第10章【結末へ】
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ヒトは、何を持ってヒトと呼ぶのだろうか。
命を有し、意思を持って成り立つ存在でしかないものを、ヒトと呼べるのだろうか。
姿形の定まらず、目に見えるものばかりではい、魂というものをヒトと呼ぶのだろうか。
それらが共にあることで、初めてヒトとして存在を許されるのだろうか…?
スピラという世界に生まれた。
魂を持つ、命ある普通の人間として。
私が生きた時代のスピラは、死がいつも身近にあるものだった。
この世界の死とは、肉体を失うだけのこと。
魂だけの存在になったとしても、死後の世界へと導かれる者、生きたままの姿で残る者、生者を羨み醜い姿と成り果てる者。
どんな形であれ、命を落とした後でも存在することはできる。
だから、死というものをそれほど恐怖の対象だとは思っていなかった。
今回の、この戦いを経験するまでは。
初めて、死を恐ろしいと感じた。
死ぬことが怖くなった。
いや、もうすでに死んでいる身であるくせに、それでも消えてしまうということに恐怖を感じた。
自分自身が消えてなくなってしまうことが、ヒトである証のようにさえ思えた。
「んじゃ、行くわ」
「!!」
あっさりとそんな言葉を簡単に吐き出すジェクトに僅かな怒りさえ感じてしまう。
私が呆けて別のことを考えている間に、ジェクトはアーロンやブラスカともう話をつけていたらしい。
「ジェクトは…」
「?」
「ジェクトは、怖く、ないのか? …その、消えてしまうことに」
「…ん~、まぁ、全然まったく! ってわけじゃねぇけどよ」
「じゃあ、どうして! どうしてそんなに簡単に決めてしまえるんだ」
「ラフテル、消えるわけじゃ、ねえぜ」
「…え?」
シンとなったジェクトは、シンの中で様々な体験をしたのだという。
この世界で、スピラや異界にいただけでは決して見ることもできない、触れることさえできないような、新しいこと不思議なことを知ったのだそうだ。
シンが消してしまった命や、異界に送られた魂。
この異界を流れる幻光虫の流れ。
それらが辿り着く先には何があるのか。
ジェクトは、身をもって知ったのだという。
「…何が、あるんだ?」
「おっと、そいつは言えねぇな。いくらラフテルの頼みだとしても、だ。…そいつは、自分自身で見て知らなきゃならねぇ」
「…そう、か」
いつものように、太陽のように豪快に笑うジェクトの眩しい笑顔は、今の私の心の中まで明るく照らし出してくれそうだ。
でも、これで本当に、もうジェクトには会えない。
「…ラフテル、大事なもんを預けたい」
「…? 大事な、もの…?」
抱き締めあったまま、ジェクトは私の耳元に唇を寄せて囁く。
少し力を緩め、ジェクトは私の顔を覗き込むようにして近付けてきた。
コツと額をつけたジェクトは、静かに目を閉じている。
私も彼に習って瞼を落とした。
途端に、頭の中に入り込んでくる、物凄い量の記憶。
米神にキンと痛みが走った。
「!!! こ、これ…!」
腕を緩めたジェクトが、私を軽く突く。
その拍子に後ろにバランスを崩すが、すぐに別の人物の腕に捕らえられる。
「大~事な娘だ。泣かせたらあの世から戻ってきてやるぜ、堅物野郎」
「…またすぐに送り返してやる」
怒気を孕んだ低い声が、私のすぐ頭上からジェクトに浴びせられた。
同時に私の腹に巻きつく、太い腕。
ジェクトが、離れていく。
あの時の青年の肩にポンと片手を乗せて、もう片方の手を軽く持上げた。
「…じゃあ、お別れだな」
「ジェクト……」
「ラフテル、…笑え!」
「!」
「おめぇの泣き顔が最後だなんて、悲しいじゃねぇか。笑ってくれよ!」
頬を伝う涙を拭くこともしないまま、私は無理やり笑顔を作った。
そして、ジェクトは光に包まれて、ゆっくりと、静かに、 ……宙に還った。
→
07,Dec,2012
ヒトは、何を持ってヒトと呼ぶのだろうか。
命を有し、意思を持って成り立つ存在でしかないものを、ヒトと呼べるのだろうか。
姿形の定まらず、目に見えるものばかりではい、魂というものをヒトと呼ぶのだろうか。
それらが共にあることで、初めてヒトとして存在を許されるのだろうか…?
スピラという世界に生まれた。
魂を持つ、命ある普通の人間として。
私が生きた時代のスピラは、死がいつも身近にあるものだった。
この世界の死とは、肉体を失うだけのこと。
魂だけの存在になったとしても、死後の世界へと導かれる者、生きたままの姿で残る者、生者を羨み醜い姿と成り果てる者。
どんな形であれ、命を落とした後でも存在することはできる。
だから、死というものをそれほど恐怖の対象だとは思っていなかった。
今回の、この戦いを経験するまでは。
初めて、死を恐ろしいと感じた。
死ぬことが怖くなった。
いや、もうすでに死んでいる身であるくせに、それでも消えてしまうということに恐怖を感じた。
自分自身が消えてなくなってしまうことが、ヒトである証のようにさえ思えた。
「んじゃ、行くわ」
「!!」
あっさりとそんな言葉を簡単に吐き出すジェクトに僅かな怒りさえ感じてしまう。
私が呆けて別のことを考えている間に、ジェクトはアーロンやブラスカともう話をつけていたらしい。
「ジェクトは…」
「?」
「ジェクトは、怖く、ないのか? …その、消えてしまうことに」
「…ん~、まぁ、全然まったく! ってわけじゃねぇけどよ」
「じゃあ、どうして! どうしてそんなに簡単に決めてしまえるんだ」
「ラフテル、消えるわけじゃ、ねえぜ」
「…え?」
シンとなったジェクトは、シンの中で様々な体験をしたのだという。
この世界で、スピラや異界にいただけでは決して見ることもできない、触れることさえできないような、新しいこと不思議なことを知ったのだそうだ。
シンが消してしまった命や、異界に送られた魂。
この異界を流れる幻光虫の流れ。
それらが辿り着く先には何があるのか。
ジェクトは、身をもって知ったのだという。
「…何が、あるんだ?」
「おっと、そいつは言えねぇな。いくらラフテルの頼みだとしても、だ。…そいつは、自分自身で見て知らなきゃならねぇ」
「…そう、か」
いつものように、太陽のように豪快に笑うジェクトの眩しい笑顔は、今の私の心の中まで明るく照らし出してくれそうだ。
でも、これで本当に、もうジェクトには会えない。
「…ラフテル、大事なもんを預けたい」
「…? 大事な、もの…?」
抱き締めあったまま、ジェクトは私の耳元に唇を寄せて囁く。
少し力を緩め、ジェクトは私の顔を覗き込むようにして近付けてきた。
コツと額をつけたジェクトは、静かに目を閉じている。
私も彼に習って瞼を落とした。
途端に、頭の中に入り込んでくる、物凄い量の記憶。
米神にキンと痛みが走った。
「!!! こ、これ…!」
腕を緩めたジェクトが、私を軽く突く。
その拍子に後ろにバランスを崩すが、すぐに別の人物の腕に捕らえられる。
「大~事な娘だ。泣かせたらあの世から戻ってきてやるぜ、堅物野郎」
「…またすぐに送り返してやる」
怒気を孕んだ低い声が、私のすぐ頭上からジェクトに浴びせられた。
同時に私の腹に巻きつく、太い腕。
ジェクトが、離れていく。
あの時の青年の肩にポンと片手を乗せて、もう片方の手を軽く持上げた。
「…じゃあ、お別れだな」
「ジェクト……」
「ラフテル、…笑え!」
「!」
「おめぇの泣き顔が最後だなんて、悲しいじゃねぇか。笑ってくれよ!」
頬を伝う涙を拭くこともしないまま、私は無理やり笑顔を作った。
そして、ジェクトは光に包まれて、ゆっくりと、静かに、 ……宙に還った。
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07,Dec,2012