第1章【2年後のお話】
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=5=
私がこの日、向かうつもりでいたのはマカラーニャの寺院。
あまりいい思い出はないところだ。
2年前も、12年前も、私にとっては消し去ってしまいたい記憶ばかりだ。
それでも行かなくてはならない。
私のものではなく、別の人物の記憶の為に。
ユウナがシンを倒して、スピラ各地の祈り子もその力を失った。
ここマカラーニャも例外ではない。
マカラーニャの寺院の奥に眠っていた祈り子は氷の力を有した存在だった。
彼女の生み出す冷気が、マカラーニャの不思議な地形を生み出したと言っても過言ではないだろう。
ぶ厚く張られた氷のドームの上に鎮座するような寺院までの道のりは全て氷で作られ、湖と呼ばれてはいるが実際に湖があるわけではなく、海と繋がった深い湾岸だ。
波に抉られたごつごつとした隆起した岩肌は全て冷たい氷に覆われており、その下には深い亀裂が走っている。
所々にその亀裂を跨ぐように架けられた橋も氷と風が作り出した天然のもの。
今はもう、その力を失った祈り子が眠るマカラーニャの寺院からの影響はこの凍った地形をも溶かしだしてしまっている。
もう数年もすれば、この氷は全て消え去り、寺院への道も閉ざされてしまうことになる。
そこから溢れた大量の雪解け水はマカラーニャの森をも飲み込んで、いつかは静かな土地となってしまうことだろう。
そうなってしまう前に、私はここに残るほんの僅かな想いの欠片を探し出さねばならない。
朝、いつものように着慣れた黒いジャケットを羽織り、後ろ腰に使い慣れた小太刀を1本だけ装着する。
これまでずっと2本使っていたので、少々違和感や物足りなさを感じるが、取り敢えずは1本で十分事足りる。
もう1本はあるところに預けてある。
特に大きな荷物を持つわけでもない。
回復用のアイテムをいくつか小さな袋に入れて、動くのに支障をきたさない辺りに結び付けて、私はスピラに出発する。
かつて単独でスピラを旅して回っていたあの時に、また戻ったかのようだった。
普段はたった独りでの行動も、今日は供がいる。
もう祈り子はいないというのに、未だ相変わらず冷たい風が吹き抜けていく。
それでも以前に比べたら気温は上がっているのだろう。
全て氷に覆われていたこの街道も、岩肌が垣間見れる部分があった。
2年前、ユウナ達と一緒に旅をしてた時は、グアド族の迎えがあったし、戻る時は気を失っていたために実際私がここを魔物と対峙しながら進んだ記憶はそれ以前の1人で旅をしていた頃と、ブラスカのガードとして旅をした時のものしかない。
アーロンに至っては後者のみだ。
…いやもしかしたらつい最近のことなのかもしれない。
街道を覆っていた氷が融け出して、場所によってはかなり危険な状態となっている為、今は立ち入り禁止になってしまっていた。
人々の往来はなく、ただ魔物だけが消え行く景観と共にその時を待っている。
こんな夜に限って、空には満天の星が見える。
空気が澄んでいるため、本当に小さな星々まで綺麗に見えた。
私達にもう命は無い。
それでもこの姿でここを歩けば、もう滅多に見ることもなくなったヒトを襲いに、たくさんの魔物が押し寄せてくる。
この光景がまた余計に、あの日を思い出させる。
私の隣を歩いていた男が、立ち止まる。
魔物に向かって挑発でもするかのように肩に太刀を担いで悠々と構える。
私は1歩後ろからその姿を見つめていた。
あの時と同じ場所、同じ姿、同じ声、同じ動き……
襲い来る魔物を、その重い一撃で次々と光の球に変えていくこいつに、見惚れていたのは事実だ。
こいつの動きは昔から変わらない。
あれから10年以上もの時が流れて、私はもうあの時の私ではない。
あの時に言われた言葉を頭の中で反芻させながらも、否定する。
魔物の動き、こいつの攻撃を予測して魔法で補助できる。
タイミングを見計らって攻撃、回復とサポートの魔法を切り替える。
こいつも魔法を全く使えないわけではないが、それでもやはり剣技のほうが勝る。
当時と明らかに違うのは、足場の悪さ。
緩くなった溶け出した氷が、滑る足を止めることができない。
→
3,jul,2011
私がこの日、向かうつもりでいたのはマカラーニャの寺院。
あまりいい思い出はないところだ。
2年前も、12年前も、私にとっては消し去ってしまいたい記憶ばかりだ。
それでも行かなくてはならない。
私のものではなく、別の人物の記憶の為に。
ユウナがシンを倒して、スピラ各地の祈り子もその力を失った。
ここマカラーニャも例外ではない。
マカラーニャの寺院の奥に眠っていた祈り子は氷の力を有した存在だった。
彼女の生み出す冷気が、マカラーニャの不思議な地形を生み出したと言っても過言ではないだろう。
ぶ厚く張られた氷のドームの上に鎮座するような寺院までの道のりは全て氷で作られ、湖と呼ばれてはいるが実際に湖があるわけではなく、海と繋がった深い湾岸だ。
波に抉られたごつごつとした隆起した岩肌は全て冷たい氷に覆われており、その下には深い亀裂が走っている。
所々にその亀裂を跨ぐように架けられた橋も氷と風が作り出した天然のもの。
今はもう、その力を失った祈り子が眠るマカラーニャの寺院からの影響はこの凍った地形をも溶かしだしてしまっている。
もう数年もすれば、この氷は全て消え去り、寺院への道も閉ざされてしまうことになる。
そこから溢れた大量の雪解け水はマカラーニャの森をも飲み込んで、いつかは静かな土地となってしまうことだろう。
そうなってしまう前に、私はここに残るほんの僅かな想いの欠片を探し出さねばならない。
朝、いつものように着慣れた黒いジャケットを羽織り、後ろ腰に使い慣れた小太刀を1本だけ装着する。
これまでずっと2本使っていたので、少々違和感や物足りなさを感じるが、取り敢えずは1本で十分事足りる。
もう1本はあるところに預けてある。
特に大きな荷物を持つわけでもない。
回復用のアイテムをいくつか小さな袋に入れて、動くのに支障をきたさない辺りに結び付けて、私はスピラに出発する。
かつて単独でスピラを旅して回っていたあの時に、また戻ったかのようだった。
普段はたった独りでの行動も、今日は供がいる。
もう祈り子はいないというのに、未だ相変わらず冷たい風が吹き抜けていく。
それでも以前に比べたら気温は上がっているのだろう。
全て氷に覆われていたこの街道も、岩肌が垣間見れる部分があった。
2年前、ユウナ達と一緒に旅をしてた時は、グアド族の迎えがあったし、戻る時は気を失っていたために実際私がここを魔物と対峙しながら進んだ記憶はそれ以前の1人で旅をしていた頃と、ブラスカのガードとして旅をした時のものしかない。
アーロンに至っては後者のみだ。
…いやもしかしたらつい最近のことなのかもしれない。
街道を覆っていた氷が融け出して、場所によってはかなり危険な状態となっている為、今は立ち入り禁止になってしまっていた。
人々の往来はなく、ただ魔物だけが消え行く景観と共にその時を待っている。
こんな夜に限って、空には満天の星が見える。
空気が澄んでいるため、本当に小さな星々まで綺麗に見えた。
私達にもう命は無い。
それでもこの姿でここを歩けば、もう滅多に見ることもなくなったヒトを襲いに、たくさんの魔物が押し寄せてくる。
この光景がまた余計に、あの日を思い出させる。
私の隣を歩いていた男が、立ち止まる。
魔物に向かって挑発でもするかのように肩に太刀を担いで悠々と構える。
私は1歩後ろからその姿を見つめていた。
あの時と同じ場所、同じ姿、同じ声、同じ動き……
襲い来る魔物を、その重い一撃で次々と光の球に変えていくこいつに、見惚れていたのは事実だ。
こいつの動きは昔から変わらない。
あれから10年以上もの時が流れて、私はもうあの時の私ではない。
あの時に言われた言葉を頭の中で反芻させながらも、否定する。
魔物の動き、こいつの攻撃を予測して魔法で補助できる。
タイミングを見計らって攻撃、回復とサポートの魔法を切り替える。
こいつも魔法を全く使えないわけではないが、それでもやはり剣技のほうが勝る。
当時と明らかに違うのは、足場の悪さ。
緩くなった溶け出した氷が、滑る足を止めることができない。
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3,jul,2011