第5章【気持ちと心の変化】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
=31=
私の手の上に暖かいものが重ねられた。
ジェクトの大きな手が私の握り拳を包み込んでいた。
その温かさで、私は自分の手の温度を悟る。
ジェクトらしからぬ弱々しい笑顔を向けてきた。
「ラフテル…」
「…大丈夫、だ。あれがアーロンの姿をしていようと…」
「…悪ィ…」
「どうしてジェクトが謝るんだ?」
少し困ったような顔をしたジェクトの手をゆっくり下ろし、私は意を決して一度深く呼吸した。
顔から時間をかけて後ろを振り返る。
「あぶねぇっ!」
「!!!」
目の端に何かが移り込んだ瞬間だった。
まだ完全に振り向いてはいなかった。
ジェクトの叫び声を理解したと同時に突然何かの衝撃を受けた!
突然のことに何が起きたのかなんて理解できる筈もなく、まともに受けた衝撃の勢いのまま宙を舞って地に叩き付けられる。
動きの止まった体をそのままに、今自分の身に何が起こったのかと思考を巡らせる。
いや、考えることなんてできたんだろうか?
咄嗟に閉じた瞼をゆっくり持ち上げ、自分の今の体勢を理解する。
ごつごつとした冷たい地面にうつ伏せになっている。
開いた目に写ったのは、黒い岩肌と、地に飛び散った私が流したであろう血液から蒸発するように浮かび上がる幻光虫。
その一つを目で追った。
動きに合わせて僅かに動かした顔や首に酷い痛みを覚えた。
「…っっ!!!」
そして気が付く。
攻撃を受けたのだと。
目で追った幻光虫はふわふわと私から離れていき、あるところへ行き着く。
その人物を目に捉えてはっとする。
倒れたジェクトの側でジェクトを見下ろしている、アーロン…。
頭の中がぐわんぐわんと揺れて響いている。
目がちかちかして焦点が合わせられない。
びりびりと走る体中の痛みと頬を伝う生暖かい液体が、まだ私自身の存在を証明していた。
先程のジェクトとの戦いで、私の体はもうボロボロだ。
それでも軋む体を奮い立たせ、起き上がる。
体中に感じる痛みを紛らそうと短い呼吸を繰り返した。
…もう、私は死んでると言うのに、とっくに命なんてないはずなのに、痛みを感じ、そして死に恐怖を覚える。
なんて滑稽なことだろうか。
アーロンが、ジェクトに向かって何か言葉を発しているようだ。
受けた攻撃の大きさからか、耳鳴りがして声が聞こえない。
だがその異様な光景ははっきりと見て理解することができた。
「……!!」
頭上に振り上げた逞しい腕。
その手に握られた、黒光を放つ大きな太刀。
一瞬のジェクトの制止の声が微かに聞こえた気がした直後、何の感情も無い表情のまま、アーロンはそれを地に突き刺した。
急に耳がクリアになる。
聞きたくは無かった、耳障りな肉を断つ音。
そして叫び声。
「まだお前はそこにいてもらう。大人しくしていろ」
私の動きに気付いたアーロンが、こちらに歩み寄ってくる。
その動きは酷く緩慢に見えたと思ったのだが、次の瞬間、すぐ目の前で拳を振りかぶっている姿が目の端に写り、私の体はまた大きく吹き飛ばされた。
頭に受けた衝撃で私の思考回路が鈍っていたのだろうか…?
体を地面に叩き付けられる痛みよりも、殴られたのであろう顔の痛みが頭の内部全体で反響して奇妙な音を奏でる。
口の端から流れる暖かい液体にほんの少し理性と感覚を戻した。
「…う、……ア、アーロン…」
呟いた名は音になっていただろうか?飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止めて、目を開いた。
飛び込んできた映像は、ピクリとも動かないジェクト。
突然、体が持ち上げられる感覚を覚えた。
胸ぐらを捕まれて、私の視界は一気に高くなった。
頭に受けた衝撃に比べたら首の苦しさなどさほども感じない。
私の体を軽々と掲げる様を、すごいなぁ、なんて別の次元で見つめていた。
「ラフテル」
低い重い声で優しく私の名を呼ぶ。
→
19,nov,2011
私の手の上に暖かいものが重ねられた。
ジェクトの大きな手が私の握り拳を包み込んでいた。
その温かさで、私は自分の手の温度を悟る。
ジェクトらしからぬ弱々しい笑顔を向けてきた。
「ラフテル…」
「…大丈夫、だ。あれがアーロンの姿をしていようと…」
「…悪ィ…」
「どうしてジェクトが謝るんだ?」
少し困ったような顔をしたジェクトの手をゆっくり下ろし、私は意を決して一度深く呼吸した。
顔から時間をかけて後ろを振り返る。
「あぶねぇっ!」
「!!!」
目の端に何かが移り込んだ瞬間だった。
まだ完全に振り向いてはいなかった。
ジェクトの叫び声を理解したと同時に突然何かの衝撃を受けた!
突然のことに何が起きたのかなんて理解できる筈もなく、まともに受けた衝撃の勢いのまま宙を舞って地に叩き付けられる。
動きの止まった体をそのままに、今自分の身に何が起こったのかと思考を巡らせる。
いや、考えることなんてできたんだろうか?
咄嗟に閉じた瞼をゆっくり持ち上げ、自分の今の体勢を理解する。
ごつごつとした冷たい地面にうつ伏せになっている。
開いた目に写ったのは、黒い岩肌と、地に飛び散った私が流したであろう血液から蒸発するように浮かび上がる幻光虫。
その一つを目で追った。
動きに合わせて僅かに動かした顔や首に酷い痛みを覚えた。
「…っっ!!!」
そして気が付く。
攻撃を受けたのだと。
目で追った幻光虫はふわふわと私から離れていき、あるところへ行き着く。
その人物を目に捉えてはっとする。
倒れたジェクトの側でジェクトを見下ろしている、アーロン…。
頭の中がぐわんぐわんと揺れて響いている。
目がちかちかして焦点が合わせられない。
びりびりと走る体中の痛みと頬を伝う生暖かい液体が、まだ私自身の存在を証明していた。
先程のジェクトとの戦いで、私の体はもうボロボロだ。
それでも軋む体を奮い立たせ、起き上がる。
体中に感じる痛みを紛らそうと短い呼吸を繰り返した。
…もう、私は死んでると言うのに、とっくに命なんてないはずなのに、痛みを感じ、そして死に恐怖を覚える。
なんて滑稽なことだろうか。
アーロンが、ジェクトに向かって何か言葉を発しているようだ。
受けた攻撃の大きさからか、耳鳴りがして声が聞こえない。
だがその異様な光景ははっきりと見て理解することができた。
「……!!」
頭上に振り上げた逞しい腕。
その手に握られた、黒光を放つ大きな太刀。
一瞬のジェクトの制止の声が微かに聞こえた気がした直後、何の感情も無い表情のまま、アーロンはそれを地に突き刺した。
急に耳がクリアになる。
聞きたくは無かった、耳障りな肉を断つ音。
そして叫び声。
「まだお前はそこにいてもらう。大人しくしていろ」
私の動きに気付いたアーロンが、こちらに歩み寄ってくる。
その動きは酷く緩慢に見えたと思ったのだが、次の瞬間、すぐ目の前で拳を振りかぶっている姿が目の端に写り、私の体はまた大きく吹き飛ばされた。
頭に受けた衝撃で私の思考回路が鈍っていたのだろうか…?
体を地面に叩き付けられる痛みよりも、殴られたのであろう顔の痛みが頭の内部全体で反響して奇妙な音を奏でる。
口の端から流れる暖かい液体にほんの少し理性と感覚を戻した。
「…う、……ア、アーロン…」
呟いた名は音になっていただろうか?飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止めて、目を開いた。
飛び込んできた映像は、ピクリとも動かないジェクト。
突然、体が持ち上げられる感覚を覚えた。
胸ぐらを捕まれて、私の視界は一気に高くなった。
頭に受けた衝撃に比べたら首の苦しさなどさほども感じない。
私の体を軽々と掲げる様を、すごいなぁ、なんて別の次元で見つめていた。
「ラフテル」
低い重い声で優しく私の名を呼ぶ。
→
19,nov,2011