第8章【全ての黒幕】
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幻光虫が1つ、暗い世界を飛んでいく。
目の前で力なく片膝を落として俯いている人物に向かって。
奴がその存在に気付いてはっと顔を上げたときには、幻光虫はその身体に吸い込まれてしまった。
男が両の膝を地に着けて、自らの胸を鷲掴みにする。
その顔に困惑の表情を浮かべて。
男が1つ大きく息を吸い込んで、そしてその動きを止めた。
一拍おいた次の瞬間、男の背から白い光が羽根のように飛び散った。
その力に押されるように、男は上体をやや前方に倒したが、すぐに身を起し、何事か確かめるように背後を振り返った。
飛び出た白い靄の塊のようなものは、形を留めぬままゆらゆらとそこに漂っていた。
「!?」
端でその様子を見守っていたブラスカ達も、何が起こったのかすぐに理解できないのだろう。
何か言葉を交わしている小さな声だけが微かに耳に届いた。
白い靄がフワリと移動する。
「ジスカル! シーモア!!」
女性の声が響き、皆は一斉にそちらに目を向けた。
皆の目にもはっきりと映っているだろう、その身を寄せ合い、互いの存在を喜び合う親子の姿が。
「ジスカル…」
『ラフテル、すまなかった…』
ゆっくりとこちらを振り返ったジスカルが、一度瞑目して私を見つめる。
「そんなことはない! 私のほうこそ、長い間悪かった…」
『ラフテル、ずっと預かってたものを返さねばならんな。今のわしよりも、お前のほうこそ必要なものだ』
「…預かってた、もの…?」
私の呟きに、ジスカルは微かに笑っただけだった。
『わしらは、先に行く。 幻光の河の流れに乗り、星に還ることにしよう。 …ラフテル、お別れだ』
胸を、胸の中を、鷲掴みにされたような感覚が走る。
「!!」
この酷い焦りのような、とんでもない寂しさのような心苦しさが突然襲い来るなんて思いもしなかった。
スピラから、こっちの世界に渡ったときに、もうジスカルの魂は開放されたと思っていた。
だが、ジスカルの魂の欠片は私の中に留まった。
留まって、くれてた。
出て行こうと、離れようと思えばすぐにでも出られたはず。
私のほうも、解放しようと思えばできたはず。
それでも、ジスカルは私の中にいてくれた。
無意識に前に出てしまった足をなんとか踏みとどまらせる。
「ジスカル、…止め、…ても、無駄なんだな…」
ジスカルは、ただ静かに笑顔を浮かべているだけだった。
「……わかった」
『ラフテル、最後に1つ、教えてくれんか』
「…何?」
『わしと、こうして魂を分け合って…「私は!!」…』
「私は、後悔していないし、これで良かったと思ってる」
『じゃが、こんなことをしなければお前はもっと…』
「ジスカル、最後の質問は1つだけ、…だろ?」
『……そうじゃな。 …ラフテル』
「ん?」
『…ありがとう』
グアド族は表情に乏しい、なんて誰が言ったんだろうか。
今のジスカルの満足気な顔で、何もかもが報われたように思う。
彼の妻も美しい顔に穏やかな笑みを浮かべ、シーモアもあの黒いものではない、純粋な笑顔を見せていた。
この顔こそが彼の本来の顔なのだろう。
「礼を言うのは、私のほうだ」
世界を滅ぼそうなどと、シーモア本人の考えではなく、彼も利用されていただけの哀れな存在なのだ。
そう、この男によって…
→
27,Mar,2012
幻光虫が1つ、暗い世界を飛んでいく。
目の前で力なく片膝を落として俯いている人物に向かって。
奴がその存在に気付いてはっと顔を上げたときには、幻光虫はその身体に吸い込まれてしまった。
男が両の膝を地に着けて、自らの胸を鷲掴みにする。
その顔に困惑の表情を浮かべて。
男が1つ大きく息を吸い込んで、そしてその動きを止めた。
一拍おいた次の瞬間、男の背から白い光が羽根のように飛び散った。
その力に押されるように、男は上体をやや前方に倒したが、すぐに身を起し、何事か確かめるように背後を振り返った。
飛び出た白い靄の塊のようなものは、形を留めぬままゆらゆらとそこに漂っていた。
「!?」
端でその様子を見守っていたブラスカ達も、何が起こったのかすぐに理解できないのだろう。
何か言葉を交わしている小さな声だけが微かに耳に届いた。
白い靄がフワリと移動する。
「ジスカル! シーモア!!」
女性の声が響き、皆は一斉にそちらに目を向けた。
皆の目にもはっきりと映っているだろう、その身を寄せ合い、互いの存在を喜び合う親子の姿が。
「ジスカル…」
『ラフテル、すまなかった…』
ゆっくりとこちらを振り返ったジスカルが、一度瞑目して私を見つめる。
「そんなことはない! 私のほうこそ、長い間悪かった…」
『ラフテル、ずっと預かってたものを返さねばならんな。今のわしよりも、お前のほうこそ必要なものだ』
「…預かってた、もの…?」
私の呟きに、ジスカルは微かに笑っただけだった。
『わしらは、先に行く。 幻光の河の流れに乗り、星に還ることにしよう。 …ラフテル、お別れだ』
胸を、胸の中を、鷲掴みにされたような感覚が走る。
「!!」
この酷い焦りのような、とんでもない寂しさのような心苦しさが突然襲い来るなんて思いもしなかった。
スピラから、こっちの世界に渡ったときに、もうジスカルの魂は開放されたと思っていた。
だが、ジスカルの魂の欠片は私の中に留まった。
留まって、くれてた。
出て行こうと、離れようと思えばすぐにでも出られたはず。
私のほうも、解放しようと思えばできたはず。
それでも、ジスカルは私の中にいてくれた。
無意識に前に出てしまった足をなんとか踏みとどまらせる。
「ジスカル、…止め、…ても、無駄なんだな…」
ジスカルは、ただ静かに笑顔を浮かべているだけだった。
「……わかった」
『ラフテル、最後に1つ、教えてくれんか』
「…何?」
『わしと、こうして魂を分け合って…「私は!!」…』
「私は、後悔していないし、これで良かったと思ってる」
『じゃが、こんなことをしなければお前はもっと…』
「ジスカル、最後の質問は1つだけ、…だろ?」
『……そうじゃな。 …ラフテル』
「ん?」
『…ありがとう』
グアド族は表情に乏しい、なんて誰が言ったんだろうか。
今のジスカルの満足気な顔で、何もかもが報われたように思う。
彼の妻も美しい顔に穏やかな笑みを浮かべ、シーモアもあの黒いものではない、純粋な笑顔を見せていた。
この顔こそが彼の本来の顔なのだろう。
「礼を言うのは、私のほうだ」
世界を滅ぼそうなどと、シーモア本人の考えではなく、彼も利用されていただけの哀れな存在なのだ。
そう、この男によって…
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27,Mar,2012