第6章【心の逆転を】
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私はどうなったのだ。
あの魔物たちにやられて死んだのか?
…ではなぜ、私はまだ私の姿を保っていられる?
死んだのならば、命のない私の体は幻光虫となって消滅するだけのはず。
なぜ、実体を保ってるんだ…?
…それとも、この姿はただのまやかしで、永遠にこの闇の世界を漂い続けろとでもいうのか?
漂う、という表現は、今の私にはお誂え向きかも知れない。
私の体は、さながら水に浮かんだ木の葉のようで、ゆらゆらと浮遊感に支配されている。
私の嫌いな、不安定な感覚に。
嫌いで、苦手で、怖くて、それなのに、どこか気持ちは落ち着いている。
身をすっかり任せてしまっている。
なぜ…?
『………、…… …』
また、聞こえたような気がした。
名を、呼ばれたようだが、これも気のせいなんだろうか。
こんな真っ暗な世界で私の名を呼ぶなど、ましてや存在を知る者などいるはずがない。
そうだ、こうして耳を澄ませても、気配を探ろうと集中してみても、何も見えない、聞こえない、感じない。
私自身の中にまだ残る、生への執拗なまでの願望が起こした、ただの幻。
そう自分の中で結論付けて、薄く自嘲の笑みを浮かべた。
水面を流れるように仰向けになった姿勢のまま、私は目を閉じる。
全てに対しての絶望と諦めが私を包み込んで、閉じたはずの両の目から涙が流れた。
目を閉じたときに見えるものって何だろう?
自分の意思で目を開けても、瞑目していた時と同じものしか見えなかったのなら、それを見えていると言って良いのだろうか?
真っ暗な世界にいるはずだった。
何も見えない、闇の世界。
何も見えないはずなのに、見えた。…ヒトの形が。
自分が目を開いているのか閉じているのか分からなくなって、何度も瞬きを繰り返す。
暗い世界に黒い影。
薄く淡く、本当に微かに影を縁取る輪郭の形に影が色付いていて、よくよく目を凝らさなければ分からないような、人影。
水の上を流れるように仰向けになっていた私の正面に見えた。
実際本当に仰向けになっていたのかなんて分からないけど、目の前の影は確かにそこに立っていた。
『…やっと見つけた…』
「…えっ……」
どこかで聞いた、少年の声。
『名前を呼んで、ラフテル』
影が、言葉を発した。
私の名を、呼んだ…!
その言葉に反応することができずに、私はただぼんやりとその影を見つめていた。
「…あんたは、…誰?」
暫しの沈黙の後に、やっと絞り出した言葉を口にする。
『探したよ、ラフテル。異界のあちこちからスピラ中までみんな駆け回ったよ。
ただでさえ小さなキミの気配を感じるのは難しいのに、その気配さえも消えそうになってるし、全然声も聞こえない。
やっとのことで見つけたと思ったら、こんな深い夢の中に入り込んでる。』
「…夢…?」
『そう、夢。ここは、キミ自身が作り出した、夢の世界。だから、ボクもこんな姿でしかいられない』
「…バハムート…?」
黒い影が頷いた。
『さあラフテル、名を呼んで。ここから出よう』
「名前、…誰、の…?」
『ボクの力では、キミをここから連れ出すことはできない。ここはキミ自身が作り出した世界だから。
でも、キミに力を与えてくれる人がいる。キミが目覚めるのを待ってる人がいる。キミを想い、キミが想っている人。
…さあ、名を呼んで』
黒い人影が黒い闇に溶け込むように消えていく。
ここから出られる。
…出て、どうなる?
また、あの魔物たちに、若い姿のアーロンに、立ち向かわなくてはならないのか。
正直なところ、嫌だと思った。
私の心はすでに折られていて、戦うどころか生きる、存在することにさえ諦めを感じている。
ここから出られたとしても、またあの恐怖を覚えるのならば、いっそのことずっとこのままここにいたいと…。
黒い影の言葉を思い出す。
『キミを想う人物、キミが想う人物…』
…私が、想う…?
すぐに思い描いた人物の顔は、一人だけ。
だがどこか迷いがある。
私はその人物のことをどう思っているのだろうか?
あの影の少年が言う想いと、私が感じている思いは同じものなのだろうか?
…わからない。
→
18,Jan,2012
私はどうなったのだ。
あの魔物たちにやられて死んだのか?
…ではなぜ、私はまだ私の姿を保っていられる?
死んだのならば、命のない私の体は幻光虫となって消滅するだけのはず。
なぜ、実体を保ってるんだ…?
…それとも、この姿はただのまやかしで、永遠にこの闇の世界を漂い続けろとでもいうのか?
漂う、という表現は、今の私にはお誂え向きかも知れない。
私の体は、さながら水に浮かんだ木の葉のようで、ゆらゆらと浮遊感に支配されている。
私の嫌いな、不安定な感覚に。
嫌いで、苦手で、怖くて、それなのに、どこか気持ちは落ち着いている。
身をすっかり任せてしまっている。
なぜ…?
『………、…… …』
また、聞こえたような気がした。
名を、呼ばれたようだが、これも気のせいなんだろうか。
こんな真っ暗な世界で私の名を呼ぶなど、ましてや存在を知る者などいるはずがない。
そうだ、こうして耳を澄ませても、気配を探ろうと集中してみても、何も見えない、聞こえない、感じない。
私自身の中にまだ残る、生への執拗なまでの願望が起こした、ただの幻。
そう自分の中で結論付けて、薄く自嘲の笑みを浮かべた。
水面を流れるように仰向けになった姿勢のまま、私は目を閉じる。
全てに対しての絶望と諦めが私を包み込んで、閉じたはずの両の目から涙が流れた。
目を閉じたときに見えるものって何だろう?
自分の意思で目を開けても、瞑目していた時と同じものしか見えなかったのなら、それを見えていると言って良いのだろうか?
真っ暗な世界にいるはずだった。
何も見えない、闇の世界。
何も見えないはずなのに、見えた。…ヒトの形が。
自分が目を開いているのか閉じているのか分からなくなって、何度も瞬きを繰り返す。
暗い世界に黒い影。
薄く淡く、本当に微かに影を縁取る輪郭の形に影が色付いていて、よくよく目を凝らさなければ分からないような、人影。
水の上を流れるように仰向けになっていた私の正面に見えた。
実際本当に仰向けになっていたのかなんて分からないけど、目の前の影は確かにそこに立っていた。
『…やっと見つけた…』
「…えっ……」
どこかで聞いた、少年の声。
『名前を呼んで、ラフテル』
影が、言葉を発した。
私の名を、呼んだ…!
その言葉に反応することができずに、私はただぼんやりとその影を見つめていた。
「…あんたは、…誰?」
暫しの沈黙の後に、やっと絞り出した言葉を口にする。
『探したよ、ラフテル。異界のあちこちからスピラ中までみんな駆け回ったよ。
ただでさえ小さなキミの気配を感じるのは難しいのに、その気配さえも消えそうになってるし、全然声も聞こえない。
やっとのことで見つけたと思ったら、こんな深い夢の中に入り込んでる。』
「…夢…?」
『そう、夢。ここは、キミ自身が作り出した、夢の世界。だから、ボクもこんな姿でしかいられない』
「…バハムート…?」
黒い影が頷いた。
『さあラフテル、名を呼んで。ここから出よう』
「名前、…誰、の…?」
『ボクの力では、キミをここから連れ出すことはできない。ここはキミ自身が作り出した世界だから。
でも、キミに力を与えてくれる人がいる。キミが目覚めるのを待ってる人がいる。キミを想い、キミが想っている人。
…さあ、名を呼んで』
黒い人影が黒い闇に溶け込むように消えていく。
ここから出られる。
…出て、どうなる?
また、あの魔物たちに、若い姿のアーロンに、立ち向かわなくてはならないのか。
正直なところ、嫌だと思った。
私の心はすでに折られていて、戦うどころか生きる、存在することにさえ諦めを感じている。
ここから出られたとしても、またあの恐怖を覚えるのならば、いっそのことずっとこのままここにいたいと…。
黒い影の言葉を思い出す。
『キミを想う人物、キミが想う人物…』
…私が、想う…?
すぐに思い描いた人物の顔は、一人だけ。
だがどこか迷いがある。
私はその人物のことをどう思っているのだろうか?
あの影の少年が言う想いと、私が感じている思いは同じものなのだろうか?
…わからない。
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18,Jan,2012