第6章【心の逆転を】
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暗い静かな世界は、浮かんだひとつの思考を極限的に集中させる効果でもあったのだろうか?
思い浮かんだ人物のことばかりを考える。
その人の姿、顔、声、仕草、その人との思い出までもが蘇る。
様々な考えが浮かんでは消える。
たくさんの出来事が思い出される。
そして改めて、自分はその人の事をどう思っているのか感がさせられる。
「(…私は、彼のこと……)」
私には好きな人はたくさんいる。
この世界にいる祈り子たちのことも、2年前に一緒に旅をした仲間達も、1人で旅をしている時に知り合った者達も、もっと昔に共に旅をした者達も。
幼い頃から世話をしてくれた者達も、共に学んだ仲間達も…
でも、その人物に対しての気持ちは、違う。
考えれば考えるほど、気持ちは大きくなる。
…会いたい。
会って、見つめ合って、触れて、…抱き締めて欲しい。
私の時間はもう、彼のものなのだから!
最後に姿を見たのは、もういつだっただろう。
随分と遠い昔のことのようだ。
あの時、私は彼に酷いことをしてしまった。
何か言いたそうにしていた彼の言葉を、行動を遮って私は逃げてしまった。
もし彼が私に力を貸してくれると言うのならば、私をここから救ってくれるならば、私は謝りたい。
もっと素直に気持ちを打ち明けたい。
いや、そうしなければならない。
この世界に留まっていたい、などと考えた己がバカらしくなってくる。
この世界は私自身が作り出した世界だと、少年は言った。
ならば出る事だって容易いはず。
ただ、心の折れた自分からは行動を起せずにいるのだ。
子供のように手足を折り曲げて丸くなる。
気持ちが大きくなる。
感情が昂る。
想いが膨らんで弾けそう、溢れそうだ。
この気持ちを何と言うのかわからない。
だけど、今、心から会いたいと願っている。
助けてほしいと思っている。
折り曲げていた手足を伸ばして、大地を踏みしめるように力を入れた。
この世界で空や大地などと定義できるものがあるとは思えなかったが、それでも顔を上げ、上空を振り仰いだ。
そして小さな胸一杯に大きく息を吸い込む。
「ア―――――ロ―――――ンッ!!!」
思った以上に声が出たことに我ながら驚いた。
響かせるものの何もない空間はすぐに静謐に包まれ、私は不安に覆われる。
不安はやがて恐怖に代わり、私を飲み込もうとする。
その恐怖を払拭するように、私は再び叫ぶ。
もう一度、もう一度…。
続かなくなった息を整えるように大きく呼吸を繰り返した。
心の折れた私はこうして誰かに助けを求めるしかできないのか。
自分の行動がみっともなくて情けなくて、それでも誰かにすがるしかなくて。
名を呼んだ。叫んだ。
再び静まり返った世界で、何の変化も起こらず真っ暗な中にポツンと存在する私自身がどれほど脆く儚いのかということを嫌でも感じる。
…何も、起こらない。
名を呼べば、自分は助かるのだと、どこかで慢心していたのか。
暫しの沈黙の後、もう生きた証を刻むことの無い心臓がドクンとひとつ大きく脈打った気がした。
ゾワリと背筋を這う気持ちの悪い、何かの気配。
この心がせくような、逸る気持ち。酷い焦燥感。
だがそれと同時に浮かぶ己への戒めとも取れる落ち着いた理性。
自分自身の心に浮かぶ、自分自身の体へ言い聞かせるような深呼吸。
もう、挫折という言葉が己の心を縛り付けていたからか。
ここから出ることを諦めていたあの時の自分が、自らが作り出したこの空間に縛り付けているのだろう。
それでも、私はここから出なくてはならない。
いや、出るのだ……!!
「ア―――――ロ―――――ンッッ!!!」
再び私は叫んだ。
→
4,Feb,2012
暗い静かな世界は、浮かんだひとつの思考を極限的に集中させる効果でもあったのだろうか?
思い浮かんだ人物のことばかりを考える。
その人の姿、顔、声、仕草、その人との思い出までもが蘇る。
様々な考えが浮かんでは消える。
たくさんの出来事が思い出される。
そして改めて、自分はその人の事をどう思っているのか感がさせられる。
「(…私は、彼のこと……)」
私には好きな人はたくさんいる。
この世界にいる祈り子たちのことも、2年前に一緒に旅をした仲間達も、1人で旅をしている時に知り合った者達も、もっと昔に共に旅をした者達も。
幼い頃から世話をしてくれた者達も、共に学んだ仲間達も…
でも、その人物に対しての気持ちは、違う。
考えれば考えるほど、気持ちは大きくなる。
…会いたい。
会って、見つめ合って、触れて、…抱き締めて欲しい。
私の時間はもう、彼のものなのだから!
最後に姿を見たのは、もういつだっただろう。
随分と遠い昔のことのようだ。
あの時、私は彼に酷いことをしてしまった。
何か言いたそうにしていた彼の言葉を、行動を遮って私は逃げてしまった。
もし彼が私に力を貸してくれると言うのならば、私をここから救ってくれるならば、私は謝りたい。
もっと素直に気持ちを打ち明けたい。
いや、そうしなければならない。
この世界に留まっていたい、などと考えた己がバカらしくなってくる。
この世界は私自身が作り出した世界だと、少年は言った。
ならば出る事だって容易いはず。
ただ、心の折れた自分からは行動を起せずにいるのだ。
子供のように手足を折り曲げて丸くなる。
気持ちが大きくなる。
感情が昂る。
想いが膨らんで弾けそう、溢れそうだ。
この気持ちを何と言うのかわからない。
だけど、今、心から会いたいと願っている。
助けてほしいと思っている。
折り曲げていた手足を伸ばして、大地を踏みしめるように力を入れた。
この世界で空や大地などと定義できるものがあるとは思えなかったが、それでも顔を上げ、上空を振り仰いだ。
そして小さな胸一杯に大きく息を吸い込む。
「ア―――――ロ―――――ンッ!!!」
思った以上に声が出たことに我ながら驚いた。
響かせるものの何もない空間はすぐに静謐に包まれ、私は不安に覆われる。
不安はやがて恐怖に代わり、私を飲み込もうとする。
その恐怖を払拭するように、私は再び叫ぶ。
もう一度、もう一度…。
続かなくなった息を整えるように大きく呼吸を繰り返した。
心の折れた私はこうして誰かに助けを求めるしかできないのか。
自分の行動がみっともなくて情けなくて、それでも誰かにすがるしかなくて。
名を呼んだ。叫んだ。
再び静まり返った世界で、何の変化も起こらず真っ暗な中にポツンと存在する私自身がどれほど脆く儚いのかということを嫌でも感じる。
…何も、起こらない。
名を呼べば、自分は助かるのだと、どこかで慢心していたのか。
暫しの沈黙の後、もう生きた証を刻むことの無い心臓がドクンとひとつ大きく脈打った気がした。
ゾワリと背筋を這う気持ちの悪い、何かの気配。
この心がせくような、逸る気持ち。酷い焦燥感。
だがそれと同時に浮かぶ己への戒めとも取れる落ち着いた理性。
自分自身の心に浮かぶ、自分自身の体へ言い聞かせるような深呼吸。
もう、挫折という言葉が己の心を縛り付けていたからか。
ここから出ることを諦めていたあの時の自分が、自らが作り出したこの空間に縛り付けているのだろう。
それでも、私はここから出なくてはならない。
いや、出るのだ……!!
「ア―――――ロ―――――ンッッ!!!」
再び私は叫んだ。
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4,Feb,2012