第5章【気持ちと心の変化】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
=30=
振りかぶっていた剣を、ジェクトはゆっくりと地に下ろした。
猛々しい覇気を沈め、あれほどに向けられていた殺気が静かに凪いでいく。
じっと宙を見つめたまま動かないジェクトの姿は、かつてのあの姿を思い出す。
祈りの歌をじっと静かに聴いていた、あの時のジェクト。
その姿がシンとなっても、それでもなお歌声に耳を欹てる姿。
その様子を見て、私も地に腰を落としたままの姿勢で同じように宙を見上げる。
そこは暗い空しか見えないが、それでも瞑目してこの微かな歌声を必死に拾おうとしてみる。
この悲しい歌を歌っているのが誰かなんて分からないけど、歌っている人物の心情が流れ込んでくるような感覚を覚える。
どこからとも無く聞こえてくる歌声に、ジェクトはすっかり闘争心を削がれてしまったようだった。
私も、ただじっと空を見上げた。
暗い地下深くにいて、空など見えるはずも無いのに、なぜか青い空が浮かんで見えるような気がした。
美しく、そして悲しい歌声。
なぜか胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
どうしてこんなにも悲しくなってくるのだろうか。
誰が歌っているのだろう。
何を想って歌っているのだろう…
あれほど、痛いほどに向けられていたジェクトの殺気が嘘のように静まり返って、ふと気が付くとそこに、ジェクトが立っていた。
あの巨大な召喚獣はもういない。
はっとして私の足はジェクトの元へと向かう。
私の体も、激しい戦闘の直後で傷つき、血を流していたが、それを気に病むことすら忘れて、私はジェクトの側へ近付いた。
まともに走れるわけではなかった。
力の入らなくなった足では、自分の思うようには動いてくれない。
そこに立っていたジェクトが、ゆっくりと崩れ落ちていく。
その場面だけがまるで時の流れが著しく遅くなってしまったかのようにスローモーションで流れていく。
「…ジェクト、 ……ジェクト!!」
私が彼の元まで辿り着く前に、ジェクトの体はその場に倒れてしまった。
思うように動かない自分の足を叱咤しながら、引き摺りながらも、私はそこへ近付く。
その逞しい肉体に触れて、彼の名前を呼ぶ。
ジェクトは、ただじっと、宙を見つめていた。
その顔に表情は無い。
彼が何を考えているのか何を思っているのか、その顔からは読み取ることができない。
この暗い地下深くの空間で、日の光も差さない陰湿な世界で、溢れんばかりの小さな幻光虫の光に包まれて、私達はそこにいた。
この幻想的な世界を綺麗だと感じるのか、それとも不気味だと感じるのか…
ふと気がついた。
じっと見つめていた夥しい幻光虫がゆっくりと流れ始めた。
それと同時に背後に感じる禍々しい妖気。
見上げていた顔を正面に戻し、その気配に神経を集中させる。
すっかり呆けてしまっていた。
ここには私とジェクトの他にももう一人いたのだ。
あの時の姿のままの、若いアーロンが。
座りこんだ私の真後ろにその存在を感じる。
そちらを振り返る必要はない。
気分が悪くなるような気配を隠すこともせずに、懐かしい仲間のままの気配に乗せて己を主張している。
この気配は、空気は、間違いなくアーロンのものなのに、どうしてそんなに恐ろしい殺気を私達に向けているのだろう?
私達になぜあんなことをしたのだろう…?
宙を舞っている幻光虫の動きが僅かに速まったのを感じた。
頭を動かすことなく、目だけでそれを確認し、更に神経を尖らせる。
背後の気配と殺気がどんどん膨らんでいくのがよくわかる。
私達の体から零れた幻光虫をその身に取り入れているのだろう。
流れる幻光虫は皆一様に私の真後ろへと集まっていく。
後ろから私に向けられる気が大きく、そして禍々しさを一層増してくるのがわかる。
→
15,nov,2011
振りかぶっていた剣を、ジェクトはゆっくりと地に下ろした。
猛々しい覇気を沈め、あれほどに向けられていた殺気が静かに凪いでいく。
じっと宙を見つめたまま動かないジェクトの姿は、かつてのあの姿を思い出す。
祈りの歌をじっと静かに聴いていた、あの時のジェクト。
その姿がシンとなっても、それでもなお歌声に耳を欹てる姿。
その様子を見て、私も地に腰を落としたままの姿勢で同じように宙を見上げる。
そこは暗い空しか見えないが、それでも瞑目してこの微かな歌声を必死に拾おうとしてみる。
この悲しい歌を歌っているのが誰かなんて分からないけど、歌っている人物の心情が流れ込んでくるような感覚を覚える。
どこからとも無く聞こえてくる歌声に、ジェクトはすっかり闘争心を削がれてしまったようだった。
私も、ただじっと空を見上げた。
暗い地下深くにいて、空など見えるはずも無いのに、なぜか青い空が浮かんで見えるような気がした。
美しく、そして悲しい歌声。
なぜか胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
どうしてこんなにも悲しくなってくるのだろうか。
誰が歌っているのだろう。
何を想って歌っているのだろう…
あれほど、痛いほどに向けられていたジェクトの殺気が嘘のように静まり返って、ふと気が付くとそこに、ジェクトが立っていた。
あの巨大な召喚獣はもういない。
はっとして私の足はジェクトの元へと向かう。
私の体も、激しい戦闘の直後で傷つき、血を流していたが、それを気に病むことすら忘れて、私はジェクトの側へ近付いた。
まともに走れるわけではなかった。
力の入らなくなった足では、自分の思うようには動いてくれない。
そこに立っていたジェクトが、ゆっくりと崩れ落ちていく。
その場面だけがまるで時の流れが著しく遅くなってしまったかのようにスローモーションで流れていく。
「…ジェクト、 ……ジェクト!!」
私が彼の元まで辿り着く前に、ジェクトの体はその場に倒れてしまった。
思うように動かない自分の足を叱咤しながら、引き摺りながらも、私はそこへ近付く。
その逞しい肉体に触れて、彼の名前を呼ぶ。
ジェクトは、ただじっと、宙を見つめていた。
その顔に表情は無い。
彼が何を考えているのか何を思っているのか、その顔からは読み取ることができない。
この暗い地下深くの空間で、日の光も差さない陰湿な世界で、溢れんばかりの小さな幻光虫の光に包まれて、私達はそこにいた。
この幻想的な世界を綺麗だと感じるのか、それとも不気味だと感じるのか…
ふと気がついた。
じっと見つめていた夥しい幻光虫がゆっくりと流れ始めた。
それと同時に背後に感じる禍々しい妖気。
見上げていた顔を正面に戻し、その気配に神経を集中させる。
すっかり呆けてしまっていた。
ここには私とジェクトの他にももう一人いたのだ。
あの時の姿のままの、若いアーロンが。
座りこんだ私の真後ろにその存在を感じる。
そちらを振り返る必要はない。
気分が悪くなるような気配を隠すこともせずに、懐かしい仲間のままの気配に乗せて己を主張している。
この気配は、空気は、間違いなくアーロンのものなのに、どうしてそんなに恐ろしい殺気を私達に向けているのだろう?
私達になぜあんなことをしたのだろう…?
宙を舞っている幻光虫の動きが僅かに速まったのを感じた。
頭を動かすことなく、目だけでそれを確認し、更に神経を尖らせる。
背後の気配と殺気がどんどん膨らんでいくのがよくわかる。
私達の体から零れた幻光虫をその身に取り入れているのだろう。
流れる幻光虫は皆一様に私の真後ろへと集まっていく。
後ろから私に向けられる気が大きく、そして禍々しさを一層増してくるのがわかる。
→
15,nov,2011