第10章【結末へ】
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「ラフテル」
私の名を呼ぶ少年の声が背後から掛かった。
フードを目深に被っているせいで、口元しか見えない少年の顔は、それでも微かな笑みを浮かべているように見えた。
その意図を読み取って、涙で濡れたままだった頬をぐいと少々乱暴に拭う。
最後の最後に、一番大切な仕事が残っている。
この2年間、約束を果たすために必死にかき集めた、“彼”の欠片達。
これが本当に上手くいくかなんて保障は何もない。
祈り子達にとっても初めての試みなのだから。
彼が、少年が生きた世界はここではない。
この世界から見れば、少年の存在など儚い幻でしかないのだから。
祈り子達の夢の世界で生まれた少年は、この世界へ来て存在があることを知らしめた。
彼の父もまた然り。
ジェクトという存在は本当に特殊だったのだろう。
少年と同じように夢の産物でしか有り得なかったというのに、この世界で祈り子となり、その存在を具現化させ定着させてしまった。
しかし、少年の場合は定着させるものがこの世界の人間の記憶だけという、不確かで曖昧な儚い存在。
夢を見る祈り子が作り出した存在は、当然、祈り子が夢を見ることをやめれば消えてしまう。
そんな夢の世界の住人をこの世界に呼び戻そうなどと、到底無理な話なのだ。
だが、この世界、このスピラという世界には、人の記憶を具現化させる能力を持つものがある。
人の想い、願い、記憶、感情全てを使って、確かに存在したという人々の記憶からその人物を具現化させてくれる。
幻光虫だけに頼っていたのでは、その姿を映し出すことはできてもこの世界に定着させることはできない。
それは本当に朧気な幻としか写らないのだから。
人の想いや記憶を持った幻光虫は、集まってやがて魔物となって生ある人間を羨んで襲い掛かる。
魔物を倒して幻光虫を集め、その中に残された微かな小さな記憶の欠片だけを見つけ出すのは、骨が折れる作業だ。
途方もない時間と労力を必要とする。
彼、少年が赴いた全ての場所で、そして彼と彼に関わった全ての人間の記憶を探して集めなくてはならない。
勿論、私独りだけの力だけで成せるとは思ってはいない。
スピラは私が、異界は祈り子達が、2年もの時間をかけてようやくここまで集めることができたのだ。
そしてその欠片達は今、こうして一つになろうとしている。
バハムートを中心に、祈り子達が手を翳す。
小さな幻光虫が1つ、そこに生まれた。
酷い頭痛が続いていた。
ジェクトから受け取った、“大事なもの”。
これがなければ、少年はただの想いと記憶の欠片が寄せ集まってできた、魔物としてしか再生しない。
彼が彼として存在するために絶対に必要なもの。
それを、ジェクトは私の頭の中に最後の置き土産として預けてくれた。
祈り子達と同じように、私も小さな幻光虫に手を翳した。
これで、私の仕事も終わった。
ブラスカとジェクトの約束を守ることができたのかどうかはまだわからないが、それでも安堵することができたように思う。
少年がまた少年の姿を取り戻したら、何と言おうか。
どんな顔をして会おうか。
一緒にスピラに連れていってやろうか。
ユウナはどんな反応を示してくれるだろうか。
ジェクトやブラスカは、褒めてくれるだろうか。
頭の中で、頭痛の元になっていたもやもやしたものが晴れていく。
軽くなっていく頭と共に、体の力も抜けていくように感じた。
瞳を閉じて、口元に笑みを浮かべる。
……あぁ、なんだ、私はやっぱり疲れていたんだ。
これで、終わるんだ。
そんなことを考えているうちに、酷い眠気に襲われた。
最後まで、彼がユウナの元に帰るまで見届けたかったのに、眠くて、眠くて、どうしようもない。
この眠気に、抗えそうもない。
目を閉じていたはずなのに、眩しい世界で、少年が笑ったような気がした。
→
07,Dec,2012
「ラフテル」
私の名を呼ぶ少年の声が背後から掛かった。
フードを目深に被っているせいで、口元しか見えない少年の顔は、それでも微かな笑みを浮かべているように見えた。
その意図を読み取って、涙で濡れたままだった頬をぐいと少々乱暴に拭う。
最後の最後に、一番大切な仕事が残っている。
この2年間、約束を果たすために必死にかき集めた、“彼”の欠片達。
これが本当に上手くいくかなんて保障は何もない。
祈り子達にとっても初めての試みなのだから。
彼が、少年が生きた世界はここではない。
この世界から見れば、少年の存在など儚い幻でしかないのだから。
祈り子達の夢の世界で生まれた少年は、この世界へ来て存在があることを知らしめた。
彼の父もまた然り。
ジェクトという存在は本当に特殊だったのだろう。
少年と同じように夢の産物でしか有り得なかったというのに、この世界で祈り子となり、その存在を具現化させ定着させてしまった。
しかし、少年の場合は定着させるものがこの世界の人間の記憶だけという、不確かで曖昧な儚い存在。
夢を見る祈り子が作り出した存在は、当然、祈り子が夢を見ることをやめれば消えてしまう。
そんな夢の世界の住人をこの世界に呼び戻そうなどと、到底無理な話なのだ。
だが、この世界、このスピラという世界には、人の記憶を具現化させる能力を持つものがある。
人の想い、願い、記憶、感情全てを使って、確かに存在したという人々の記憶からその人物を具現化させてくれる。
幻光虫だけに頼っていたのでは、その姿を映し出すことはできてもこの世界に定着させることはできない。
それは本当に朧気な幻としか写らないのだから。
人の想いや記憶を持った幻光虫は、集まってやがて魔物となって生ある人間を羨んで襲い掛かる。
魔物を倒して幻光虫を集め、その中に残された微かな小さな記憶の欠片だけを見つけ出すのは、骨が折れる作業だ。
途方もない時間と労力を必要とする。
彼、少年が赴いた全ての場所で、そして彼と彼に関わった全ての人間の記憶を探して集めなくてはならない。
勿論、私独りだけの力だけで成せるとは思ってはいない。
スピラは私が、異界は祈り子達が、2年もの時間をかけてようやくここまで集めることができたのだ。
そしてその欠片達は今、こうして一つになろうとしている。
バハムートを中心に、祈り子達が手を翳す。
小さな幻光虫が1つ、そこに生まれた。
酷い頭痛が続いていた。
ジェクトから受け取った、“大事なもの”。
これがなければ、少年はただの想いと記憶の欠片が寄せ集まってできた、魔物としてしか再生しない。
彼が彼として存在するために絶対に必要なもの。
それを、ジェクトは私の頭の中に最後の置き土産として預けてくれた。
祈り子達と同じように、私も小さな幻光虫に手を翳した。
これで、私の仕事も終わった。
ブラスカとジェクトの約束を守ることができたのかどうかはまだわからないが、それでも安堵することができたように思う。
少年がまた少年の姿を取り戻したら、何と言おうか。
どんな顔をして会おうか。
一緒にスピラに連れていってやろうか。
ユウナはどんな反応を示してくれるだろうか。
ジェクトやブラスカは、褒めてくれるだろうか。
頭の中で、頭痛の元になっていたもやもやしたものが晴れていく。
軽くなっていく頭と共に、体の力も抜けていくように感じた。
瞳を閉じて、口元に笑みを浮かべる。
……あぁ、なんだ、私はやっぱり疲れていたんだ。
これで、終わるんだ。
そんなことを考えているうちに、酷い眠気に襲われた。
最後まで、彼がユウナの元に帰るまで見届けたかったのに、眠くて、眠くて、どうしようもない。
この眠気に、抗えそうもない。
目を閉じていたはずなのに、眩しい世界で、少年が笑ったような気がした。
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07,Dec,2012