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Chapter.47[ガルバディア]

~第47章 part.5~



『ピンポーン 緊急連絡、緊急連絡、ガーデン内全生徒に継ぐ。至急大講堂に集合のこと。繰り返す。全生徒、至急大講堂に集合せよ!』

通常、学業を終えた生徒は訓練を始めるか、速やかに寮に戻る時間の突然の呼び出しに、生徒は当然のこと、何も聞かされていなかった教官たちも不思議に思う。
一体何事かと、それでも駆け足で大講堂へと向かった。
余りに遅れれば罰を科せられることが分かっているからだ。
劇場のホールのような立派な席が設けられているここでは、講義は勿論講演や催し物を開くこともある。
集まった生徒達は、この時間に呼び出されたことにではなく、一体何が始まるのかということを謎に思っているようだ。
落ち着いてはいるが、ざわざわと互いに話し合っている。
やがて生徒達が入室してきた扉が閉ざされ、集音機の電源が入れられる音が響いた。
それに気付いた生徒達は口を閉ざし、壇上を見つめた。
一段高いところに、舞台とはまた違う、もう一つのステージが設えられている。
人1人が立てるほどの小さなものだが、そこからホール全体が見渡せる。
傍聴席全てを見下ろすと、服装こそ様々だが、席にびっしりと着いた生徒達は壮観である。
「あー、ヘンデル学園長からの通達事項である。心して聞くように!」
すぐに上部ステージにガルムが姿を見せた。
「ありがとう、教官長。…でも、いつものことながら君は少し硬すぎるよ」
生徒達の間に微かな笑いが起こる。
だがそれも、ガルムの小さな咳払い1つで再びシンと静まった。

「皆、こんな時間に突然呼び出してすまない。緊急に知らせておかなくてはいけない事態となった為、こうして集まってもらった。
 話は他でもない、今世間を騒がせている魔女及びその魔女を支持する魔女派と呼ばれる者たちについてだ。
 魔女という存在を世に公表してからというもの、父を始め、国内政府も混乱の一途を辿っている。
 たかが魔女、と、一犯罪者のような扱いでは済まないと言う事を、ガルバディア政府は嫌というほど思い知ったことだろう。
 まず、君たちに知っておいて貰いたい一番のことは、魔女はバラムガーデンと繋がりがある、ということである。」

その言葉に、僅かにホール内にざわめきが起こった。
先程ガルムに硬いと窘められた教官長が生徒達を諌める。
ガルムは更に続けた。

「本来ならば、ガルバディア軍が出動するべき事態であるのだが、彼らは彼らで規律に縛られ政府に使われている。
 大統領の銃撃から始まり、官僚の暗殺、研究所の爆破事件然り。
 ガルバディア国内のあちらこちらの町で起こっているテロ行為やクーデター紛いの暴動は、もはや公安機関だけで抑えることが難しくなってしまったからだ。
 そしてもう一つ。
 先の、エスタでの魔女研究所爆破事件。…報道では何も公表されてはいないが、所内にいた関係者から魔女派を名乗る犯行声明らしきものがあった旨の報告があり、
 すでに容疑者は捕獲されたが、実はその容疑者が、バラムガーデンのSeeDであった。」

会場内のざわめきが一層大きくなる。
教官長は声を張り上げるように制止をかけるが、生徒達の声は止むことがない。
生徒達に初めて知らされた事柄に、一様に動揺を受けたようだ。
しかも、それは同じガーデンという教育施設で訓練を受けるSeeDとなると、自分たちもある意味同じ立場にいるのだ。

「…静粛に。
 だが、一度は捕獲したものの、残念なことに何の事情も聞きだせぬまま、彼には逃走を許してしまっている。
 先日のD地区収容所で脱走事件が起こったことは、すでに聞き及んでいることとは思う。
 その脱走犯こそ、研究所爆破事件に関与した疑いのあるSeeD。これはもう、容疑者ではなく完全な犯罪者であると決定づけている。
 しかも、それを手引きした人物がいることも分かった。
 …資料を。」

ガルムは教官長のほうに顔を向けて、若干声のトーンを落として促した。
生徒達が座る座席の一つ一つに、小型のモニターが備え付けられており、ステージ後方の大きなスクリーンに映し出される映像を自分たちの手元でも見ることが出来る。
返事を返した教官長が操作パネルを開き、生徒達にそれを見るように指示を出す。
そこには、何枚かの写真と動画、これまでに判明している詳細データが映し出された。
だが、それははっきりと顔が写っているものはなく、誰か不審者がいる、程度のものでしかなく、生徒達には不満のようだ。

「これは魔女研究所で、爆破される前にカメラが捉えた侵入者の映像だ。
 顔ははっきりしないが、確かにバラムガーデンの制服を着用している。
 爆発の影響で、解析できた画像は僅かしかないのが難点だが、仕方が無いだろう。
 それからこちらの映像は先日の収容所でのものだ。1つは施設の外だが、上空に鳥のような獣がいるのが見える。もう一つは管理ブロックのあるフロアだ。
 先程の獣が、バラムガーデンの制服を着た人物を連れ去っているのが見える。この写真と映像だけではよく見えないが、ここだ。獣の背にもう1人誰かいるのが見えるか?
 おそらく、こいつがこの獣を使って容疑者の脱走を補助したものと推測される。
 …これは私個人の推測でしかないのだが、 これは、『G.F.』ではないかと考える。」

再びホール内にざわめきが走った。
それはこれまでのものとは比べ物にならないほど大きなもので、制止の声を上げる教官長の声も聞こえないほどだった。
ガルバディアガーデンにおいて、確かにG.F.の存在もその力も教えられている。しかし、実際にそれを使用するかといえば、それは否である。
G.F.は、本来、魔法の集合体である。魔法を使う魔女、及びその魔女を支持する魔女派を取り締まる軍や公安となるべく日々訓練にいそしむ学生達に、その魔法の集合体を使用させることはなかったのである。
そして彼らは知っていた。G.F.をかつて授業にまで取り入れて当然のように使用していたSeeDを排出したのが、バラムガーデンであることを。

「先日、この脱走事件が起きた直後、密かにバラムガーデン監視に派遣されていた軍の部隊から、鳥のような白い獣がガーデンの内部に侵入したようだとの報告を受けている。
 容疑者であるSeeDを捕らえたのも、彼がガーデンに戻る1歩手前だったそうだ。
 もし、彼がガーデンの中に逃げ込んでいた場合は、捉えることは出来なかっただろう。
 ガーデンとは、社会に出て社会のために尽くす人材を教育し、またその生活を保護するべき場所である。
 従って、ガーデンには如何なる政府・公安機関、軍の介入は許されない。
 これだけあからさまな行動を起こし、これだけの証拠がありながら、今尚、バラムガーデンは沈黙を守っている。それは、魔女を擁護しているからに他ならない!
 だが、はっきり言って政府も軍も当てにはならない。本当の敵はすでに分かりきっているというのに!」

生徒達の間から、賛同の野次が飛び交う。
それを止める者は誰もいなかった。

「政府が、軍が動けないのならば、どうするべきか!!」

生徒達は口々に叫ぶ。

「…そうだその通りだ!我々が動く!!」

ガルムの力強い断言に、生徒達はヒートアップしていく。
叫び声は唸り上げ、ホールに響き渡る。
建物全部が揺れるような大歓声が沸きあがった。

「世界に混乱を巻き起こした魔女を、そしてバラムガーデンを、このガルバディアガーデンが叩くのだ!!
 皆、よく覚えておいて欲しい。
 これは、ただガーデンを潰す非道なものではないということを! これは、再び世界に平和を取り戻す為の正義の戦いであると!」


ガルバディアガーデンの、バラムガーデン掃討作戦の、始まりだ。
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