Chapter.47[ガルバディア]
~第47章 part.4~
秘書が用意した映像を目にしたとき、ガルムは後悔した。
なぜ秘書が報告したときにすぐ見なかったのか、と。
そこに映し出されたのは、10年前の魔女のパレードの様子。
今この世界において、この日の出来事をこうして映像として見ることはまず不可能だ。
アルティミシアの時間圧縮によって、魔女のその後の記憶が人々の頭から消されたのと同じように、このパレードを撮影したあらゆる録画機器が使用不能、あるいは消去されていたのだ。
「これは、どうしたんだい?」
流石にこの映像にはガルムも驚いた。
まさか10年の年月が過ぎて、こうして残されたものを見ることができるとは!
「生徒の親が持っていたようです」
手に持ってじっと撮影したものなどではなく、一体何を撮していたのかと疑いたくなるような、激しく上下左右に揺さぶられる画面に酔ってしまいそうだ。
撮影した者の興奮の度合いがよくわかる。
だが間違いなくそこにいた。
派手な山車の上に鎮座した、かつての魔女イデアが。
暫くパレードは続いていたが、魔女の山車が凱旋門を潜ろうとしたその時だ。
門の通り道を塞ぐように突然下りた鉄格子が、魔女が乗った山車の行く手を阻んだのだ。
人々の歓喜の声は嬌声と悲鳴に変わり、画面の揺れはもう何を撮しているのかもわからない。
何かがぶつりと途切れる短い音の後で映像は終了した。
突然、ガルムは秘書からコントローラーを奪い取り、映像を再び再生させた。
一度止めてみたり、逆再生してみたり…。
だが、ある場面が出たところで手を止めた。
つい先程まで目を通していた資料を手にとり、再び目を通す。
「これはいつの?」
「先日、学園長がデリンクシティに赴かれたときに発見したと報告が入ったときのものです。早く情報が欲しいとのご希望のようでしたので、“特務隊”を派遣した結果です。
それから昨夜の事件後に報道された内容の一部と、こちらも同様に特務隊が独自に入手したしたものです」
ガルムは納得したのか深く頷いてみせた。
「何か気になることでも?」
秘書の言葉に、ガルムは読めと言わんばかりに手にした資料を秘書に渡した。
先日デリングシティで発見した反政府グループのアジトの一つ。
捕えたメンバーの証言が事細かに記録されていた。
その中の一文、“魔女の騎士が現れた”。
更にもう一枚。こちらは似顔絵だった。
そしてガルムが静止させたままの映像を改めて見た秘書は、言葉を失った。
映し出された場面は、正面に鎮座した魔女と、その横に立つ白いコートの男。
画像が鮮明ではない為、顔までははっきりとはわからないが、確かに男性のようだ。
「魔女の復活は騎士と共に…なんて言葉、なかったよね」
ふざけているのか本心なのか、秘書にはガルムの言葉の意味を理解する余裕はなかった。
「…魔女の、騎士……」
秘書もその存在を知っていた。
だがそれは、あくまでも物語や映画のなかで、だ。
本当にそんなものがこの世にいるとは思っていなかった。
…だが確かに今この世界には魔女が存在し、混乱を招いているのだ。
ならば騎士の存在も別に不思議なことではない。
「君たちにやって貰いたいことがある」
突然立ち上がって、ガルムは男たちの顔を一人一人見渡した。
「君たちには、新たな特務隊の選出と彼らの指揮を取って貰いたい。このガーデンの生徒たちは実に優秀だ。
それは世界に名を馳せるSeeDにも匹敵する。これも皆、君たちの教育の賜物なのだろう。
この度の世界の混乱は全て、再び世に現れた魔女という存在が引き起こしたもの。
皆も知っての通り、魔女とはこの世界に必ず存在するもの。殺すことができないというのは厄介な話で、隔離するしかない」
「ですが学園長、隔離すると言っても研究所は先日の事件で…」
「魔女を隔離する方法が一つしかない訳ではない。よく考えてみたまえ。魔女は確かに驚異の存在だ。
だが、その肉体や精神は普通の人間と何ら変わりはない。生きたまま永遠に眠らせておくことなど、容易い!」
ガルムの言葉に簡単に言いくるめられてしまった男たちは、興奮した様子でざわついていた。
ただ一人、カーウェイを除いて。
そこに集められた男たちの興奮した声を、カーウェイはじっと聞いていた。
彼には、危惧するところがいくつかあった。
今ガルムが声高に言い放った魔女は、自分の娘なのだ。
先日の作戦でもう二度とこんなことに手を貸すまいと思っていた。
だが緊急召集に足を運んでみれば、これだ。
大統領が襲撃され、官僚が暗殺され、世の中の混乱は最高潮に達しようとしているこの時期に、この若造は何を始めようというのか。
そしてもう一つ。
“もう一人の魔女の騎士”…?
それは一体誰のことを言っている!?
見せられた映像は確かに10年前のパレードのもの。
そこに映っているあの若者は、…知っていた。
10年前のあの日から、…いや、もっと前から。
彼がああしてイデアと共に現れたことに酷く驚いたものだった。
あれから10年たって、イデアは普通の人間となり、娘は魔女となった。
彼は、あの後どうしていたのだろう?
魔女の力が失われれば、騎士との契約も切れる……、これは映画の話だったか。
ともあれ、イデアが力を失った時に彼も解放されたはず。
そして今の魔女、娘の側に付き従う騎士は、あのSeeDの若者ではなかったか?
私のかつての部下だった諜報部員が、トラビアで娘と彼が捕えられたと報告してくれた。
辛い報せだが間違いはないはずだ。
もう一人の騎士は、君なのか、サイファー……。
「バルデラ君、君には別の件を頼みたい」
今日のところは会議はこれで離散という頃になってから、ガルムは一人の男を呼び止めた。
ほっと安堵していたところだったと言うのに、再び緊張が走った。
「は、はい、何でしょうか…?」
「先日の電波ジャックを、君は見たかい?」
リアルタイムで見ていなかったとしても、その後、幾度となく繰り返し報道番組内で流されたあの放送は、今やTVを見ることができる環境に居るものなら誰でも一度は目にしていた。
勿論、呼び止められたこのバルデラという男も見る機会はあった。
なんともガルバディア政府を馬鹿にしているとしか思えないような内容の、気分の悪くなるような一方的な宣戦布告に続いて民衆を煽るあの言動。
ガルバディアの一国民として、政府を支持する者として、決して許せるようなものではなかった。
「“ハリー・アバンシア”と名乗る人物のことを調べてもらいたいんだ。
…当然、これは政府も調査していることだが、未だにその人物の特定には至っていない。
できれば、政府よりも先にその情報を手に入れたい。君と、君の特務隊に期待したいんだが、任せてもいいかい?」
これは重大なことを言いつけられたものだ!
バルデラはすぐにそう思った。
だが、ガルムの言う通り、未だ政府の力ではその人物が誰であるかわかっていない。
ここでもし、政府を出し抜くことができれば、それはガルムの鼻を明かしてやることにも繋がるのではないだろうか。
そうなれば占めたものである。ガルムに借りを作らせることができるのだから。
「お任せ下さい学園長。我が情報部から選りすぐって特務隊を結成し、必ずその正体を突き止めて見せます」
「あぁ、宜しく頼むよ」
意気揚々と部屋を後にしたバルデラを見送ってから、ガルムは小さく笑みを浮かべた。
「…任せて宜しかったのですか?」
心配そうに聞いてきたのは秘書だった。
「まあ、上手く判明したら儲けもの、といったところかな」
→part.5
秘書が用意した映像を目にしたとき、ガルムは後悔した。
なぜ秘書が報告したときにすぐ見なかったのか、と。
そこに映し出されたのは、10年前の魔女のパレードの様子。
今この世界において、この日の出来事をこうして映像として見ることはまず不可能だ。
アルティミシアの時間圧縮によって、魔女のその後の記憶が人々の頭から消されたのと同じように、このパレードを撮影したあらゆる録画機器が使用不能、あるいは消去されていたのだ。
「これは、どうしたんだい?」
流石にこの映像にはガルムも驚いた。
まさか10年の年月が過ぎて、こうして残されたものを見ることができるとは!
「生徒の親が持っていたようです」
手に持ってじっと撮影したものなどではなく、一体何を撮していたのかと疑いたくなるような、激しく上下左右に揺さぶられる画面に酔ってしまいそうだ。
撮影した者の興奮の度合いがよくわかる。
だが間違いなくそこにいた。
派手な山車の上に鎮座した、かつての魔女イデアが。
暫くパレードは続いていたが、魔女の山車が凱旋門を潜ろうとしたその時だ。
門の通り道を塞ぐように突然下りた鉄格子が、魔女が乗った山車の行く手を阻んだのだ。
人々の歓喜の声は嬌声と悲鳴に変わり、画面の揺れはもう何を撮しているのかもわからない。
何かがぶつりと途切れる短い音の後で映像は終了した。
突然、ガルムは秘書からコントローラーを奪い取り、映像を再び再生させた。
一度止めてみたり、逆再生してみたり…。
だが、ある場面が出たところで手を止めた。
つい先程まで目を通していた資料を手にとり、再び目を通す。
「これはいつの?」
「先日、学園長がデリンクシティに赴かれたときに発見したと報告が入ったときのものです。早く情報が欲しいとのご希望のようでしたので、“特務隊”を派遣した結果です。
それから昨夜の事件後に報道された内容の一部と、こちらも同様に特務隊が独自に入手したしたものです」
ガルムは納得したのか深く頷いてみせた。
「何か気になることでも?」
秘書の言葉に、ガルムは読めと言わんばかりに手にした資料を秘書に渡した。
先日デリングシティで発見した反政府グループのアジトの一つ。
捕えたメンバーの証言が事細かに記録されていた。
その中の一文、“魔女の騎士が現れた”。
更にもう一枚。こちらは似顔絵だった。
そしてガルムが静止させたままの映像を改めて見た秘書は、言葉を失った。
映し出された場面は、正面に鎮座した魔女と、その横に立つ白いコートの男。
画像が鮮明ではない為、顔までははっきりとはわからないが、確かに男性のようだ。
「魔女の復活は騎士と共に…なんて言葉、なかったよね」
ふざけているのか本心なのか、秘書にはガルムの言葉の意味を理解する余裕はなかった。
「…魔女の、騎士……」
秘書もその存在を知っていた。
だがそれは、あくまでも物語や映画のなかで、だ。
本当にそんなものがこの世にいるとは思っていなかった。
…だが確かに今この世界には魔女が存在し、混乱を招いているのだ。
ならば騎士の存在も別に不思議なことではない。
「君たちにやって貰いたいことがある」
突然立ち上がって、ガルムは男たちの顔を一人一人見渡した。
「君たちには、新たな特務隊の選出と彼らの指揮を取って貰いたい。このガーデンの生徒たちは実に優秀だ。
それは世界に名を馳せるSeeDにも匹敵する。これも皆、君たちの教育の賜物なのだろう。
この度の世界の混乱は全て、再び世に現れた魔女という存在が引き起こしたもの。
皆も知っての通り、魔女とはこの世界に必ず存在するもの。殺すことができないというのは厄介な話で、隔離するしかない」
「ですが学園長、隔離すると言っても研究所は先日の事件で…」
「魔女を隔離する方法が一つしかない訳ではない。よく考えてみたまえ。魔女は確かに驚異の存在だ。
だが、その肉体や精神は普通の人間と何ら変わりはない。生きたまま永遠に眠らせておくことなど、容易い!」
ガルムの言葉に簡単に言いくるめられてしまった男たちは、興奮した様子でざわついていた。
ただ一人、カーウェイを除いて。
そこに集められた男たちの興奮した声を、カーウェイはじっと聞いていた。
彼には、危惧するところがいくつかあった。
今ガルムが声高に言い放った魔女は、自分の娘なのだ。
先日の作戦でもう二度とこんなことに手を貸すまいと思っていた。
だが緊急召集に足を運んでみれば、これだ。
大統領が襲撃され、官僚が暗殺され、世の中の混乱は最高潮に達しようとしているこの時期に、この若造は何を始めようというのか。
そしてもう一つ。
“もう一人の魔女の騎士”…?
それは一体誰のことを言っている!?
見せられた映像は確かに10年前のパレードのもの。
そこに映っているあの若者は、…知っていた。
10年前のあの日から、…いや、もっと前から。
彼がああしてイデアと共に現れたことに酷く驚いたものだった。
あれから10年たって、イデアは普通の人間となり、娘は魔女となった。
彼は、あの後どうしていたのだろう?
魔女の力が失われれば、騎士との契約も切れる……、これは映画の話だったか。
ともあれ、イデアが力を失った時に彼も解放されたはず。
そして今の魔女、娘の側に付き従う騎士は、あのSeeDの若者ではなかったか?
私のかつての部下だった諜報部員が、トラビアで娘と彼が捕えられたと報告してくれた。
辛い報せだが間違いはないはずだ。
もう一人の騎士は、君なのか、サイファー……。
「バルデラ君、君には別の件を頼みたい」
今日のところは会議はこれで離散という頃になってから、ガルムは一人の男を呼び止めた。
ほっと安堵していたところだったと言うのに、再び緊張が走った。
「は、はい、何でしょうか…?」
「先日の電波ジャックを、君は見たかい?」
リアルタイムで見ていなかったとしても、その後、幾度となく繰り返し報道番組内で流されたあの放送は、今やTVを見ることができる環境に居るものなら誰でも一度は目にしていた。
勿論、呼び止められたこのバルデラという男も見る機会はあった。
なんともガルバディア政府を馬鹿にしているとしか思えないような内容の、気分の悪くなるような一方的な宣戦布告に続いて民衆を煽るあの言動。
ガルバディアの一国民として、政府を支持する者として、決して許せるようなものではなかった。
「“ハリー・アバンシア”と名乗る人物のことを調べてもらいたいんだ。
…当然、これは政府も調査していることだが、未だにその人物の特定には至っていない。
できれば、政府よりも先にその情報を手に入れたい。君と、君の特務隊に期待したいんだが、任せてもいいかい?」
これは重大なことを言いつけられたものだ!
バルデラはすぐにそう思った。
だが、ガルムの言う通り、未だ政府の力ではその人物が誰であるかわかっていない。
ここでもし、政府を出し抜くことができれば、それはガルムの鼻を明かしてやることにも繋がるのではないだろうか。
そうなれば占めたものである。ガルムに借りを作らせることができるのだから。
「お任せ下さい学園長。我が情報部から選りすぐって特務隊を結成し、必ずその正体を突き止めて見せます」
「あぁ、宜しく頼むよ」
意気揚々と部屋を後にしたバルデラを見送ってから、ガルムは小さく笑みを浮かべた。
「…任せて宜しかったのですか?」
心配そうに聞いてきたのは秘書だった。
「まあ、上手く判明したら儲けもの、といったところかな」
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