第5章【気持ちと心の変化】
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「…あ、あぁ…」
おかしな声を上げていたと思う。
あれだけ激しく殴られて思うように体が動いてくれなくて、それでも無我夢中で手足を動かした。
こいつから早く離れたくて、一歩でも遠くに行きたくて。
力の入らない手は体を起こしているだけで精一杯で、足は地面より宙を掻くほうが多くて、私は虫けらのようにみっともなくただ地を這った。
今の私を支配するただ一つの感情。
恐怖という名の支配が私を苦しめる。
ひたすら逃れたくて、目の前の恐ろしい存在を消したくて、思うように動かない自分の体を理性だけが突き動かす。
独り言のように何かをぶつぶつと溢しながら、あいつが私を見下ろす。
「…お前が、力を貸してくれれば…、初めから言うことを聞けば…! お前たちがシンを倒さなければ!!」
「…!?」
…シン…?
なぜ、ここでその名が出る?
私の動きもそこで止まった。
「あ、あんたは、…誰だ?」
一番聞きたくても聞けなかった言葉。
男の体に幻光の光の波が走る。
次の瞬間、目の前に現れたのは若いアーロン。
「何を言っているんだ、ラフテル」
優しい顔で囁くように低い声を発した。
私は腰を落としたままゆっくりと首を左右に振る。
「…違う。 あんたは、アーロンじゃ、ない」
途端にその顔が歪んでいく。
まるで熱で溶け出す蝋のように。
不気味なその様はすぐに動きを変える。
崩れた顔が再び形を成していく。
次に現われたのは、もう何度か目にした見たことの無い人物。
まだ年齢的には若い部類のようだが、決して平和な時間を過ごしてきたわけではないと分かる、深い苦労を浮かべた表情。
私をじっと見下ろして、言葉を発することも無く、狂気に取り付かれた焦点の合わない目を彷徨わせている。
苦痛に歪んだ顔が、破裂する。
「!!!」
声にならない驚きを上げて、私はまたそこから逃げ出そうと手足を動かす。
顔が、半分吹き飛んだ。
生暖かい飛沫が私の顔にも飛んでくる。
破壊された頭部の中身が見えて、顔の穴という穴から赤黒い液体が溢れ出て、その醜態と酷姿に吐き気を催す。
まともに息を吸い込むことができない。
短い小さな浅い呼吸を何度も繰り返して、私はさらにその場から後退る。
体中の痛みよりも、恐らく恐怖のほうが勝っているのだろう。
恐ろしいと、思った。
ひどく気味が悪かった。
私がこの男に感じていた気持ちが急激に消えていく。
あの心に浮かんだ淡い感覚は何だったのだろうか。
→
29,nov,2011
「…あ、あぁ…」
おかしな声を上げていたと思う。
あれだけ激しく殴られて思うように体が動いてくれなくて、それでも無我夢中で手足を動かした。
こいつから早く離れたくて、一歩でも遠くに行きたくて。
力の入らない手は体を起こしているだけで精一杯で、足は地面より宙を掻くほうが多くて、私は虫けらのようにみっともなくただ地を這った。
今の私を支配するただ一つの感情。
恐怖という名の支配が私を苦しめる。
ひたすら逃れたくて、目の前の恐ろしい存在を消したくて、思うように動かない自分の体を理性だけが突き動かす。
独り言のように何かをぶつぶつと溢しながら、あいつが私を見下ろす。
「…お前が、力を貸してくれれば…、初めから言うことを聞けば…! お前たちがシンを倒さなければ!!」
「…!?」
…シン…?
なぜ、ここでその名が出る?
私の動きもそこで止まった。
「あ、あんたは、…誰だ?」
一番聞きたくても聞けなかった言葉。
男の体に幻光の光の波が走る。
次の瞬間、目の前に現れたのは若いアーロン。
「何を言っているんだ、ラフテル」
優しい顔で囁くように低い声を発した。
私は腰を落としたままゆっくりと首を左右に振る。
「…違う。 あんたは、アーロンじゃ、ない」
途端にその顔が歪んでいく。
まるで熱で溶け出す蝋のように。
不気味なその様はすぐに動きを変える。
崩れた顔が再び形を成していく。
次に現われたのは、もう何度か目にした見たことの無い人物。
まだ年齢的には若い部類のようだが、決して平和な時間を過ごしてきたわけではないと分かる、深い苦労を浮かべた表情。
私をじっと見下ろして、言葉を発することも無く、狂気に取り付かれた焦点の合わない目を彷徨わせている。
苦痛に歪んだ顔が、破裂する。
「!!!」
声にならない驚きを上げて、私はまたそこから逃げ出そうと手足を動かす。
顔が、半分吹き飛んだ。
生暖かい飛沫が私の顔にも飛んでくる。
破壊された頭部の中身が見えて、顔の穴という穴から赤黒い液体が溢れ出て、その醜態と酷姿に吐き気を催す。
まともに息を吸い込むことができない。
短い小さな浅い呼吸を何度も繰り返して、私はさらにその場から後退る。
体中の痛みよりも、恐らく恐怖のほうが勝っているのだろう。
恐ろしいと、思った。
ひどく気味が悪かった。
私がこの男に感じていた気持ちが急激に消えていく。
あの心に浮かんだ淡い感覚は何だったのだろうか。
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29,nov,2011