第7章【難しい戦い】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
=50=
奴が私に向かってくる。
アーロンの姿で、シーモアの魔力で、何者かもわからない人物の意思で。
自分の後ろ腰から1本だけの小太刀を素早く抜いて身構え、もう片方の手に魔力を込める。
私の中にいる祈り子だちの力を感じて、その存在に安心感を覚える。
一度は心惹かれた人物が向かってくる。
私を殺そうと敵意を剥き出しにしているのを嫌というほど身に感じる。
私は、彼を迎えようとしている。
だが、私はもう、迷わない。
もう、惑わされない。
ここには、仲間がいる。
心から信頼できる、確かな存在がある。
もう、あの時の私ではない。
ゆっくり考えている余裕などあるわけもない。
考える前に身体が反応する。
身体が軽い。魔力が溢れてくる。こいつの戦い方が分かる。
何をどうすべきか考える必要がない。
私にこんなことが出来るはずがない。
これは、私の戦い方じゃない。
……これは、祈り子たちの力?
この祈り子たちも、あの時のジェクトのように召喚士の力も無しに無理矢理召喚させられたのだろう。
一体誰が、どんな力を使ってそんなことをしたのかなんて、わからない。
今はただ、彼らの力を、意思を、私の身体を使って外に出しているだけ。
私の手が振り翳される度、魔力が放出される度、その思いがひしひしと伝わってくる。
これは、私の戦いではない。
どれだけこの戦いが続いたのだろう。
時間にすればそれほど長いものではないのだろうが、それでも双方の身体は傷付き、力は失われ、魔力は底を付きかけていた。
両者とも肩で息を弾ませて、力の入らない両足をそれでもしっかりと地に着けていた。
「うっ…!」
苦しげな声を微かに上げて、膝を落としたのは私ではなかった。
大きな太刀の先を地面に突き立てて、それを支えにして辛うじて身を保っていたが、すでに両足に力が入らないのだろう。
手がズルリと柄から離れた。
その瞬間、見覚えのある太刀は黒い霧となって姿を消してしまった。
そんなことが起こるとは思ってもいなかったのだろう。
若いアーロンの姿をした男の顔は驚きに包まれていた。
私も思わず嘆息し、構えた腕を下ろした。
ふいに、私のすぐ近くにジスカルが現われた。
実体もなく、その姿はおぼろげで辛うじて見えているだけの、本当に儚いものだったが、確かにそこにあった。
『ラフテル、わしを、解放してくれ』
「…だが…!」
『今、あいつを取り戻さねば、わしは何の為にお前さんとこうして魂を分け合ったのか、その意味を失ってしまうじゃろう』
「……。 ……それ、は、
……わかった」
「ラフテル…?」
私の様子の変調に気付いた誰かが、私の名を呼んだのが聞こえたがそれが誰なのかまではわからなかった。
私は、私の中に眠る小さなたった1つの魂を取り出した。
自分自身という入れ物の箱の蓋を開くように。
私の中から飛び上がった淡い光が、ゆっくりと私から離れていく。
→第8章
21,Mar,2012
奴が私に向かってくる。
アーロンの姿で、シーモアの魔力で、何者かもわからない人物の意思で。
自分の後ろ腰から1本だけの小太刀を素早く抜いて身構え、もう片方の手に魔力を込める。
私の中にいる祈り子だちの力を感じて、その存在に安心感を覚える。
一度は心惹かれた人物が向かってくる。
私を殺そうと敵意を剥き出しにしているのを嫌というほど身に感じる。
私は、彼を迎えようとしている。
だが、私はもう、迷わない。
もう、惑わされない。
ここには、仲間がいる。
心から信頼できる、確かな存在がある。
もう、あの時の私ではない。
ゆっくり考えている余裕などあるわけもない。
考える前に身体が反応する。
身体が軽い。魔力が溢れてくる。こいつの戦い方が分かる。
何をどうすべきか考える必要がない。
私にこんなことが出来るはずがない。
これは、私の戦い方じゃない。
……これは、祈り子たちの力?
この祈り子たちも、あの時のジェクトのように召喚士の力も無しに無理矢理召喚させられたのだろう。
一体誰が、どんな力を使ってそんなことをしたのかなんて、わからない。
今はただ、彼らの力を、意思を、私の身体を使って外に出しているだけ。
私の手が振り翳される度、魔力が放出される度、その思いがひしひしと伝わってくる。
これは、私の戦いではない。
どれだけこの戦いが続いたのだろう。
時間にすればそれほど長いものではないのだろうが、それでも双方の身体は傷付き、力は失われ、魔力は底を付きかけていた。
両者とも肩で息を弾ませて、力の入らない両足をそれでもしっかりと地に着けていた。
「うっ…!」
苦しげな声を微かに上げて、膝を落としたのは私ではなかった。
大きな太刀の先を地面に突き立てて、それを支えにして辛うじて身を保っていたが、すでに両足に力が入らないのだろう。
手がズルリと柄から離れた。
その瞬間、見覚えのある太刀は黒い霧となって姿を消してしまった。
そんなことが起こるとは思ってもいなかったのだろう。
若いアーロンの姿をした男の顔は驚きに包まれていた。
私も思わず嘆息し、構えた腕を下ろした。
ふいに、私のすぐ近くにジスカルが現われた。
実体もなく、その姿はおぼろげで辛うじて見えているだけの、本当に儚いものだったが、確かにそこにあった。
『ラフテル、わしを、解放してくれ』
「…だが…!」
『今、あいつを取り戻さねば、わしは何の為にお前さんとこうして魂を分け合ったのか、その意味を失ってしまうじゃろう』
「……。 ……それ、は、
……わかった」
「ラフテル…?」
私の様子の変調に気付いた誰かが、私の名を呼んだのが聞こえたがそれが誰なのかまではわからなかった。
私は、私の中に眠る小さなたった1つの魂を取り出した。
自分自身という入れ物の箱の蓋を開くように。
私の中から飛び上がった淡い光が、ゆっくりと私から離れていく。
→第8章
21,Mar,2012