Chapter.48[トラビア]
~第48章 part.1~
フリーマンが乗りこんだヘリは小型のもので、収容人員も多くはない。
ただの移動手段としてしか使えないものではあるが、それでも軍用ということで、通常乗員席は通信室の様な機材が積み込まれている。
フリーマンと共に乗りこんだ兵士は数名。
いずれも情報通信部門の上位クラスの者たちだ。
インカムから聞こえてくる様々な報告や連絡を、フリーマンはじっと聞いていた。
ヘリはバラム島を出発してトラビアに向かっている。
すでに魔女を発見した旨の連絡は受けており、共にバラムへやってきたうちの幾つかの部隊を派遣していた。
しばらくして、信じがたい報告が入り、フリーマンは厳しい顔を更に曇らせた。
先に送った部隊が全滅したという内容に…。
操縦士にもっと速度を上げるよう命令を出し、次にどのような命令を下すべきか、フリーマンは思考を巡らせていた。
問題のトラビアの街並みが眼下に見え始めた頃、そこから立ち昇る黒い煙も目に入った。
生活する上で立ち昇るようなものではない。
一目で、それは異常事態であると知れる。
付近を航行している飛行機械はなく、インカムから入る情報もノイズが混じって耳が痛いほどだ。
鬱陶しさを覚え、フリーマンは忌々しげにインカムを外してしまった。
ガーデンの上空に到達したとき、彼は不思議な光景を目の当たりにすることになる。
まばゆい光に包まれた、何か。
そこからではそれが何なのかまではわからなかった。
その光輝く正体不明の物体に目を奪われて、周囲の様子に気を配ることも忘れてしまっていた。
フリーマンだけではない。
共に乗りこんだ兵士も、ヘリの操縦士もそれは同じだった。
すぐに正気を取り戻したフリーマンが操縦士に着陸を促し、校庭の隅の開けた場所にフワリと見事に着地を決めた。
何人かの兵士が出迎えにこちらに走り寄ってきて、ヘリの扉を開いて姿を現したフリーマンに敬礼する。
フリーマンはそこで初めて、兵士の姿の少なさに気がついた。
「…御苦労、…これだけか?」
全滅したとの報告は受けていた。
あれだけの人数で、しかも全員重武装だったはず。
にも関わらず、出迎えに来られる人数がこれだけとは…
一体何が起こったというのだ。
先程から目にしていた光が徐々に弱くなっていき、ゆっくりと地面に落ちて行った。
「あれが、魔女か…」
フリーマンはすかさずそちらに足を進めていく。
「どうした、さっさと魔女を捕えんか」
「…え、…あ、いえ、…あの、じ、自分は…」
「…そ、それは…」
「?」
兵士たちの歯切れの悪さがフリーマンを苛立たせる。
まるで何かに脅えているような、恐ろしい体験でもしたのだろうか?
当てにならない兵士たちを無視して、フリーマンは共にやってきた兵士たちだけを連れ、校庭の真ん中に足を進めた。
目の前に見える小型のヘリには、エスタのマークが見える。
“…エスタのヘリ…、なぜエスタのものが…?”
足を進めながら、周囲に目を向ける。
無残にも破壊された我が軍の飛行機械や、命を落としたであろう兵士の無残な姿があちらこちらに見える。
ここトラビアで我が軍にこれだけ損傷を与えられる能力などなかったはずだ。
では、やはりこれは魔女の仕業なのか。
これだけのことをやってしまうのか、魔女というものは…
弱まった光は急速に力を失ってしまったようで、先程は確認できなかったが、そこには何人かの兵士が集まっているようだった。
「おい、お前、行けよ」
「やだよ! 何が起こるかわかんねーんだぜ」
「俺も勘弁してほしいよ。命は惜しい」
「おい誰か早く魔女を回収しろよ」
「んなこと言ってるお前がやれよ」
「冗談じゃねーぜ」
「何事だ」
「フ、フリーマン大佐!」
慌てて敬礼を捧げる兵士たちは、怖いもの見たさでここまで集まってきたが、結局誰もそれ以上近づくことさえできずにいたのだ。
フリーマンはそこで初めて魔女というものを見た。
彼が想像していたよりも遥かに若い女性。
まだどこか幼さも感じさせる、黒髪の美しい女性だった。
「…すぐに収容しろ」
だが兵士たちは動かない。
互いに譲り合っているというよりは、近付くことを恐れているようにも見える。
「大佐、自分がやります」
「…よし」
兵士は全員顔を半分も覆うマスクしている。
顔の判別などはできない。
だが、肩と胸に付けられた階級章や所属部隊を示すマークを見て、その人物の立場を知ることができる。
何の階級も持っていない、一番下の兵士が上げた名乗りに、フリーマンはこいつの階級を1つ上げることを心に誓った。
兵士は恐る恐るではあるが、ゆっくりと魔女に近付いていく。
武器も持たないままで、一体何が起こるのかと、その場にいた兵士たちは固唾を呑んで見守るしかできなかった。
兵士が魔女の傍らにしゃがみこむ。
ゆっくりと自らの腕を伸ばし、魔女に触れる。
その時、彼の掌の中に、あるアイテムが握られていたことは本人しか知らないことだった。
兵士は魔女の手首を握りしめ、そしてこちらを振りかえった。
「何も起こりません!」
「よし、担架を!」
「男のほうも全く動きませんが…」
「そちらも関係者だろう。一緒に運べ」
「了解しました!」
その後の兵士たちの行動は迅速だった。
てきぱきと必要なものを運び、応急手当だけを済ませると担架に乗せた。
「おい、お前」
「は、はい!」
呼び止められたのは、他の一般兵とは異なる色の制服を身に纏った兵だった。
「これから収容所までの送還の指揮を執れ」
「あ、ワタクシがですか。了解致しました。…大佐はどうされるんですか?」
「ここのガーデンの責任者と話がある。私が乗ってきたヘリを1台だけ残しておけ。話が済み次第、私も収容所へ行く」
「はっ、かしこまりました」
白い雪に覆われたこの校庭は、普段とは全く違うものとなっているのだろう。
ここがガーデンであり、多くの生徒たちが様々なことを学ぶ場であるはずだというのに、今のここはさながら戦場だ。
異様に澄み切った冷たい空気に混じった匂いが場違いに感じる。
→part.2
フリーマンが乗りこんだヘリは小型のもので、収容人員も多くはない。
ただの移動手段としてしか使えないものではあるが、それでも軍用ということで、通常乗員席は通信室の様な機材が積み込まれている。
フリーマンと共に乗りこんだ兵士は数名。
いずれも情報通信部門の上位クラスの者たちだ。
インカムから聞こえてくる様々な報告や連絡を、フリーマンはじっと聞いていた。
ヘリはバラム島を出発してトラビアに向かっている。
すでに魔女を発見した旨の連絡は受けており、共にバラムへやってきたうちの幾つかの部隊を派遣していた。
しばらくして、信じがたい報告が入り、フリーマンは厳しい顔を更に曇らせた。
先に送った部隊が全滅したという内容に…。
操縦士にもっと速度を上げるよう命令を出し、次にどのような命令を下すべきか、フリーマンは思考を巡らせていた。
問題のトラビアの街並みが眼下に見え始めた頃、そこから立ち昇る黒い煙も目に入った。
生活する上で立ち昇るようなものではない。
一目で、それは異常事態であると知れる。
付近を航行している飛行機械はなく、インカムから入る情報もノイズが混じって耳が痛いほどだ。
鬱陶しさを覚え、フリーマンは忌々しげにインカムを外してしまった。
ガーデンの上空に到達したとき、彼は不思議な光景を目の当たりにすることになる。
まばゆい光に包まれた、何か。
そこからではそれが何なのかまではわからなかった。
その光輝く正体不明の物体に目を奪われて、周囲の様子に気を配ることも忘れてしまっていた。
フリーマンだけではない。
共に乗りこんだ兵士も、ヘリの操縦士もそれは同じだった。
すぐに正気を取り戻したフリーマンが操縦士に着陸を促し、校庭の隅の開けた場所にフワリと見事に着地を決めた。
何人かの兵士が出迎えにこちらに走り寄ってきて、ヘリの扉を開いて姿を現したフリーマンに敬礼する。
フリーマンはそこで初めて、兵士の姿の少なさに気がついた。
「…御苦労、…これだけか?」
全滅したとの報告は受けていた。
あれだけの人数で、しかも全員重武装だったはず。
にも関わらず、出迎えに来られる人数がこれだけとは…
一体何が起こったというのだ。
先程から目にしていた光が徐々に弱くなっていき、ゆっくりと地面に落ちて行った。
「あれが、魔女か…」
フリーマンはすかさずそちらに足を進めていく。
「どうした、さっさと魔女を捕えんか」
「…え、…あ、いえ、…あの、じ、自分は…」
「…そ、それは…」
「?」
兵士たちの歯切れの悪さがフリーマンを苛立たせる。
まるで何かに脅えているような、恐ろしい体験でもしたのだろうか?
当てにならない兵士たちを無視して、フリーマンは共にやってきた兵士たちだけを連れ、校庭の真ん中に足を進めた。
目の前に見える小型のヘリには、エスタのマークが見える。
“…エスタのヘリ…、なぜエスタのものが…?”
足を進めながら、周囲に目を向ける。
無残にも破壊された我が軍の飛行機械や、命を落としたであろう兵士の無残な姿があちらこちらに見える。
ここトラビアで我が軍にこれだけ損傷を与えられる能力などなかったはずだ。
では、やはりこれは魔女の仕業なのか。
これだけのことをやってしまうのか、魔女というものは…
弱まった光は急速に力を失ってしまったようで、先程は確認できなかったが、そこには何人かの兵士が集まっているようだった。
「おい、お前、行けよ」
「やだよ! 何が起こるかわかんねーんだぜ」
「俺も勘弁してほしいよ。命は惜しい」
「おい誰か早く魔女を回収しろよ」
「んなこと言ってるお前がやれよ」
「冗談じゃねーぜ」
「何事だ」
「フ、フリーマン大佐!」
慌てて敬礼を捧げる兵士たちは、怖いもの見たさでここまで集まってきたが、結局誰もそれ以上近づくことさえできずにいたのだ。
フリーマンはそこで初めて魔女というものを見た。
彼が想像していたよりも遥かに若い女性。
まだどこか幼さも感じさせる、黒髪の美しい女性だった。
「…すぐに収容しろ」
だが兵士たちは動かない。
互いに譲り合っているというよりは、近付くことを恐れているようにも見える。
「大佐、自分がやります」
「…よし」
兵士は全員顔を半分も覆うマスクしている。
顔の判別などはできない。
だが、肩と胸に付けられた階級章や所属部隊を示すマークを見て、その人物の立場を知ることができる。
何の階級も持っていない、一番下の兵士が上げた名乗りに、フリーマンはこいつの階級を1つ上げることを心に誓った。
兵士は恐る恐るではあるが、ゆっくりと魔女に近付いていく。
武器も持たないままで、一体何が起こるのかと、その場にいた兵士たちは固唾を呑んで見守るしかできなかった。
兵士が魔女の傍らにしゃがみこむ。
ゆっくりと自らの腕を伸ばし、魔女に触れる。
その時、彼の掌の中に、あるアイテムが握られていたことは本人しか知らないことだった。
兵士は魔女の手首を握りしめ、そしてこちらを振りかえった。
「何も起こりません!」
「よし、担架を!」
「男のほうも全く動きませんが…」
「そちらも関係者だろう。一緒に運べ」
「了解しました!」
その後の兵士たちの行動は迅速だった。
てきぱきと必要なものを運び、応急手当だけを済ませると担架に乗せた。
「おい、お前」
「は、はい!」
呼び止められたのは、他の一般兵とは異なる色の制服を身に纏った兵だった。
「これから収容所までの送還の指揮を執れ」
「あ、ワタクシがですか。了解致しました。…大佐はどうされるんですか?」
「ここのガーデンの責任者と話がある。私が乗ってきたヘリを1台だけ残しておけ。話が済み次第、私も収容所へ行く」
「はっ、かしこまりました」
白い雪に覆われたこの校庭は、普段とは全く違うものとなっているのだろう。
ここがガーデンであり、多くの生徒たちが様々なことを学ぶ場であるはずだというのに、今のここはさながら戦場だ。
異様に澄み切った冷たい空気に混じった匂いが場違いに感じる。
→part.2