーにも声をかけた。
「サイファー、平気ね?」
「…あぁ」
「ったく何なんだよ、何がどうなってんだ?何が起こってんだよ!」
下のほうからぶつぶつと文句を溢すランスの声が聞こえていた。
辺りにはまだ先程の衝撃の影響が残っているのか、ぎしぎしと不気味な音が響いている。
このままここにいるのは危険だとシュウの中の誰かが告げていた。
「とりあえず、このままでは危険だわ。どこかに避難しましょう」
「賛成…」
「…あそこはどうだ?」
サイファーが指差した先に見えたのは、小さなハッチ付きの扉。
薄暗くてはっきりとは見えないが、“シェルター”と読める。
「シェルター…? ここで何かあった時に一時的に避難できる所? …いいわ、そこへ行きましょう。ランスもいいわね?」
「はい」
「いいわ、サイファー、先に行って。私はリノアを…」

ずっと響いていた不気味な軋み音に、もっと注意するべきだったのだ。
今更もう遅いが、その瓦礫が頭上に見えた時に後悔が浮かんだ。
「危ない、伏せて!」
「!!」
「!?」
…悪いときには悪いことが重なるものだと、今日まで生きてきて嫌というほど味わったはずなのに、それでも運命は更に最悪を連れてくる。
全てがスローモーションに見えた。
上から降ってきた瓦礫はリノアを巻き込んでランス目掛けて落ちていく。
必死に手を伸ばしてリノアだけでも掴みたかった。
ここがオイル層だということを、足元の黒い液体が思い出させてくれる。
滑る足で自分の体を支えることで精一杯で、一瞬見えたリノアの白い指に伸ばしたシュウの手は、空を掴んだ。
「!!!」
ランスの驚きと絶望の混じった瞳が、暗闇の中に見えた気がした。



→part.4
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