第9章【その行動の意味は】
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仄暗い空間、と表現するべきだろうか。
青年に抱きこまれたように思っていたが、自分が予想した感覚はいつまでも体には感じることも無く、両腕を押さえつけられていた時の姿勢のまま、目を開いた。
異界全体をもっともっと暗くしたような世界。
幻光虫の光で明るく照らされた異界とは対照的に、黒い幻光虫が辺りを闇色に染めていく。
手を伸ばした先に触れた、何か。
目に見えない壁のようなものがそこにあった。
手を触れて見えない壁伝いに移動する。
が、大した幅を取ることも無く、その壁は自分の周りを囲んでいることがわかった。
「…閉じ込められた…?」
どこからか、激しい戦闘の音だけが響いてくる。
金属をぶつけ合う音、何かが弾ける音、魔法だろうか独特の属性が出す音、そして、声。
「(1000年の絶望さ!!)」
「(消えてしまえばいい)」
くぐもって聞こえるのは、この壁で私自身が覆われているからだろうか。
紛れも無く、この青年の声。
憎しみを露にした、怒りの声。
一体、どうなってしまったのだろうか。
黒い幻光虫が、1箇所に収束していく。
それは次第にヒトの形を造り、あの青年、シューインの姿を現した。
だがそれは完全ではないらしく、ゆらゆらと空気に溶けているような、朧気な儚い存在。
「お前!!!」
思わず身を乗り出すが、見えない壁がそこにあることをすっかり失念していた私は、したたかに額を打ち付けてしまう。
「…っっ~~っ!!」
恥ずかしさと情けなさに、声を出すことも憚られて額をさする。
ひとを小莫迦にしたような小さな笑みを漏らす青年の影に悔しさを滲ませながら睨み返す。
「何が目的だ。もうヴェグナガンは失われた。お前の言う、世界を綺麗にすることなどもうできないだろう」
『最後の祈り子は本当に気が強いんだな』
まるで水の中で声を発しているかのように、ゴボリと声が震えている。
自分の嫌いな存在に首筋を這われたような感覚に悪寒が走る。
「私は、祈り子じゃないと何度も…」
『あぁ、そうだったね。祈り子の、なり損ない、だったね』
「!!」
……“なり損ない”…
「なぜそんなにも祈り子に執着するんだ。なぜ、私を祈り子と呼ぶ?」
『…そんなの簡単さ。こんな答えもわからないなんて、やっぱりなり損ないでしかないんだな』
「うるさいっ!」
「何がしたいんだ、…私に何を求めている!?」
これまで私に向けられた数々の言動や不可思議な現象。
そして、昔のアーロンの姿になってまで私を利用しようとした、その理由を知りたい。
『…キミは、キミ自身の染まった闇に気付かないのかい?』
「……闇…?」
『キミ以外の祈り子達も同様に闇に染まれば本来以上の力を発揮できる』
「どういう意味だ」
壁に両手をついて、張り付くように青年を睨み付ける。
このままこいつに何かを問い質したところで、無駄なような気がしてきた。
何を聞いてものらりくらりとはぐらかされてしまうだろう。
どこか遠くから、ずっと戦闘をしているであろう音や声が聞こえていた。
ユウナやリュックの甲高い悲鳴も混じっている。
こいつの本体は今、彼女たちと戦っているということか。
『…あぁ、祈り子。…なり損ないとはいえ、キミも祈り子の端くれだもんな』
「……私は祈り子じゃ…『俺は祈り子が嫌いだ』…!」
『祈り子も召喚士も、大っ嫌いなんだ!』
「………」
『召喚なんて能力があるからいけないんだ!祈り子なんて存在があったから召喚士は!! だから!……だから、レンは……』
「…レン…?」
小さな子供が駄々をこねるような素振りを見せて、怒りを露にする青年。
レンという女性が、彼女の存在がこの青年にとってどれほど大きなものだったのかを窺い知る事ができる。
『でかい戦争が起きた。…あいつは、レンは、戦うことを嫌っていた。平和を望んでいた。…それなのに!!
召喚の力があるってだけで、あいつらは……!!』
「レン、は、…召喚士なのか…」
『違うっ!!』
「!」
『…あいつは、ただ、歌を歌うのが大好きで、戦いを好まない優しい奴なんだ。
…あれから1000年も経っているってのに、この世界は相変わらず醜い争いを繰り返してる。相も変わらず祈り子と召喚士が蔓延っている。だから、綺麗にしなくちゃいけないんだ。
それなのに……、お前たちがヴェグナガンを破壊してしまった。それだけじゃない…。お前たちは、レンの姿さえ利用しようとした!!』
「!!」
先程、ユウナが変えた衣装。
私には、ユウナの姿にしか見えなかったが、もしかしたらこの青年にはレンの姿に見えていたのかもしれない。
…なんてことだ。
ユウナは良かれと思ってやったことなのかもしれないが、逆にそれは彼を怒らせる行為だったらしい。
諌めるどころか、逆鱗に触れたようだ。
→
18,Aug,2012
仄暗い空間、と表現するべきだろうか。
青年に抱きこまれたように思っていたが、自分が予想した感覚はいつまでも体には感じることも無く、両腕を押さえつけられていた時の姿勢のまま、目を開いた。
異界全体をもっともっと暗くしたような世界。
幻光虫の光で明るく照らされた異界とは対照的に、黒い幻光虫が辺りを闇色に染めていく。
手を伸ばした先に触れた、何か。
目に見えない壁のようなものがそこにあった。
手を触れて見えない壁伝いに移動する。
が、大した幅を取ることも無く、その壁は自分の周りを囲んでいることがわかった。
「…閉じ込められた…?」
どこからか、激しい戦闘の音だけが響いてくる。
金属をぶつけ合う音、何かが弾ける音、魔法だろうか独特の属性が出す音、そして、声。
「(1000年の絶望さ!!)」
「(消えてしまえばいい)」
くぐもって聞こえるのは、この壁で私自身が覆われているからだろうか。
紛れも無く、この青年の声。
憎しみを露にした、怒りの声。
一体、どうなってしまったのだろうか。
黒い幻光虫が、1箇所に収束していく。
それは次第にヒトの形を造り、あの青年、シューインの姿を現した。
だがそれは完全ではないらしく、ゆらゆらと空気に溶けているような、朧気な儚い存在。
「お前!!!」
思わず身を乗り出すが、見えない壁がそこにあることをすっかり失念していた私は、したたかに額を打ち付けてしまう。
「…っっ~~っ!!」
恥ずかしさと情けなさに、声を出すことも憚られて額をさする。
ひとを小莫迦にしたような小さな笑みを漏らす青年の影に悔しさを滲ませながら睨み返す。
「何が目的だ。もうヴェグナガンは失われた。お前の言う、世界を綺麗にすることなどもうできないだろう」
『最後の祈り子は本当に気が強いんだな』
まるで水の中で声を発しているかのように、ゴボリと声が震えている。
自分の嫌いな存在に首筋を這われたような感覚に悪寒が走る。
「私は、祈り子じゃないと何度も…」
『あぁ、そうだったね。祈り子の、なり損ない、だったね』
「!!」
……“なり損ない”…
「なぜそんなにも祈り子に執着するんだ。なぜ、私を祈り子と呼ぶ?」
『…そんなの簡単さ。こんな答えもわからないなんて、やっぱりなり損ないでしかないんだな』
「うるさいっ!」
「何がしたいんだ、…私に何を求めている!?」
これまで私に向けられた数々の言動や不可思議な現象。
そして、昔のアーロンの姿になってまで私を利用しようとした、その理由を知りたい。
『…キミは、キミ自身の染まった闇に気付かないのかい?』
「……闇…?」
『キミ以外の祈り子達も同様に闇に染まれば本来以上の力を発揮できる』
「どういう意味だ」
壁に両手をついて、張り付くように青年を睨み付ける。
このままこいつに何かを問い質したところで、無駄なような気がしてきた。
何を聞いてものらりくらりとはぐらかされてしまうだろう。
どこか遠くから、ずっと戦闘をしているであろう音や声が聞こえていた。
ユウナやリュックの甲高い悲鳴も混じっている。
こいつの本体は今、彼女たちと戦っているということか。
『…あぁ、祈り子。…なり損ないとはいえ、キミも祈り子の端くれだもんな』
「……私は祈り子じゃ…『俺は祈り子が嫌いだ』…!」
『祈り子も召喚士も、大っ嫌いなんだ!』
「………」
『召喚なんて能力があるからいけないんだ!祈り子なんて存在があったから召喚士は!! だから!……だから、レンは……』
「…レン…?」
小さな子供が駄々をこねるような素振りを見せて、怒りを露にする青年。
レンという女性が、彼女の存在がこの青年にとってどれほど大きなものだったのかを窺い知る事ができる。
『でかい戦争が起きた。…あいつは、レンは、戦うことを嫌っていた。平和を望んでいた。…それなのに!!
召喚の力があるってだけで、あいつらは……!!』
「レン、は、…召喚士なのか…」
『違うっ!!』
「!」
『…あいつは、ただ、歌を歌うのが大好きで、戦いを好まない優しい奴なんだ。
…あれから1000年も経っているってのに、この世界は相変わらず醜い争いを繰り返してる。相も変わらず祈り子と召喚士が蔓延っている。だから、綺麗にしなくちゃいけないんだ。
それなのに……、お前たちがヴェグナガンを破壊してしまった。それだけじゃない…。お前たちは、レンの姿さえ利用しようとした!!』
「!!」
先程、ユウナが変えた衣装。
私には、ユウナの姿にしか見えなかったが、もしかしたらこの青年にはレンの姿に見えていたのかもしれない。
…なんてことだ。
ユウナは良かれと思ってやったことなのかもしれないが、逆にそれは彼を怒らせる行為だったらしい。
諌めるどころか、逆鱗に触れたようだ。
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18,Aug,2012