第10章【結末へ】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
=68=
アーロンが怪訝そうに青年をじっと見つめた。
「僕が受け入れたのは、…あなたの、記憶」
スピラからここに渡る時に、受け取ったのだという。
…受け取る、なんてできるものなのか。
「僕は、彼の記憶を手に入れた。だけどこの記憶は12年前の、一緒に旅をしたあの時のものまで。だから、混乱させてしまった」
痛々しい顔で謝罪する青年を、もうとっくに許してしまっている自分は、おかしいだろうか。
彼は、アーロンの記憶を利用して私に近づいた。
アーロンと彼自身の想いをリンクさせて、私を手に入れようとした。
私の記憶の中の若い姿のアーロンは決して見せなかった姿や仕草、言葉を、この青年はしてみせてくれた。
私の前に現れた若いアーロン。
それは、青年の魂を借りた、アーロンの記憶。
彼の行動や言葉は、アーロンの記憶の中の想いを汲み取った表れ。
そしてそれを表面に出してくれたのは、この青年。
だから、ちぐはぐな行動に出る、過去の姿で。
これで、理解した。
「…お返しします。あなたの記憶を」
青年の言葉に、アーロンは短く返事を返しただけだった。
青年はゆっくりとこちらを振り返る。
それと同時に、彼の姿が再び若い頃のアーロンのそれに変わっていく。
よく見知ったはずの若い姿で、あの頃には決して見せなかった優しい瞳で、私をじっと見つめる。
私の頬を包み込みように撫でる掌の熱を感じて、私は彼の手の上に自分の手を重ねた。
「ラフテル」
低い、けれどとても優しい声で名を呼ぶ。
もう二度と、この声で、この声色で呼ばれることは無いのだと思うと、欲が出る。
「…もう一度、呼んでくれ」
「…ラフテル」
「うん」
「お前の心を利用して、悪かった」
「………」
「この記憶が、お前を求めていた。 …だが、これは俺のものではない。 臆病な俺の魂は、こうして誰かの姿を借りて、誰かの記憶を利用して、そして己の為だけに都合よくあろうとしていただけだ。…すまない」
否定の意味を込めて、首を左右に振る。
私のもとへきてくれたこの若い姿をしたアーロンは、彼であってアーロンではない。
だが同時に、アーロンの記憶でもあるのだ。
彼がいたから、こんな気持ちになれた。若い頃のアーロンに惹かれた。
アーロンの記憶があったから、彼は私と一緒の時間を過ごすことができた。
彼の掌が、ゆっくりと私の顔から離れていく。
名残惜しそうに彼の手に触れていた私の手からするりと抜けて、彼は私とアーロンから1歩下がった。
アーロンのほうをむいて立ったまま、1度私に視線を合わせた。
微かに、口元を持ち上げて見せたと思った瞬間、幻光虫がフワリと彼を包み込んだ。
あっと、声を出す間もなく、若い姿をしたアーロンが1歩前に進む。
その先には、隻眼のアーロン。
幻光虫に包まれた若いアーロンが立っていた場所には、あの青年。
人間が2つに分裂したかのように、分かれたのだ。
幻光虫に包まれたまま、アーロンが1つに重なる。
音も無く、すうと吸い込まれるように、若い姿は消えた。
いくつかの幻光虫がアーロンのまわりを飛び舞い、そしてそれらもやがて見えなくなった。
「…アーロン」
→
07,Dec,2012
アーロンが怪訝そうに青年をじっと見つめた。
「僕が受け入れたのは、…あなたの、記憶」
スピラからここに渡る時に、受け取ったのだという。
…受け取る、なんてできるものなのか。
「僕は、彼の記憶を手に入れた。だけどこの記憶は12年前の、一緒に旅をしたあの時のものまで。だから、混乱させてしまった」
痛々しい顔で謝罪する青年を、もうとっくに許してしまっている自分は、おかしいだろうか。
彼は、アーロンの記憶を利用して私に近づいた。
アーロンと彼自身の想いをリンクさせて、私を手に入れようとした。
私の記憶の中の若い姿のアーロンは決して見せなかった姿や仕草、言葉を、この青年はしてみせてくれた。
私の前に現れた若いアーロン。
それは、青年の魂を借りた、アーロンの記憶。
彼の行動や言葉は、アーロンの記憶の中の想いを汲み取った表れ。
そしてそれを表面に出してくれたのは、この青年。
だから、ちぐはぐな行動に出る、過去の姿で。
これで、理解した。
「…お返しします。あなたの記憶を」
青年の言葉に、アーロンは短く返事を返しただけだった。
青年はゆっくりとこちらを振り返る。
それと同時に、彼の姿が再び若い頃のアーロンのそれに変わっていく。
よく見知ったはずの若い姿で、あの頃には決して見せなかった優しい瞳で、私をじっと見つめる。
私の頬を包み込みように撫でる掌の熱を感じて、私は彼の手の上に自分の手を重ねた。
「ラフテル」
低い、けれどとても優しい声で名を呼ぶ。
もう二度と、この声で、この声色で呼ばれることは無いのだと思うと、欲が出る。
「…もう一度、呼んでくれ」
「…ラフテル」
「うん」
「お前の心を利用して、悪かった」
「………」
「この記憶が、お前を求めていた。 …だが、これは俺のものではない。 臆病な俺の魂は、こうして誰かの姿を借りて、誰かの記憶を利用して、そして己の為だけに都合よくあろうとしていただけだ。…すまない」
否定の意味を込めて、首を左右に振る。
私のもとへきてくれたこの若い姿をしたアーロンは、彼であってアーロンではない。
だが同時に、アーロンの記憶でもあるのだ。
彼がいたから、こんな気持ちになれた。若い頃のアーロンに惹かれた。
アーロンの記憶があったから、彼は私と一緒の時間を過ごすことができた。
彼の掌が、ゆっくりと私の顔から離れていく。
名残惜しそうに彼の手に触れていた私の手からするりと抜けて、彼は私とアーロンから1歩下がった。
アーロンのほうをむいて立ったまま、1度私に視線を合わせた。
微かに、口元を持ち上げて見せたと思った瞬間、幻光虫がフワリと彼を包み込んだ。
あっと、声を出す間もなく、若い姿をしたアーロンが1歩前に進む。
その先には、隻眼のアーロン。
幻光虫に包まれた若いアーロンが立っていた場所には、あの青年。
人間が2つに分裂したかのように、分かれたのだ。
幻光虫に包まれたまま、アーロンが1つに重なる。
音も無く、すうと吸い込まれるように、若い姿は消えた。
いくつかの幻光虫がアーロンのまわりを飛び舞い、そしてそれらもやがて見えなくなった。
「…アーロン」
→
07,Dec,2012