第2章【過去の記憶】
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=8=
私には辛い記憶がある。
誰も知らない、私だけの記憶。
あれはブラスカ達と共に旅をしていたころ。
あの日はひどい嵐だった。
美しい朝日が目に眩しいほどだったはずなのに、深い森を抜けた先に太陽は見えなかった。
それどころか、日が沈むにはまだ早い時間だというのに、辺りは薄暗く風が身を凍えさせるようだった。
そこがマカラーニャという土地であったことがその寒さの大きな要因ではあったのだが。
この嵐の中、雪道を渡っての行軍は得策ではないと、結局私たちは旅行公司で嵐が収まるのを待つことになった。
ブラスカは久しぶりにのんびりできると言っていたし、ジェクトは相変わらずマイペースで冗談を言っては私を笑わせる。
アーロンだけが一人で焦っているかのように苦言をぶつぶつと漏らしていた。
次の日の朝、昨夜の嵐が嘘のように治まって、マカラーニャ特有の氷に覆われた大地が跳ね返した朝日がきらきらと光り、眩しさに目を細めながらもその幻想的な光景にしばし心奪われた。
やはり風は冷たいが、それでも昨日の嵐に比べたら遥かにマシだ。
舞い上げる細かな氷の結晶が朝日を受けて、小さな光の粒が宙を舞っているようだった。
旅行公司を出てすぐ、街道の入り口付近に建てられた大きなアーチ状の門。
ここがマカラーニャ街道の始まりであることを示している。
「アーロン、もう少し寄ってくれ」
妙に嬉しそうに弾ませたブラスカの声に振り返った。
彼の手にはいつもジェクトが持っているスフィアカメラ。
アーチ状の門の下に立つ2人の男を写していた。
門の真下には、見ているだけで寒そうな半裸の男と、そこから数歩離れたところに赤い服の男。
日に焼けた肉体を曝している男は満面の笑みを浮かべているのに対して、長い黒髪を尻尾のように1つに纏めて揺らしている男は眉間に深い皺を刻みつけていた。
それがブラスカという人物の言葉ならば、逆らう義理はない。
アーロンはしぶしぶジェクトの傍へ1歩だけ歩み寄った。
いかにも楽しげに、ジェクトは今度はブラスカを写す気でこちらに近づいてくる。
ブラスカも満更ではなさそうに答えた。
「ほら、ラフテルもこいよ。一緒に写っとけって」
「おい!これは遊びではないんだぞ!聞いているのか!」
昨夜の嵐で足止めを食ったのが気に食わなかったのか、アーロンの機嫌は朝から頗る悪い。
これから向かうマカラーニャという寺院がどんなところか、簡単にブラスカに説明を聞く。
その寺院にも祈り子様がいらっしゃって、ブラスカはそこで召喚獣を手に入れるのが目的なのだそうだ。
“氷の女王”シヴァ。
その名の通り、氷属性を有する召喚獣だ。
その祈り子の能力の影響で、ここマカラーニャは年中冷たく厚い氷に覆われた大地となっている。
ここを訪れる旅人、私達も例外なくこの氷の街道を渡らねばならない。
昨夜の嵐で身動きが取れなかったのは、私たちだけではなかったらしい。
街道の中ほどまで進んだとき、突然目の前に魔物が現れた。
しかも1体や2体ではない。
今までどこに潜んでいたのだろうかと思えるほど、うじゃうじゃと沸いてきて私たちを取り囲んだ。
嵐で魔物たちも思うように動くことができず、溜まった鬱憤を晴らすべく出てきた街道に見つけた、生ある者。
当然魔物たちの狙いはその生ある者たちに向けられる。
つまり、今いる、私達だ。
「来た来た~!」
「ふん、雑魚が!」
ジェクトもアーロンもなぜか嬉しそうに武器を構える。
魔物と遭遇して何がそんなに嬉しいのか、私にはよくわからない。
チラリと向けた視線の先のブラスカは、いつものように静かな笑みを浮かべて2人を見つめていた。
ここに出現した魔物と、この2人は同じ系列に思えて仕方がなかった。
2人に任せておいてもいいかとも思ったが、異様に魔物の数が多い。
倒しても倒しても、浮き上がった幻光虫がすぐに次の魔物に姿を変えて襲い掛かってくる。
少し離れたところで、ブラスカも異界送りの儀式をしているが、到底追いつかない。
無防備になるブラスカを放っておくこともできず、こちらに向かってくる魔物をなんとか魔法で防ぐことだけで精一杯だった。
→
14,jul,2011
私には辛い記憶がある。
誰も知らない、私だけの記憶。
あれはブラスカ達と共に旅をしていたころ。
あの日はひどい嵐だった。
美しい朝日が目に眩しいほどだったはずなのに、深い森を抜けた先に太陽は見えなかった。
それどころか、日が沈むにはまだ早い時間だというのに、辺りは薄暗く風が身を凍えさせるようだった。
そこがマカラーニャという土地であったことがその寒さの大きな要因ではあったのだが。
この嵐の中、雪道を渡っての行軍は得策ではないと、結局私たちは旅行公司で嵐が収まるのを待つことになった。
ブラスカは久しぶりにのんびりできると言っていたし、ジェクトは相変わらずマイペースで冗談を言っては私を笑わせる。
アーロンだけが一人で焦っているかのように苦言をぶつぶつと漏らしていた。
次の日の朝、昨夜の嵐が嘘のように治まって、マカラーニャ特有の氷に覆われた大地が跳ね返した朝日がきらきらと光り、眩しさに目を細めながらもその幻想的な光景にしばし心奪われた。
やはり風は冷たいが、それでも昨日の嵐に比べたら遥かにマシだ。
舞い上げる細かな氷の結晶が朝日を受けて、小さな光の粒が宙を舞っているようだった。
旅行公司を出てすぐ、街道の入り口付近に建てられた大きなアーチ状の門。
ここがマカラーニャ街道の始まりであることを示している。
「アーロン、もう少し寄ってくれ」
妙に嬉しそうに弾ませたブラスカの声に振り返った。
彼の手にはいつもジェクトが持っているスフィアカメラ。
アーチ状の門の下に立つ2人の男を写していた。
門の真下には、見ているだけで寒そうな半裸の男と、そこから数歩離れたところに赤い服の男。
日に焼けた肉体を曝している男は満面の笑みを浮かべているのに対して、長い黒髪を尻尾のように1つに纏めて揺らしている男は眉間に深い皺を刻みつけていた。
それがブラスカという人物の言葉ならば、逆らう義理はない。
アーロンはしぶしぶジェクトの傍へ1歩だけ歩み寄った。
いかにも楽しげに、ジェクトは今度はブラスカを写す気でこちらに近づいてくる。
ブラスカも満更ではなさそうに答えた。
「ほら、ラフテルもこいよ。一緒に写っとけって」
「おい!これは遊びではないんだぞ!聞いているのか!」
昨夜の嵐で足止めを食ったのが気に食わなかったのか、アーロンの機嫌は朝から頗る悪い。
これから向かうマカラーニャという寺院がどんなところか、簡単にブラスカに説明を聞く。
その寺院にも祈り子様がいらっしゃって、ブラスカはそこで召喚獣を手に入れるのが目的なのだそうだ。
“氷の女王”シヴァ。
その名の通り、氷属性を有する召喚獣だ。
その祈り子の能力の影響で、ここマカラーニャは年中冷たく厚い氷に覆われた大地となっている。
ここを訪れる旅人、私達も例外なくこの氷の街道を渡らねばならない。
昨夜の嵐で身動きが取れなかったのは、私たちだけではなかったらしい。
街道の中ほどまで進んだとき、突然目の前に魔物が現れた。
しかも1体や2体ではない。
今までどこに潜んでいたのだろうかと思えるほど、うじゃうじゃと沸いてきて私たちを取り囲んだ。
嵐で魔物たちも思うように動くことができず、溜まった鬱憤を晴らすべく出てきた街道に見つけた、生ある者。
当然魔物たちの狙いはその生ある者たちに向けられる。
つまり、今いる、私達だ。
「来た来た~!」
「ふん、雑魚が!」
ジェクトもアーロンもなぜか嬉しそうに武器を構える。
魔物と遭遇して何がそんなに嬉しいのか、私にはよくわからない。
チラリと向けた視線の先のブラスカは、いつものように静かな笑みを浮かべて2人を見つめていた。
ここに出現した魔物と、この2人は同じ系列に思えて仕方がなかった。
2人に任せておいてもいいかとも思ったが、異様に魔物の数が多い。
倒しても倒しても、浮き上がった幻光虫がすぐに次の魔物に姿を変えて襲い掛かってくる。
少し離れたところで、ブラスカも異界送りの儀式をしているが、到底追いつかない。
無防備になるブラスカを放っておくこともできず、こちらに向かってくる魔物をなんとか魔法で防ぐことだけで精一杯だった。
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14,jul,2011