Chapter.50[バラム]
~第50章 part.1~
この学園を出発してから再びここに帰還するまでの過程を、ランスは事細かに報告した。
イデアとシュウはじっとその言葉に耳を傾けた。
「…では、サイファーもリノアもここにいるのですね」
「はい、…でも学園長! あの…」
「2人には申し訳ないのですが、聞かなかったことにさせてもらいます」
「えっ…」
「それから、ランス・エリオット、あなたのSeeD資格を剥奪し、このガーデンからの放校を命じます」
「!!」
「学園長!それはあんまりです! ランスは確かにやりすぎたかもしれません。でもそれは!
…それに、サイファーはこのガーデンの生徒だったんですよ」
絶句するランスを尻目に、シュウが珍しく学園長に食い下がる。
彼女がここまで熱くなる姿を、ランスは勿論、イデアもあまり目にしたことがなかった。
「シュウ、あなたならわかってくれるはずです。今のガーデンの状況を考えれば…」
シュウははっとした。
つい先程だ。
ここでニーダと話したことを思い出す。
真っ先にそれに気付いてここに報告に来たのは、自分だというのに。
ガーデンを守るために決断したイデアの意見に反論してしまうとは…
「………」
ランスは握った両の拳を震わせた。
「…そんなにこのガーデンが大事ですか。ガーデンの為なら危険因子は一つ残らず排除ですか。
それが例えあなたにとって関わりのある人物でも、傷ついた者でも、助けを求めてきた者でも!」
僅かに俯いた状態から、ランスは目の前に立つイデアを睨みつける。
イデアは、10年前の、まだ魔女と呼ばれていたあの時の目をしていた。
「…その通りです」
「!!」
「学園長!」
「ここは私が生み出し、作り、育て、守り抜いてきた箱庭。これから始まるSeeDの本当の戦いの日まで、私はここを守らねばなりません」
「…やはりあなたは冷徹な魔女だ」
「ランス! (…SeeDの本当の、戦い…?)」
ずっとここまで着ていたSeeDの制服を、ランスはその場で過ぎ捨てた。
イデアを、敵を見るような眼で睨むと、無言のまま学園長室を出て行った。
シュウが拾い上げたその制服は、まだしっとりと濡れており、あちこち破れていたり埃でかなり薄汚れてしまっていた。
その様が、ランスがここまで相当の苦労を強いられたことを物語っている。
イデアにはわかっていた。
ランスがどれだけ辛い目に会ってきたか、どれだけ頑張ってくれたか。
彼もイデアと同じなのだ。
このガーデンを愛し、守ろうとする気持ちは。
シュウがイデアのほうを振り返ると、イデアは近くのソファに崩れるように座り込んでいた。
「…あぁ、ごめんなさい、ランス、リノア、そしてサイファー…。私はあななたちを守ることができなかった」
「学園長、差し出がましいようですが、放校は少々重すぎるのでは…?」
力なく項垂れて俯いているイデアに、シュウは静かに話しかけた。
孤児だったシュウにとって、イデアは母親、このガーデンは家と同じ。
だからこそ、ガーデンの大切さも、仲間の尊さもよくわかっていたし、イデアの味方でありたいと願っている。
確かに、手に負えなかったり、止むに止まれぬ事情で放校となった生徒もいる。
シュウにとっては、それが一番辛いのだ。
俯いたまま何を考えているのか、暫く目を閉じていたイデアが何かに気付いたように腰を上げた。
素早くデスクの引き出しの中から取り出したものをシュウに手渡した。
「…学園長、これは…!?」
「私は、賭けてみたいのです」
「賭ける…?」
「あの子たちに…」
それは、小さな鍵だった。
シュウは過去に一度だけ目にしたことがあったこの鍵は、ある場所への入り口を開く鍵。
イデアの決意の籠った目に、シュウはもう何も返すことができなくなってしまった。
「さあ、お行きなさい。このガーデン内にいれば、いずれ彼らも見つかってしまう。だから、シュウ…
あなたが、導いてやって下さい」
手にした鍵をしっかりと握りしめて、シュウは大きく頷いた。
お手本のような綺麗な敬礼をして、学園長室を出る。
「ランス!」
1階に降りたところで、私服に着替えたランスと出会った。
「…俺、サイファーさんと一緒に行きます。止めても無駄ですよ」
「止める気はないわ、一緒にいて」
「え…!?」
「ほら行くわよ」
ランスの腕を掴んで、シュウは走った。
普段は走るのを注意する立場だというのに、今はそれどころではない。
駆け込んだ保健室では、保健担当医のカドワキが目を丸くして見せた。
ソファーの上で長い脚を投げだして寝ているサイファーに近付くと、起こす素振りも見せずにシュウは話しかけた。
「あなたなら、今このガーデンがどんな状態にあるのか、わかるわよね」
「…さっさと出て行けと?」
「今のあなたの立場から見たら、ここは敵地のはずよ」
「…え、それってどういう意味ですか?」
サイファーとシュウの会話の内容が理解できないのは、ランスだ。
彼には、今のサイファーの立場もわからなければ、今ガーデンに起きている危機も知らないのだ。
シュウはランスにチラリと視線を向けてから、すぐに戻して言葉を続けた。
「とにかく、今ここにあなたたちを置くわけにはいかないの。…一緒に来て」
「………ちっ」
→part.2
この学園を出発してから再びここに帰還するまでの過程を、ランスは事細かに報告した。
イデアとシュウはじっとその言葉に耳を傾けた。
「…では、サイファーもリノアもここにいるのですね」
「はい、…でも学園長! あの…」
「2人には申し訳ないのですが、聞かなかったことにさせてもらいます」
「えっ…」
「それから、ランス・エリオット、あなたのSeeD資格を剥奪し、このガーデンからの放校を命じます」
「!!」
「学園長!それはあんまりです! ランスは確かにやりすぎたかもしれません。でもそれは!
…それに、サイファーはこのガーデンの生徒だったんですよ」
絶句するランスを尻目に、シュウが珍しく学園長に食い下がる。
彼女がここまで熱くなる姿を、ランスは勿論、イデアもあまり目にしたことがなかった。
「シュウ、あなたならわかってくれるはずです。今のガーデンの状況を考えれば…」
シュウははっとした。
つい先程だ。
ここでニーダと話したことを思い出す。
真っ先にそれに気付いてここに報告に来たのは、自分だというのに。
ガーデンを守るために決断したイデアの意見に反論してしまうとは…
「………」
ランスは握った両の拳を震わせた。
「…そんなにこのガーデンが大事ですか。ガーデンの為なら危険因子は一つ残らず排除ですか。
それが例えあなたにとって関わりのある人物でも、傷ついた者でも、助けを求めてきた者でも!」
僅かに俯いた状態から、ランスは目の前に立つイデアを睨みつける。
イデアは、10年前の、まだ魔女と呼ばれていたあの時の目をしていた。
「…その通りです」
「!!」
「学園長!」
「ここは私が生み出し、作り、育て、守り抜いてきた箱庭。これから始まるSeeDの本当の戦いの日まで、私はここを守らねばなりません」
「…やはりあなたは冷徹な魔女だ」
「ランス! (…SeeDの本当の、戦い…?)」
ずっとここまで着ていたSeeDの制服を、ランスはその場で過ぎ捨てた。
イデアを、敵を見るような眼で睨むと、無言のまま学園長室を出て行った。
シュウが拾い上げたその制服は、まだしっとりと濡れており、あちこち破れていたり埃でかなり薄汚れてしまっていた。
その様が、ランスがここまで相当の苦労を強いられたことを物語っている。
イデアにはわかっていた。
ランスがどれだけ辛い目に会ってきたか、どれだけ頑張ってくれたか。
彼もイデアと同じなのだ。
このガーデンを愛し、守ろうとする気持ちは。
シュウがイデアのほうを振り返ると、イデアは近くのソファに崩れるように座り込んでいた。
「…あぁ、ごめんなさい、ランス、リノア、そしてサイファー…。私はあななたちを守ることができなかった」
「学園長、差し出がましいようですが、放校は少々重すぎるのでは…?」
力なく項垂れて俯いているイデアに、シュウは静かに話しかけた。
孤児だったシュウにとって、イデアは母親、このガーデンは家と同じ。
だからこそ、ガーデンの大切さも、仲間の尊さもよくわかっていたし、イデアの味方でありたいと願っている。
確かに、手に負えなかったり、止むに止まれぬ事情で放校となった生徒もいる。
シュウにとっては、それが一番辛いのだ。
俯いたまま何を考えているのか、暫く目を閉じていたイデアが何かに気付いたように腰を上げた。
素早くデスクの引き出しの中から取り出したものをシュウに手渡した。
「…学園長、これは…!?」
「私は、賭けてみたいのです」
「賭ける…?」
「あの子たちに…」
それは、小さな鍵だった。
シュウは過去に一度だけ目にしたことがあったこの鍵は、ある場所への入り口を開く鍵。
イデアの決意の籠った目に、シュウはもう何も返すことができなくなってしまった。
「さあ、お行きなさい。このガーデン内にいれば、いずれ彼らも見つかってしまう。だから、シュウ…
あなたが、導いてやって下さい」
手にした鍵をしっかりと握りしめて、シュウは大きく頷いた。
お手本のような綺麗な敬礼をして、学園長室を出る。
「ランス!」
1階に降りたところで、私服に着替えたランスと出会った。
「…俺、サイファーさんと一緒に行きます。止めても無駄ですよ」
「止める気はないわ、一緒にいて」
「え…!?」
「ほら行くわよ」
ランスの腕を掴んで、シュウは走った。
普段は走るのを注意する立場だというのに、今はそれどころではない。
駆け込んだ保健室では、保健担当医のカドワキが目を丸くして見せた。
ソファーの上で長い脚を投げだして寝ているサイファーに近付くと、起こす素振りも見せずにシュウは話しかけた。
「あなたなら、今このガーデンがどんな状態にあるのか、わかるわよね」
「…さっさと出て行けと?」
「今のあなたの立場から見たら、ここは敵地のはずよ」
「…え、それってどういう意味ですか?」
サイファーとシュウの会話の内容が理解できないのは、ランスだ。
彼には、今のサイファーの立場もわからなければ、今ガーデンに起きている危機も知らないのだ。
シュウはランスにチラリと視線を向けてから、すぐに戻して言葉を続けた。
「とにかく、今ここにあなたたちを置くわけにはいかないの。…一緒に来て」
「………ちっ」
→part.2