Chapter.48[トラビア]
~第48章 part.2~
ここはガーデンだ。
事の一部始終を誰もが見ていたことだろう。
魔女を収容し、それを乗せたヘリが何機か空へ飛び立ったのを見届けてから、改めて辺りの状況を確認する。
さて、とフリーマンは校舎のほうへ歩き出した。
彼の後を数名の兵士がついてくる。
もっと騒然としているのかと思ったが、ガーデンの生徒たちは落ち着いたものだ。
驚いたことに、負傷した兵士たちを校内に運び込み、手当をしていた。
ガーデンや我が軍にこれだけの被害を与えたというのに、生徒たちの被害は皆無と言えるほどだ。
魔女がどんな攻撃を繰り出したのかまではわからないが、人を選別して攻撃することができるようだとフリーマンは考えた。
でなければ、大勢の生徒たちで溢れているガーデンの中に逃げ込んだ兵士の急所をこんなに正確に狙えるはずがない。
それも、一人ずつなどではないだろう。
一気にこれだけやられたはずだ。
でなければ、魔女を発見したと通信をしてきてから全滅したと報告が入るまでの時間の短さが腑に落ちなくなる。
兵士たちは逃げる暇もなかったのだろう。
そしてもう一つ。
なぜ、魔女はここにいたのか…
ガーデンで、彼女を魔女と知って匿っていたのか?
それとも、何も知らずに匿った女性が実は魔女だった…?
校庭にあったあのエスタのヘリ、それを使って魔女はここに来たのだろう。
一緒にいたあの男が魔女派の一員で、研究所を爆破した件にも関わっているだろう。
ここに来たということは、少なくとも、魔女と何らかの関係があるはず。
それを聞き出すことができれば、あの男のこともわかるだろう。
そこから魔女派全てを暴きだしてやろう。
フリーマンはそう考えていた。
ところどころ破壊された形跡のある校舎の中を進んでいくフリーマンの周囲で、幾人もの生徒たちが駆け回っている。
その行動は迅速で無駄がない。
この生徒たちにとって、我々の存在など迷惑なものでしかない筈だ。
だがそれでも負傷した兵士たちを運び、応急手当をしている姿はどれも必至だ。
まるでそれが自分たちの仲間であるかのようにすら見える。
進む廊下の先でも、また一人の兵士が応急手当てを受けていた。
兵士には意識があるようで、フリーマンの姿を見た途端に傷ついた体をしながらも立ち上がろうとしている。
生徒たちに動くなと諌められていても、それを無視して上半身をなんとか起こした。
「…そのままでいい」
足をとめたフリーマンに辛うじて動く手で敬礼を捧げる。
フリーマンはゆっくりとその兵士の元へ膝を付けた。
「何があった」
「…ま、魔女を、発見し、…と、捕えよゲホッ、ゴホッ…、…捕えようと、して、…じ、自分は、ここか、ら、……そ、狙撃を…」
近くに、狙撃に使用したと思われるライフルが落ちていたが、何をどうすればこんな風に銃身が破裂するのか、原形をとどめていなかった。
「…う、撃った、はずの…ハァ、ハァ、…た、弾が、はねかえ、された、…ように…ゲホッ、ゲホッ!…」
「…撥ね返された…だと?」
「…と、っさに、銃を捨て、…ようとした、んですが、…避けきれ、ず…、…ひ、光、ひかりの、玉が、…飛んで、きて…」
「光の、玉…?」
「あの、お願いです。これ以上は…」
話を促そうとするフリーマンに声を掛けてきたのは、兵士を手当てしていた生徒の一人だった。
苦しそうに身を起して懸命に言葉を出そうとはしているが、この兵士も重傷者の一人だ。
破裂した銃の破片が内臓を深く傷つけている。
下手に動かせば出血多量で命は危ない。
「…死ぬことは許さん。後で必ず報告を聞こう」
「…りょ、了解、しま、した…」
「君、すまない、彼を頼む。それから、学園長に会いたい。どこにいる」
「…学園長なら、たぶん講堂のほうだと思います。亡くなった兵士たちを運ぶように言われてましたから」
「そうか」
ここに来るときに、ヘリの中で確認していたこのガーデンの見取り図を頭に思い描く。
すっと立ち上がると、そこからすぐに踵を返した。
フリーマンに付き従ってきた兵士が、負傷した兵士と生徒に敬礼して同じように踵を返した。
生徒の言っていた講堂へ向かう途中も、同じような場面はいくつも見た。
角を曲った瞬間、思いもよらない光景に出くわす。
校舎の中に、我が軍のヘリが突っ込んでいたのだ。
幸いにも燃料タンクは無事だったせいか火災にまでは至らなかったのだろう。
生徒たちが何人もそこで瓦礫の撤去作業をしていた。
完全に廊下は塞がれており、通ることはできないと判断したフリーマンは別の道を行こうとして後ろを振りかえった時だった。
一際大きな歓声が上がり、戻ろうとしたフリーマンはそこで足を止めてしまう。
共に来た兵士も、何事かともう一度そちらを振り返った。
「…何事だ」
「…パイロットが生存していたようですね」
「………」
「大佐?」
生徒たちのほうへ足を進めたフリーマンは、それを確認するかのようにヘリへと近付いていく。
兵士も戸惑いながらもついていった。
「あいてててて、引っ張るな!、いや、引っ張ってくれ!」
「どっちだよっ」
「足が、引っ掛かってんだよ」
「誰か電動カッター持ってきてくれ!」
「おい、俺の脚、切らねえでくれよ! ……!、あ、た、大佐!!」
「…無事なのか」
「こ、こんな恰好で申し訳ありません」
パイロットは上半身だけ逆さまになって片方の足を宙に放りだしたままの無様な姿だった。
それでも敬礼をしてみせる。
「何があった?」
「あ、自分もはっきりと見たわけではありませんので確証はないですが…」
「構わん、君が見たままを言え」
「あ、はい。…魔女と、一緒にいた男を引きはがして別々のヘリで護送する旨の通信は入ったんですが、それ以降通信は全く使えなくなりまして…。男のほうがめちゃめちゃ強くて、兵士が何人も倒されて、んで、自分のヘリに乗ってた狙撃手がそいつを撃ったんです」
「…それで?」
「なんか、光の玉が飛んできたような記憶はあるんですが、気が付いたらこんな状態でして…」
「光の玉、…またか…」
「それが魔女の武器、ということでしょうか?」
「…わからん。だがもう魔女は捕獲したんだ。これからわかることだ」
「へっ、魔女は捕獲したんですか? 流石大佐!!」
生徒たちが用意した電動工具で、パイロットの足にも火花が飛び散ってくる。
「あちっ!、おいっ、気を付けてくれよ~!」
「動けるのだな」
「え、あ、はい。ここから出られたら、ですが」
「我々は講堂に向かう。お前も来い」
「い、いえっさー!」
→part.3
ここはガーデンだ。
事の一部始終を誰もが見ていたことだろう。
魔女を収容し、それを乗せたヘリが何機か空へ飛び立ったのを見届けてから、改めて辺りの状況を確認する。
さて、とフリーマンは校舎のほうへ歩き出した。
彼の後を数名の兵士がついてくる。
もっと騒然としているのかと思ったが、ガーデンの生徒たちは落ち着いたものだ。
驚いたことに、負傷した兵士たちを校内に運び込み、手当をしていた。
ガーデンや我が軍にこれだけの被害を与えたというのに、生徒たちの被害は皆無と言えるほどだ。
魔女がどんな攻撃を繰り出したのかまではわからないが、人を選別して攻撃することができるようだとフリーマンは考えた。
でなければ、大勢の生徒たちで溢れているガーデンの中に逃げ込んだ兵士の急所をこんなに正確に狙えるはずがない。
それも、一人ずつなどではないだろう。
一気にこれだけやられたはずだ。
でなければ、魔女を発見したと通信をしてきてから全滅したと報告が入るまでの時間の短さが腑に落ちなくなる。
兵士たちは逃げる暇もなかったのだろう。
そしてもう一つ。
なぜ、魔女はここにいたのか…
ガーデンで、彼女を魔女と知って匿っていたのか?
それとも、何も知らずに匿った女性が実は魔女だった…?
校庭にあったあのエスタのヘリ、それを使って魔女はここに来たのだろう。
一緒にいたあの男が魔女派の一員で、研究所を爆破した件にも関わっているだろう。
ここに来たということは、少なくとも、魔女と何らかの関係があるはず。
それを聞き出すことができれば、あの男のこともわかるだろう。
そこから魔女派全てを暴きだしてやろう。
フリーマンはそう考えていた。
ところどころ破壊された形跡のある校舎の中を進んでいくフリーマンの周囲で、幾人もの生徒たちが駆け回っている。
その行動は迅速で無駄がない。
この生徒たちにとって、我々の存在など迷惑なものでしかない筈だ。
だがそれでも負傷した兵士たちを運び、応急手当をしている姿はどれも必至だ。
まるでそれが自分たちの仲間であるかのようにすら見える。
進む廊下の先でも、また一人の兵士が応急手当てを受けていた。
兵士には意識があるようで、フリーマンの姿を見た途端に傷ついた体をしながらも立ち上がろうとしている。
生徒たちに動くなと諌められていても、それを無視して上半身をなんとか起こした。
「…そのままでいい」
足をとめたフリーマンに辛うじて動く手で敬礼を捧げる。
フリーマンはゆっくりとその兵士の元へ膝を付けた。
「何があった」
「…ま、魔女を、発見し、…と、捕えよゲホッ、ゴホッ…、…捕えようと、して、…じ、自分は、ここか、ら、……そ、狙撃を…」
近くに、狙撃に使用したと思われるライフルが落ちていたが、何をどうすればこんな風に銃身が破裂するのか、原形をとどめていなかった。
「…う、撃った、はずの…ハァ、ハァ、…た、弾が、はねかえ、された、…ように…ゲホッ、ゲホッ!…」
「…撥ね返された…だと?」
「…と、っさに、銃を捨て、…ようとした、んですが、…避けきれ、ず…、…ひ、光、ひかりの、玉が、…飛んで、きて…」
「光の、玉…?」
「あの、お願いです。これ以上は…」
話を促そうとするフリーマンに声を掛けてきたのは、兵士を手当てしていた生徒の一人だった。
苦しそうに身を起して懸命に言葉を出そうとはしているが、この兵士も重傷者の一人だ。
破裂した銃の破片が内臓を深く傷つけている。
下手に動かせば出血多量で命は危ない。
「…死ぬことは許さん。後で必ず報告を聞こう」
「…りょ、了解、しま、した…」
「君、すまない、彼を頼む。それから、学園長に会いたい。どこにいる」
「…学園長なら、たぶん講堂のほうだと思います。亡くなった兵士たちを運ぶように言われてましたから」
「そうか」
ここに来るときに、ヘリの中で確認していたこのガーデンの見取り図を頭に思い描く。
すっと立ち上がると、そこからすぐに踵を返した。
フリーマンに付き従ってきた兵士が、負傷した兵士と生徒に敬礼して同じように踵を返した。
生徒の言っていた講堂へ向かう途中も、同じような場面はいくつも見た。
角を曲った瞬間、思いもよらない光景に出くわす。
校舎の中に、我が軍のヘリが突っ込んでいたのだ。
幸いにも燃料タンクは無事だったせいか火災にまでは至らなかったのだろう。
生徒たちが何人もそこで瓦礫の撤去作業をしていた。
完全に廊下は塞がれており、通ることはできないと判断したフリーマンは別の道を行こうとして後ろを振りかえった時だった。
一際大きな歓声が上がり、戻ろうとしたフリーマンはそこで足を止めてしまう。
共に来た兵士も、何事かともう一度そちらを振り返った。
「…何事だ」
「…パイロットが生存していたようですね」
「………」
「大佐?」
生徒たちのほうへ足を進めたフリーマンは、それを確認するかのようにヘリへと近付いていく。
兵士も戸惑いながらもついていった。
「あいてててて、引っ張るな!、いや、引っ張ってくれ!」
「どっちだよっ」
「足が、引っ掛かってんだよ」
「誰か電動カッター持ってきてくれ!」
「おい、俺の脚、切らねえでくれよ! ……!、あ、た、大佐!!」
「…無事なのか」
「こ、こんな恰好で申し訳ありません」
パイロットは上半身だけ逆さまになって片方の足を宙に放りだしたままの無様な姿だった。
それでも敬礼をしてみせる。
「何があった?」
「あ、自分もはっきりと見たわけではありませんので確証はないですが…」
「構わん、君が見たままを言え」
「あ、はい。…魔女と、一緒にいた男を引きはがして別々のヘリで護送する旨の通信は入ったんですが、それ以降通信は全く使えなくなりまして…。男のほうがめちゃめちゃ強くて、兵士が何人も倒されて、んで、自分のヘリに乗ってた狙撃手がそいつを撃ったんです」
「…それで?」
「なんか、光の玉が飛んできたような記憶はあるんですが、気が付いたらこんな状態でして…」
「光の玉、…またか…」
「それが魔女の武器、ということでしょうか?」
「…わからん。だがもう魔女は捕獲したんだ。これからわかることだ」
「へっ、魔女は捕獲したんですか? 流石大佐!!」
生徒たちが用意した電動工具で、パイロットの足にも火花が飛び散ってくる。
「あちっ!、おいっ、気を付けてくれよ~!」
「動けるのだな」
「え、あ、はい。ここから出られたら、ですが」
「我々は講堂に向かう。お前も来い」
「い、いえっさー!」
→part.3