第1章【2年後のお話】
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宙に浮かぶ巨大な目玉のような魔物からの光線を避けたときだ。
滑りやすくなっていた地面に、思ったように踏ん張りが効かなかったのだろう。
アーロンの体が崖の方へ落ちていく。
「アーロン!!」
反射的に身を投じた。
考える余裕なんてなかった。
咄嗟の行動ってやつだ。
後先考えずにアーロンが姿を消した崖目掛けて自分も飛び込んだ。
体を宙に放った瞬間、そこに立つアーロンが目に入った。
あっと思った時にはもう遅く、先程までいた地点から人一人分一段低くなっていたその場所からさらに崖下に、私は落ちて行くコース上だった。
頭を下にしていた私は咄嗟に体を捻って崖の端に手を伸ばした。
伸ばした片手は虚しく空を切り、慌てて反対側の手を伸ばす。
手は崖の端に届いたものの、溶けた氷は脆かった。
まるで時間の流れが極端に遅くなってしまったかのように、自分が手をかけた氷がパキリと音をたてて崩れた。
「!!」
もう、自分は死んでいる。
命を持たぬ死人だ。
それでも、こういう瞬間は肝を冷やして酷い焦燥感に包まれる。
時間の流れが遅くなったわけではないのに、そう感じて思考する余裕が生まれる。
「(…あぁ、やばいな…)」
諦めと覚悟の気持ちがわいて、ゆっくりと瞑目する。
突然その手首を圧迫される感覚にはっとして顔を上げる。
そこには必死な様相のアーロン。
そのまま私はアーロンが立つ位置まで引き上げられた。
力の入らない私の体を支えるようにしっかりと抱き締めた。
それまで忘れてしまっていた呼吸を思い出すように大きく嘆息する。
「…あ、悪い、アーロン、助かったよ」
「………」
「…?」
なぜ、そんな顔をしているんだ…。
なぜ、何も言わないんだ…?
「…アーロン?」
「………」
何を、考えている?
――――何を、思い出している…
「謝るのは、俺のほうだ、ラフテル。…すまなかった」
その言い方に違和感を感じる。
この足場の悪い崖の街道で足を滑らせるのは仕方のないことだ。
特に大したことではなかったのに、余計なことをして手間をかけさせたのは私のほうだ。
私のほうに謝る道理があるというのに、こいつの言葉の重みは少々…。
私は何も言葉を発しないまま少し考えて、ある記憶に結び付く。
まさかな……。
「あの時の俺は…」
アーロンがゆっくりと紡ぐ言葉を聞きたくないと思う。
何も言わないでくれ、思い出させないでくれ、と。
「どうかしていた。お前を…」
「アーロン」
「俺は…」
「アーロン!!」
「………」
「お願いだ、…やめてくれ」
口に出そうとしていた奴の言葉を、私は悉く拒絶し、互いに口をつぐむ。
言葉もなく、アーロンは私を抱き締める力を一層強めた。
それから私はまた仕事に戻った。
魔物が一気に纏めて来るならかえって好都合というものだ。
こいつに抱き締められたときの感触を思い出しながら、満天の星空の下、私はそれを探し続けた。
今のアーロンとは違う感覚にくらくらと目眩を起こしそうだ。
2年前は異界の匂いに包まれていたし、ブラスカと旅をしていた頃は抱き締められるなんて経験もそんな気持ちもなかった。
その当時のアーロンて、こうだったのかと、初めて知ったことに顔がにやける。
だが、それと同時に疑問も沸く。
こいつは、覚えているのか、このことを。
この記憶は私だけのものだと思っていたというのに。
…じゃあ、もちろん、今のアーロン、も!?
→
7,jul,2011
宙に浮かぶ巨大な目玉のような魔物からの光線を避けたときだ。
滑りやすくなっていた地面に、思ったように踏ん張りが効かなかったのだろう。
アーロンの体が崖の方へ落ちていく。
「アーロン!!」
反射的に身を投じた。
考える余裕なんてなかった。
咄嗟の行動ってやつだ。
後先考えずにアーロンが姿を消した崖目掛けて自分も飛び込んだ。
体を宙に放った瞬間、そこに立つアーロンが目に入った。
あっと思った時にはもう遅く、先程までいた地点から人一人分一段低くなっていたその場所からさらに崖下に、私は落ちて行くコース上だった。
頭を下にしていた私は咄嗟に体を捻って崖の端に手を伸ばした。
伸ばした片手は虚しく空を切り、慌てて反対側の手を伸ばす。
手は崖の端に届いたものの、溶けた氷は脆かった。
まるで時間の流れが極端に遅くなってしまったかのように、自分が手をかけた氷がパキリと音をたてて崩れた。
「!!」
もう、自分は死んでいる。
命を持たぬ死人だ。
それでも、こういう瞬間は肝を冷やして酷い焦燥感に包まれる。
時間の流れが遅くなったわけではないのに、そう感じて思考する余裕が生まれる。
「(…あぁ、やばいな…)」
諦めと覚悟の気持ちがわいて、ゆっくりと瞑目する。
突然その手首を圧迫される感覚にはっとして顔を上げる。
そこには必死な様相のアーロン。
そのまま私はアーロンが立つ位置まで引き上げられた。
力の入らない私の体を支えるようにしっかりと抱き締めた。
それまで忘れてしまっていた呼吸を思い出すように大きく嘆息する。
「…あ、悪い、アーロン、助かったよ」
「………」
「…?」
なぜ、そんな顔をしているんだ…。
なぜ、何も言わないんだ…?
「…アーロン?」
「………」
何を、考えている?
――――何を、思い出している…
「謝るのは、俺のほうだ、ラフテル。…すまなかった」
その言い方に違和感を感じる。
この足場の悪い崖の街道で足を滑らせるのは仕方のないことだ。
特に大したことではなかったのに、余計なことをして手間をかけさせたのは私のほうだ。
私のほうに謝る道理があるというのに、こいつの言葉の重みは少々…。
私は何も言葉を発しないまま少し考えて、ある記憶に結び付く。
まさかな……。
「あの時の俺は…」
アーロンがゆっくりと紡ぐ言葉を聞きたくないと思う。
何も言わないでくれ、思い出させないでくれ、と。
「どうかしていた。お前を…」
「アーロン」
「俺は…」
「アーロン!!」
「………」
「お願いだ、…やめてくれ」
口に出そうとしていた奴の言葉を、私は悉く拒絶し、互いに口をつぐむ。
言葉もなく、アーロンは私を抱き締める力を一層強めた。
それから私はまた仕事に戻った。
魔物が一気に纏めて来るならかえって好都合というものだ。
こいつに抱き締められたときの感触を思い出しながら、満天の星空の下、私はそれを探し続けた。
今のアーロンとは違う感覚にくらくらと目眩を起こしそうだ。
2年前は異界の匂いに包まれていたし、ブラスカと旅をしていた頃は抱き締められるなんて経験もそんな気持ちもなかった。
その当時のアーロンて、こうだったのかと、初めて知ったことに顔がにやける。
だが、それと同時に疑問も沸く。
こいつは、覚えているのか、このことを。
この記憶は私だけのものだと思っていたというのに。
…じゃあ、もちろん、今のアーロン、も!?
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7,jul,2011